ロンドンで活躍する5組の日本人映像作家

白昼夢のような異世界から燃え上がるドラムセット、はたまたリアルでメッセージ性の強い衝撃作まで、ロンドンで勝負する5組の日本人映像作家たちを紹介。

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jul 10 2017, 9:35am

いま映像作家は変革の時代に立たされているのかもしれない。大きくショートフィルム、アニメーション、オーディオ・ビジュアル・パフォーマンスという3つのジャンルに分かれていたが、近年徐々に融合されつつあるのだ。そもそも分類されていたアート界と映像界もその壁は崩れ、互いにアプローチをかけるなど歩み寄ろうとしている。まるで何か新しいムーブメントが生まれる前兆かのように。ロンドンで活躍する日本人フォトグラファーやミュージシャンは知られているが、映像作家はいまだ認知度が低い。しかし、この映像変革期を駆け抜け、世界で勝負するロンドン映像作家たちは存在するのだ。ストーリー性の強いものから映像美、社会派まで、感性を刺激し考えるきっかけを与えてくれる、そんな彼らの世界を覗いてみよう。

NORIKO OKAKU (尾角典子)
存在するもののコラージュ・組み合わせによって、いろんな側面が見えてくる-- そんな多角的なものの見方を探求した作品を生み出す映像作家。英・ダービー州でアーティスト・レジデンス滞在中に制作された『The Interpreter』は、その土地の歴史などをモチーフに、古いエッチングや現地で撮影した写真などの素材をコラージュした22枚のオリジナルタロットカードを軸に話が進む。翻訳者、解釈する人を意味するタイトルのように、タロット同様読む人がどういう人なのか、何を見たいかなど様々な背景により、物語の解釈も違ってくるだろう。「この作品が沢山の人に見られることにより様々な物語が見えてくれば」と語る彼女は、独自の解釈をコンセプトに、コラージュとコラージュの狭間にあり、鑑賞者の頭の中で起こる目に見えないInvisible animationを喚起したいと考えている。あなたにはどんなストーリーとして映るだろうか?

The Interpreter from Animate Projects on Vimeo.

OvO (オボ)
映像作家・尾角典子とドラマー・門奈昭英(Bo Ningen)によるオーディオ・ヴィジュアル・ユニット。即興で物語を組み立てるという作品作りは、ライブパフォーマンスの意味やメッセージ性を追求している。『untitled no.2』は「記憶」に関しての考察だ。オンライン上で見つけた昔のホームビデオを使用したコラージュ映像--そこへ乗せていく自分の記憶を話す声を録音して、コラージュ素材のように切り崩し、また再構築する--こうして別の記憶が出来上がっていく、まさに映像と音のコラージュなのだ。「普遍的な人類の共通する記憶はあるはず。他人の記憶の断片を垣間見ることで、自分の記憶をトリガーし再構築した場合、もしそれが他人の記憶と混ざった自分の記憶でもそれは真価を認めるに価するものではないだろうか。ところで、あなたの見ている記憶は何ですか?」そんなクエスチョンを提示したかった作品である。

OvO - untitled no.2 Trailer from Noriko Okaku on Vimeo.

Adrena Adrena (アドレナ・アドレナ)
英国在住ドラマー兼プロデューサーのE-Da Kazuhisa (ex Boredoms /AOA))とロンドンの映像作家デイジー・ディキンソン(Daisy Dickinson)によるオーディオ・ヴィジュアル・ユニット。ライブパフォーマンスに加え、ショートフィルムやミュージックビデオも手がける中、2016年に実験的ショートフィルム『Man on the Hill』を発表。ウェールズの山中で撮影された本作は、安価で購入したドラムを実際に燃やしており、撮影後急いで消火活動に取り組んだそう。この炎に包まれたドラムは話題を呼び、British Council Filmにフィーチャーされ、London Short Film Festivalなどのカルト部門にもノミネートされた。「自然界で最も強力な力である火と水は、視覚的にも予測不可能かつ、絶えず動いて変化していく。原始的かつ儀式的楽器であるドラムの音と映像を通して、鑑賞者が現実逃避できることを願っている」--まさに彼らの思惑通り。さあ、4分22秒の白昼夢を楽しもう。

Man on the hill (2016) from Daisy Dickinson on Vimeo.

TAICHI KIMURA (木村太一)
海外だけでなく、東京のアンダーグラウンドシーンでも注目を集める若手映像監督。彼のインスピレーションの源泉は、人の"心の闇"や、それを映し出すネガティブなサブジェクト。ミュージックビデオやコマーシャル上ではそのような描写が難しい分、オリジナル作品には、その闇の中で光を見つける人間などを映し出そうとする思いが色濃く映し出される。アニメ、コスプレ、ゲームなど表面的なイメージに囚われた、西洋の東京に対する固定観念を変えるべくして制作されたのが『Lost Youth』。実際に起こった出来事・事件に基づき、今まで描写されていなかった本当の東京の裏社会を、監督独自の視点で描く新感覚ショートフィルムだ。「日本人映像作家は綺麗なものばかり見せて、臭いものには蓋をしがち。色々なリスクを負ってこそ、見れる次の世界があると信じている。次のステップにつなげるべく様々な意味でリスクを負った作品」と語る彼の言葉から察するように、思い入れが強い意欲作かつ、鑑賞者も映し出されるあまりにリアルでタブーな光景に目を奪われるであろう。

Boiler Room x Taichi Kimura Presents: Lost Youth

TAMAO NARUKAWA (生川珠央)
半径3m以内で起こった出来事を丁寧に掬いあげ、それを咀嚼し映像に介す、ロンドン大学現役生アーティスト。「集められた事実の断片は、この手でフィクションへと形を変え、虚構の影が付きまとう事実は真実を見えるようにさせる発見的装置なのかもしれない。わたしたちの中にある言語を超えた、いまだ言葉にならない感情や動きを視覚化し、映像に起こすことを目指している」。そう語る彼女がイギリス生活を送る中、文化の基準や背景に興味を持ち制作された『The Ballad of You and Yours.』。2016年のUS選挙や英EU離脱選挙に見られる世界的な文化差別化の傾向から個々の「違い」を意識し始めた私たち全員に、本作は問いかける。「文化は血で作られるのか。国名なのか、家族、教育、言語、友人、土地からなのか。一体何がわたしとあなたを隔てる境界線になるのか」--これらの疑問を視覚化させるべく、冷静なAI (人工知能) 同士の会話を軸に展開される実験的映像なのだ。

The Ballad of You and Yours. (2017) from tn on Vimeo.

Credits


Text Yukiko Yamane