「人間には、自分を何かに当てはめたいという奇妙な執着があるのかも」ハンター・シェイファー interview

『ユーフォリア/EUPHORIA』のスターが、ジュールズという役、仕事を通じて学んだこと、自称〈超ファッションオタク〉からPradaのミューズへの進化について語る。

by Emma Hope Allwood; translated by Nozomi Otaki
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28 February 2022, 5:45am

この記事はi-D The Out Of Body Issue, no. 367, Spring 2022に掲載されたものです。注文はこちら

エミー賞を受賞したHBOテレビシリーズ『ユーフォリア/EUPHORIA』のスター、Pradaのミューズ、ファッションモデル、アーティストと、多方面で活躍するでZ世代のアイコン、23歳のハンター・シェイファーは、演技の道を志したことは一度もなかった。注目を浴びることがあまり好きではない、自称「超ファッションオタク」の彼女は、セントラル・セント・マーチンズでデザインを学ぶ予定だったが、2018年、モデルの仕事がきっかけで招待されたオーディションで、このティーンドラマの高校生ジュールズ役に抜擢される。

ハンターは共和党支持の郡が大半を占めるノースカロライナ州の青い(※民主党支持者の多い)町、ローリーで育った。「だからといって、特に感激はしなかった」と彼女はニューヨークのホテルの一室で足を組み、ときどきJUULを吸いながら笑い声をあげる(ちなみに彼女のZoomのユーザーネームはHunty <3)。「興味のあるものは、全部大都市にありました。都会には、私が望むものすべてがあった。自分が何をやり遂げたいのか、とても明確な夢があったんです」

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue
Clothing and accessories (worn throughout) PRADA.

大都市郊外で子ども時代を過ごすことは、その子の成長に独特の影響をもたらす。少なくとも、今の彼女はそう考えている。州内にZARAがなければ(「ZARAでのショッピングは、だいたい3年おきにノースカロライナから出たときの特別なご褒美でした」)、地元のリサイクルショップGoodwillで手に入るもので間に合わせ、それを切り刻み、クリエイティビティを発揮して欲しいアイテムをつくるしかない。

『ユーフォリア』で演じたジュールズと同様、ハンター自身もトランスジェンダーだ。2017年、まだ10代だった彼女は、トランスの人びとに出生時の性別のトイレを使うことを義務付けるノースカロライナ州の差別的な〈トイレ法案〉に、原告のひとりとして抗議した。当時ジュールズがi-Dに寄稿した特集記事で、彼女はこの法案の背後にある「根深いトランスフォビア」に注目し、この法案を「いまだに男女二元論や、その外に存在する人びとをおぞましく描写することにこだわり続ける大衆に訴えかける法案」と呼んだ。

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue
Socks and boots (worn throughout) stylist’s studio.

学校ではヘッドフォンをつけ、映画の登場人物になりきって玄関ホールを通り抜けたという。「誰もが決まった振る舞いを期待され、伝統的で保守的なジェンダーロールや文化的期待が存在する場所で育ったけれど、そういうものに対して声を上げざるをえなかった状況に、今は感謝しています」と彼女はいう。「一歩踏み出し、自分はここにいる誰とも違うということを受け入れるのに必要なのは、ほんの少しの勇気だけ。今は思うままに自分のイメージを打ち出すようにしています。誰にどう思われようと気にしません。自分がよければそれでいい。大切なのはそれだけ」

「人間には、自分を何かに当てはめたいという奇妙な執着があるのかも」

コミック、グラフィックノベル、SFが、彼女の感情のはけ口となった。「どの主人公も周りから浮いている異質な存在だから、周りに仲間がひとりもいない環境で育ったクィアやトランスの若者は共感したはず」。インターネットも現実から逃れる手段となり、彼女はそこで、多くの人びとが夢を実現しているのを目の当たりにした。ハンターは世界中の田舎町の少女たちに絶大な影響を与えたタヴィ・ゲヴィンソンのWeb雑誌〈Rookie〉世代のひとりで、この雑誌にイラストも寄稿していた。溢れんばかりのクリエイティビティを内に秘めた読者たちは、インターネットに、自らの居場所、そして自分が求めてやまない人生への足がかりを見出した。「タヴィ・ゲヴィンソンは高校時代、私の絶対的なアイドルでした」と彼女は熱を込めて語る。「この雑誌は、若者がネット上でチャンスをつかむ突破口をつくりました。例えば、インスタを通して業界に入る道を切り開いたりとか」

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue

それこそが、ハンター自身にも起きた出来事だ。Instagramでスカウトされた後、Rick Owens、Miu Miu、Dior、Marc Jacobsなどのショーに出演した。しかし、彼女にこれ以上ないほどの大ブレイクをもたらしたのは、サム・レヴィンソンが製作総指揮と脚本を担当した、米国の現状を映し出す傑作『ユーフォリア』だ。疾走感と高揚感に満ちた本作は、2019年の夏、視聴者に不意打ちのパンチのような衝撃を与えた。青春ドラマの王道を行きつつ、クラシカルでありながら前衛的で、時に残酷で時に優しく、たとえるなら、ハイな『アンジェラ 15歳の日々』、もしくはグレッグ・アラキ版『スキンズ』。映画的な美しい映像を通して、10代の快楽主義というテーマを容赦なく掘り下げる作品だ。

しかし、ハイになった後は必ず、離脱感やうつ症状が襲ってくる。作中では、米国に蔓延するオピオイドの問題が消えない嵐のようにつきまとい、親の不在や鎮痛剤を万引きする10代が、暗い影を落とす。ジュールズの親友で、彼女が次第に惹かれていくルー(ゼンデイヤ)も、薬物依存症に陥っていく。彼女たちが出会ったのは、とあるパーティー会場。本作の悪役ネイトと揉めたジュールズは、ナイフで自分を切りつけて(「暴力的なシーンになると知って、絶対に頬骨を骨折したりしたくないって思った」)逃げ出す。この事件をきっかけに、ふたりは強い絆で結ばれる。また、ジュールズも、倍以上年の離れた男性とモーテルで会ったり、存在しない青年に恋をして何週間も眠れなくなるなど、薬物ではなく感情的な面での依存症を抱えている。シーズン1の最終回で、彼女は物語の舞台である架空の街イーストハイランド(とルー)を後に残し、ルーと一緒に行こうと約束した大都市へと旅立つ。

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue

ドラマ本編は主にルーの視点から語られるが、ハンターが脚本に参加したスペシャルエピソード『ユーフォリア/EUPHORIA シーブロブじゃない人なんて**くらえ』では、ジュールズの視点から物語が展開する。この作品は、新型コロナウイルス感染拡大によるシーズン2の撮影中断を受け、シーズン1からシーズン2への橋渡しとなるエピソードとして公開された。作中の1時間に及ぶセラピーで、ジュールズは幼少期に施設に入れられた体験や母親自身が抱えていた飲酒問題などを赤裸々に打ち明ける。今までになくジュールズというキャラクターの内面に迫る、親密で心を打つエピソードだ。

「このエピソードを通して、彼女の考えや潜在意識、心の状態をもっと深く掘り下げることができたと思います」とハンターは語り、ちょうどいいタイミングでこのエピソードの脚本を書く誘いを受けたことを明かした。「2020年の夏の私は、まさにどん底の状態でした。これは私にとって史上最悪のうつ状態から生まれた作品です。そのエネルギーをすべて吐き出す場所が必要でした。このエピソードが命綱になった、というのは決してたとえ話ではなく、本当にそうなんです」

「一歩踏み出し、自分はここにいる誰とも違うということを受け入れるのに必要なのは、ほんの少しの勇気だけ。今は思うままに自分のイメージを打ち出すようにしています。誰にどう思われようと気にしません。自分がよければそれでいい。大切なのはそれだけ」

ハンターが共同プロデューサーも務め、ストーリーボードの制作や舞台裏の仕事などもこなしたこのエピソードは、アイデンティティやクィアネスを取り巻く問題を見つめ直すきっかけにもなったという。「ジュールズが劇中で話していることの半分は、彼女とルーの関係、イーストハイランドへの不満、超クレイジーな学期を乗り越えたことの回想。もう半分は、すべての17歳のトランス女性に共通すること、つまり自分は何者なのかを探ったり、頭の中でクィアネスについて議論しながら、そのふたつがトランスとしての自分にとってどんな意味を持つのか、という疑問に基づいています。自分自身もまだ発見できていない新たな側面が交錯し、ジュールズは混乱状態に陥っている。彼女はそれをひも解き、整理しようとしているんです」

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue

ジュールズはホルモン療法の中止を考えていることをセラピストに告白し、「(自分の)女性性について、男性を中心に考えていたことに気づき(中略)、実はもう男性に興味がないことを自覚する」。彼女が劇中で見せるためらいや迷いは、メインストリームのTVドラマのLGBTQ+のキャラクターでは、めったに描かれない。ジェンダーアイデンティティに関する葛藤はなおさらだ。トランスジェンダーであることすら、二元的なものとして描写されることが多い。「その問題も、このエピソードの脚本を書くときに頭の中心にあった」とハンターはいう。「これまでテレビで描かれてこなかったもの、例えば、他人にどう思われるのかという不安だけではなく、実際にトランスの若者が何を考えているのか、ということに焦点を当てるいい機会だと思いました。つまり、『自分は何者なのか』とか『今自分が向き合っていることにはどんな意味があるのか』とか、もっと精神的で哲学的な疑問に」

この疑問は、彼女が生まれてからずっと向き合ってきた問いでもある。彼女はそれを「自分を探るクィアな方法」と呼ぶ。「自分が自分をどう捉えているのかが何となく掴めれば、過剰補償(※自分の良いところを強調して欠点を補うこと)のフェーズは乗り越えられるはず」。それは魅力的な方法だが、何もかもが厳密に定義できるわけではない。アイデンティティとは、振り子のように揺れながら、だんだん核心へ近づいていくものだ。「ちょうどこの前、セラピストとこのことについて話し合ったばかりなんです。『あなたは今も自分を何かに当てはめようとしてるでしょう。あなたはこれまでずっと箱の外で生きようと努力してきたのに、今、自分で自分を箱に押し込めようとしている』って。人間には、自分を何かに当てはめたいという奇妙な執着があるのかも」

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue

ジュールズの自分探しの旅は、彼女のファッションにも現れている。シーズン1のはじめは天使のようなピンクブロンドに、パステルカラーのプリーツミニスカートを履いてベイビーブルーの自転車にまたがっていたが、スペシャルエピソードのファッションは「もう少し中性的」に変化している。本国で今年1月に放送が始まった、よりダークさの増したシーズン2では、ジュールズのスタイルもその雰囲気を反映したのか、髪が短くなり、直線的なアイテムが増えた。「彼女の内面にはどこかアニメっぽくて、ちょっと生意気で、カラフルなところがあるけれど、シーズン2では、シリーズを通して彼女に起こる変化を視覚的に表現しています」

さらに、ジュールズとルーの関係も変化している。ふたりの関係を大きく揺らがすのが、フェイスタトゥーを入れたSoundcloudで大人気のミュージシャン、ドミニク・ファイクが演じるエリオットの登場だ。 「有害な関係と健全な関係のあいだのギリギリのところを行き来している」とハンターはジュールズとルーの関係について語る。ルーの依存症との闘いはまだ続行中で、状況はますます複雑になっていく。「シーズン2では、ふたりがその境界線を行き来し、無条件に感じられる彼女たちの愛がどこまでいけるのかが試されます」

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue

ジュールズは「自分を守る方法を学んでいるところ」とハンターは説明する。「シーズン1だけでも、イーストハイランドでの1学期を通して、彼女はトラウマになるような最悪な体験をしました。シーズン2で、彼女の自己防衛はより確かなものになっていきます。でも、彼女の本質は、どうしようもないロマンチストなんです。深く愛したい、一緒にいると安心できる相手から愛されたい、と強く願っている。彼女の今の立ち位置では、なかなか難しいように思いますが」

「人前だとすぐ緊張してしまう」というハンターにとって、撮影現場で足がかりを築くのも一苦労だった。「シーズン1は超ハードな演技コースみたいだった」と彼女は告白する。「パイロット版の撮影の合間にも、『ヤバい、これめちゃくちゃキツい。私はいったい何をしてるの?』と思っていました。HBOのテレビシリーズを撮影しながら学ぶなんて、かなりワイルドな環境だったけど……。今はようやく、自分はこの仕事が好きだ、この先も続けられる、と思えるようになりました。演技には、すごく特別な何かがあるんです。こんなふうに作品をつくれるものなんて、なかなかありません」

ドラッグの問題や劇的な展開にもかかわらず、『ユーフォリア』の本質は教養小説的だ。登場人物はみんな大人へと向かいながら、人生で最も美しいものは目に見えるとは限らないということ、そしてこの世界は自分の頭の中にある計画や予定をめちゃくちゃにしてしまうものだということを理解している途中なのだ。その不確かさ、どっちつかずの状態に向き合うことこそが、自分を見つけるヒントになる。

〈ファッションオタク〉の彼女は、メットガラのゲストになった今も、ハリウッドスターにありがちなよそよそしさとは無縁だ。スターダムを駆け上がりながらも、嘘偽りのない、ありのままの姿を見せている。「外から見れば、この世界は恐ろしく思えるのかも」と彼女はいう。しかし、本当は「みんなアドリブで演じているだけ」だという。今のところ、彼女の〈アドリブ〉は十分すぎるほど成功しているといえるだろう。

Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue
Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue
Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue
Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue
Hunter Schafer in i-D 367 The Out Of Body Issue
Hunter Schafer on the cover of i-D 367 The Out Of Body Issue

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Credits


Photography Stef Mitchell.
Fashion Alastair McKimm.
Hair Bob Recine at The Wall Group.
Make- up Diane Kendal at Julian Watson Agency.
Nail technician Honey at Exposure NY using Zoya Naked nail polish.
Set design Mila Taylor Young at CLM.
Photography assistance Zack Forsyth, Daniel Johnson and Casanova Cabrera.
Styling assistance Madison Matusich.
Hair assistance Kazu Katahira.
Make-up assistance Jamal Scott.
Set design assistance Caz Slattery.
Production PRODn.
Casting director Samuel Ellis Scheinman for DMCASTING.

All clothing and accessories (worn throughout) PRADA.

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