doublet 20aw:稀代のユーモアは世界を救う
まもなく開店です! 舞台は、細部まで作り込まれた、だれでもウェルカムなファミレス〈doublet〉。可笑しくて、愉しくて、ストレートなメッセージに溢れた世界へ。2018年にLVMHプライズのグランプリを獲得したデザイナー・井野将之がパリで発表した初のショー。
doublet 2020AW Photography Flo Kohl
インビテーションには、超有名ファミリーレストランの黄色い看板に“とてもよく似た”ブランドロゴが描かれていた。〈doublet〉の井野将之が〈LVMH Prize〉受賞後すぐのインタビューで、「誰もやっていない、自分がよく知っていて、今やれば楽しいと直感できることにユーモアは潜んでいる」と快活に語っていたことが頭の中をよぎった。

会場に到着すると、エントランス脇には食品サンプル(最高の出来!)のウィンドウディスプレイ。ゲストは、セルフサービスのドリンクバーでコーヒーからフローズンドリンクまでチョイスできて、向かいには新メニューを宣伝するのぼり旗……。日本人がすぐにイメージできる”ファミレス”における、ドメスティックかつステレオタイプ的要素が、稀代の〈doublet〉のユーモアセンスで詰め込まれた空間である。





ラミネートされたメニュー(中身もすべてオリジナル)から卓上の塩・胡椒、爪楊枝、ブランド名がプリントされたナプキンスタンドまで、ランウェイを取り囲む完璧なテーブルセットに見入っていると突然アナウンスが流れた。まもなく開店します! ——。





歩みを進める老若男女、国籍も体型もそれぞれ違うモデルたちは、食品サンプルをのせたトレイを手に戻ってくるとテーブルに着席。メニューを見たり、談笑したりしている。ラーメン、クロワッサン、味噌汁、寿司! モチーフや柄で食をポップに連想させながら徐々に垣間見えてくるのは、世界と多様性、平和や平等へのストレートなメッセージが内包されていることだった。




フェイクファー使いや卓越した刺繍技術、総柄プリント、再構築されたフォルムなど継続してきた象徴的なデザインはアップデートしながら、民族服のエッセンス、スーベニアの空気感、多言語でのグラフィックで国々を奔放に駆け巡っていく。閉店のアナウンスがあらゆる言語で綿々と続き、厨房から抜け出したコック姿でデザイナーが登場して幕を閉じた。周りを見渡すと皆がみな満面の笑みを浮かべている。『We are the world』のBGMも頭から離れない。ファッションは、誰かのハッピーをつくることができるのだ。



Credits
Photography Flo Kohl
Text Tatsuya Yamaguchi