ファイティング・スピリットに満ちたミラノメンズコレクション

2017年秋冬ミラノ・メンズ・コレクションは、MoschinoやVersaceなどが世界で政治が向かいつつある方向性に対して戦いを挑む姿勢を打ち出した一方で、Neil Barrettが戦いの記憶に現代を照らし合わせて、内省の世界観を描き出した。

by Anders Christian Madsen
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17 January 2017, 8:05am

ドナルド・トランプの米大統領就任という社会背景を受け、ミラノのメンズ・ショーは内省的な印象のうちに幕を開けた。「僕の国はもうダメになる寸前。僕の国がダメになるということは、世界もまたダメになっていくということ」と、ジェレミー・スコット(Jeremy Scott)は、Moschinoメンズ・コレクション史上最高傑作となった今季のショー後に語った。「僕たちは戦っていかなきゃならない。美しいもののために、権利のために——僕たちが信じてきたものすべてのために戦わなきゃならないときが来ているんだと思う。だって、いまそのすべてが奪われようとしているんだから」 ジェレミーは軍服に花を描いて希望を描く一方で、服にプリントしたフレスコ画の上から黒いペイントを施して隠すことで現在のアメリカを、そして現代の世界を描き出した。「手当たり次第に美を見出そうとした。美しいエンブレムやモチーフを配した服に合わせて、美しさを追求して体現したベレー帽を頭にかぶってもらいたいと思った」と、スコットはジュディ・ブレイム(Judy Blame)とのコラボレーションで生み出した宝石輝くベレー帽について説明した。ジュディ・ブレイムはロンドン・メンズ・ファッションウィークでSiblingが発表したコレクションでも初期作品をリバイバルで採用され、また同コレクションのスタイリングも手がけていた。スコットによる壮観のショーは彼の政治観をストレートに表現していた——大衆主義がもてはやされる現代という時代には、単純化された表現が求められる。Moschinoのショーは「反トランプ」の姿勢を見間違いようのない形で打ち出していて、観客はそれを見て「戦いは終わっていないのだ」と再確認させられた。

Moschino autumn/winter 17

「世紀末的な世界観だけれど、『でも希望は捨てちゃいけない』と訴えたかった。すべては明るい未来への道。信じ、希望を持って、希望のうちに生きて戦わなきゃ」とスコットは言った。「美は戦いの中でこそ見つけられるもの。目的を持って活発に生きる人たちがいる——それが、僕たちが生きるこの世界に宿っている美。考えをしっかりと持って、それを声高に叫ぶことができる人たちがいて、アメリカに限って言えば、毎日それぞれの州の議員たちに意見を伝えようとアクションを起こしているひとびとがいるということ。議員事務所の電話番号をiPhoneに登録しておいて、スターバックスでコーヒーが出来上がるのを待っているときなんかには、Instagramを開いたりせず、議員に電話をかける。それで、議員に『わたしは今この国が向かおうとしている方向性を断じて許さない。あなたはそんな方向へとこの国が向かうような法案に絶対に賛成してはならない。そんなこと、私は断固として認めない』と言うべきなんだ。僕たちみんながそうしなくちゃいけない時が来ている」とスコットは力を込めて言った。「僕たちひとりひとりが世界を変える力を持っていて、その力を使わなくてはならないときが来てるんだよ。世の中は冷淡になりすぎた。今こそ、僕たち市民に与えられている権利を駆使して世界を動かしていかなきゃ。みんなで信じて、働きかけて、世界を変える——それが実現することを願うばかりだよ」剥き出しの足場や垂れ下がるコードでディストピア的な世界観が支配する会場で行なわれたMoschinoのショーだったが、そこにはスコットが世界に伝えたかった明るい雰囲気が満ち溢れていた。会場を後にするとき、観客は誰もが闘志に満ち溢れていた。この金曜にトランプの大統領就任を迎えた今だが、Moschinoのショーを見る限り、この戦いに世界市民が勝つことは必然であるように思えた。

Versace autumn/winter 17

「このコレクションは、Versaceの男性像をすべて網羅して表現したもの。世界の様々な国、様々な文化から生まれた男たちが団結すれば、そこに力強くポジティブな勢いが生まれるのだということを示したかった」とドナテッラ・ヴェルサーチ(Donatella Versace)はショーノートで今季コレクションについて説明した。今季Versaceのコレクションは、毅然としたテーラリングの世界に、およそフェチの領域ともいえるシックさを極めたストリートウェアの要素を落とし込み、世界観はずっと禁欲的でありながらも根底の部分ではMoschinoと主張を同じくしていた。ショーの最後に登場したブレザーには、「Jam」、「Heal the World」といった曲や1991年のアルバム『Dangrous』からの「It don't matter if you're black or white(肌の色なんか関係ない)」といった歌詞まで、マイケル・ジャクソンからのインスピレーション色濃い言葉がプリントされていた。マイケル・ジャクソンが90年代に行なったツアーDangerous Tourのコスチュームは、ドナテッラの兄でありVersaceブランド産みの親であるジャンニ・ヴェルサーチ(Gianni Versace)がデザインしており、あの時代はまたマイケルがそのキャリアにおいてもっとも政治色を強めた時代だった。ロナルド・レーガンが米大統領だった80年代からジョージ・ブッシュが大統領になって世界を戦争へと導いた90年代——保守派政権のアメリカが世界の保守化を推し進める中、マイケルはその世界的な風潮に毅然と立ち向かった。当時のアメリカでは、保守派と相容れない思想を持ったポップスターであってもそれら保守主義大統領たちの要請に応じ、笑顔で写真を撮るなど、往々にして体制に従ったものだったが、マイケルは違った。当時の人気テレビ番組『ダイナスティ(Dynasty)』では、アメリカの伝統的な価値観と、70年代の終わりとともにひとびとの間に広がった自己表現への渇望の間で、政治的葛藤に苦悶するひとびとが描かれていた。

Neil Barrett autumn/winter 17

そのような政治的思想と環境に葛藤する姿——それはモチーフとして昨季2017年春夏ウィメンズ・コレクションで広く見られた。中でもBalenciagaとSaint Laurentは、まだアメリカ大統領選の行方が不透明だった時期のコレクション発表だったにもかかわらず、トランプ勝利を見越したかのような世界観を打ち出していた。今季ミラノの2017年秋冬メンズ・コレクションでは、引き続き80年代のモチーフが生き生きと描かれていた。「希望の象徴として70年代があれだけ扱われていたわけだから、当然の流れとして次は80年代的な世界観が続く」とニール・バレット(Neil Barret)は、ノスタルジックで輝きに満ちた今季コレクションを発表した直後に語った。彼のコレクションは、彼がロンドンに暮らしセントラル・セント・マーティンズに学んだ80年代をモチーフとして作られていた。「ファッション感覚というのは時代とともに必然的に移り変わっていくもので、だから70年代のモチーフが流行した次には当然のように80年代的なものに惹かれるんだと思う。80年代は僕にとって素晴らしい時代だった。クリエイティブな時代だったんだ。やりたいことができた時代——あの時代、イギリスでは大学での勉強に学費はなかったんだよ。大学で頑張って才能を開花させればそれでよかったんだ。ナイトライフを謳歌して、コンサートに行ったりして青春時代を存分に楽しんだ。僕にとってはあれが人生の全盛期だったように感じる。自分という存在がようやくわかってきた時期だったね。素晴らしい時期だったよ」 今季のコレクションでバレットは当時からのモチーフ——ザ・キュアー(The Cure)、スージー&ザ・バンシーズ(Siouzsie and the Banshees)、エコー&ザ・バニーマン(Echo and the Bunnyman)、レイ・ペトリ(Ray Petri)が作り出したBuffaloなどの80年代モチーフを現代的に解釈し、服を作り出した。

Diesel Black Gold autumn/winter 17

「オーバーサイズのドロップ・ショルダーのジャケットを買って、それにキルトやスカートを合わせ、足元にはレギンスや大きなブーツを合わせたりしたよ」とバレットは当時を回想する。「あの感じを再現したいと思ったけど、現代にあれをどう再解釈すればいいのか迷った。スカートを履けるような歳でもないしね。だからジャケットの丈を長くしてコートみたいにしたりして、あの時代のルックを現代的に描いた。レイ・ペトリと、あのBuffaloの集団が大好きだったから、今回のショーではあの雰囲気を醸し出せるモデルをキャスティングしたんだ。でもプエルトリコ人や黒人だけで固めるんじゃなく、"世界規模での団結を見せるエレクトリック・ギャング感"を出したいと思ったんだ」 バレットが描いたノスタルジアの世界観は、陳腐さも無理も感じさせなかった。そこには、現代の政治的・社会的環境と風潮に酷似した時代に、誠実で自然、そして無意識のうちにヒントを求める視点が見られた。ひとは苦しいときにこそクリエイティビティを発揮する。ミラノのデザイナーたちの多くは、80年代という時代を生き抜いてきた。そして彼らは今また改めて同じ戦いに挑んでいる。アンドレアス・メルボスタッド(Andreas Melbostad)は、Diesel Black Goldの今季コレクション『Urban Ninja』で、日本武道の道着をコンテンポラリーでアーバンに解釈してファイティング・スピリットを表現した。フィリップ・プレイン(Philipp Plein)も、Plein Sportのローンチで熱のこもったスピーチを行なった後、プレインのスポーツウェア・ラインをまとった筋骨隆々のモデルたちをランウェイへと送り込んだ。

Plein Sport autumn/winter 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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