Photography Masaki Sato

僧侶でメイクアップアーティストでLGBTQ+アクティビスト:西村宏堂interview

仏教×メイクでLGBTQ+を抑圧から“解放”。「ハイヒールを履いたお坊さん」西村宏堂が語る活動への思い。

by Shirotori Natsu
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07 June 2022, 2:00am

Photography Masaki Sato

著書『正々堂々』が世界各国で翻訳され、注目を集める西村宏堂。「ハイヒールを履いたお坊さん」とも紹介される西村は、僧侶・メイクアップアーティスト・LGBTQ+アクティビストと異色の組み合わせとも言える肩書きを持つ。

一体なぜ、このようなキャリアを歩むことになったのか。そして、仏教やメイクはどのようにクィアコミュニティのエンパワーメントにつながるのか。西村に話を聞いた。

──もともとは仏教を“毛嫌い”していたとお聞きしたのですが、それはなぜでしょうか。

修行に入る前は、「南無阿弥陀仏」と言って極楽に行けるなんて本気で話しているのかなと思っていたんです。科学的・天体的に極楽浄土というのはどこにあるのか、仏教は人が作った教えなのに本気で信じているんじゃないよね?と。

それなのに、学校の友達とか周りの人から「いつかはお寺を継ぐの?」「お経の練習してるの?」とかって、仏教の道で生きることを強制されるようなことを言われ続けて。それでなおさら毛嫌いしちゃっていたんですよね。

家族からはお寺を継ぎなさいと言われたことはないんですけど、修行を終えた今でも「僧侶の修行を終えたから安心ですね」などと言って周りの人が家族に話しかけるのは的外れだなと思っています。私は社会が想像する僧侶の姿を引き継ぐのではなく、自分の得意な方法で、平等の教えを世界に伝えたいと思っています。

──そんな状況から、修行に入ることを決められたきっかけは何だったのでしょうか。

きっかけはふたつあって、ひとつは母から言われた言葉です。私の母はピアニストなんですけど、「モーツァルトの曲が嫌いと言うのであれば、モーツァルトの曲をちゃんと勉強して理解したうえで、初めて意見が言えるんだよ。だから、仏教についてもしっかり学んでみたらどう?」みたいなことを言ってくれて。確かに私は仏教のことをちゃんと知らなかったので、僧侶の修行に行ってみるのも良いのかもと思いました。

もうひとつは、ニューヨークの美術大学に通っていた時の経験です。課題で色々な作品を作るのですが、その中で1番印象に残っている韓国から来た学生さんのパフォーマンスがあって。その学生さんは、途中で兵役に行かなくてはならなくなり、2年生が終わった時に学校を離れました。学校を離れる前に、軍服を着て大きい声を出し、腕立て伏せをしたり点呼したり、そういったパフォーマンスを見せてくれたんです。行くのは嫌だけれど、行くって決めたんだという正直な覚悟を感じました。そういった、自分のルーツに関わることや自分が心の底で気にしていることをさらけ出して表現することで、人の心に届くものがあるんだと思ったんです。私も今まで自分が避けてきたことと向き合ったら進化できるのかなと考えて、僧侶の修行に入りました。

──実際に修行をしてみて、イメージと違ったところや発見はありましたか。

色々ありますが大きかったのは、仏教で本当に大事なのは「みんなが平等に救われる」と伝えることであって、伝統的な価値観や作法を守ることではないと学んだことですね。

例えば作法の中でも、男性は右足から女性は左足からと決まっているものがあります。でも、トランスジェンダーの人やクエスチョニングの人はどうすればいいのだろうと思って先生に聞いてみたら、「どちらでも好きな方でいいですよ」と言われたんです。作法というのは教えの後から作られたものであって、それを守ることよりも全ての人が平等に救われることを伝えるのが大切だと。

それを学んでから、私にできる仏教の伝え方に集中できるようになっていきました。世界にはさまざまな宗教や法律があって、それによってLGBTQ+であることに罪悪感や苦しさを感じている人もいるかもしれません。みんなに仏教徒になりなさいというつもりはないけれど、もし苦しんでいる人がいるのであれば、仏教ではこう考えているよと伝えることが私の僧侶としての役目だなと思っています。

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Photography Masaki Sato

──メイクについてもお聞きしたいのですが、初めてメイクをした時の思い出を教えてください。

初めてメイクしたのはたぶん高校生のときかな。母のシャネルのアイシャドウが洗面所に置いてあって、それをチップか指で塗ってみました。ノックされたら嫌だなとか、ビクビクしながら塗って、使ったのが分からないようにアイシャドウの表面を慣らしてそっと戻したのを覚えています。

当時は、私がメイクをするなんてダメだと思っていたんです。と言うのも、幼稚園の時に親戚のお姉さんにマニキュアを塗ってもらって喜んで母に見せたら、「こうちゃんにはそういうことをする大人になって欲しくない」と言われて。後々、母はただマニキュアは爪の健康に良くないと思っていただけだったと分かったのですが。社会的な意識もあって、きっと私自身もマニキュアを塗るのはダメだと思い込んでいたんだと思います。

──その後アメリカで本格的にメイクを始められたかと思いますが、メイクをし始めたことによってどんな変化がありましたか。

こんなにまつげが長くなるんだったら、こんなに目が大きくなるんだったら人生が変わるんじゃないかって思いました。メイクですごく顔が変わるので、今までより自分の可能性がもっともっと広がる気がして、希望を感じました。でも、今はメイクをするときは自分の自然のチャーミングさが損なわれないように、メイクを乗せすぎないようにも気をつけています。

──近年では「メンズコスメ」「メンズメイク」なども出てきていますが、それについてはどうお考えですか。

メイクっていうのは、絵の具とか画材と同じ単なる色だと思います。なので、「メンズ用」と分けるのは、絵の具を男性用・女性用と分けてるのと同じで、とても“浅はか”なことだと思うんですよ。何色を使うのか、何を描くのかは、使う人が決めることです。

男性にもメイクをするという選択肢が出てきているのはいいことかもしれないけれど、まだまだゴールじゃなくて変化の過程です。生きているのは男性と女性だけじゃないですしね。メイクが私たちの人生や生き方を束縛するようなものにはなって欲しくないので、メイクと性別を紐付けるということは正しくないんじゃないかな。

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Photography Masaki Sato

──西村さんはLGBTQ+アクティビストとしても活動されていますが活動を始めようと思った理由を教えてください。

ドリュー・バリモアという俳優が好きなのですが、2007年に国連のWorld Food Programmeのアンバサダーをされていたんですね。それを目にして、当時は私だったらやらないなって思っていました。同性愛者として生きていて、社会から仲間はずれにされている気がして、なんでそんな社会のために自分のお金やエネルギーを使わなければいけないのかと。

でも、なぜそういう活動をするのか考えた時に、人のために何かをすること、与えることが自分の幸せにつながると思ったんです。それで、自分も悩んできたし、心から取り組めると思ったLGBTQ+に関する活動をしようと思いました。

──仏教やメイクも、アクティビストとしての活動と結びついているのでしょうか。

そうですね。自分の学んだ仏教やメイクを通して、「みんなが平等で美しい」ということを伝えたいと思っています。例えば、全日本仏教会と一緒にレインボーステッカーを作ったり、メイクのセミナーをしたり。もちろん差別や偏見などの事実はあるし、ちゃんと向き合わなければいけないけれど、私はアートなどの楽しい方法で発信することを大事にしています。

過去にはトランスジェンダーの女性にメイクをしたら、「今までは気持ち悪いと言われるのが嫌でできるだけ人に見られないようにしていたけれど、自信を持って外を歩けるようになりました」って笑顔で言ってくれて、この活動の価値を感じることができました。そんな風に、みんなが「自分は自信が持てる大事な人間なんだ」と思えるようになったらいいなと思っています。

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Photography Derek Makishima

──最後に、社会的に抑圧されたり窮屈な思いをしているなかでも、自分のことを大切にしていくためのアイデアをいただきたいです。

まず、自分を知って大事にしていくためには周りの人に協力してもらうのがいいなと思います。おすすめは「褒め殺しゲーム」です。信頼できる人たちに、「私の見えるところと見えないところ、それぞれ10個ずついいところを教えて」と聞いてみてください。人間は自分で自分のことを見ることはできません。周りの人が鏡となって、それぞれの人が、それぞれ違う自分の良さを反射させて見せてくれると思います。客観的に自分のいいところを言ってもらったら、それが自信に繋がりますし、しかも複数の人が同じことを言ってくれたらますます自信はアップすると思います。

またプライドイベントのように、皆で手を携えていくことも大事です、応援している人もたくさんいるということを知ってほしいと思います。


CREDITS
Text: Shirotori Natsu
Photography: Derek Makishima. Masaki Sato.
Edit: Kotetsu Nakazato

INFORMATION
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