Photography Mitchell Sams

2019年春夏オートクチュール・コレクションまとめ

クリックベイト・クチュールからセリーヌ・ディオンまで。

by Osman Ahmed; translated by Ai Nakayama
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01 februari 2019, 10:43am

Photography Mitchell Sams

Viktor & Rolfによるファッション界の〈クリックベイト〉
2019年春夏オートクチュールコレクションでInstagramを席巻したのは、Viktor & Rolfのスローガン入りドレスだろう。 ファッション界の〈クリックベイト〉ともいえるこの意匠は、示唆に富むショーで有名な、オランダを代表するデザインデュオにとってクレバーな進化以外の何物でもない。スマホの画面に現れる装飾的なチュールドレスには、〈ミーム〉的なスローガンがベタっとくっついている。このスローガンはすべて刺繍で、直接見ると生地をたっぷりと使ったボリューム感のあるドレスなのだが、写真で見ると2Dの画像のうえにInstagramのステッカーがコピペされているよう。現代の服の消費スケールを、スマートに模倣している。かつては雑誌のページサイズだった〈スケール〉も、今ではiPhoneの画面サイズだ。
このコレクションが提示したのは、いくつかの興味深い疑問。デジタルの世界における、ファッションショーの目的とは何か? ファッションにおいて先行するのはものづくりか、それともメッセージか? しかしもっとも重要なのは、遊び心があり〈キャンプ〉的な意図を伴うViktor & Rolfのドレスは、次のメット・ガラにまさにふさわしいということだ。

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Jean Paul Gaultierがいざなう海の冒険
フランスファッション界の恐るべき子ども、ジャン=ポール・ゴルチエのインスピレーション源になったのは、日本では近日公開の映画『アクアマン』だろう。『ゲーム・オブ・スローンズ』でカール・ドロゴを演じたジェイソン・モモアと、アンバー・ハードが出演する話題の映画だ。『リトル・マーメイド』に出てくるカニのセバスチャンも、名曲「アンダー・ザ・シー」で「Darling, it’s better, down where it’s wetter(海のなかのほうが良いよ/水が気持ちいい)」と歌っているし、ゴルチエが私たちを海中へといざなうのも当然かもしれない。
ショーの幕開けはネイビー&ホワイトを用いた、ゴルチエが愛するマリンルック。しかしバリエーションは多岐にわたり、革新的だ。そのあとに現れるのは、貝殻が重ねられたような『リトル・マーメイド』風ファンタジー。モデルとしてディタ・フォン・ティースも登場する。どんどん生真面目になっているファッション界において、観客がひと息つけて、思わず笑顔になってしまう(あるいはくすくす笑ってしまう)時間だった。アンナ・クリーブランドが、過ぎし日のヘアスプレー時代を彷彿とさせるキャンプ的なバレエ風の身のこなしで、くるくる回りながらランウェイを歩いてきたシーンなんて特にそう!
さらにすばらしかったのは、パープルのストライプとヌードカラーのジャージー生地で再提示された、1996年のアイコニックなボディコントゥールドレス。Gaultierのアーカイブが、発表から数十年経った現在でもなお通じる(そして購買意欲をくすぐる)力をもっていることが証明された。

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Iris Van Herpenがランウェイを照らす
オートクチュールとは独創性であり、ものづくりであり、既成概念にとらわれない自由な発想である。そう考えるとイリス・ヴァン・ヘルペンがオートクチュールを自らの表現媒体に選んだのもうなずける。デザイナーである彼女(アーティストと呼ぶひともいるだろうが)は、革新的なテクノロジーや科学を駆使し、ひとの身体の複雑さを表現する、彫刻的な衣服を生み出している。今シーズンのインスピレーション源は、ドイツ系オランダ人の製図家アンドレアス・セラーズが製作した中世の星図〈Harmonica Macrocosmic〉。またニューヨークを拠点とする水のアーティスト、キム・キーヴァーともコラボした。キーヴァーはNASAの元エンジニアで、水槽のなかに色とりどりの顔料の雲を生み出し、その一瞬の動きをスケールの大きい写真作品として切り取るアーティストだ。ふたりのコラボは、キーヴァーが生み出す〈液体の彫刻〉と似た荘厳なオーガンザドレスへと結実した。またデザイナー自身が「顔のマッピングから生まれた半無作為の密度構造」と説明するフェイスジュエリーも登場。故郷のオランダにある、デルフト工科大学の有するマルチ資材用プリンターでつくったアイテムだ。顔を3Dスキャンし、カラーインフォメーションを収集し、Grasshopperのアルゴリズムを使用した。そう聞くとSF的な雰囲気が漂うが、完成したアイテムは息をのむほどロマンティックだ。

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Ronald van der Kempのエレガントなエコ・クチュール
いろいろな意味で、オートクチュールはもっともサステイナブルなファッション形態だろう。なぜなら1アイテムにつき1着しかつくられないし、フランス・オートクチュール連盟による厳しいルールに従いながら、細心の注意を払って手作業でつくることになっているからだ。オランダ人デザイナーのロナルド・ファン・デ・ケンプにとって、ゴミを宝物に変身させる機会を与えてくれるのがオートクチュール。彼のコレクションは使用されなかったり、捨てられたり、リサイクルされた素材を利用している。彼は消費サイクルの終わりまでたどり着いた素材に、新しい命を注ぐのだ。ランプシェードとして使われていた生地が流れるようなシルエットの花柄ドレスとなり、刺繍入りのバスタブ用カバーがウエストマークされたウエディングドレスに。とあるブランドが放棄したパイソン柄のシーツがカクテルドレスとなる。ロナルド・ファン・デ・ケンプはサステイナビリティがセクシーで、シックで、このうえなくグラマラスになることを証明した。

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Balmainのクチュールデビュー
オリヴィエ・ルスタンが手がけるBalmainがクチュールデビューを果たした。Balmainのルーツはクチュールなので、何ら不思議のない選択だ。モノクロームの色味と球体にフォーカスし、不思議な雰囲気を漂わせるコレクション。〈バブル・バット(直訳すると〈泡尻〉、スラングで〈大きなお尻〉の意)〉に新たな意味を与えたショーであり、ルスタンの〈Balmain Army〉と共鳴していた。

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Armani Privéのアール・デコ風一大スペクタクル
rmani Privéのクチュールショーではモデルたちが鏡張りのランウェイをカメのようなスピードで進むので、時の流れがゆっくりと感じられた。彼女たちがまとっていた服は古典的エレガンスの豪華絢爛なサンプルのようだが、SNSで熱狂的に受け入れられるかといったらそうではない。なぜならアルマーニ氏は、自らの服をZ世代のためにつくっているわけではないからだ。彼はタイムレスでクラシックな服をつくりたいだけ。そんな彼のアプローチはチャーミングで魅力的に映る。さらに彼のショーに集まったクライアントこそ、彼のテーラリングのスーツの卓越性や、他の誰にも真似できないことの証明だ。
今シーズン、Armani Privéのインスピレーション源となったのは、1970年のベルナルド・ベルトルッチ監督による『暗殺の森』。ヴィジョンにおいては中国の漆器とアール・デコに焦点を当てた。そうして実現したのが、漆のようなレッドと鮮やかなブルーを基調とした色味で、長くしなやかな細身のシルエットがずらりと並ぶコレクション。またおそらくこれまで誰も必要としていなかったビーズ付きのケープレットウィッグを印象的に披露したという意味でも、記憶に残るコレクションだった。

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Giambattista Valliのビッグドレス
巨大なチュールドレスの守護聖人といえばジャンバティスタ・ヴァリだろう。彼の最新クチュールショーでもやはり、彼の代名詞的なふわふわのドレスが登場した。その多くは我が家を埋め尽くすのではないかと思うほどのボリューム。スワロフスキークリスタルがちりばめられたカーペットのうえを行くドレスたちは、ほうき星のようにきらめく裾をひきずっていく。しかしチュールばかりかといったらそうではない。ミニスカート(布の量が少ないはずなのでおのずと値引きを期待してしまう)やボリューム感のあるショルダー(こちらは逆に追加料金が発生しそう)も印象的だった。いつものようにディズニー的なスペクタクル

クチュールの絶対的チアリーダー、セリーヌ・ディオンも忘れないで!
今シーズン、クチュールショーに戻ってきたセリーヌ・ディオンは、いつものことながらものすごく楽しそうだった。Armani Privéでは率先してスタンディングオベーションを送っていたし、Ronald van der Kempではエコ・クチュールに息をのんでいた。Valentinoの見事なルックには驚きで涙を浮かべていたし、Alexandre Vaulthierではランウェイを歩くルックへの派手なリアクションがインターネットで盛んに取り沙汰された。セリーヌは長年クチュールのお得意様であり、クチュールをオーダーしては細かく指示を出してリメイクし、衣装としてラスベガスのステージで着用している。すべてのクチュールブランドが待ち望む、絶対的なチアリーダーだ。

Credits


Photography @mitchell_sams

This article originally appeared on i-D UK.