「エゴじゃないものを作れ」と言われるけれど:清水文太 interview

若い世代を中心に支持を集めるマルチクリエイター清水文太が、2019年末に突如配信したデビューアルバム『僕の半年間』。作詞作曲からサブスク配信まで、清水自身がすべて担当した。なぜDIYにこだわるのか? 音楽制作を始めた理由とは? 清水文太の第二章がここから始まる。

by Sogo Hiraiwa; photos by Kisshomaru Shimamura
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12 February 2020, 4:30am

「ここにいると落ち着くんです」。渋谷駅の外れにあるヴィーガン食堂で、清水文太はそう話す。店を指定してきたのは彼だったが、こじんまりとして落ち着いた雰囲気のあるこの食堂は、清水のSNSや彼が手がける極彩色のスタイリング・ワークから受ける印象とは幾ばくかギャップがあり、意外に思った。

清水文太は、水曜日のカンパネラをはじめとしたミュージシャンのスタイリングや雑誌でのエッセイ連載、企業のディレクションまでこなすマルチクリエイター。一目見るだけで天賦の才だと知れる類まれなファッションセンスと、誠実さと歯に衣着せぬ物言いを兼ね備えた文章で、若い世代を中心に絶大な人気を誇っている。その才能に惹きつけられているのはファッション界に限らないようで、別業種からもクリエイティブディレクションやアートディレクションの依頼が舞い込んでくるという。

そんな彼が音楽を始めると、一体誰が予想できただろうか。音楽業界との接点の多さから、ゆくゆくは音楽の道に進むだろうと想定していた人はいるかもしれない。けれど、そのデビューが清水自身がすべての作詞作曲を手がけたアルバムによるもので、登録も本人が行なった音楽ストリーミング配信によって届けられるとは、思いもよらなかったに違いない。

「一生のなかで絶対に同じ格好はしなくないです。アップデートしないと、同じことしてたら人間って止まっちゃうので」と清水は話す。

2019年末に突如配信された1stアルバム『僕の半年間』について、音楽を始めた理由について話をきいた。

──まず『僕の半年間』が告知もなく急に配信されて驚きました。スタイリストという認識だった文太君が音楽を始めたこと、そして音楽性が予想外で。音楽を始めるキッカケはなんだったのでしょうか?

清水文太:前から音楽には興味があって、水曜日のカンパネラのスタイリングやってたときもずっとやりたくて、いつやろうか迷ってたんです。去年の1、2月くらいにある人と出会って、その日からGarageBandで毎日曲を作るようになりました。曲を作るのが本当に楽しくて、その人に送って感想とかをもらっていたんですが、一週間くらいして死んでしまって……。葬式に参列した帰りに外苑前を歩きながら、「本気で音楽やろう」と思ったんです。 それで、その人のために曲を作りました。

そのすぐ後、3月には渋フェスに出演することが決まっていて、それならライブをやってみようと思ったんです。そのときに作ったのが、アルバムの最後に入っている「城」。だから音楽を始めたのはエゴもあったけど、やらなきゃっていう責任感や初期衝動もありました。

──アルバムのタイトルどおり、半年間に起こった出来事を曲にしていったのでしょうか?

文太:実際の曲の制作期間は3ヶ月半くらいです。でも、カバー写真を300×300の正方形に切り取るのに手こずって、結果的に半年間になりました(笑)。

──サイズ調整も自分で?

文太:そう。でもよく見ると、写真が歪んでるんです。Spotifyとかに載ってるジャケ写は、僕の本来の寸法じゃない(笑)。

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──聴いてみると音楽にも意外性がありました。ポップスかと思ったら全然違いました。

文太:音楽媒体の人にも、今の若い子はトラップ系の音楽しか作らなくて、ちゃんと音楽を作ろうとしている子は珍しいって言われました。

──トラップを選ばなかったのは?

文太:伝えたいメッセージがトラップというジャンルだけだと表現しきれなかったから。そして、トラックもリリックも歌も、ジャンルという概念から切り離して作りたかったんです。

──作詞作曲は全部一人で作ったんですよね?

文太:作詞と作曲は自分でやらないとナメられると思ったんです(笑)。あと自分の世界観を出すなら、全部自分でやったほうが伝わるだろうなって。まだまだ力不足なところはあるけど。

何かやるときに自分で全部できたほうがいいなとは前から考えていました。アート・ディレクションの仕事も今までいくつかしていて、そのほうがオファーする側としては頼みやすいらしいっていう実感があって。サブスクの配信までできたのはよかったです。

──SpotifyとかApple Musicへの登録も一人で? 個人でできるんですね。

文太:最初は手伝ってくれるっていう人がいたんだけど、気づいたら自分でやってました。今は音楽活動も多様化してきているから、必ずしもレコード会社と一緒にやることだけが正解じゃないというのは、音楽業界にいなくてもわかる。だったら一度自力でやって、配信の仕組み・流れを知ろうと思って。

──話を聞いていると、制作から流通まで完全にDIYですね。

文太:なんとかなりました(笑)。同世代の子でも、「やりたいことはあるけど、どうやってやればいいかわかんない」とか「お金がないからできない」って相談を受けることがあるんです。でも、今はなんでも手に入りやすくなってるし、やろうと思えばできるんじゃないかな。僕もお金はなかったけど、できました。

そこまで人のこと考えて生きているわけじゃないけど、少なくとも僕を好きって言ってくれる人や相談してくれる人に、何もなくてもできるってことを見せられたらいいなとは思います。

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──全部自分でやるっていう面でロールモデルはいますか?

文太:全部自分でやっていて面白いと思うのは小沢健二。CDジャケットのデザインも自分でディレクションしてますよね。ビジュアル的には、カルチャークラブの「カーマは気まぐれ」のMVでスタイリングをしているリー・バウリーはすごく好きです。DIYの塊みたいな人で、彼の作るビジュアルはどれも面白い。

でもそういう人たちを参考にしようと思ったことはないんです。だって、僕は同じようにはできないので。参考にしてもパクリになるし、意識した瞬間からその人っぽいものしかできない。それより、本質を考えるほうが面白い。この人は何をもってこんなことやってるんだろうって考えてみる。本質を掴めたら、自分が何かやるときに応用できる気がします。

──曲はどうやって作っていったんですか?

文太:日記みたいにその日、その時の気持ちを曲にしたいと思って毎日作っていきました。だからどの曲も、いつどこで作ったかとか、そのときの気持ちは全部覚えています。その中でも特に鮮明に記憶している曲を『僕の半年間』に入れました。まだ出してない曲も沢山あります。

──そんなにすぐ曲にできるものですか?

文太:ほとんど10分から15分ほどで作りました。いちばん時間がかかったので5時間くらい。

──録音は?

文太:ボーカルはMac Bookにコンデンサーマイクをつけて録りました。鎌倉のトンネルや兵庫帰りに寄ったケーブルカーのなかで録った音もあります。あとコップの音とか、友達の笑い声も、身の回りにある音を録音して電子音と混ぜてます。

──対局にあるものを取り合わせる感じでしょうか?

文太:小さい頃からゲームに囲まれて育ったので、電子音は親近感があって、笑い声とかと同じように身の回りにある音。全部身近にあるもので作っている感覚です。

最近アコーディオンを買ったので、次はそれを使って曲を作りたいです。って今インタビューで言ったから、一年後には弾けるようになっとかないと(笑)。

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──アルバムはほとんどインストで、最後の二曲だけリスナーに語りかけるような歌詞がついています。「言葉」では、〈人間が嫌いだ〉と繰り返し歌っていますね。

文太:あれはずっと考えていたことでした。嫌いの反対は好きじゃない。好きの反対は「興味がない」だと思うんです。「人間が嫌いだ」って自分に向かって言っているところもあるんです。僕も虫を潰すし、人を嫌いになることもある。でもそういう感情を持っていても僕たちは人間だし、生きていかないといけないよねと思って、それを歌詞にしました。アルバム全体も「生きる」ということをテーマにしています。自分にとっては、死生観が重要なんです。

──すごくパーソナルな作品だと思いました。

文太:「エゴじゃないものを作れ」と言われることもあるんだけど、エゴがあっても他人がいいって言ってくれるものならいいんじゃないかなと思っています。だからそういうものを作れたらいいなって。今改めてアルバムを聴くと、気持ち悪いなってところもあるけど、じゃあどうやったら良くできるか、新しくできるかって考えるとすごく楽しい。人生でいちばん楽しいかもしれない。

──子どもの頃はどんな音楽を聴いてたんですか?

文太:小学校の頃は、中島みゆきとか尾崎豊とか。なんで人って死ぬんだろうって考えてて、鬱の本とか読んでたんだけど、そこで行き着いたのが中島みゆきと尾崎豊。単調な曲が好きでした。中学に入ってさらに暗いのが好きになっていって、高校でちょっと明るいほうに復活して、テクノを聴くようになって。セカンド・ウーマンがいちばん好きでした。

──最近は?

文太:色々聴きます。Creepy Nutsとかエミネム、このあいだ亡くなったジュース・ワールド、Dos Monos、machinaとか。King Gnuも聴きますよ。橘いずみも好きです。あと合唱曲の「コスモス」のトランスver.も面白くて。ほかにもコーネリアス、METAFIVE、海外だとNikki Oniyomeや対バンしたUltrademon、友人がやっているkopyという二人組も好きです。でも、いちばんよく聴くのはジブリですね。久石譲さんやいろんな方がジブリの曲を作ってるけれど、簡単な歌詞で難しいことを言っているのが幼少期から好きでした。

──なるほど。やはり音楽はストリーミング配信で聴くことが多いですか?

文太:すぐ聴けるから便利ですね。友達からいいよって教えてもらった曲は秒で聴くようにしています。今回のアルバムをストリーミングで発表したのも、結局そっちの方が聴いてもらえるから。でもこのアルバム、聴くのに体力いるはずなんですよ(笑)。周りから「最初の30秒で引き込まれるような、もっとキャッチーなもの作れば?」と言われたりもしました。だけど、僕には僕の特性があるし、物語みたいなものを作りたかった。聴かれる数は正直、期待していなくて。まず「音楽をやっている」ということを証明するためにも、アルバムの配信が必要だったんです。

このアルバムのことを伝えるには何が最適だろう、と考えてみると、ライブパフォーマンスなのかもしれないと思っています。みんなの半年間を録音で集めて、即興でダンスして歌って。これからは、沢山パフォーマンスしていきたいし、ライブハウスじゃない場所でもやってみたいです。美術館や大草原のモンゴル、砂丘とかでも面白いかも。直接伝えていけたらいいなと思います。SNSや音楽配信は、そのためのキッカケづくりだと考えています。

──今後ミュージシャンとしてやりたいことはありますか?

文太:いきなり音楽だけに集中するっていうつもりは全くなくて、いろんなものに目を向けていたい。スタイリングは自分の強みだし、その強みを捨てる必要もないと思うんです。曲とスタイリングでギャップを作ったり、トータルでディレクションしたりすることもできる。僕の格好が好きな人が音楽を聴くようになるかもしれないし、逆に音楽をきっかけに僕を知った人が、服に興味を持つかもしれないじゃないですか。音楽は総合演出できるから、そういう循環が生まれると思うし、そうできたらいいですね。

音楽や服で僕の人生は変わったから、僕も他人の人生も変えられるかもしれない。それがクリエイティブの力。今自分はそれをやれる環境にいるし、やれる時代に生きているから、全力でそれをやっていけたらと思ってます。

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