花ってのは咲くんだよ 荒れ地にも:Lick-G interview

19歳にして『フリースタイルダンジョン』で番組史上2度目となる「制覇」を果たすも、その直後にバトルからの引退を宣言したラッパー、Lick-G。現在20歳となった彼はどこへ向かうのか。

by MAKOTO KIKUCHI
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03 June 2019, 9:00am

『BAZOOKA!!! 第9回高校生RAP選手権』で当時16歳ながら、他の参加者とは一線を画すスタイルで大きな話題を呼んだラッパー・Lick-G。その2年後、人気ラップバトル番組『フリースタイルダンジョン』で番組史上2人目となる全ステージ「制覇」を達成し、多くのラップバトルファンを震撼させるも、直後にラップバトルからの引退を宣言、自身のレーベル〈Zenknow〉を立ち上げた。現在は音源制作を中心として活動する。今年1月には、YouTube Japanが注目する2019年にブレイクが期待されるアーティストを紹介する「Artists to Watch」に選出されている。今回i-Dは、飛躍をつづける彼にインタビューを敢行した。

〈ああ種よそんなとこで咲かないで/これは逆撫でなんかじゃない〉これはラッパー・Lick-Gが高校1年生のときにリリースした楽曲「Karasu」のフック(サビ)である。なんて耳に心地いい音楽なのだろうと酔いしれていると、次に〈ああ友よまだ追うか儚い夢/ここは墓場なんかじゃない〉と続く。そして気付けば同じこの曲をずっと無限ループで聴き続けていた。

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Halloween by Lick-G / music video clip

Lick-Gが世に広く知られる契機となったのは、彼が2016年に出場した『BAZOOKA!!! 第9回高校生RAP選手権』だ。当時16歳という驚きの若さもさることながら、他の参加者とは一線を画す独特なフロー、天才的とも言える韻の踏み方に会場がどよめいた。誰しもが新たなスターの誕生を予感したその時から2年、19歳になったLick-Gは『フリースタイルダンジョン』に出場、呂布カルマや輪入道などの実力派ラッパーたちを次々と負かし、史上二人目の全ステージ「制覇」を果たした。そんな彼が、当時所属していたレーベルを離れ、独自でレーベル〈Zenknow〉を立ち上げたと明かしたのは去年の夏の出来事だった。バトルを引退し、音源づくりに専念すると言うのだ。「レーベルの立ち上げに関しては、前々から計画していたことでした。自分のスタイル的にどうしても合わなかったんです。自分がやりたいと思うことをやる、それを優先したかった。今はインターネットがあるので、配信にしろ何にしろ、自分でなんでもできちゃうんですよね。メディアだって、レーベルに入っていなくても、いいものを作っていれば見つけてくれる。もう、平成じゃないんで」。

Lick-Gは1999年生まれ。いわゆるジェネレーションZだ。パソコンを使い始めたのは「幼稚園のとき」、ヒップホップの出会いを聞くと「中1のときにYoutubeを見ていたら関連動画に出てきたから」と答える。豊富な語彙から巧みに繰り出されるリリックは、相当な読書家であることを予想させるが、「本は全然読まないんですよ」と笑う。「よく読書家だと思われるんですけど、最近になってちょっと読み始めたくらいで。語彙力に関しては、小さい頃からインターネットでニュースサイトとかいろいろ面白いのをあさっているうちに勝手に身に付いたんじゃないかな」。

彼のインスタグラムに投稿された動画では、幼いLick-GがCDの試聴コーナーでヘッドフォンをつけてリズムに乗っている。動画に映るCDデッキにはKREVAと書いてあるポップが見えるが、そのころからヒップホップを聴いていたのだろうか? 「これは小学校2年生とか3年生とか、そのくらいのとき。そのデッキにもケツメイシとか書いてあるし、違うの聴いていたんだと思います」幼少期に聴いていた音楽は「あんまり覚えてないけど、父親が家でかける曲はJ-POPとかじゃなかった」Lick-Gの父は、知る人ぞ知る80年代ジャパニーズ・エレクトロ・ミュージシャン、Hoodoo Fushimi。今だに一部でカルト的な人気を誇る音楽家だ。「父に何か特定の音楽を聴かされていたわけではないですが、潜在的にというか、自然に聴く耳が養われていたのかもしれません」。

Lick-Gの持つ最大の強みはその音楽の幅の広さであるが、とりわけラブソングに定評がある。ファンの間で特に高い支持を集めているのが、2016年にリリースされた「We Stay High」。ダウナー系のサウンドが心地よいのもさることながら、等身大でリアルな歌詞が共感を呼ぶ。〈お前以外の女とpop corn/食っても全くうまくもねえよ〉〈授業をサボって電車に乗って/向かう場所は家の逆方面〉本人を前にして思わず出てきた感想は“めっちゃいい”。我ながらなんて貧相な表現なんだろうと呆れるが、実際そうなのだから仕方が無い。女子目線でキュンとくるんです、と伝えると「それ、めっちゃ嬉しいです」と笑顔を見せた。「ラブソングを書くには、女性の気持ちを理解することが大切だなと最近思っていて、今すごくそれを研究したいんです」

6月1日にリリースされた最新曲「ハロウィーン」も、ラブソングだった。〈君の髪も乾かしたのに/君は僕に涙を降らした/枕を濡らした/二人が暮らした/部屋には不埒な虚しさしか残んなかった〉切ない恋心を綴った歌詞に、ナンセンスとは分かりながらも、曲の真意を探りたくなってしまう。少し迷ったが、歌詞が実体験に基づいているのか、思い切って聞いてみた。「そこはまあ、ご想像にお任せします」といたずらっぽくこちらを見る彼に、ジャーナリズム魂はどこへやら、押し黙ってしまう。

Lick-Gはイギリス人の母を持つ、バイリンガルだ。「イギリスに住んだことはないけれど、母の里帰りについて行くことがちょくちょくありました。家のなかでは基本的に日本語を使っていますが、単語レベルで英語が混ざることは多いです」そんなLick-Gは過去に、全編英語詞の楽曲もリリースしている。なかでも「Deep Flavor」は4月29日にリリースされてからわずか数日で海外メディアにとりあげられるなど、国外からも注目を集めている楽曲だ。「最近すごく思っているんですけど、自分が自分らしく生きていける方法みたいなことを曲にして、自分よりも下の世代、ティーンの子達に伝えることが必要だなと。「Deep Flavor」はその第一歩みたいな曲になっています」リリックのなかに〈All they see's price tag, see me as a product(対訳:奴らが見るのは値札だけ 俺を商品として見るんだ)〉という箇所がある。「音楽業界じゃなくても、若者を利用しようとする人達はいっぱいいる。そういう話をよく聞くし、実際見てきたので」。

ポリティカル・コレクトネスが声高に叫ばれる今の時代、ヒップホップ音楽が及ぼし兼ねない若者への“悪影響”について昨今活発な議論がなされているのは事実だ。「ラップの歌詞をファンタジーとして捉えるべきかどうかっていうのは、よく話されている問題です。オーバードーズで病院搬送された子たちが聞いている音楽がヒップホップだったっていうのが、アメリカで話題になっているらしいですし。フィクション映画で起きていることを真に受ける人はいないけれど、歌詞ってなるとリアルに捉える人も多い。だからやっぱり言葉はある程度選ばなきゃいけないとは思うけれど、フィクションの面白さみたいなものは絶対あるし……。でも、自分の歌はキッズたちが聞いてくれているので、間違ったことは言いたくないですね、今は特に」。

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Halloween by Lick-G / music video clip

現在20歳のLick-Gは、年齢によるラベリングに対して常に鬱陶しさを感じてきた。「もちろん“若い”っていうのは武器だとは思うんですけど、それ以前にまず“聴いてもらえる”音楽を作るのが前提じゃないですか」音楽業界、ひいてはエンタメ業界にはびこる“若さ”の消費もそうであるが、それ以外にLick-Gはガラパゴス化した縦社会の風潮にも違和感を覚えていると言う。「そういう上下関係って業界関係なく、普遍的にどこでもあるものだと思うんですけど、そこから逃れるためには自分から抜けていかないといけない。国をあげて国際化とかグローバルだなんだって言っているなかで、見た目だけがそれっぽくなってきているだけで、そういうところはそのまま残っていて。なんかズレちゃってると思うんですよ。それを壊すためには、誰かがどんどん抜けていかなきゃいけない。同じところに居続けると、気付いたらその人が今度は上の世代になって、また同じことが続いてしまうから」そう話す口調はハキハキとしていて、頼もしい。〈花ってのは咲くんだよ荒れ地にも〉冒頭で述べた楽曲「Karasu」の歌詞が脳裏をよぎる。彼であれば、荒れ地にだって大輪の花を咲かせることができるのだろう。インタビューの最後に、5年前の自分にアドバイスをするなら? と問いかけてみた。i-Dでおなじみのこの質問に対しなんと答えるのだろうと思っていると、即座に答えが返ってきた。「ないですね。そのままでいい」。

Credit


Text Makoto Kikuchi