平野紗季子「コンビニごはんよりも、近所の個人店のテイクアウトを」【離れても連帯Q&A】

外食産業を直撃しているコロナ禍。外出自粛がこのまま続けば、夏までに飲食店の半数近くが閉業に追いやられると試算する専門家もいる。フードエッセイスト​の平野紗季子​​にきいた、"今できること"と"未来のレストラン像"。〈離れても連帯〉シリーズ第15弾。

by Sogo Hiraiwa
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18 April 2020, 11:00pm

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大によって、日本ではいま、多くの文化施設が休業を強いられ、感染防止対策として、あるいは政府による“自粛の要請”によって。また「ステイ・ホーム」や「ソーシャル・ディスタンシング(距離をとること)」が求められ、人と人とのコミュニケーションはいまだかつてなく制限されています。

こうした中でわたしたちには何ができるのでしょうか。文化を維持するために、好きな人や場所を守るためには何が? 離ればなれであっても連帯するには? この"非日常"を忘れないためには? さまざまなジャンルの第一線で活躍している方々にアンケートを実施し、そのヒントを探ります。

今回はフードエッセイストの平野紗季子が登場。多様な個人店を支えるために今すぐできる支援や、これまでのレストラン観を考え直すきっかけとなったという有名店の破産ニュースについて。

離れても連帯, KEEP-DISTANCE-IN-SOLODARITY

──新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、今あなたが属している業界や産業はどんな打撃を受けていますか? 応援・支援するにはわたしたちに何ができるでしょう?

平野:コロナ禍における外食産業は、国や地方自治体からの自粛要請を受けながらも補償が乏しく、非常に厳しい状況を強いられています。ただでさえ営業利益率の低い業界であることも相俟り、この状況が長引けば夏までに半数近くの飲食店が閉業に追いやられると試算する専門家もいます。

私たちができることはまず、より充分な補償が実現されるよう声をあげること。そして近くの小さな飲食店へと少しでもお金を落とすことです。堅牢な大企業のデリバリーやコンビニごはんよりも、今日の売り上げを少しでも増やしたい個人店のテイクアウトへ。とくに、できたばかりで借金だらけのお店、採算度外視で自転車操業してきたお店、古くから続けてきた歴史ある店……失ってはならないお店がたくさんあります。例えばこのマップでは、テイクアウトやデリバリーを始めた個人店が多く掲載されています。できることは小さくても、自粛期間が明けた街に少しでも多くの飲食店の明かりが灯り続けるよう行動していきたいです。

また、こうした小さな抵抗を日々続けるのと同時に、食を生業にする人たちが(私も含め)、コロナと共に生きるこれからの社会を健全に生き抜くためにはどうするべきか、どう変わっていくべきか、長期的な視点で考えていかねばならないと思っています。

──コロナのビフォー/アフターで、変化した自分の考え方や、社会への認識があれば教えてください。

平野:深夜にインスタグラムのストーリーズを見ていたとき、あるフランス人シェフが料理をしている姿が目に入りました。普段ならコックコートで前衛芸術のようなきらびやかな料理を作っている人です。だけど画面の向こうの彼は、自宅でTシャツ姿のまま、子供のために素朴な料理を作っていました。

それを見た瞬間、泣きそうになりました。だってそこに映っているものはあまりに本質的で、それだけが全てで、それ以上のものなんてないように思えたから。家族みんなが健康で、安全な場所で、栄養価のあるおいしい食事を囲めること。その世界では料理が芸術である必要も、星付きである必要もありません。

ああ、もう前の価値観には戻れないかもしれないな、と思いました。大好きな文化だけれど、手放さなきゃいけないものもあるのだと、突きつけられた気がしたのです。変わっていく。今まさに変わっていくその波が、わっと自分の心まで押し寄せて、まるごと次の場所へと運ばれていくのを実感した瞬間でした。

──自宅待機以降に新しく始めたこと、もしくはポジティブな影響・変化がありますか?

平野:音を立てずに家の中で踊るスキルが身につきました。どすどすしたら下の人に悪い。

──今の気持ち・気分を音楽で表すとしたら?

平野:外に出るのは夜ごはんの準備のための夕方少しだけ、の日々なので、晴れた日の夕暮れにはついつい感動します。青空にピンクがうっすらと混ざり始めて、ちょうどair podsからConan Grayの「Idle Town」が流れてきたときの共鳴がすごかったです。「Idle Town」は美しい夕暮れの音がします。

──自宅隔離中の人に試してほしい、オススメの行動やコンテンツを教えてください。

平野:「いかに、人間価値の値切りと切り捨てに抗うか」「皆が石を投げる人間に考えもせずに一緒になって石を投げる卑しさを、どこまで抑えることができるのか」──農業史学者・藤原辰史先生の”パンデミックを生きる指針——歴史研究のアプローチ”。

あと、ぼく脳氏のインスタライブ風動画。アップされるたびに進化してて笑う。

──コロナ禍で人間の「良い面」も「悪い面」も浮き彫りになりました。あなたが見聞きしたなかで、忘れたくないと思う、印象的な出来事やエピソードがあれば教えてください。

平野:コペンハーゲンのレストラン〈Kadeau〉破産申請のニュース。世界的な有名店がコロナの影響で(もともと負債を抱えていたそうですが)閉店を余儀なくされたことは衝撃でした。Kadeauは私にとっても大切なレストランで、ノルディックキュイジーヌの味わいと素晴らしいホスピタリティに衝撃を受けた記憶があります。私はよく「レストランは夢なんだ」と言います。レストランは総合芸術的で夢のような体験を与えてくれるからです。でも、夢を与えようとする側は、その分だけの無理を背負ってきたのかもしれない。Kadeauが倒れたとき、そう感じました。

レストラン業界は長時間労働にも関わらず低賃金の現場も多く、決して労働環境がよいとは言えません。それでもお客様のためなら、と奮い立つ姿勢には、献身的で利他的な価値観があるように感じます。

でも。そうではなくて。誰かを幸せにするために自分が疲弊するのではなくて。まずは自分たちが幸せになること。自分たちが無理なく幸せに働くことで、周りにも幸せが波及していく。そんな、店も人も持続可能な価値観へと塗り替えていくきっかけが、もしかしたらこの危機の時代にあるのかもしれないと感じています。

──コロナ禍が落ち着いた後、日本の社会にはどう変わっていってほしいですか?

平野:社会がどう変わってほしいというよりは自分がどうありたいかを考えたいです。丁寧に今を見つめて、歴史に学び、自分の納得のいく判断のもと、これからの日々を歩んでいきたいし、その中から、自分ができることでみんなが喜んでくれることを探したいです。

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離れても連帯

Special Thank Kisshomaru Shimamura

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