「デザインは情報編集」グラフィックデザイナーMACCIUのミニマルなデザイン論

国内外で活躍するグラフィックデザイナーMACCIUがナイキと共に新たなカスタム・シューズ「ナイキ エア ズーム MACCIU By You」をローンチ。しかし、彼女はミニマリズムを徹底させ、自身のシグニチャーであるグラフィックを削ぎ落とす決断をした。MACCIUのデザイン哲学に迫る。

by Yoshikatsu Yamato
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15 June 2020, 5:00am

何をするかではなく、何をしないのか。情報過多な現代においては、削ぎ落としていくことがかつてなく重要になっている。昨今の断捨離ブームや、スマホのアプリを削除する「デジタル・ミニマリスト」の誕生はその一例だろう。大切なものを見極め、いらないものを削ぎ落としていく感覚はしかし、現代をサバイブするための処世術として現れることもあれば、思いもよらないクリエイティブなかたちをとることもある。

このたび、カスタマー自らがパーツごとにカラーリングを選ぶことのできるナイキのカスタムサービスNike By Youに、新しいモデル「ナイキ エア ズーム MACCIU By You」が加わった。史上最速のZOOMシリーズのレガシーを受け継ぎつつ、グラフィックデザイナーMACCIUによって構想されたこのシューズは、新鮮でありながらどこか懐かしくもあるような趣きを漂わせている。

ところが、そこにMACCIUのグラフィックはない。彼女はどのようにして、グラフィックなきデザインに辿りついたのか。MACCIU式ミニマリズムの源流はどこにあるのか。「情報を精査し編集する作業」としてのデザインについて、変化を恐れない無常の美学について、彼女に話を聞いた。

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──まずグラフィックデザイナーであるMACCIUさんが手掛けているにもかかわらず、グラフィックがないデザインだということに驚きました。

MACCIU:プロトタイプを初めて見たとき、グラフィックは置くべきではないと確信しました。このスニーカーは最初から完璧で、すでに100%の作品でした。なので、その美しさを最大限に表現するために、グラフィックを最小限にとどめる、という選択をしました。

──「しないこと」の見極めもデザイン、ということでしょうか?

MACCIU:そうですね。シューズに限らず、どんなメディア(媒体)であっても、それを最も魅力的なものにするためには何ができるのかを考え抜きます。何を削ぎ落とし、何を選び取り、どう配列するか。情報を精査して編集する作業こそが、私にとってのデザインなんです。

──そうしたミニマリズム的なデザイン思考をするようになったきっかけは、何かあったのでしょうか?

MACCIU:きっかけはわからないんですよね。無駄なものに惑わされず、物事の本質がわかったほうが生きやすいな、とは常々思ってきました。そして私が作ったものは、溢れる情報のなかにあるちょっとした「間(ま)」として提供したいと思っています。作家のエゴを感じさせない、すっきりとして、澄んだものを作りたいです。

──先ほどMACCIUさんが話されていた「情報を精査して編集する作業」はデザインの話だけでなく、情報過多な現代社会を生きるうえでも重要なことだと思いました。フェイクニュースやデマに踊らされないためにも、ストレスの予防としても。

MACCIU:一時的だったり、表面的なことにとどまらない、意識におけるミニマリズムですよね。私自身の実感としては、震災のあと、SNS上にデマが流れたりして情報に対するリテラシーが問われたように思いました。そのとき、あらゆる情報にリアクションをするのではなくて、「裏をとる」というか、メタな視点の重要性を痛感しました。

──現在は、東京と京都の二拠点で活動なさっているんですよね。東京と京都では、情報量やその密度も違いますか。

MACCIU:東京で情報過多になってしんどくなってくると、京都に行きたくなる。 今はなかなか叶いませんが、だいたい1ヶ月ごとに行き来していますね。京都には実家もあるし、所属している事務所の「CEKAI」もあります。この活動のスタイルも、メタな視点で情報を編集していくために選んでいることなのかもしれません。

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──デザインにおいては、どのような情報が素材になってくるのでしょうか?

MACCIU:日常生活で触れる情報のすべてが、デザインの素材になります。プロジェクトごとのテーマを掘り下げるなかで浮上してきた記憶の断片や、道を歩いているときに聞こえてきた会話、なんの気なしにしていたインプットなど、あらゆるものが編集作業に関わっています。デザインは、パズルを組み立てる作業に近いのかもしれません。

──今回のシューズデザインで、特にこだわった点があれば教えてください。

MACCIU:アッパーには、汚れやすく、傷つきやすい素材を選びました。これは、一人の生活者としても身近である「形あるものはいつか滅びる」という思想に基づいています。祖母が繰り返していた言葉でもあり、私には、母を通じて伝えられてきました。

──なるほど。

MACCIU:あと、この考え方が、ナイキの掲げるテーマである“EQUALITY”と響きあうと直感したんです。生まれてから死ぬまで、10秒先に起こることは誰にも予想できません。このことが「平等」なのだと思いました。時とともに汚れ、さまざまに傷をつけていくマテリアルは、その「不安定さ」、「予想のできない未知な世界」にふさわしい素材だろうと。現在に執着せず、あらゆる可能性や未知なる世界に対して柔軟でいるスタンスを、このデリケートな素材は体現しています。

──「形あるものはいつか滅びる」という思想は、すごくポジティブなコンセプトだと感じました。

MACCIU:そうですね。潔い諦めがあるからこそ、執着せずに進んでいける。汚れや傷などの変化を前提として考えることで、現在にとらわれ過ぎずに生きていける。これって素敵なんじゃないか、そういう前向きなメッセージにもつながっています。自分のコアとなる思想やプロジェクトのテーマ、プロダクトの背景、日々の生活で接している情報を組み合せていきながら、シューズ全体を構成していきました。

──ナイキ エア ズーム MACCIU By Youはこのさき、思い思いにカスタムされて、さまざまな場所へ向かっていきます。このスニーカーが、それを履く人にどのような影響を与えることを望んでいますか?

MACCIU:自由に楽しんでもらいたいです。イラッとしてもいいし、感動してもいい。いろんな感じ方が生まれたらいいなと思っています。

ナイキ エア ズーム MACCIU By Youのカスタムページはこちら

またMACCIUによるオンライン エキシビジョン「CHOICE BY MACCIU」が現在開催中。世界中どこかかでもアクセス可能。

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