新時代の到来:Chanel 2020春夏 コレクション
ヴィルジニー・ヴィアールがココ・シャネル的、カール・ラガーフェルド的なクラシックデザインに、若さみなぎる新鮮なセンスを取り入れ、パリの屋上を舞台に提示した最新コレクション。

Chanelの2020年春夏コレクションショーの舞台はパリのトタン屋根の上だった(Chanelという敬愛すべきファッションブランドの限界は、いつだって空をも超えてゆく)。ヴィルジニー・ヴィアールが手がけたコレクションの根底にあったのは、気軽さと実用性。新鮮な若さがみなぎるChanelのクラシック・ワードローブが数多く登場した(ショーのフィナーレにはユーチューバーが乱入したが、隣にいたジジ・ハディッドは平然としたまま、堂々たる歩きぶりをみせ、そのハプニングさえもショーにふさわしいとさえ思えた)。
カール・ラガーフェルドは新奇なアクセサリーやキッチュなメイクアップを厳しく批判したが、本コレクションで登場したモデルたちもナチュラルメイクで、無造作な髪型にシンプルなスタイリング。ココ・シャネルの金言「優雅さとは拒絶すること」と共鳴するがごとく、余計なものをまとっていなかった。
カールがこの世を去り、彼のあとを継いだヴィルジニー・ヴィアール。彼女がはっきりと打ち出したChanelのヴィジョンとは、あらゆる年齢の女性たちのためのホーム。Chanelのアイテムを何度も着たいと望み(どのコレクションのアイテムだ、とすぐにわかってしまうのではなく)、そのアイテムをまとって動き回り、踊り回る女性たちだ。
「パリの屋上は、ヌーヴェルヴァーグの雰囲気を想起させる」とヴィルジニーはステートメントで述べている。「私が見たのは屋上の上を歩くシルエット。私がイメージしたのはジーン・セバーグを演じるクリステン・スチュワート、そして当時、ガブリエル・シャネルの服をまとっていたすべての女優たち」。コレクションのなかでもとりわけ力強い、ビートニクにインスパイアされたオールブラックのアンサンブルをみれば、その言葉にも納得できる。ジーン・セバーグや、『パリの恋人』のワンシーンで、モンマルトルのカフェで真っ黒の服に身を包み軽やかに踊るオードリー・ヘップバーンをも思い出させるルックだ。
エッジに赤色のロープ風の装飾が施されたショート丈のレザージャケットに、ホワイトのTシャツをチューリップシェイプのタフタスカートにタックインしたルックも実に魅力的。ハイウエストジーンズにタックインしたボーダーシャツ(いかにもセーヌ左岸的だ)、ブラックタイツとチェーンベルトに合わせ、長袖ブラウスと着こなすすっきりしたブルマ型のショートパンツも登場。クリステン(ジーン・セバーグを演じる彼女ではなく、彼女本人)が着用する姿も想像できる。
さらにヴィルジニーは、因習を打破するココ・シャネル、あるいはカール・ラガーフェルドの主義をしっかり受け継いだ。その哲学は、Chanelブランドの素材にも染み込んでいる。ツイードスーツは丈が長めになり、肩は少々広め。スカートは若々しさを強調するようにふわっと広がっている。キルテッドバッグはトップハンドルがついた四角いデザイン。ツートーンのパンプスは肌を多く見せ、アンクルストラップとポインテッドトゥが特徴的だ。
時折、〈シャネルツイード〉とは趣を異にしたクラシックなルックも登場した。タフタできちんと感のある1965年風ルックに仕上げていたり、エッジにシルバーのブレイドが施されたシンプルなブラックジャケットとプリーツ入りのパフボールスカートを合わせたり。シックでシンプルで、時代を問わずに着用できるアイテムだ。ランウェイを歩くモデルを見ていると、ヴィルジニーが自分のChanelのヴィジョンの本質を削り出し、自分のアイテムが独立してストリートで着られることを考えたであろうことは明白だ。
イブニングウェアにも、大量の羽やスパンコールではなく羽のように軽く透ける、ブラックのオーガンザを使用し、落ち着いたスタイルに。何年先でも色褪せない、シンプルなコレクションに仕上げていた。


















Credits
Photography Mitchell Sams
This article originally appeared on i-D UK.