Image courtesy of Chanel

遊び心に満ちた90年代ハイ・キャンプ:Chanel 2022年春夏コレクション

クリエイティブディレクター、ヴィルジニー・ヴィアールは、颯爽と歩くスーパーモデルとジョージ・マイケルのカバーとともに、80年代や90年代を思わせる圧巻のショーを繰り広げた。

by Osman Ahmed; translated by Nozomi Otaki
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08 October 2021, 7:24am

Image courtesy of Chanel

ファッション好きの若者にとって、1980年代や90年代のファッションショーの映像を研究してノスタルジーに浸ることほど楽しいことはない。特に、Chanelのショーは格別だ。そこには、年を経てもなお、今以上に魔法と神秘に満ちた何かがある。

スーパーモデル、フロントローに座る面々、ローファイなセット、粗い映像は、モデルたちが完璧なフォーメーションで闊歩する現代のHD画質のキャットウォークとはまるで別世界だ。あの頃のファッションは、喜びに満ちていた(少なくともそう見えた)。そこには、現代の私たちが延々とリセールサイトをスクロールして探し求めるハイ・キャンプな服に身を包んだ、個性豊かなキャストだらけの奇妙な品評会のような趣があった。

だからこそ、10月5日の朝、私たちが久しぶりにChanelのショー会場を訪れたとき、セットを見て思わず笑顔になった。観客が入ったプレタポルテのショーがずいぶん久しぶりなのと、Chanel御用達のグラン・パレが改装中で閉館しているため、今シーズンのショーは同ブランドにとって、新たなことに挑む絶好のチャンスだった。

Chanelの今のミューズであるリリー=ローズ・デップ、『ザ・サーペント』のアルマ・ホドロフスキー、BLACKPINKのジェニー、『HALSTON/ホルストン』のレベッカ・ダヤン、モデル/アクティビストのクアナ・ポッツがカメラの向こうから力強い視線を送るモノクロの映像が投影された暗い部屋を通り抜けると、かつてのパリ・ファッションウィークでルーヴル美術館中庭に設置されたテントを彷彿とさせる、ワクワクするようなカオティックな空間が目の前に広がった。フォトグラファーが背の高いランウェイに沿って立ち並び、フロントローの視界を遮っている。背景には、Nikonのカメラを構える巨大なヴィヴィアン・ローナー。K-POPスターのジェニーは、しきりに彼女の艶やかな髪を直す5人のヘアメイクアーティストとともに席についた。

すると突然、会場の騒がしさが最高潮に達し、照明が消えると、最初のモデルがゴールドのチェーンをあしらったモノトーンのスイムスーツとイミテーションジュエリーを身にまとい、Chanelのバッグとともに登場した(ちょうどこのときクリステン・スチュワートが遅れて到着し、会場の熱気をさらに高めた)。

この最初のルックこそが、ショー全体の流れを定めた。ヴィルジニーが今までに手がけたなかで、最も遊び心に富んだコレクションだ。Chanelのロゴ入りビキニ、パステルカラーのへそ出しツイードスーツ、スパンコールのマイクロショーツとレギンス、そして極め付けは、蝶の羽のようなシフォンのアンサンブル。身につけるひとを楽しませてくれるアイテムばかりだ。

A model walking the runway at Chanel SS22

今シーズンのトレンドである〈エンターテインメントとしてのショー〉を強調するかのように(参考:Balenciagaのレッドカーペット)、リアン・ヴァン・ロンパエイからミカ・アルガナラズ、アノック・ヤイ、アダット・アケチ、フラン・サマーズ、モナ・トゥガードまで、今を時めくスーパーモデルたちが、小生意気な仕草でランウェイを闊歩する。

ここで重要なのは、昔ながらのファッションショーというのはそれ自体がエンターテインメントであった、ということだ。モデル、フラッシュ、最高の服さえあれば事足りる。ジョージ・マイケルもそれを熟知していた(「Too Funky」のMVからも明らかだ)からこそ、CHRISTINE AND THE QUEENSによる「Freedom ‘90!」のカバーが本コレクションのサウンドトラックに起用されたのだろう。

エンターテインメントとしてのファッションショーを理解していたのは、80〜90年代のハイ・キャンプなパリのランウェイに着想を得た、当時のボールルームのクイーンたちも同じだ。今では、このような舞台はパリ・ファッションウィークよりも『ル・ポールのドラァグ・レース』で目にすることのほうが多い。このテーマはSNSと親和性が高いだけでなく、ヴィルジニー自身にとっても馴染み深いものだ。彼女が働き始めたのはカール・ラガーフェルド率いる80年代後半のChanelであり、リンダ・エヴァンジェリスタ、クリスティー・ターリントン、ナオミ・キャンベルらが出演した壮観なショーを間近で見てきた。

しかし、当時と今では明確な違いがある。それはChanelのような由緒あるメゾンにとっては非常に重大な賭けともいえるだろう。当時のカールのコレクションは、目新しさやChanel的に解釈したChanelのためのストリートウェアに満ちていた。いっぽう、ヴィルジニーのChanelは、性的魅力や官能性という概念により深く根差しているように感じられる。

多くの女性レディースデザイナーがそうであるように、ヴィルジニーは生まれながらに着心地の良さ、そしてそこから生まれる自信を理解している。彼女がデザインするChanelは、女性を飾り立てた人形というより、身につけるものに遊び心を効かせた、溌剌とした女性に変身させてくれる。

モデルたちも、このランウェイを歩けることが心から幸せだと言わんばかりに、ゴールドのスイムスーツやココ・スーツ姿でChanelのショッピングバッグを片手に笑みを浮かべ、くるくると回っていた。その光景は、少なくともオーディエンスにとっては、とても爽快で喜ばしいものだった。ブランドの規模は拡大しても、ファッションで楽しむことを忘れないのがChanelなのだ。

A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
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A model walking the runway at Chanel SS22
A model walking the runway at Chanel SS22
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