21世紀のマインド:FUMITO GANRYU デザイナー丸龍文人 interview 1/2

「21世紀のあり方を問いかける、そのような服でありたい」。約1年ものあいだ服づくりの現場から離れ、今年6月にピッティ・ウォモで新たなブランドを発表したデザイナーの丸龍文人は今、何を思索しているのか?

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aug 20 2018, 10:07am

2017年のある日、COMME des GARÇONS社の一翼として展開されていたブランドが、理由も明かされぬまま休止するという悲しいニュースが流れた。そのデザインを手がけていたのは、渡辺淳弥のもとでパタンナーとして働いたのち、10年間にわたって人々を魅了し続けてきた丸龍文人だ。彼が生み出す服の熱狂的ファンたちは、しばらくの間、彼の動向について静観するほかなかった。

1年以上の時を経た今年の春、“新たなビジョン”を携えた彼が世界のメンズウェアシーンを牽引する合同展示会ピッティ・ウォモ94のデザイナープロジェクトに参加することが明らかになった。それも、FUMITO GANRYUという完全なる独立したブランドとして。

「いつかブランドをやりたいという想いはありましたが、この時点で始めようという考えも、それを見据えた準備もしていませんでした」。そう語る丸龍文人はフューチャリストでありたいと考えているようだ。しかしそれは単に非現実的な空想的未来ではなく、あらゆる事実に基づいたうえで確実に訪れる21世紀の姿を思索している点においてだ。そんな彼がつくり出す「21世紀にふさわしい服」とは? 前編では、デザイン活動から離れた約1年間と“水”をインスピレーションに発表したデビューコレクションの結びつきについて迫った。

Photography Lorenzo Dalbosco
Photography Eeva Suutari

——意図的にファッション業界とのつながりを絶っていたとうかがいました。その約1年間についてお聞かせください。
今後のビジョンと重なってくることがあるかもしれないので、現時点で具体的に言うことはできませんが、21世紀の中期から後半にかけてメインとなるであろうビジネスや産業に目を向けていました。それらは今、水面下で確実に始まっていますし、すでに“体感できる”レベルまで降りてきているものもあります。

同時に、ファッション業界の最中(さなか)にいる時には向き合う事のなかった、自分の中にある忘れかけていた側面、原点と触れ合う時間でもありました。目を向けていた産業と、それらをシンクロさせようという狙いがありました。あくまで個人的な考え方ですが、いまは“情報強者”が勝ちやすい時代だと言える一方、個人のなかで、強者であるべきところと情弱であるべきところのある種バランスがとれている必要があるのではないかと考えています。クリエイター自身があまりにも包括的な情報強者でありすぎると、特異なアプローチをすることが難しくなっていくのではないかと私は考えています。線や面の延長線上における表現ではなく、新たな点を生み出し辛いのではないか、と。つまり、必要とは思えない情報を意図的にシャットダウンすることで深層と向き合い、自分にしかできないものを見つめ直し、本当の意味で時代にとって必要性のあるものとは何かを見つめ直すことができるのではないかと考えているのです。

——そうした時間を経てご自身のファッション哲学に変化はありましたか?
取捨選択することなくただひたすら詰め込むことをやめて、何事もシンプルかつクリアに、その上でレイヤーで捉え、考え、行動する事で“イノベーション”を生み出したいと思うようになりました。一方で、必要と感じる部分では極端なほどの情報強者でなくてはいけないとも思っていますので、それに対しては貪欲かつ積極的に掘り下げるようにしています。言わば、今の自分、その時の自分にとって“ノイズ”だと感じるものに振り回されるのではなく、素直でクリアな表現がしたいという考えが生まれて。そうしたスタンスに必要性、可能性を感じてるのでこれからも大切にしたいと思っています。

Photography Eeva Suutari
Photography Eeva Suutari

——FUMITO GANRYUのデビューコレクションの背景には、そうした丸龍さんの考える21世紀像が広がっているのでしょうか?
そうですね。そういった裏付けをともなう方向性でのコンセプチュアルな服を打ち出すブランドは存在しないなと思ったのです。同時にそれは私が最もやりたいことと一致するものでもあった。現状はとてもニッチな間口ですが、非常に広大なフロンティアが広がっていると感じています。

産業革命以降、大幅な環境破壊が進み、20世紀後半からようやく環境問題が取り上げられるようになり、緑化活動などが行われると同時に、いたちごっこのように砂漠化が進んでいる。洋服作りに限らず、何かモノを作ろうとすると環境破壊の側面はどうしても少なからず起きてしまいます。そういった事実に対し何らかのアクションを起こし、対応しようとする活動に対しては大変素晴らしいことだと感じてはいますが、私が着目しているのはそこではありません。いくつもありますが例えば、ゴミを分別したり等の、日常における本当に何気ないことだったりもします。1つのアクションとしては小さくても、積み重なれば非常に大きな効果を生むはずです。“地球を大切に考えること”が前提になければ、今の時代、先進諸国で生きる人間のマインドとしての当たり前のスマートな生き方とは言えないのではないかと思っていますし。海や山、川にものを捨てない等、当たり前のことですが目の当たりにする現実は違ったりする。そういった美意識に作用するコンセプチュアルなプロダクトをつくりたいのです。そして、いずれ手の離れた所において、そのような意識が結びつき、発展する事で問題解決に特化した分野のさらなる進歩や発展へとつながっていくことを願っています。

Photography Proj3ct Studio

——2019年春夏シーズンのテーマをお聞かせください。
21世紀然とした服とは何か? という問いかけに対して私なりの考えや思いに基づいた服づくりを今後もしていきたいと思っていて、今回は“自然と都市”をいかにインタラクティブにつなぐかをテーマにコレクション製作しました。ですが、全く違った側面でのアプローチもあると思いますので、常に自然や都市がキーワードになっていくかというと断言はできません。

——今季のインスピレーションは“水”とのことですが、その特性をどのようにコレクションに落とし込んだのですか?
自然というキーワードに対して選択したのが、季節としても触れ合う機会の多い“水”でした。その中でも分かりやすい表現方法としてあげられるのが“防水”です。春夏コレクションのデリバリー自体は冬にスタートするので水を完全に弾き、断熱効果もある冬のレインウェアとしても活躍できるネオプレーン素材を使っています。その後の実売期にかけて登場するものとしては、ラッシュガード。クイックドライ(速乾)があげられます。接触冷感性が備わっているラッシュガードの生地は一般的に表面がシャイニーである印象が強いですが、私が選んだものはどれもマットな質感を持っていて、落ち着いた雰囲気のテクスチャーです。さらに、このクイックドライという性質は、あえて水分を吸収させて、液体から気体に変化する時の気化熱を利用して涼感を与えるという、自然界とのインタラクティブな関係を体感する事ができるという点が良いと思いました。

Photography Eeva Suutari

——ショーのスタイリングでは、脱いだ服を身体に取り付けて持ち運びができることも表現されていました。そうした機能面での流動性もまた“水”からの発想ですか?
水は液体であり、個体にも気体にもなり、何色でもあって何色でもなくなる。そうした水の能力を抽出して洋服で表現したいという考えはありました。加えて現実的なこととして、ネオプレーン素材の服を脱いで、仮に無造作に手で持ち運んだとします。そうすると、どうしても不自然なシワが入りやすい。その運搬自体をいかに煩わしさを感じさせない快適なものとするか。むしろ楽しみとするか。その事を実現させる為に、少ないアクションで簡単にアジャスト出来るファンクションや仕様を考えました。その結果として運んでいるときのフォルムはメンズウェアとしてありえない様な形を生み出していて、それはまるで水のように形があって形がない。通常の着る設定ではないときの“なり(為り)”で生まれる形というものとシンクロしたのです。

Photography Eeva Suutari

——デザインの根幹にはメンズウェアをより自由にしたいというお考えがあるのですか?
それは常に考えていることです。ただ、私も40代になり、闇雲に斬新な服を着たいと思う年齢ではなくなりました。例えば、すごく不思議な形のメンズウェアだとして、それが完結した一着として縫い付けられていると抵抗を感じることがあるんです。着るかと言われたら着ないかもし知れない。ですが、もしその造形が“なり”でなっているという免罪符があり、もちろん通常の設定でも着られるということなのであれば、着る人も少しずつ特異で不思議な服を着やすくなるのではないか。そういうふうに、マインドを動かす“順番”をつくっていけたらという想いはあります。これは、自分自身に向けてでもあるのですが。

Photography Eeva Suutari

後編はこちらから。