ヒーローを感じて:YUKIHERO PRO-WRESTLINGデザイナー 手嶋ユキヒロ interview

ブランドコンセプトは、誰かのヒーローになれる服。7歳から魅了されているプロレスのエッセンスをコレクションに落とし込んできたデザイナーの手嶋ユキヒロが、自身にとっての“ヒーロー”を語る。

|
jul 31 2018, 6:47am

辞書をひくと“ヒーロー”とは「敬慕の的となる人物」だと記されているけれど、実のところ、この言葉を聞いて思い浮かべるものが人それぞれ異なるように、これほど馴染みのある言葉なのにその意味はいかようにも解釈できる。一方で現代は、ヒーロー不在だともいわれる時代である。

それでも、もっとシンプルに考えてみよう。子どものころテレビにしがみつくように憧れたスーパーヒーローも、観戦していたスポーツの試合を勝利へと導いた選手も、夢を追いかける自分の背中を強く押してくれた友人も多分に漏れずヒーローだといえるだろう。そして、その人がいるという事実が、心の機微やこれからの行動に与える影響も、とうぜん計り知れないものがある。だから、それぞれの“パーソナル・ヒーロー”ともいえるものについて知ることは、その人の一部を理解することと限りなく似ているのかもしれない。

その存在を声高にコンセプトに掲げる日本のファッションデザイナーがいる。誰かのヒーローになれる服——YUKIHERO PRO-WRESTLING(ユキヒーロープロレス)の手嶋ユキヒロだ。スタイリストを経て、2012年度の新人ファッションデザイナー大賞のプロ部門入賞をきっかけにブランド活動を加速。プロレス、ヒーロー、そしてファッションに共通する“魅せる”という一貫したキーワードにコレクションの発表を続ける一方、新日本プロレスのレスラーのためにリング衣装を、今年9月21日に公開される映画『パパはわるものチャンピオン』では衣裳を手がけている。「僕にとってのヒーローとは、好きな人」と明言する彼に、内に秘めたヒーロー像について訊くため、2017年4月にプロレスの聖地といえる水道橋にオープンしたブランド直営店〈レブリチャル〉を訪ねた。

——手嶋さんを魅了するプロレスとの出会いは、7歳のころだとうかがいました。
その当時、仮面ライダーや戦隊モノのヒーローはブラウン管のなかにしか存在しない非現実の存在だと子ども心に感じていて、少し冷めている部分があったんです(笑)。そんなある日、祖父に連れられてプロレスの試合を観に行きました。リングに近い席で場外の闘いが僕の目の前で行われ、マスクを被った悪役レスラーが椅子で相手を殴ったり……。本当に怖くてたぶん泣いてしまって(笑)。そんなとき、ヒーロー役レスラーが僕の頭を撫でながら「大丈夫だ」と声をかけてくれたんです。そして、彼がリングに上がって勝利を宣言した瞬間、ああ、ヒーローは実在するんだと気づいた。あの時から今の今まで、そしてこれからもずっとプロレスのファンですね。

——“チャンピオンベルトを持った保育園の先生”になるべく通っていた大学を中退されたあと、20歳で文化服装学院の高度専門士科に進まれましたが、ファッションの道に進んだきっかけは?
子どもたちのヒーローになりたかったんですが、ボクシング中の怪我によって片目の視力が低下しているという診断がくだってしまったんですが、その頃、高校時代から服が好きだったのもあって参加したスタイリングコンテストで賞をいただき、審査員の方が背中を押してくれたのがきっかけです。専門学生時代はスタイリストのアシスタントをしていて、当時はデザイナーになるとは思っていませんでしたが、卒業後も続けていたアシスタントを独立するのと何かを作りたいという衝動が重なって、ブランドを立ち上げるに至りました。

——ブランドのコンセプトである「誰かのヒーローになれる服」について教えてください。
卒業コレクションの制作にあたって自分は何が好きで、何を突き詰めたいかを真剣に考えたとき、頭に浮かんだのが“プロレス”一択だったんです。ブランド名は卒コレですでに使っていましたし、コンセプトは僕の思いが自然と言葉になったもの。ヒーローに憧れていても僕はそういうものではないと思ったときに、日本の“ヒーローは変身する”という発想が出てきたんです。YUKIHERO PRO-WRESTLINGの服を着ることでポジティブな方向に心が動いてくれるといいなという思いを込めていますし、それに「誰かのヒーローになれる服」ってタグを縫う工場の方もきっと笑ってくれるし、一発で覚えてもらえるじゃないですか(笑)

——デザインの出発点は、変わらずプロレスが好きだという思いですか?
そうですね。その延長で、僕自身の「こういう服が欲しい」「これが好き」という純粋な動機がスタートラインです。ただ、このスタイルを根本から変えるわけではありませんが、数シーズン継続してきたショーを休止して展示会形式で発表する次回の2019年春夏で、デザインへの考え方はかなり変わりました。言わば、コレクション全体のイメージやショーの演出、テキスタイルへのこだわりなどを通して強い個性を打ち出すだけではなく、チームの意見をこれまで以上にすくい上げて、より高いレベルの服作りと新しいビジネス的展開に目を向けています。海外の販路が広がっているのでワールドトレンドなどの勉強を積み重ねながら、着る人の幅をもっと広げられる、顧客やバイヤーを置き去りにしない地に足のついたブランドとして展開していきたいという思いが、今は強くありますね。

——今は一種の転換期でもあるのですね。プロレスやヒーローにまつわるモチーフがユーモラスに落とし込まれているオリジナル素材にも変化があるのですか?
シーズンごとに進化させるという基本の考えは変わりませんが、より良いものを生み出すために、これまで徹底していたメイドインジャパンから自分を解放して海外の技術や製法まで視野を広げたり、思い返せば反省点が多いアーカイブから学んだりということは意識していますね。

——ミュータントタートルズや円谷プロダクション、キン肉マン、モンチッチ、マジンガーZと、数多くのコラボレーションを手がけられてきました。
声をかけてもらったら1度きりではない継続的な関係をいつも提案しています。たとえば、マジンガーZがママチャリに乗っているという発想は僕たちにしかない。なぜなら愉快なプロレスラーが操縦しているというストーリーがあるから(笑)。そういうアイデアをキャラクタービジネスを展開している彼らが面白がり、笑ってくれるその瞬間が最高に嬉しいですし、結果的にお互いがwin-winになれることがもっとも重要だと考えています。よくデザインが「出尽くされている」という話があるけど、僕からみて新鮮なものであれば、それは新しいものに違いありません。コラボに限らず、自分自身が面白がれて、すごいと確信できるものにしっかりと反応することが僕にとってのデザインだと考えています。コラボは、今後2年先まで決定しているので、自分たちのブランドの成長とともにより良いかたちで成功させたいですね。

——ブランド名にも掲げられている、手嶋さんにとっての“ヒーロー”とはどのような存在ですか?
いろいろな考えがあるとは思いますが、僕の感覚でいえば“好きな人”でしょうか。結婚していれば奥さんかもしれないし、想像を超える仕事をしてくださる職人さんも、煮詰まった会議中にパッと現れて妙案を出すビジネス・パートナーも突然現れたヒーローですし、僕には毎日この人いいなっていう出会いがあります。ヒーローは1人じゃない。心惹かれて目で追ってしまう存在というのは、人物に関わらず“魅力”を放っていると思うんです。自分が持っていないものを持っていたり、自分ができないことができるわけですから。それに、想像してみてください。ヒーローがいた方が楽しいじゃないですか!

——人の視点が変わることで、ヒーローとヒール(悪役)の逆転というのもありえますよね。
仕事をしていても、プライベートでも、そういうことを感じるシーンはたくさんあります。悪役好きだっているし、個人にとっての“正(しさ)”がそこにあるわけですから決めつけることは不可能です。ヒーローも必ずしも完璧な存在とは言えないけど、“憧れ”という感情は他人に魅了されたときに湧き上がってくれる感情だし、その人の姿から学んだり、倣ったりすることで自分を前進させることができる。自分にとってのヒーローに少しでも近づこうとすることは、僕にとっても非常に自然なことですし、僕たちの服がその助けになれば嬉しいですね。