Photography Mario Sorrenti

広告ビジュアルの極意:カルヴァン・クライン インタビュー

40年間にわたるCalvin Kleinの広告ビジュアルが一冊(450ページ)にまとまった。写真を選び、編集したのはカルヴァン・クライン本人。このビジュアルづくりの名手に、リチャード・アヴェドンとの撮影や名作の誕生秘話をきいた。

by Felix Petty; translated by Aya Takatsu
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dec 6 2017, 1:00pm

Photography Mario Sorrenti

電話越しに彼が口にした「私と私のカルヴァンを隔てるもの」という一節だけで鳥肌が立った。だってそれは、ある時代を最も代表する広告のひとつなのだ。スキャンダラスで挑発的なその広告にはデザイナーの反抗的な主張が込められているが、即座にアメリカでのテレビ放映を禁じられた。リチャード・アヴェドンがブルック・シールズを撮影したその写真は、Calvin Kleinとブルックを一躍スターダムに押し上げ、80年代を象徴するファッションビジュアルとなった。

だが、Calvin Kleinが時代を象徴する存在となったのはその10年だけのことではない。ブルース・ウェーバーによる、サントリーニ島でタイトな白いパンツを穿いたトム・ヒントナウスの写真。ソファにもたれかかる裸のケイト・モスを撮ったマリオ・ソレンティの作品。Calvin Kleinの広告は、素晴らしいファッションビジュアルを創造することで、何度も論争を誘ってきたのだ。

Photography Bruce Weber

先日発売された『Calvin Klein』という簡素なタイトルのついた写真集には、こうした作品がすべて収められている。完成までにかかった4年間で、ファビアン・バロンと元妻であるケリーとともに、カルヴァンが目を通した作品数は実に4万点。それらを輝かしい業績をドキュメントする450ページの書物にまとめあげたのだ。

しかしこの本は、著名な広告仕掛け人としてのカルヴァンのみに言及するものではない。ミニマルな美を発明し、ラルフ・ローレンやダナ・キャランらとともに、アメリカのファッションをヨーロッパに対抗するまでに引き上げたデザイナーとしてのカルヴァンに関するものなのである。

今今回i-Dはカルヴァンにインタビューを行い、ファッション界で誰もが最初に思い浮かべるあのビジュアルの裏話や、ラグジュアリーな帝国を築き上げた秘密をきいた。

Photography Bruce Weber

——まずは出版おめでとうございます。ファッション史に燦然と輝く1冊ですね。本をつくるのは楽しかったですか?
かたちにするまでにとても時間がかかったんだ。過去を振り返る習慣がなくてね。その瞬間を生きているほうだから。アーカイヴから4万点に目を通したんだよ。1年半はかかったね。数を絞らなければならなかったし、450ページに収まるようにセレクトする必要があった。編集し、また再編集するのを何度も繰り返したんだ! それに数ヶ月。すごく楽しかったけどね。

——その作品を見て、どこにいちばん驚かされましたか?
それがまだ現代的に見えるという点さ。ほとんどのものは70〜00年代に使った広告なんだけど、それを違う年代のものと並べたんだ。ビジョンがいつも同じだということを見せるためにね。

Photography Bruce Weber

——あの広告は今でも刺激的ですが、ロゴやコピーのない、広告という文脈から離れた視点でそのビジュアルを見ると、写真としても素晴らしいのだということに改めて気づかされます。刺激という点が薄れ、息をのむほど美しくタイムレスなものに変わるようです。
それは最高の賛辞だね。というのも、それがいちばん見せたかった点だから。フォトグラファーからディレクター、モデルまで、いつも見つけられるなかで最高のクリエイターたちと仕事をしていたんだ。あのころは私もすべての部分に関わっていたけど、作品はそうした素晴らしいクリエイターのチームがつくったものだよ。ファッション界最高峰の写真家による、美しい写真なんだ。アーヴィング・ペン、リチャード・アヴェドン、ブルース・ウェーバー、マリオ・ソレンティ。私はその作品を皆に見てもらいたかった。グラフィックを重ねることで、初めてそれが広告になるんだ。

——広告をつくる際、彼らはそうしたさまざまな部分をコラボレーションだと感じたでしょうか?
いつだってコラボレーションだった。ブルック・シールズの広告をつくったとき、私はリチャード・アヴェドンのスタジオで、毎晩彼やドーン・アーバスと仕事をしたものさ。「私と私のカルヴァンを隔てるものが何か知ってる? 何もないの」という有名なコピーをつくった人物だよ。私たちは一緒に仕事をし、それを心から楽しんだ。すべて自分たちでやったんだ。マディソン・アヴェニューの代理店よりうまくできるとわかっていたからね。

Photography Bruce Weber

——ファッションという枠を越えて、そうした広告は時代の象徴となりました。それに対して驚きましたか?
信じられないかもしれないが、うまくいくたびに驚いたよ。いつも自分の人生の出来事、自分の周りで起きることに影響されるんだ。だから、もしあの広告が幅広い文化に影響したのなら、それは有機的に起こったといえる。どんな商品かを伝えつつもクリエイティブなものをつくりたいといつも思っていたんだ。もちろん広告は目立たなければならないが、消費者に何者であるかを伝えることも必要だからね。それが私の狙いだよ。

——そうしたビジュアルがファッション広告の画期となったのはなぜだと思いますか?
それが時間の素晴らしさのひとつだね。こんなに息が長いとは想像すらしなかった。だけど、今振り返ってみると、ビジュアルの編集をしているときに驚いたんだけど、今でも現代的なんだよ。この本をつくったらおもしろいだろうと考えた理由もそこにある。ビジュアルが古臭く見えたとしたら、そんな興味も失っていただろうね。

Photography Bruce Weber

——今ではジェンダーの枠を越える表現はファッション界のあちこちで見られますが、あなたはCK1のようなクリエーションで時代を先行していましたね。
あの香水の裏話は知っているかい? ケリー(・レクター)と一緒に住んでいたんだが、彼女はいつも私のシャツやスウェットを借りるんだ。私のものを欲しがるんだよ。その感覚を香水に活かせないだろうかと考えたんだ。男性的だけど、女性にも魅力的な香水をつくれないだろうかって。ObsessionやEternityで成功を収めていたから、そういうルールをすべて破ってまったく新しいものをつくるときが来たと感じたんだね。リスクを冒し、チャンスをつかむんだ。もちろん間違うこともある。だけどそこから学び、再び同じ間違いを犯さなければいいんだ。

——ジーンズもそうした例のひとつですね。当時はデザイナーアイテムではなかった。ジーンズやアンダーウェアに乗り出したとき、ファッション界の反応はどうでしたか?
みんな驚いていたと思うよ。うちのブランドがしていた屋外広告でさえ、ファッション界の人たちは手を出していなかったんだ。すごく商業的なんだけど、私は常にああいうものを挑戦だととらえていた。でもおもしろさもなければならない。ジーンズやアンダーウェアをはじめたらファッション界がどう思うかなんて考えたことなかったね。私としては、消費者と直接対話していたんだ。自分がつくったものを誰かが買ったり好きになってくれたりするたび、驚いたものさ。この写真集だって、もうAmazonでベストセラーになってる。それは素晴らしいことでもあるね。何しろ売り上げはすべてニューヨークのチャリティに回されるんだから。

Photography David Sims

——この写真集は、あなたが長い年月をかけて築いたハイファッションの要素に立ち戻らせてくれます。
ウィメンズウェアのデザインは、私がいちばん大好きなことなんだ。私たちがやってきたことすべての傘となるような部分だからね。でもそういう服はとても高価だから、買える人はほとんどいない。だからこの写真集は、それがどこでどうやって始まったのかを皆に見せる手段であり、そうした服に込められたミニマリズムや、洗練されピュアでシンプルであることを示すものなんだ。

——自身のデザインキャリアを振り返るのは楽しかったですか?
振り返るのは素晴らしいが、きつい仕事でもある。ほかのことのためだったらやらなかっただろうね。この写真集に関してはすべて、表紙や中面の紙の厚さを決めるところまで関わらなければならなかったから。すべての写真やストーリーが私の人生の一部だよ。だけどそれを1冊にまとめるのは新しいチャレンジだったね。

Photography Peter Lindberg

——いつもそんなふうにご自身でなさるのですか?
最初のころからね。会社を始めたとき、最初の8ヶ月は小さなショールームの床で寝ていたよ。デザインしたのを自分で売って、配送も自分でした。母がラベルを縫ってくれていたんだよ! でもあのころは本当に楽しかった。素晴らしかったよ。成功するものをつくるには覚悟が必要だったし、大変な仕事をこなさなければならなかったんだ。

——ファッション業界で働き始めたばかりの人にアドバイスをするとしたら?
娘が大学を卒業したときにこんなアドバイスをしたんだ。「お金や成功は気にしなくていい。自分が幸せになれるものを見つけなさい」。自分のしていることを楽しみ、愛する、それが本当の成功だと思うよ。

Photography Mario Sorrenti

——ご自身のキャリアや輝かしい業績を振り返ったとき、何が後世に引き継がれていくと思いますか?
ラルフ・ローレンとダナ・キャラン、そして私はついにファッション界にアメリカの爪痕を残すことができたんだ。伝統的にはパリやミラノ、そしてロンドンがその代表だったし、アートやデザインの名門校もある。でもアメリカは? ニューヨークはどうだろう? 影に隠れた存在だったんだ。だけど私たち3人は一緒になって、大きな影響を与えることができたと思う。そのことは誇りに思っているよ。

ブランドを始めたころ、自分が辞めたあとも長く続くブランドをつくるのが夢だった。そしてそれは今も続いている。私が退いてからも長く繁栄していること、そしてこれからも存続していくことをとてもうれしく思っているよ。

『Calvin Klein』はリッツォーリ社から販売中。 Buy it here.

Photography Peter Lindberg