ストレートアップス:キエフのクリエイティブシーンを牽引する8人のアーティスト
この街のシーンを代表するモデル、ミュージシャン、タトゥーイスト、メイクアップアーティストが、街の魅力や自らのクリエイティビティについて語る。
Photography Lesha Berezovskiy
人はレッテルを貼るのが好きな生き物だ。身近な何かと比較することで、物事を定義する。しかし、社会はそれほど単純ではない。すべてを理解したと思ったら、また別のものに驚かされる……。それがキエフという街だ。
手頃な物価とアンダーグラウンドなナイトライフ(以前i-Dでは有名なクラブ∄のレイヴを紹介した)から、最近では〈第二のベルリン〉とも呼ばれることも多いが、クールな街としての名声を広めるのに一役買ったのは、急成長を遂げながらも見過ごされがちなクリエイティブシーンだ。そのすばらしさを十分に理解するには、直接体験する必要がある。まず訪れるべきは、街で最もクールなタトゥースタジオ〈Stroom Kyiv〉のような名店が隠れている裏道。今回私たちがインタビューしたアーティストの多くにも、ここのクールな音楽、アート、出版レーベル〈Standard Deviation〉で出会った。
「文化でも、人でも、建築でも、パーティーでも、キエフに来れば何かしら共感できるものが見つかる」と言うのは前述のレーベルに所属する地元のアーティストで、キエフの魅力はひとつではないと知ってほしいと語るリナ・プリドゥワロワだ。ここは未知のアイデアと新たな才能に満ちた大胆不敵な街だと彼女はいう。今年10月にはフェスティバル〈Kyiv Art & Fashion Days〉が初めて開催され、この街の豊かなクリエイティブシーンは、今まさに然るべき注目を集めようとしている。
何がこの街を唯一無二の場所たらしめているのか、シーンを代表する8人のアーティストに話を聞いた。

ゾアナ(Dzhoana)19歳 モデル
──あなたのことを教えて。
モデルを始めて2年半になる。今はモデルを続けてるけど、フルタイムの仕事というわけじゃない。いつかウクライナの文化に関わるビジネスを始めたい。
──世界に知ってほしいこの街の魅力は?
キエフのひとはみんなオープンで面白いということ。
──若者が今のキエフで暮らすことのメリットは?
両親やそれよりも前の世代と違って、規制も制限も多くないこと。私たちにはもっと多くのチャンスがある。
──あなたの世代をひと言で表現すると?
勇敢。

ダイアナ・アザズ(Diana Azzuz)29歳 リナ・プリドゥワロワ(Rina Priduvalova)24歳 マルチアーティスト
──ふたりの出会いを教えて。
リナ:パーティーで共通の友達を通して知り合った。彼は「彼女のインスタ見てみなよ、すごいものを作ってるんだ」って感じで、ダイアナはすごく恥ずかしがってた。私はもう楽曲制作をしていたんだけど、別のことをやってみたい気持ちもあって……。
ダイアナ:リナにアートワークをつくってほしいと頼まれて、その2〜3日後には一緒にビデオをつくらない?って。
リナ:私たちの最初のコラボレーションは、私が曲を作り、ダイアナがそれを聴いて視覚的で感情的な作品をつくってくれた。
──ふたりは有名なクラブ∄にも関係している音楽、アート、出版レーベル〈Standard Deviation〉に所属しているけれど、このプロジェクトが特別な理由は?
ダイアナ:このレーベルはキエフのシーンの発展を目指してる。やりたいことをやる自由を与えてくれる。私たちにとってすごく大切な存在。すべての始まり。
リナ:このレーベルのアプローチはとても利他的。自分を信じ、自分がいいものを創ると信じてくれるからとても心強い。自分自身が確信が持てなくてもね。Standard Deviationは失敗を恐れないし、そもそも失敗という選択肢はない。
──キエフのクリエイティブシーンについて教えて。
リナ:みんな初めての体験に対して貪欲で、臆することなく自分を表現しようとしてる。
ダイアナ:このシーンは生まれたばかりだけど、ウクライナの大きな問題は、西欧諸国のような制度がないこと。キエフでアーティストとして生きるのは、どの国のアーティストもそうだけど、とても大変なこと。でも、アーティストを支援する制度や資金がないことが大きな壁になってる。
──世界に知ってほしいキエフの魅力は?
ダイアナ:見るべきものはたくさんある。旧ソ連の美学に魅力を感じたり、クラブが目当てのひとも多いけど、それだけがキエフじゃない。
リナ:文化でも、人でも、建築でも、パーティーでも、キエフに来れば何かしら共感できるものが見つかる。〈第二のベルリン〉というレッテルから抜け出すのはなかなか難しいから、あまりこの街をカテゴライズしたくない。

アフメド(Akhmed)20歳 モデル
──あなたとキエフとの関わりは?
3歳のときにキエフに引っ越してきた。街のはずれでの生活は大変だったけど、ここには他の場所にはない魅力がある。キエフが大好きなんだ。
──この街の一番好きなところは?
まずは人かな。より良い生活を求めて引っ越してきたひとも多いし、首都だから外国人も多い。ウクライナ的な考え方と外国的な考え方が陰陽みたいに混ざり合ってる。
──この街のファッションシーンについて教えて。
ウクライナには、誰に目にも明らかな独自のスタイルがある。まだ発掘されていない才能もたくさん眠ってる。例えば、今履いているIgvandalのパンツは、リサイクルショップのセーターとパンツをアップサイクルして作られたんだ。
──あなたの世代をひと言で表現すると?
順応性が高い。

ジュリー・ポリー(Julie Poly)35歳 マルチアーティスト
──写真へのアプローチについて教えて。
私は写真を通して世界を見つめるようになった。10歳のとき子ども向けの映画と写真のコミュニティに参加して、すぐに夢中になった。国立芸術アカデミーを目指したかったんだけど、ウクライナではよくあるように、母に反対された。「ダメ。アーティストはいつもお腹を空かせてる」って。だから鉄道アカデミーに入学した。でも、自分にできるのはアートと写真だけだと確信してたから、撮影ばかりしていた。
──いい写真を撮る秘訣は?
写真を撮る前に長い時間をかけて準備すること。私のスタイルはドキュメンタリーからモキュメンタリーへと変化していった。現実とフィクションの境い目がわからないような超現実的な写真に。「これは現実? それともフィクション?」と自分でも混乱したら、良い写真だってこと。
──あなたの作品はウクライナのありふれた日常を捉えているけれど、どんなところが気に入っている?
世界のどんな場所でも日常は同じ。仕事に行って、楽しんで、市場に行く。違いは些細なところにしかない。例えばヨーロッパを旅行したとき、電車はどれも同じような見た目だったけど、ウクライナの列車はまったく違う。それについての写真集もつくった。床に赤いカーペットが敷かれているものもあれば、車掌が客室に花を飾っていることもある。
──最近インスピレーションを受けたものは?
〈Kyiv Art and Fashion Days〉での2冊目のエロティックアートのzineのプレゼンテーションかな。タトゥーやボディペイントをフィーチャーしたzineで、ウクライナのアンダーグラウンドの超クールなタトゥーアーティストとコラボした。プレゼンテーションの会場はストリップクラブで、ポールダンサーの友達やタトゥーアーティストにパフォーマンスもしてもらった。私は文字通りあらゆるものからインスピレーションを受けるの。生活が私のインスピレーション源。

ユリア・ザレスカヤ(Yulya Zalesskaya)28歳 メイクアップアーティスト
──あなたのルックを説明するとしたら? あなたらしさとは?
直感に従って表現豊かな格好をするのが好き。誰かの顔にメイクを〈着せて〉、感情や意外なつながりを引き出したり、その人のキャラクターを明らかにしたい。
──初めて自分で買った化粧品は?
Make Up For Everの12フラッシュカラーケース。今でも大好きな商品。
──こっそりハマっていることはある?
エロティックな小さい置物が大好きで、これから集める予定。ぬいぐるみも大好き。子どもの頃はよく手作りしてた。
──キエフは作品のインスピレーション源になっている?
全体的には、私のメイクは国の文化的規範には関係ない。でも、旧ソ連時代の文化から影響を受けることもある。ジュリー・ポリーとのフォトプロジェクトでは、2000年代初期のウクライナ女性のメイクを大げさに表現した。

ローブ(Robe)21歳 DJ/モデル
──音楽に興味を持ったきっかけは?
初めてのパソコンを買ったときは、いろんなゲームで遊んでいた。でも、あるときゲームに飽きて、音楽をつくるアプリをダウンロードしたんだ。
──キエフの音楽シーンについて教えて。
テクノが多い。すごく人気があるけど、他のジャンルが育っていないのが少し残念。ヒップホップアーティストとしての活動を通して、音楽はひとつだけじゃないってことを知ってもらいたい。
──この街の好きなところは?
1ヶ月前にキエフに引っ越してきたばかりなんだ。僕はオデッサで生まれ、スーダンで育って、6年前にウクライナに戻ってきた。でも、ひとつ確かなのは、この街は場所によってまったく違う顔と雰囲気があるということ。
──聴いていると踊りたくなる曲は?
N.W.A.の「Fuk Da Police」。

ディマ(Dima)25歳 タトゥーアーティスト
──タトゥーを始めたきっかけは?
9歳からずっとタトゥーが好きだった。映画やミュージックビデオを観て、顔じゅうにタトゥーみたいな落書きをしてた。それからバルセロナの大学に進学して、グラフィックデザインや絵の描き方を学んだ。金欠になってウクライナに戻ってきたとき、今がタトゥーを始めるいいタイミングだと思ったんだ。
──あなたのスタイルを説明すると?
ダークだけど残酷じゃない。悲しみのようなものは感じられるけど悲しくはない。
──初めて誰かにタトゥーを入れたときのことは覚えてる?
初めてちゃんと機材を使って入れた相手は、ちょうどタトゥーを始めたばかりの友達だった。彼とは大学が同じで、コツも教えてくれた。お互いに下手クソなタトゥーを入れ合って、5年後にちゃんとしたアーティストになってから再会した。僕が彼に彫ったのは、交差してる2本の釘とまっすぐな1本の釘。この前話したとき、今もお気に入りだって言ってくれた。
──今までにもらった一番のアドバイスは?
毎日やることを好きになりなさい。そうでなければうまくいかない。妥協は禁物。

ヤロスラワ・サーヴィナ(Yaroslava Savvina)28歳 アーティスト
──あなたのニットウェアプロジェクト〈Savvina Gallery〉について教えて。
ロックダウンが始まったとき、自分の周りで起きたいろんなことにストレスが溜まって編み物を始めた。始めてみて、編み物をしてると瞑想みたいに心が落ち着くことに気づいた。5時間ぶっ通しで編み続けることもある。
──あなたの美学を説明するとしたら?
音楽やアルバムカバーの影響が大きい。構造は違うけど、編み物はキャンバスに似てる。何かを作り始めるときは事前に何も考えずに、自分が見聞きするものやそのとき考えていることを表現するようにしてる。
──今のクリエイティブユースにとって最大の試練は?
もちろんお金。自分の作品を評価するのがすごく苦手だから、上手いか下手かもわからないこともある。私はすごくこだわりが強いの。
──キエフの最高なところは?
友達やいろんなスポット。そのふたつの成長を見守ることができるところ。
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