Margot Robbie as Tonya Harding in I, Tonya

ミュージック・スーパーバイザーが語る『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』選曲秘話

ミュージック・スーパーバイザーのスーザン・ジェイコブスが語る:Z.Z.トップの曲が持つパーソナリティ、クラシック・ロックのあたたかいエネルギー、そしてスフィアン・スティーブンスの曲はなぜ使われなかったのか?

by Emily Manning
|
14 February 2018, 4:58am

Margot Robbie as Tonya Harding in I, Tonya

先月初めの全米フィギュアスケート選手権では、22歳のジミー・マ選手が(DJスネークとリル・ジョンの)「Turn Down for What?」に合わせてトリプルルッツを飛んだ。彼は今回の冬季オリンピックには出場しないが、私たちが平昌でもっと激しい音楽を耳にする可能性は十分ありうる。今回のオリンピックは、フィギュアスケート競技でボーカルの入った曲の使用が可能になった、初めての大会なのだ。

「USAトゥデイ」紙でスポーツ欄を担当するマギー・ヘンドリックスは先日、NRPにこのルールについて語った。これにより観客は「歌詞のない音楽、またクラシックやオペラの曲では決してできなかった方法で」アスリートとのつながりを感じる機会を得られ、「彼女ら/彼らのまったく新しい一面を知ることができます」

元オリンピック・スケーターのトーニャ・ハーディングの新しい伝記映画『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』を観た後では、音楽を通した自己表現についてのヘンドリックスの熱いコメントが、皮肉に、そして少し切なく感じられる。

何十年もの間、ハーディングの名前は同時期に活躍したフィギュアスケーターのナンシー・ケリガンに対する暴力事件と結びつけられてきた。事件は1994年の冬季オリンピック直前に起きた。現代で最初のタブロイド・スキャンダルと見なされ、深夜のトークショーの司会者たちや、シットコムの脚本家、そしてバラク・オバマにまで話の引き合いに出されてきた。

『アイ、トーニャ』はハーディングの人生とキャリア、そしてその両方を狂わせた暴力を、暗いユーモアと驚くべき繊細さで描き出す。私たちがなぜこれほどハーディングに無慈悲な悪役のイメージを持っているのかを問い直すことで、彼女のイメージをくつがえす作品だ。本作で語られるのは彼女の本当の戦い--ケリガンではなく、体制に対するバトルだ。

フィギュアスケートでは、女性らしさと豊かさを演じることで、アスリートとしての能力の高さを表現する。そんな中で、力強さや、ワーキングクラスという出自を隠そうとしないハーディングの姿勢が、点数に影響することもよくあった。彼女が手作りの衣装を身につけ、Z.Z.Topのいかにもハードロックなリフに合わせて滑っても、選手をよりよく知る機会を得たと喜んでくれるジャッジなどいるはずもなかった。ひどく嫌われるだけだった。

けれど『アイ、トーニャ』を通して観客がハーディングの新しい面を知る上で、音楽が助けになっていることは確かだ。

この映画の音楽は、オリジナルよりも既存の曲にかなり頼っている(素晴らしいサントラに収録されているのは16曲だが、作中にはその2倍が詰め込まれている)。とりわけ生き生きと見える場面で使われているのは、ハーディングが実際に演目で使用していた曲。例えばZ.Z.Topの1985年のヒット「Sleeping Bag」やLa Tourの1991年のダンスポップ・ナンバー「People Are Still Having Sex」など。他の曲は、監督であるクレイグ・ギレスピーの頭の中に最初から候補としてあがっていたものだ。

「この映画に使う曲を探すのは、とてもデリケートな作業でした」とミュージック・スーパーバイザーのスーザン・ジェイコブスは言う。彼女は2017年、『ビッグ・リトル・ライズ』での仕事で、この分野で初めてのエミー賞を受賞した。「『アイ、トーニャ』には特別なあたたかみとドライブ感が必要だった。音楽がセンチメンタルすぎると、マーゴット・ロビー演じるトーニャとは合わなくなってしまう。ハードすぎても同じ。童話の『3びきのくま』みたいに、〈ちょうどいい〉ベッドを選ばなくてはいけませんでした」

——初めてこの作品を観たときのことを教えてください。最初のイメージでは、どんな音楽を持ってこようと考えましたか?

ミッチェル・リーブ(映画音楽プロデューサー)から電話があって、友人のクレイグ(・ギレスピー、本作の監督)がちょっと大変なことになっているので助けてほしいと言われました。こういうたくさんの曲を使うタイプの映画には難しい部分があるんです。とても特殊なアプローチが必要になってくるので。当初すでに決まっていたスーパーバイザーは英国在住で、そういう作品の現場で仕事をした経験がなかった。それにトーニャ・ハーディングの物語にもあまりなじみがなかったんですね。私がこの映画に関わるようになったのは、住んでいた場所(ニューヨーク)もあるけれど、既存の曲をたくさん使用した『アメリカン・ハッスル』とか『ビッグ・リトル・ライズ』での経験があったことが決め手でした。

でも、最初はただ外からアドバイスするくらいの立場だと思っていたんです。そのうち英国のスーパーバイザーは仕事を続けるのが難しいということになって。それで突然、この大仕事が巨大な象みたいに迫ってきたというわけ! 短い期間で、やらなければいけないことは山積みでした。でもクレイグにはとてもはっきりしたヴィジョンがあったので、ひたすら彼の希望を実現することを目指し、使える曲を探せばよかったんです。私がやったのは、それをきちんとした形で使用できるよう手伝う部分だけ。映像をひと目見て、すぐに確信を持ちました。

——使用した曲の許可を取るのはかなり大変だったという記事を読みました。

その通りです。誰もトーニャ・ハーディングになんてかかわりたくないから。でも映画を観れば、まさにそれがポイントだとわかります。「そのことについてはちょっと話し合ったほうがいいね」となる。トーニャ・ハーディングには、実は私たちの誰も知らない微妙なニュアンスを持った側面もたくさんあるということです。それは当時の報道が足りなかったからではなくて、誰も彼女の話をちゃんと聞こうとしなかったから。

——映画の設定は80年代と90年代ですが、あなたの選んだ曲のほとんどが70年代のクラシック・ロックですね。なぜでしょうか?

この作品の撮影や編集は、かなり音楽を意識した上で行われています。初めからそういう計画で、クレイグはたくさんの曲を入れたいと考えていた。最初は試しに90年代の音楽をいくつか当ててみましたが、映像に拒まれているような感じで。70年代のクラシック・ロックは、音楽がとてもパワフルで絶頂感があるのと同時に、とにかくあたたかみがあることを発見しました。フリートウッド・マックの『ザ・チェイン』やスーパートランプの『Goodbye Stranger』には、デジタル基板を介したハードさとは別のエネルギーがあります。そういったクラシック・ロックの曲たちが、物語を邪魔することなく場面を完全なものにしてくれました。

——それに加えてアン・ヴォーグやハートからスージー&ザ・バンシーズ、それにあの熱いユーロディスコの曲「グロリア」(ローラ・ブラニガン)までが使われていますね。そういう曲のチョイスによって、トーニャの頑固さや野心的なところと、パワフルな女性ボーカルとの面白い対比が際立っています。

「グロリア」については、私が選んだわけじゃないんです。車の中でこの曲に合わせて歌うシーンをクレイグがすでに撮っていました。なぜこの曲にしたのか聞くと、ただなんとなくトーニャっぽい、という答え。確かに、女性ボーカルの曲を使うことついては話し合いました。ドリス・デイの曲さえもね。私はこの映画の結末が大好きですが、エンディングに見事にはまる曲を探すのは至難の技でした。あのスージー&ザ・バンシーズのカバーは……これ以上ほかに何があるっていうの? という感じですよね。

——トーニャが滑るバックに流れるスージーは、意外なほどしっくりきました。私が思うに、映画の中でいちばん重要な曲は「ロミオとジュリエット」でしょう。ダイアー・ストレイツのマネージメント側から当初は使用許可が下りなかったところを、あなたが(ボーカルの)マーク・ノップラーに直接交渉して彼の考えを変えさせた、と聞きました。なぜそこまで粘り強く交渉したのでしょうか?

撮影を始めるずっと前から、クレイグは妻からこの曲のことを聞かされていました。それがいかにトーニャ・ハーニングを連想させるかということも。歌詞はある意味、この映画そのものです。なので、この曲の使用が許可されなかったことを英国のスーパーバイザーに知らされたとき、監督はショックで落ち込んでしまったようです。なんとか状況を変えられないかと、できることはすべてやり、手を尽くしてもダメで。私が参加したときには、もうなすすべもない、というところでした。でも私には、これが良い作品になるという確信がありました。そう感じていたら、諦めようとは絶対に思えないものです。

でも確かに、あのシーン——初めてのデート、キス、ふたりのやり取りが暴力的になる、セックス、また暴力的になる——を説明しようとしても……ただ紙に文字で書かれているものを見せられたら、と想像すると私だってノーと言ったと思います! 実際の場面は言葉で表されたものとは、まるで違うニュアンスがある。この映画には全体的に、そういう難しさがありました。ある場面が何を表しているのか、どんな風に見たらいいのか、その曲がそこでどれほど重要な意味を持つのか。そういうことを理解してもらうためにどうすべきか悩みました。あの曲を使えるようにするために、かなり骨を折りましたね。

——どんなふうに頼んだんですか?

ちょうど何かがわかり始める、というくらいの長さの映像のクリップを彼に送って「もしよければ全編お渡しできますよ」と伝えました。彼のマネージャーから「全体を観てみたい」と返事が来たので、彼が全部を観たがっているとわかりました。私が彼の立場でもそう思ったはず、だってものすごく面白そうなんだから!(笑)そしてマークからメールが来たんです。「ありがとう、スーザン・ジェイコブス。何も知らずに過ぎてしまうところだったよ」という、シンプルなメッセージ。それだけの文面でしたが、彼の気持ちが美しく表現されていました。彼は、この映画が何をしようとしているのかちゃんと理解してくれた。そのことが少し自信になりました。

——スフィアン・スティーヴンスもトーニャについての美しい曲を作って、それをあなたに提供した、とあるエッセイで書いていました。作中で使えなかった事情はわかりますが、どこかに入れてみようと試してみたのでしょうか。

曲が届いたのはプロセスの本当に後の方になってからで、あと一息で完成というところでした。私たちはかなり70年代モードになっていて、彼の曲をどこに組み込んだらいいものかと考えたけれど、すごく難しくて。もし入れていたら、全体をかなり大きくやり直すことになっていたでしょう。当然、ひとつ曲を変えれば、他のすべても変わってしまいますから。私としては、予告編とかプロモーションであの曲を使ってくれたらと思っていました。素晴らしい曲なんです。スフィアンはトーニャ・ハーディングが本当に大好きなの!

——この映画は、トーニャの労働者階級としてのアイデンティティにスポットを当て、それを否定しようとするスケート業界の権威に対する彼女の抵抗を描き出しています。この階級闘争の物語に、彼女の音楽のテイストがしっかり絡んでいるのが面白いと感じました。ダイアンが再び彼女のコーチをする際に出した2つの条件のうちのひとつは「メタルをバックに滑らないこと」でしたね。

その通りです。映画の中で、トーニャがピンクの衣装を作るシーンがあります。リボンをいくつか余計につけすぎてしまうのですが、そんなふうに彼女がすごく美しいと思うものを、他の人たちはみんな毛嫌いする。彼女が選んだ音楽にも、いかにも、という独特のテイストがありました。それぞれの曲がパーソナリティを持っている。映画オリジナルのスコアをあまり使用しなかった本当の理由もそこにあります。もし、映画のために新しく作った音楽を全面的に使っていたら、彼女のあの一匹狼的な側面は表現できていないと思います。スコアというのはこちらの意見の表明なんです。たくさんのクラシック・ロックの曲と、彼女が好んでいた音楽を並べることで、観客はもっとニュートラルに、彼女自身を感じながら、トーニャの物語を体験するでしょう。私はそれがすごくいいと思いました。

アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』は2018年5月4日(金)から全国ロードショー

This article originally appeared on i-D US.

Tagged:
Culture
Music
Features
i, tonya
susan jacobs