「殺されたのは私たちだったかも」活動家のジャナヤ・フューチャーとカーンとタミカ・マロリーが語る、議事堂襲撃事件と米国のゆくえ

今年1月6日、ジョージア州の決選投票で民主党が議席を奪還し、同州史上初の黒人議員が誕生したこの記念すべき日に、連邦議会の議事堂をトランプ支持者が占拠するという前代未聞の事件が起きた。当日に行われたアクティビスト2名の対談を公開。

by Jenna Mahale; translated by Nozomi Otaki
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16 March 2021, 5:23am

この記事はi-D Utopia in Dystopia Issue, no. 362に掲載されたものです。注文はこちらから。

 2021年1月6日は、アメリカ合衆国の民主主義にとって素晴らしい1日になるはずだった。その水曜の朝、ジョージア州のコミュニティオーガナイザーたちは、彼らの10年にわたる努力が実を結び、長年抑圧されてきたコミュニティ、なかでも特にアフリカ系が多くを占めるコミュニティの投票者に政治参加の機会が与えられる瞬間を、今か今かと待ち受けていた。そしてついに、彼らの命運を決する上院議員選挙の決選投票が終了。民主党は実に2010年ぶりに、ホワイトハウスと上下両院を掌握することとなる。

 1日が終わる頃にはこの勝利は儚いものに思えたが、歴史的快挙であること変わりはない。アクティビストのジャナヤ・フューチャー・カーンとタミカ・マロリーも例外ではなく、苦労のすえ獲得した勝利を祝った。もちろん、現職の大統領の敗北は素直に喜ぶべきだが、昨年の政情は平穏とはほど遠かった。

 新型コロナウイルスのパンデミックによって、私たちの知る社会・経済生活が完全に壊されたことで、これまであまり目立つことのなかった資本主義の欠陥が顕在化した。アフリカ系の人びとに対する警察の残虐行為と人種差別による暴力を訴える抗議デモは、世界各地において今までにない規模で拡大している。

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Janaya wears all clothing (worn throughout) Calvin Klein. Jewellery (worn throughout) model’s own.

今後の米国は、良心に基づく政治がほぼ機能していなかった政界で出馬した民主党候補者が率いる〈ポスト・トランプ〉の世界へと突入していく。2020年という年についてだけでも、ふたりのアクティビストの話題は尽きない。

 インターセクショナル(※ジェンダー、民族、国籍など、複数のアイデンティティが組み合わさることで起こる差別や不当な扱いを理解するための枠組み)な社会正義を求める団体〈Until Freedom〉の共同設立者であるタミカは、トランプ支持者の暴徒たちが地元警察の手引きを受けてワシントンD.C.の連邦議会議事堂に乱入した事件に深いショックを受け、何も手につかなかったという。

 これはすべて、偏った資金援助を受けてきた腐敗したマスコミ、簡単にアクセスでき、影響力を強めてきたファシストのデマが蔓延する掲示板、それらを後押しする陰謀論、そして何よりも、誤った被害者意識によって、長い年月をかけて根拠のない妄想が暴力的に肥大化した結果だ。

 今回の大統領選挙は、自分たちの救世主である〈米国を再び偉大な国に(Make America Great Again:MAGA)〉を掲げるリーダーを失脚させるための陰謀だった、という考えに毒された暴徒たちは、選挙の結果を覆さなければという強迫観念に駆られた。

 彼らの試みの本当の狙いは、ジョー・バイデンの選挙人投票での勝利を阻むことだったはずだが、彼らはネット上では何食わぬ顔で自分たちに非がないことを強調していた。なんとも暴力的で、それと同じくらいバカげた論理だ。

 顔にペイントを施し、バイキングの兜をかぶった半裸のQアノン支持者が、メガホンを手に議事堂のホールをうろつく。その数ブロック先では、2個のパイプ爆弾が発見された。暴徒たちが議事堂の壁をよじ登り、ドアを蹴破るなか、建物は封鎖状態に置かれた。

 なかには当日の日付とともに、2016年のマーベル映画のロゴを模した〈MAGA CIVIL WAR〉という文字入りのカスタムTシャツを着たメンバーもいた。この襲撃は周到に準備され、その上で実行に移されたことは、疑いようがない。

 〈Black Lives Matter Toronto〉の共同ファウンダーで、人種間の平等を求める団体〈Color of Change〉のプログラムディレクターを務めるジャナヤ・カーンは、この事件が生中継されるなか、メディアのおざなりで混乱した報道を目の当たりにしながら、携帯電話から目が離せなかったという。

 i-Dは議事堂襲撃事件当日にジャナヤとタミカへのインタビューを敢行。ふたりの対話は、希望を持ち続けること、自由のために結束することの大切さから、白人至上主義のおぞましさ、決して妥協してはならないという固い決意まで、多岐にわたった。

 ジャナヤ:今もまだ混乱してる。本当に目を疑うようなことが起きてる。もしムスリムが、アフリカ系の人びとが、ネイティブアメリカンが同じことをしていたら? 警察は無差別に攻撃したはず。本当に信じられない。私たちは対話をするべきなのに、こんなことになるなんて。何が普通なの? 今の時代の普通って何?

 タミカ:今も連絡がひっきりなしに入ってきていて、後ろで電話が鳴りっぱなし。ふたりの友人──あるひとのお父さんと別のひと──が議事堂のオフィスに閉じ込められていて、外に出られないの。ものすごく危険な状況。

 ジャナヤ:もしそれがあなたか私だったら、死んでいたかもしれない。それでも「仕方がなかった」といわれるんだろうけど。

 タミカ:建物に閉じ込められていて、オフィスにバリケードをつくった友達もいる。どうしたら外に出られるかもわからないみたい。

 ジャナヤ:本当に邪悪。今目の当たりにしているのは、まぎれもない悪だと思う。友達のために祈ってる。なんとかして外に出してあげないと。

 タミカ:(議会警察に)殺されていたかもしれない。殺されてもおかしくない。撃たれたかもしれない。警察はルイビルとケンタッキーでも、何もしていない私たちを地面に引き倒した。ただ歩いていただけで。私たちは絶対に逃げられない。白人なら何でも好き放題できる、ということを繰り返し思い知らされるだけ。

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ジャナヤ:本当にそう! 彼らにできないことなんてない。議事堂の占拠も、催涙ガスを吹きつけることも。議事堂の中を進んでいく途中で警察と暴力的、身体的な衝突が起きるはずなのに、彼らは何もされてない。文字通り何もね。彼らはただ、もっと多くの味方を中に引き入れただけ。しかも現職の副大統領が建物内にいたのに。現職の副大統領が!

 タミカ:しかも大統領自身が「私たちの国を取り戻すために実力を行使する」なんて発言している。「弱気になってはいけない」ともね。これって一体どういう意味? 私たちの命が危険に晒されているのに。

 ジェイコブ・ブレイクを殺害した警官の不起訴が決まった翌日に、こんなことになるなんて。彼らには私たちを殺すのをやめる理由なんてない。どうして現代でこんな行為が許されているの? それは誰も彼らを罪に問わないから。

 ジャナヤ:本当にその通り。自分たちにはこんな可能性がある、ということを人びとに見せるのが自分の責任だってことはわかってる。それがオーガナイザーの仕事。物事を変え、みんなの生活を守るにはこんな段階を踏む必要がある、と示すことがね。

 今回みたいな事件があったとき、暴力とか憎悪とか白人至上主義とか、そういうものが日常化していると、こういう活動はほぼできなくなる。これは本当に根深い問題だと思う。〈オーバートンの窓(※多くの人に受け入れられる政治思想は窓のように限定されているとする考え)〉はずっと右寄りにシフトしてきたから、こういう仕事を続けるのはさらに難しくなっている。

 私たちが勝利するたびに、右へと傾く力が働いてきた。しかも、然るべき方法でこの問題について話し合ってるのは自分たちだけ。今ニュースメディアの報道を聞いているんだけど、彼らはこの問題の報道の仕方をまったくわかってない。いまだにこれをただの〈抗議〉と呼んでいるし。

 タミカ:もうひとつとても危険なのは、私たちのコミュニティにも、自分たちへの弾圧に対処するには、同じ方法でやり返すべきだと思っている人がいるということ。

 常に中立的な立場から「こんなのは正しいやり方じゃない」と説得し、彼らが怒りを爆発させても、何事もなかったように振る舞う人にならなきゃいけない。何度も何度もみんなのところに行き、死んでも沈黙を貫けと言い聞かせるなんて、そんなことができると思う? もちろん私たちが何も発言してないという意味じゃなくて、沈黙させられている気がする、ということだけど。

 トランプ後の米国は、完全に変わってしまった。誰にも死んでほしくないけど、今日はひとりも死者が出ないというわけにはいかなかった。私の携帯には「殺されていたのは私たちだったかもしれない」というメッセージが殺到してる。

 ジャナヤ:本当にその通りだと思う。私たちは、自分たちがこの国から受けた仕打ちを、他の誰かに受けさせるよう要求したことは一度もない。人間の思考に不足しがちなのは、「これが自分に起きる可能性だってある」という考え。いや、その偽善的な側面について考えることかな。そういう偽善のおぞましさや無神経さ、この国でアフリカ系の人びとが受けてきた扱いの残酷さも。

 ちょうどジョージアのこと(訳注:上院議員選挙の決選投票)が終わったばかりなのに。ふたつの闘いの決着がついて、私たちは議席を奪還した。全力で私たちを黙らせ、抑圧し、権利を剥奪しようとする動きに対抗し、アフリカ系の票を動かした。これこそが民主主義だ、なんていわれているけれど、今まで私たちが何かを求め、闘うたびに、多くの白人の反発に遭ってきた。アフリカ系の人びとにとっては最悪の現実だった。

 今回の件を何と呼ぶべきかわからないけど、呼び名がなければ立ち向かうこともできない。

 タミカ:テレビでは何とも報道されてないよね。Fox Newsも彼らが悪党だとはいってない。

 ジャナヤ:今、ナンシー・ペロシが州兵を呼んだみたい。アフリカ系の人びとなら、集まっただけですぐに派遣されるのに。

 タミカ:集会の前にね! もし私たちが同じような敵意に満ちたメッセージを持ってワシントンに向かうと宣言したら、州兵が事前に派遣され、あらゆる建物を警備していたはず。それなのに、彼らはこの暴徒たちに議事堂の中を走り回らせてる。私たちだったら、中に入ることすら叶わなかったでしょうね。

ジャナヤ:これこそ直球のファシズムだよ。今話し合ったことを踏まえて、(この事件を)そう呼ぶことにしたい。ここで重要なのは、保守主義という概念はもはや機能していないということ。保守主義なんてものは存在しない。緊縮財政や右寄りの政治というものは、共和党や右派の隠れみのにすぎない。こういうまやかしに過ぎない考え方を利用してきたのは、中道派や進歩主義者だった。

 本当の意味での保守主義は、もはや存在しない。たとえそんなものが存在するとしても——そもそもそんな議論に興味もないけれど——あまりにも右に傾き過ぎている。意見の対立を生み出してきたのはレイシズムでもなければ、アフリカ系の殺人でも、社会的支援や資源が尽きたことでも、ハリケーン・カトリーナのような国家レベルの危機でもなかった。その原因は、どんどん右傾化していく人たち。民主党も例外じゃない。

 これが自分が今いちばん懸念していること。そういう人たちの正体が徐々に明らかになってきた。共和党、ミッチ・マコネル、テッド・クルーズ、マイク・ペンス、トランプ、その信奉者たち……。

 タミカ:リンゼー・グラムやチャック・シューマーもね。

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ジャナヤ:これらのいわゆる〈急進派〉と中道派、民主党上層部はみんなそう。当選したあと、バイデン政権が最初にしたのは、これから党派を超えて手を取り合う、と宣言することだった。あなたを当選させたアフリカ系よりも、あの偏屈者たちと手を組むほうが心地いいの?と訊きたい。アフリカ系よりも偏屈な人たちのほうが共感できるの?って。

 本当にそんな人たちと協力したいと思う? ジョー・バイデンはテレビに出て、「彼らは我々の敵じゃない」と発言してたけど、本当に? 議事堂に閉じ込められた友達は、彼らを仲間とは思えないいに決まってる。

 ちょっとこのあと何ができるか話し合わなきゃだから、もう抜けるね。今度DMするから、また話そう。ごめんね。

 事件当日、トランプ氏はまるで子どもを寝かしつけるかのように、支持者の暴徒たちにこう呼びかけた。「家に帰りなさい。皆さんを愛している。あなたがたはとても特別な存在だ」大混乱の数時間後、彼は不本意そうな様子でTwitterの動画を通して声明を発表、「あの人たちの思うつぼになってはいけない」と同日の集会で、自ら支持者を扇動したことが嘘だったかのように語りかけた。「家に帰ろう。安全に家に帰ってほしい」

 その場しのぎで無意味なこの呼びかけは、トラウマを抱えた議事堂職員にとって何の慰めにもならないどころか、この襲撃が、かつて事あるごとに利己的で頑なな本性を露呈してきた人びとによる不名誉な見世物に他ならないことを、彼らに理解させることもできなかった。

 「米国は、私たちが今目にしているものよりもずっと良い国だ」とジョー・バイデン大統領は襲撃事件の後に述べた。しかし、米国が奴隷労働の上に成り立っているわけではなくても、経済格差と大量投獄によって国を維持することを良しとするような論調に迎合することは、結束の名の下にはもはや許されない。タミカやジャナヤのような人びとは、何年も前からそのことを理解していた。民主党員が耳を傾けるのは、あまりにも遅すぎたのだ。

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Credits


Photography Mario Sorrenti
Styling Alastair McKimm

Hair Johnnie Sapong for Leonor Greyl at Salon Benjamin.
Make-up Aaron de Mey at Art Partner.
Nail technician Marisa Carmichael at Forward Artists.
Set design Philipp Haemmerle.
Lighting technician Lars Beaulieu.
Photography assistance Javier Villegas and Robb Epifano.
Digital technician Chad Meyer.
Styling assistance Madison Matusich and Milton Dixon III.
Make-up assistance Tayler Treadwell.
Production 138 Productions.
Tailors Martin Keehn and Keke Cheng.
Model Janaya Future Khan.
Special thanks to Calvin Klein.

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