現代のメランコリーを歌う詩人、キング・クルール interview「こんなのは僕が夢見た世界じゃない」

世界的なパンデミックが宣言された日、i-Dはキング・クルールにインタビューを敢行。今年2月にリリースされたニューアルバム『Man Alive!』、自分自身に起こった変化、今後の展望について語ってもらった。

by Ryan White; translated by Nozomi Otaki
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29 July 2020, 8:35am

この記事はi-D The Faith In Chaos, no.360に掲載されたものです。注文はこちらから。

king krule i-D shoot

今の英国に暮らす若者の心情を表すとしたら、どんな音楽がふさわしいだろうか。何もやる気の起きない夏、そしてさらなる不況に直面している、多忙で無気力な世代に最も訴えかけるのは、キング・クルールの『Man Alive!』のサウンドだろう。

今年2月、新型コロナウイルスがヨーロッパを直撃するさなかに粛粛とリリースされたこのアルバムは、〈キング〉の名にふさわしい名声を築いてきたアーティストの新時代の始まりを宣言した。

それから数ヶ月が過ぎ、無気力さと不安の間で揺れる日々が続くなかで、クルールの冷静なメランコリー(彼の音楽においては普遍的なテーマだが、今までのどの作品よりも真実味を帯びている)は、まさにこの時代にふさわしい。 

「こんなのは僕が夢見た世界じゃない」と彼は本作のリードシングル「(Don’t Let the Dragon) Draag On」で歌う。「あの青色巨星たちも同じ気持ちかな?/こんな日々を経験したことがあるのかな?」

ここはサウスロンドン、ペッカムライにあるひと気のないパブ。世界保健機関(WHO)が世界的なパンデミックを宣言した数時間後のことだ。今回のインタビューでは、どのトピックについても一体これからどうなってしまうのか、という話に終始した。6日前に始まったばかりの彼のツアーも、先行きは思わしくない。

しかし、アーチー・マーシャル(※キング・クルールの本名)は、相変わらず冷静だった。「もしかしたらめちゃくちゃ厳重な防護服を着なくちゃかもね」と彼は間延びした口調でゆっくりと語る。おそらく数日後には、ツアーの全日程がキャンセルを余儀なくされるだろう。

King Krule wears coat and shirt Gucci AW20.
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『Man Alive!』の制作は、アーチーの前作『The Ooz』のツアー中に始まった。「とにかく調子が良くて、いろんなイメージが湧いてきた。今ならなんでもできる、僕がやりたかったのはこれだ、っていう気持ちだった」

「ホームスタジオの設備も整えて、サウンドもいい感じだった。そこまでは絶好調だったんだけど……」と彼は言葉を詰まらせた。

「聴きながらあることに気がついて、それが気に入らなくて……。わかるだろ? すごくイライラしたよ。もっと自分が楽しめるものをつくりたくて、そこからさらにもう1年費やした」

その作業も終わり、アルバムが世に送り出された(批評家からも絶賛された)今となっては、もう改めて聴き返す必要はない、と彼は語る。

「どんなものでもそうだけど、長いあいだ自分の作品に向き合っていると、それを三次元的に深めていく感じになる。リスナーみたいにストレートに、二次元的に聴けるようになるには何年もかかるんだ。でも今日、ここから北西部まで電車のなかで聴いてみたんだけど、その旅にはぴったりだったよ」

アルバム制作中に恋人でフォトグラファーのシャーロット・パットモアが妊娠したため、アーチーはイングランド北西部で数ヶ月間過ごした。そこはシャーロットの故郷なので、引っ越しは「理にかなっていた」という。

現在は、彼にとって永遠のテーマでありインスピレーション源である故郷のサウスロンドンに戻った。やはりいちばん居心地が良いのはここだ、と彼は断言する。「住む場所はもうどこでもいいんだけどね。そんなに必要なものはないし。屋根とベッドさえあればいい」

アルバムが絶賛を浴び、娘が誕生したあとも、デビューアルバム『6 Feet Beneath the Moon』のプロモーションで2013年のi-Dの表紙を飾ったときから、アーチー自身にそれほど大きな変化は見られない。

「みんな忘れがちだけど、誰にだって調子が悪いときはある。『まだ書くことがあるの? もうお金はあるんだし、これからも稼げるだろうし、十分暮らしていけるでしょ』なんていわれるけど、変わらないものもあるんだってことに気づかないひとが多いんだ」

Shirt and T-shirt Gucci AW20. Trousers Gucci Pre-Fall 20. Necklace (worn throughout) model’s own.
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アーチーと彼の音楽のあいだの距離は広がってはいないものの、徐々に変化しつつある。今回のインタビューに先立ち、英国、パリ、ブリュッセルで行なわれた6日間のツアーは、新鮮に感じられたという。

「ステージも変わったし、評価も変わった。もっと若い頃は──」と彼は以前Zoo Kidとして活動していた頃に言及した。「オーディエンスを威嚇する振りをしてた。ふざけたりもしなかったし、誰かが喋ってても気にしなかった」

「キング・クルールのツアーでは、最初の方はただ興味本位で観にくるだけのひとが多くて本当にうんざりした。間抜けなガキがステージに上がってると思われて、ムカつく奴にもたくさん会ったよ」

「『The Ooz』の頃になると、若い子たちが盛り上がってくれたから、僕はただ演奏して歌うだけでよかった。今はちょうど中間にいるのかも。まだツアーは始まったばかりで、新しい曲でパフォーマンスも違う……。今までより少しだけ控えめで、怒りに対してオープンで、ヘヴィな感じ」

アーチー自身は、エンターテイナーを自称しているわけではない。少なくとも最近まではそうだった。しかしツアーのキャンセルも視野に入れた今、彼の考えは少しずつ変化しつつある。

「僕は全然エンターテイナーなんかじゃない。自分はアーティストだと思う。楽しませることが目的じゃない」

「でもコロナのことがあって、フットボールの無観客試合を観て、オーディエンスがいなければコンサートはできないな、と思った。オーディエンスのためにパフォーマンスしてるつもりはないんだけどね。でも、実はそうだったのかな?」

Shirt and trousers Gucci Pre-Fall 20. Trainers Nike.
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今夏に26歳を迎えるキング・クルールの成長は、今なおとどまるところを知らない。彼の前作と同様、『Man Alive!』もそのタイトルとは対照的に一種の追悼のような作品だ。

「Please Complete Thee」では、「いろんな災害を見ただろ?/この地球が水に沈むまで そう長くはかからない」と嘆き、「ねえ どうか僕を完成させて」と締めくくる。

父親としての責任を胸に、助けを求めて叫ぶ彼に、この先の10年は何をもたらすのだろう。「アイデアはいくつかあるけど、何かステートメントを出すつもりはない。過剰反応されたくないから」

「僕はもっと多くのものをつくり、創造し、書きたい。僕が得意なのはそれだけだから。でも、もっとひっそり生きていきたいっていう気持ちもある。30歳になったら引退して、80歳くらいで復帰するのもいいかも」

今はすでに次の楽曲制作に取り掛かっているという。「今つくっているのは、僕(の声)とギターだけの曲。ここ最近、自分だけでショーをやれないか考えてるんだ。ちょっと難しいかもだけど……」と彼は再び言葉を詰まらせた。「エド・シーランみたいに、ちゃんとしたビートボックス用の機材を買おうかな」

彼とエド・シーランのアーティストとしての共通点はそれだけだが、娘が生まれたアーチーには、もっと優先するべきことがある。「すごいことをやるつもり。ここでは言えないから、また後で教えるよ」

「どんな犠牲を払ってでも達成したい人生の計画があるんだ。今は支えるべき存在ができたし、彼女には一生幸せでいてほしいから」

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