私だけの色を纏って :CHANEL グローバル クリエイティブ メイクアップ&カラー デザイナー、ルチア・ピカ interview

「メイクはあなたのユニフォーム。したいようにメイクしてほしい」CHANELのグローバル クリエイティブ メイクアップ&カラー デザイナーのルチア・ピカはそう語る。

by Shannon Peter; photos by Oliver Hadlee Pearch; translated by Ai Nakayama
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04 June 2019, 10:15am

ルチア・ピカは幼い頃からメイクに興味を抱いていた。母親の口紅にまつわる思い出が、幼年時代の大切な記憶として残っている。メイクアップアーティストという夢へと彼女を駆り立てたのは、その生まれもった色彩への情熱だった。それも当然だろう。ルチアの生まれはイタリア、ナポリ。鮮やかなビタミンカラーの景色で名高い街だ。

ルチアは22歳でロンドンへ移住し、まず舞台メイクを学ぶ。伝説的なメイクアップアーティスト、シャーロット・ティルベリーの助手として3年間研鑽を積んだのち、フリーランスに転身。まもなくしてルチアは、i-D、『LOVE』、仏/英/米版『Vogue』でメイクアップを担当するようになり、輝かしいキャリアを積んでいく。編集者やカメラマンたちも、彼女の大胆な色使いや、大衆的かつ自信をもたせてくれるようなメイクに夢中になった。彼女の手にかかれば、どんなに派手な色でも顔の一部として自然に馴染んでしまう。その卓越したメイク技術は言及するまでもない。しかしルチア・ピカは、何よりもまず、考える人だ。ショーでも、エディトリアルでも、広告でも、ルチアはその瞬間のムードを切り取るすべを見いだし、現代の政治、社会、経済情勢と相関するメイクを提示する。哲学者のような冷徹なまなざしと、詩人のような温かみをもってメイクに取り組む彼女は、現代を代表するイメージメーカーとして名高い。

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JANET WEARS LES BEIGES ‘EAU DE TEINT’. PALETTE ESSENTIELLE. CRAYON SOURCILS 40 ‘BRUN CENDRÉ’. LES 4 OMBRE 328 ‘BLURRY MAUVE’ (CRUISE 2019 COLLECTION, VISION D’ASIE : LUMIÈRE ET CONTRASTE). JOUES CONTRASTE 64 ‘PINK EXPLOSION’. DUO BRONZE ET LUMIERE ‘CLAIR OF LUMIÈRE’. ROUGE ALLURE VELVET 68 ‘EMOTIVE’. TOP STYLIST’S OWN. PENDANT TOP ATTACHED TO EARRING AND BELT WORN AS CHOKER CHANEL. EARRING AND BROOCHES GEORGIA KEMBALL.

そんな彼女が2014年、CHANELのグローバル クリエイティブ メイクアップ&カラーデザイナーに抜擢されたのは当然だった。むしろ、まさに彼女にふさわしいポストといえる。幼い頃からの色彩への愛を、自分らしさへと昇華した彼女の手がけるメイクアップコレクションは、現代の消費者たちの想像力を刺激するだけでなく、彼らに挑戦する。インスピレーションを求めて世界中を旅するルチアは、そこから得た慣習に縛られない色、たとえば赤錆のようなレッド、古いデニムのようなブルー、目の覚めるようなカナリーイエローなどを商品に取り入れている。そしてそれらのアイテムは世界中で使用され、完売続出の人気アイテムとなっている。

彼女の一言一句には誰もが注目しているが、ルチアはメイクを〈べき論〉では語らない。彼女にとってメイクはユニフォームであり、世界に向けて、自分独自のキャラクターを発信するために使われるもの。今回のシューティングは、この考え方から着想を得た。彼女が描く美容の未来とは。そして彼女のキャリアに刺激を与え続けてくれているヒーローとは。

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CAROLINA WEARS LES BEIGES ‘EAU DE TEINT’. PALETTE ESSENTIELLE. STYLO YEUX WATERPROOF 88 ‘NOIR INTENSE’. LES 4 OMBRES 322 ‘BLURRY GREY’ (2019AW COLLECTION, NOIR ET BLANC DE CHANEL). STYLO YEUX WATERPROOF 928 ‘EROS’. JACKET AND PENDANT TOP ATTACHED TO PIN CHANEL. PIN GEORGIA KEMBALL.

——ここ数年でメイクというものはどう変化してきましたか?

YouTubeやInstagramをはじめとするSNSが、メイクへのアプローチをガラッと変えました。今は、ネットで検索すれば本当にたくさんの情報が手に入る。以前よりもみんながメイクの力に気づくようになっている、という意味では良いことです。ただ、私にとって大事なのは人それぞれの個性だけど、今は均質化が進んでいるように思います。みんながみんな同じことをしなきゃいけない、誰しもが目指すべきたったひとつの理想の姿に近づかなきゃいけない、そういう空気が蔓延しているような気がするんです。私はみんなに、自分が望むようにメイクできる自由を与えたい。メイクをする理由は自分のキャラクターをつくるため、強くなるため、優しくなるため、あるいは単純にメイクで遊ぶためでもかまいません。自分の感覚を高めたり、変えてくれるのがメイク。それこそがメイクというツールの、強力でポジティブな効果です。

——今回のシューティングのテーマは〈ユニフォームとしてのメイク〉でした。この考え方について、詳しく教えてください。

自分という人間を世界に向けてどう提示するか。それが私にとっての〈ユニフォーム〉です。服もアクセサリーも、自己表現のツールとして使うと思いますが、メイクも同じ。パワーがある。メイクは大衆のものであるべきです。今回の企画でも、メイクは自分のスタイルやユニフォームをつくるための道具なんだ、と伝えたいと思っていました。インターネットで目にする美の基準に縛られる必要はないし、鼻筋の通った鼻に仕上げなきゃいけないわけでもない。コントゥアリングやハイライトだって、別にしなくていいんです。いろんな遊びかたがありますから。自分のユニフォームはすっぴんだ、という人はそのままでいい。モノクロのルックにブルーの差し色を3ヵ所入れるのも素敵だし。

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KEROLYN WEARS LES BEIGES ‘EAU DE TEINT’. PALETTE ESSENTIELLE. OMBRE PREMIERE 54 ‘NUAGE BLEU’. TOP STYLIST’S OWN.

——美容業界で、変化が必要だと思うところはありますか?

どうしてもいやなことがあるんです。それは、みんなが同じような見た目にしなくちゃいけないっていう考え方。人びとの不安をかきたてていますよね。みんなそれぞれに美しさや個性がある。それを大切にしていいんです。もちろん、メイクは最小限にすべき、と言いたいわけではありません。自信になるのであれば、そして誰かが決めたイメージになることが動機でなければ、ばっちりメイクをしてもいいんです。

——では、大切なのは美容業界において私たちが使っている言葉を変えていくこと?

そのとおりです。〈コンプレックス〉なんて呼ぶ必要はないし、〈欠点〉なんてなおさら。シミが悪者扱いされているのもおかしい。私には生まれつきのアザがあるけど、だから何?って感じですね。ずっと隠してないといけないなんていやだし、私自身は気に入ってる。そういうのってみんなにあるはず。それが一人ひとりの個性なんです。

——そういう考えは、あなたのメイクにどう反映されていますか?

私にとってメイクは、自らの美しさを高めること。朝起きたら気分が悪くて、目の下のクマがいつもよりひどい日ってありますよね。もちろんクマはカバーして隠せますけど、他のパーツを目立たせてクマの存在感を薄めることもできる。コンシーラーを使ってもいいけど、塗りたくって体裁を整えるのもな、というときは、クマを隠すんじゃなくて、赤いチークを頰の高い位置に乗せて、頰を目立たせるんです。あるいは、ハイライトバームを使って健康的なツヤ肌に仕上げるとか。私はそうやって、メイクが自分の一部になるのが嬉しいんです。だから私は、自分とぶつかり合うようなアイテムじゃなくて、自分の味方になってくれるアイテムをつくっています。最近は、ハイライト効果がある粒子を含ませたバームを手がけました。なじませることで、自分の肌の一部になってくれます。気分を上げてくれると同時に、自分らしさを実現してくれるアイテムがいいですね。私は、メイクをして別人になるとは思ってません。ずっと同じ私。もちろん、メイクをした私はよりグラマラスになってたり、より輝いているかもしれないけど、それも私ですから。別バージョンの私というか。

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——CHANELはあなたのヴィジョンを受け入れてくれました?

もともとCHANELは、すごく女性の味方をしてくれるブランドですよね。CHANEL的な女性像って、しっかり自信をもっているイメージ。それに、クリエイティビティも卓越したブランドです。CHANELチームは、私自身や私のアイデアをいつも尊重してくれます。

——あなたの手がけたアイテムは日本でもすごく人気で、売り切れが続出しています。あなたのアイテムのどういった点が日本人に響いていると思いますか?

日本におけるメイクへのアプローチって、とても繊細ですよね。私も色や質感で遊ぶのが好きですが、日本のみなさんも色や質感にこだわっている。だからこそメイクがアートとして捉えられているのかも。日本人はメイクに長い時間をかけ、さまざまなステップを踏みながら、美しくエレガントに仕上げています。日本、特に渋谷や原宿には独特のサブカルチャーもありますし。日本のみなさんは意外性のあるメイクも好きですよね。いろんなスタイルを融合してる。

——アイテムの使いやすさについては、どれくらい重要視していますか?

私はこれまで、マドモアゼル・シャネルと、彼女の美意識にインスパイアされてきました。彼女は女性の服装に革命を起こし、女性が日々を過ごしやすくなるような、実用的でミニマルなルックを生み出しました。私はそれを、メイクに取り入れたい。だから実用性に関しては、かなり考えています。

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HYANJI WEARS LES BEIGES ‘EAU DE TEINT’. PALETTE ESSENTIELLE. CRAYON SOURCILS 40 ‘BRUN CENDRÉ’. CALLIGRAPHIE DE CHANEL 65 ‘HYPERBLACK’. LES 4 OMBRES 322 ‘BLURRY GREY’ (2019AW COLLECTION, NOIR ET BLANC DE CHANEL). TOP, SKIRT AND SHORTS CHANEL. EARRING ALL BLUES. GLOVES DENTS.

——あなたが手がけるCHANELコレクションの着想源は、いつも世界各地の街です。あなたにいつも刺激を与えてくれる街といえば?

長年住んでるロンドンかな。移住してからいちばん感銘を受けたのは、みんなそれぞれ、いろんな格好をしていること。ロンドンの人たちは、自分の個性を表現するすべを知っている。みんな、自然体で自分らしいんです。人種もそうだし、何もかもが混ざっている からこそこの街はおもしろく、生き生きとしたエネルギーがあるんでしょうね。ロンドンには、止まっている人がいない。みんな絶えず考え、つくり、何かを探している。今の政情がこの街を変えてしまうことがなければいいんだけど。

——行ってみたい国は?

アイスランドに行ったことがないのでかなり興味があります。オーロラをみてみたい。

——今号のテーマは〈ヒーロー〉。あなたの最初のロールモデルを教えてください。

やっぱり母親ですね。慎ましやかで。持ち物は多くなかったけど、母のスタイルはいつも素敵でエレガントでした。出かけるときは絶対にリップスティックをまとって。私も結局、母の背中をみて育ったんでしょうね。

——本に登場するヒーローで好きなのは?

今読んでいるのは、ゴリアルダ・サピエンツァの『The Art of Joy』。近年になって発見されて、本人の死後出版された作品です。主人公はモデスタという名前の女性。彼女が大好きなんです。舞台は20世紀だけど、彼女は確固たる考えをもったフェミニスト。彼女はあらゆる規則を破り、あらゆる障害を乗り越え、自らの夢をかなえていく。彼女の姿をみていると、ガブリエル・シャネルを思い出します。

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LES BEIGES ‘EAU DE TEINT’. PALETTE ESSENTIELLE. CRAYON SOURCILS 40 ‘BRUN CENDRÉ’. BAUME ESSENTIEL ‘TRANSPARENT’. STYLO OMBRE ET CONTOUR 02 ‘BLEU NUIT’. LES 4 OMBRES ‘BLURRY BLUE’ 324 (2019AW COLLECTION, NOIR ET BLANC DE CHANEL). LE VOLUME REVOLUTION DE CHANEL. DUO BRONZE ET LUMIERE ‘MEDIUM’ (CRUISE 2019 COLLECTION, VISION D’ASIE : LUMIÈRE ET CONTRASTE). JACKET WORN OVER SHOULDERS STYLIST’S OWN. JACKET AND EARRINGS WORN AS BROOCHES CHANEL. EARRINGS SLIM BARRETT.

——今、この世界に必要なのはどんなヒーローだと思いますか。

現代に生きる私たちは、共同体意識や思いやりの心を忘れてしまっている。みんな、個人主義という理念に身を捧げてきたんです。かつて個人主義は魅力的で現代的 に見えていた。でも今や、あまりに個人主義が浸透しすぎて、みんな孤立しているように思います。私たちはお互いに助け合い、支え合わないと。ひとりでも生きていけるって言う人が多いけど、実際はどうでしょう。ひとりのヒーローがいたら解決、ではなく、私たちみんなが協力しなきゃいけないのでは。

——もし自分がヒーローだったら、どんな特殊能力がほしいですか?

ヒーローといえば、何か大きな変革をもたらしてくれる人、と思われがちだけど、私は、日々の小さな試練を、落ち着いてエレガントに解決している人たちにも刺激を受けます。大それた勇気じゃなくて、穏やかに日々を過ごすことが大切なときもある。だから私もそういう力がほしいですね。

——あなたを力強くする曲は?

ニック・ケイヴの「Into my Arms」。大好きです。

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SOFIA WEARS LES BEIGES ‘EAU DE TEINT’. PALETTE ESSENTIELLE. LES 9 OMBRES ‘ÉDITION N°2 QUINTESSENCE’ (2019SS COLLECTION, VISION D’ASIE : L’ART DU DÉTAIL). OMBRE PREMIERE 36 ‘DÉSERT ROUGE’. ROUGE ALLURE VELVET 61 ‘LA SECRÈTE’. ROUGE COCO GLOSS 724 ‘BURNT SUGAR’. TOP AND PENDANT TOP ATTACHED TO BRA CHANEL. BRA VINTAGE FROM FOUND AND VISION.

Credits


Make-Up Lucia Pica:CHANEL Global Creative Make-Up & Colour Designer
Photography Oliver Hadlee Pearch
Styling Francesca Burns

HAIR MUSTAFA YANAZ AT ART + COMMERCE.NAIL TECHNICIAN JULIE VILLANOVA AT ARTLIST PARIS.PHOTOGRAPHY ASSISTANCE MICKAEL BAMBI, MITCH STAFFORD AND PABLO FREDA.STYLING ASSISTANCE BIANCA RAGGI AND WINNIE RIELLY.HAIR ASSISTANCE BETH SHANEFELTER AND NASTYA MILYAEVA.MAKE-UP ASSISTANCE ANISSA RENKO AND KANAKO YOSHIDA.NAIL ASSISTANCE SOPHIA.PRODUCTION EMILIE DUMAS AND MARION ZAPHIRATO AT ART PARTNER.CASTING DIRECTOR JULIA LANGE AT ARTISTRY LONDON.MODELS HYUNJI SHIN, JANET JUMBO AND KEROLYN SOARES AT IMG. SOFIA STEINBERG AT FORD MODELS. CAROLINA BURGIN AT ELITE.