「自分らしくあるためのコラボレーション」デザイナー末安弘明とウィンストン・スミスにきいたKIDILL 2021春夏

KIDILLが、パンクロックシーンに名を馳せるグラフィックデザイナー、ウィンストン・スミスらとコラボした2021年春夏をショートフィルムで発表。「デザイナーがアーティストの個人的なスタイルとステイトメントを理解する。そんな良好な関係があってこそ真のコラボレーションなんだ」

by Tatsuya Yamaguchi
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22 July 2020, 12:00am

過去3シーズンにわたってパリでコレクション発表を続けてきたKIDILLもまた、パンデミックの影響は避けられなかった。渡仏を断念したデザイナーの末安弘明は、Dead Kennedysなどのアートワークを手がけたたことで知られるアメリカ人グラフィックデザイナー、ウィンストン・スミスとコラボレーションした2021年春夏を、ルックブックと映像で発表することを決めた。この数ヶ月の間で、自室で過ごす人々がこれまで以上に急接近した“ディスプレイ”やウェブカメラもモチーフのひとつだ。急速に拡大する監視社会へのアイロニーも感じさせるショートフィルムだ。i-Dは、末安とスミスのふたりに話を聞いた。

「ショーで映えるデザインもたくさん描いていたけど全部やめて、僕にとって“リアル”なスタイルだけに自然と絞られていったんです。自分が置かれている状況で作る服が変わるのは当然だけど、KIDILLとしてやっていることはひとつも変わってない。やっぱり、服作りが好きなんです」。ルックブックの撮影が行われているスタジオで腰掛けた末安はコレクションについてこう語った。

2021年春夏コレクションのタイトルは、「IDOL(偶像)」。シュールレアリスト・パンク・アーティストとも表されるスミスが、1981年にDead Kennedysのアルバム『IN GOD WETRUST, INC.』のために制作したグラフィックのタイトルでもある。十字架のマリア像が装飾されたショッキングなデザインで、イギリスではアルバム販売禁止、アメリカ宗教団体からは強烈なバッシングを受けた、反体制のシンボルとしてパンクカルチャーの永久的なアイコンのひとつだ。

ノースビーチから届いたウィンストン・スミスの言葉を借りれば、「KIDILLのデザインは、コラボレーションするアーティストに敬意を払い、個人的でアーティスティックなスタイルとステイトメントを深く理解している」。

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彼らのコラボは、末安が「ずっと憧れ続けてきた人のひとり」であるスミスの膨大なアーカイブや最新作品の中から、コレクションにふさわしいワークを自由に選ぶことで実現した。パンキッシュなカッティングと刺激的なカラーパレットを軸に、コラージュ的アプローチで形作られるKIDILLのコレクションにのせている。肝心なのは、「自分のフィルターを通して、新しいパンクを提案すること」。これは末安が、ジェイミー・リードとコラボした20年秋冬のショーのバックステージで語っていたこととまったく変わっていない。

前シーズンに続き、KIDILLのコレクションを紐解くキーワードは、デザイナー自身が体現し続けるパンクカルチャーへの愛と、「コラボレーション」にある。前見頃を巻き込む、Dickiesの変形ワイドパンツもそのひとつだ。

「パリでの発表を経てようやく、憧れの人や共感できる人たちに声をかけてKIDILLという場で仕事ができるようになった。彼らのことが心から好きだから、単純だけど筋が通ってる」と、パンクロックを愛する末安は話す。手法こそ違えど、「超個人主義的で、アンチファッションな精神性で通い合っている」というブランド、rurumu:が、DIYの匂いがするランダムニットウェアを継続して手掛けていることも同じ理由だ。

「似ている服が溢れてる。そうならないために、自分にしかできないことを模索する。俺が負けないところは絶対にパンクだし、思想が似た人たちと一緒に強いことができれば絶対に“似ない”と信じてる。要は、自分らしくあるためのコラボレーションなんです」

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この一貫した姿勢が、スミスの言う「どんなアーティストにとってもプラスになる、真のコラボレーション」を生み出していく。この、「アーティスト」を、日本が誇るデニムメーカーに置き換えても同じことが言えるだろう。

インディゴ染料を含む排水が環境に負担をかけないよう本格的な排水処理施設での浄化に取り組んでいるEDWINとの継続的な協業もまた、KIDILLの思想のあらわれだ。インディペンデントなブランドと大企業が“正当に”手を取り合うことはますます重要になってくるかもしれない。互いの思想を共有し、それぞれのクリエイティビティを発揮し合える取り組みは、マーケティング主義を席巻するコラボとは本質的に異なるのだ。

「もちろん自然を守れるなら闘った方がいい。膨大な資金がかかることはできないけど、自分の手の届く範囲で、パンクの価値観の中で、自分に嘘をつかずにできることであるならばサスティナブルな取り組みは毎回やっていきたい。EDIWINの廃棄予定のデニム生地を使って、ウィンストン・スミスと共にリメイクしたぬいぐるみも作っていきます」

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スミスは言う。「私のアートワークでは、過去と現在の悲惨なポリシーをよく指摘し、改善し、より良い未来のためにどのような壮大な可能性があるのかを考えている。そして、ビジョンと、人類への愛情を持っている人々のために、私たちは貪欲と支配の力に対抗し、人権と公正な未来のために常に闘っています。私たちは、そうした恐ろしい自己利益の勢力に勝つことはできないかもしれませんが、少なくとも戦わずして屈服することはありません」。

「世界中の人々は個人的な目標の優先順位を付け直し、コミュニティと地球を最優先にする必要があります。これが種として生き残る唯一の方法です」。きっと、パンクを愛するデザイナーもうなずいているに違いない。

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「新型コロナの世界的な流行は、世界中の誰にとっても大きな「ゲームチェンジャー」であることは確かです。それは間違いなく人々の優先事項を整理しました。「食うか食われるか」または「我先に」の古いシステムは機能しなくなります。今、私たちは全員「兄弟の番人」です。私たちは皆、お互いの面倒を見る必要があります。それは基本的な自衛本能や自己利益の明白な理由からでなく、子供たちや次世代に向けた私たちの愛からです。科学はイデオロギー(そして、卑劣な迷信)に打ち勝つ。

母なる自然は常に正しい。自然との議論はありません。そして、それはそうあるべきです。地球は私たちの存在に関わらず生き残る。したがって、人々は私たちが地球のためにここにいることを理解する必要があります。人類は、恐竜や原生動物がここで何百万年もの間、最高権威を支配していた時間のほんの一部しか地球上に存在しませんでした。人々は特定の謙遜さを学び、科学と自然を尊重しなければなりません。ですから、世界中の人々は個人的な目標の優先順位を付け直し、コミュニティと地球を最優先にする必要があります。これが種として生き残る唯一の方法です」

——ウィンストン・スミス

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All images courtesy KIDILL
Text Tatsuya Yamaguchi

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