A-COLD-WALL* が伝えるUKストリートの現在

Off-Whiteのヴァージル・アブローのアシスタントを経て、現在同ブランドのコンサルタントを務めるサミュエル・ロスにより、1年半前に立ち上げられたA-COLD-WALL*。日本でアメリカンブランドの人気が絶頂を迎えている今、最高にキャッチーなサブタイトルで突如シーンに現れた彼の正体は、マルチプラットフォームでUKのリアルを伝える、新世代のストーリーテラーといえるかもしれない。

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jun 16 2016, 8:55am

先日、セレクトショップmonkey time原宿店とGR8で同時開催されたジャパンローンチを無事終え、日本でバースデーも迎えた弱冠25歳のデザイナー、サミュエル・ロス(Samuel Ross)。今回の日本初進出について、そしてACW*と彼自身の謎について話を聞いた。

今回、初の来日を決めた理由は何だったのでしょうか?
今シーズンが日本で初めての展開だったから、ブランドの世界観が日本のマーケットに完全に理解され、その世界に浸ってもらえるようなローンチにしたかったんだ。そしてそれを、自分で直接作り上げたかったからだね。

ローンチは、monkey timeGR8という原宿の2つのショップで同時に行われましたが、そのアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
まず、日本で独占的な取扱店となる両ショップのマーケットを完全に隔てるのではなく、何らかの形でコネクトさせたいと考えたんだ。そこで、monkey timeではアート的視点での表現に適しているからインスタレーションを、GR8ではレセプションイベントを行ったんだ。カルチャーを色濃く反映させたパワーハウスで、ブランドのワーキングクラス的要素を映し出すために、フィルムとプレイリストを使った視覚的、聴覚的経験といった側面を色濃く出したイベントになったと思うね。

イベントのプレイリストではSkeptaなどグライムのようなポップな音が中心でしたが、ノベルティとして用意されたCDに収められていたのは、ノイズやエクペリメンタルな音でした。CDケースの厚さなどのプレゼンテーションにも細かくこだわっていたとお聞きし、ACW*にとって非常に重要なものであると感じました。
イベントでは、今のロンドンのエナジーを純粋に楽しみやすい方法で届けたかったんだ。一方、CDでは僕自身が製作したアートな音で、コレクションのレファレンスを感じてもらいたかった。その両方のバランスが、ブランドを表現するのに非常に重要だったと思うね。
インスタレーションがコレクションのアイデアを異なった形式で表現しているのは明白だけれども、それと同様に、音楽やフィルムも同じアイデアに基づいているんだ。コミュニケーションの方法が違うだけでね。僕はファッションデザイナーである前に、デザイナーなんだよ。"全てのデザインはひとつ"と捉えているから。

Photo:A-COLD-WALL*

様々な形式で表現をするマルチなアーティストとしても活動していますが、よく楽曲制作もされているのですか?
叔父がふたり、ロンドンの音楽業界にいて音楽を制作している影響もあって、8年くらい前にはよくハウスミュージックを作っていたよ。しばらく離れていた時期もあるけど、最近はまた少しずつ制作しているね。今のほうが音楽に関する方向性も定まっていて、昔より物語性があるものを作っているよ。DJ的なミックスよりも、サウンドトラックのような聴覚的経験というものにより強い興味があるね。

子供の頃から音楽が身近にあったようですが、当時のオブセッションは何だったのでしょうか?
あらゆる音楽がすごく身近にあったけど、過去15年、僕の人生のサウンドトラックだったのはグライムだね。今でこそ、"よしグライムを聞こう"というくらい、ひとつの音楽ジャンルとして美学が確立されているけど、当時は真新しくて、僕達の生活そのものだった。僕達のカルチャーの一部を聞いているような感覚があったんだ。それが今やシーンの最前線に立っているのだから、すごく嬉しいね。グライムはワーキングクラスの声そのもの。それは僕だけに特別なものではなくて、僕達みんなのものだよ

音楽以外にオブセッションはありましたか?
やっぱり服が大好きだったね。特に僕のオブセッションだったのは、Nike。Nikeのトラックスーツに、Air Max 95や98。そうしたアイテムは僕らにとってのCÉLINEだった。だから今もトラックスーツを様々な方法で再解釈しようとしているんだ。

来日してから8日のローンチまでは準備で忙しかったと思いますが、その後はどう過ごしましたか?
今もけっこう忙しいね。ローンチの後すぐに、東京のカルチャーを見て回って色々な要素を吸収したよ。ここには本当に色々なものがあるからね。僕はファンという言葉はあまり好きじゃないんだけど、言うなれば僕は、日本のカルチャーのファンなんだ。例えばタワーレコーズに入った時、スタジオジブリの作品がたくさんあって興奮したよ。オリジナルでドープだからね。

ジブリのファンだったのですね。他にはどんなアニメが好きですか?
子供の頃、ドローイングやスケッチングをしながら、ガンダムやドラゴンボールを見ていたよ。テレビゲームもね。叔父さんがセガサターンをUKに輸入していたり、家族ぐるみで日本のカルチャーには尊敬があるんだ。

日本のキッズやユースカルチャーも何か感じるものがありましたか?
もちろんだよ。興味深いのは、日本とUKには共通するところがあって、共に島国で、大きな国ではないけど人口が密集している。だからここにも沢山のサブカルチャーがあるんだ。だから街を見ていても、沢山のサブカルチャーやスタイル、人々のグループがあるということが、名前はわからなくても見て感じることができる。東京はよりスタイルに近い感じで、とにかく文化が豊かだと感じるよ。

音楽を始めとした様々なカルチャーがブランドに落とし込まれていると思いますそもそも、どのようにキャリアをスタートさせたのですか?
今思えば、15歳の時に本格的にデザインを始めた時がターニングポイントだったね。昔からドローイングやイラストレーションは日常的にしていたから、それをこの素材で表現するならどうするか、というように自然とデザインに昇華していったんだ。
ただ当時は、ホステル(貧困層に向けた集合住居)に住んでいて、昔からの友達とクレイジーな生活をしていたけど、それと同時にデザインへの情熱を見つけて、選択をしなければいけない時期だった。クリエイティブの才能はあったと思うけど、環境に縛られていたんだ。デザインを志してからは、それまでの環境から解放され始めたね。高校でデザインの賞を受けたことを弾みにして、プロダクトデザインを学んだ大学を主席で卒業した。そして21歳のとき、デザイン会社にスカウトされて働き始めたんだ。

デザインを始めてからは、どのような日々を送ってきましたか?
21-22歳頃は、デザイン会社でフルタイムで働きながら、様々な名義で活動していたね。アンドリュー(現在、A-COLD-WALL*のPR担当)と2wnt4というブランドを立ち上げて、イラストやアートフィルム、あと音楽も制作してたよ。忙しかったけど、全てを表現しながら学んでいた時期だった。だから僕のキャリアはすごくおもしろいと思うんだ。そうやって勉強も訓練もしながら、常に表現的でもあったんだ。その全ての要素が今のACW*に繋がっているよ。

どうやってその全てをやり遂げることができたのですか?そのくらいの年頃はみんな一番遊びたい時期だと思いますが。
眠らないこと、だね。僕ももちろん遊んでいたけど、どうにか全てを詰め込んだ生活を送っていたね。ワーキングクラスでお金もあまりなかったから、正しい方向へ向かわなかればならないという意識が常にあったのだと思う。例えば進学するのにも就職するのにも、いい成績を収めなければ金銭的に厳しいということもわかっていたし、だからこそ正しく生きなければならないと、すごく真剣に感じていたんだ。だからリラックスして楽に過ごすということはなかったね。

そこからACW*の立ち上げに至る前に、Off-Whiteのヴァージルのもとで働いていていましたよね?それはどうような経緯だったのでしょうか?
その当時は沢山のフィルムやミュージックビデオをYouTubeで漁っていて、その中でヴァージルの名前と出会ったんだ。そこから興味をもって、連絡を取ろうとしたのだけれど、うまくいかなかった。でもその後、彼のInstagramを見つけたので当然フォローしたら、すぐフォローバックしてくれて、僕の作品が気に入ったからポートフォリオをみたいと向こうから連絡をくれて。そしてデザイン会社を辞めて彼のアシスタントとして働き始めたんだ。

ヴァージルのもとでの経験が、どのようにACW*ブランドの立ち上げに繋がったのでしょうか?
正直、以前アンドリューとしていたブランドをやめた時は、もうブランドはしないと思っていたんだ。だけど、ヴァージルのもとで働き、Off-Whiteだけでなく彼の周辺の様々なブランドと仕事をして、UKにはまだ語られていないストーリーがあることに気づいて、それがそのままACW*になったんだ。2015年に立ち上げて、今でちょうど1年半。2016春夏で3シーズン目だね。

そのまだ語られていないストーリーとは、どのようなものでしょうか?
例えばパンクカルチャーのストーリーは今まで数多く参照されてきたけれど、それはもう過去のもの。そうではなくて、今UKで何が起こっているのかということなんだ。ワーキングクラス、グライム、ブラック・キッズ、そして僕達。それはロンドンで、そして世界中で起こっていること。パンクカルチャー以後、これこそが最も刺激的で先進的なカルチャーで、ストーリーがあるにも関わらず、いまだに多くの人々に語られていないんだ。僕が育ったところで今現在も進行している、フレッシュでピュアなストーリー。だからこそ僕がそのストーリーを語ることに決めたんだ。僕はいわば、カルチャーをピックアップしてムードボードを作っている人達との会話に参加しているのではなく、そのムードボード上のイメージのひとつから飛び出してきたんだ。これはパワーシフトなんだよ。アメリカンカルチャーやパンクカルチャーを参照するのではなく、僕自身が経験してきたカルチャーを参照する、それこそがACW*なんだ。

だからこそ、ACW*はすごくブリテッシュで、現在のUKのムードや社会を感じさせるのですね。
そう。それにACW*(冷たい壁)というブランド名は、公営住宅の子供がじゃり壁に触れた時の感覚と、高級住宅の子供が大理石の壁に触れた時の感覚っていう、両極端な別のカルチャーに共通の感覚に由来していて、それはUK特有のものだと思うよ。

服に関しても、明らかに各ピースの色味が異なったり、同じスタイルでもショップごとに染め加減などを変えていると聞いて、とてもUK的だと感じました。
まず、今回のコレクションは建築構造や建築設備にインスピレーションを受けていて、例えばブルーのレインコートには工事現場のPVCシートを使用しているし、ヘビーコットンキャンバスのコートもウールのように密度が高く、重厚に仕上げていて、まるでセメントのように歳を重ねる仕組みになっているんだ。そこに、それぞれのパーソナリティや僕の個人的意見を挿入することで、更に多様性がある仕上がりにしているんだ。そのようなアルチザンやクラフトマンシップこそがラグジュリーなんだと思う。購入者には、全く同じ20枚のTシャツから適当なものを手に取るのではなく、少しずつ違うものの中から自分の1枚を選ぶことができる選択権が意図的に与えられているんだ。

最後に、今後の展開についてお聞かせください。ショーなどをする予定はありますか?
もうすぐ家具も発表する予定で、サウンドトラックの制作にも時間をかけたいね。ACW*としては、イーストロンドンの工場にいる時間を増やしたいと考えているよ。生産をしっかりコントロールしないといけないし、ベストなアイデアはいつも工場で生まれるからね。ファッションショーに対する興味もあるけど、焦ってやる必要はないと思う。ファッションカレンダーに対するプレッシャーは全く感じていないし、感じたくもない。既存のファッション業界のサイクルに反対しているわけではないけど、僕は新しい世代のひとりとして、ただそのシステムに従うのではなく、自ら新しい仕組みを探求して投げかけていくべきだと考えているよ。

問い合わせ先
GR8
Tel  03-3408-6908
monkey time 原宿店
Tel 03-5464-2773

Credits


Text Yasuyuki Asano
Photography Shoot Kumasaki