フェイスタトゥーはいかにして当たり前になったのか?

古代文明からピンク色ドレッドヘアのSoundcloudラッパーまで、長い道のりを歩んできたフェイスタトゥー。この新しいトレンドは、今や若者の新常識となっている。

by Annie Lord; translated by Nozomi Otaki
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24 January 2019, 10:48am

Images via Instagram

顔にタトゥーを入れる若者が増えている。売り上げを伸ばし続ける鎮痛剤や、SNSに繰り返し投稿される〈You Already Know Who It Is〉のミーム同様、このトレンドも新世代のラッパーから生まれた。音楽共有サービスSoundCloud上で誕生し、〈SoundCloudラップ〉と呼ばれる新たな音楽ジャンルを確立したミュージシャンたちだ。

彼らはスクリーモ系のヴォーカルとドラムマシンTR-808で、BLINK 182の「I Miss You」とカニエ・ウェストの「New Slaves」を融合したようなサウンドを奏でる。彼らの定番スタイルは、チェックの長袖トップスにキャンディピンクのドレッドヘア。そして中学3年生が年間予定表に落書きするような刹那的なフレーズやイラストを、永遠に残るタトゥーとして顔に彫りこんでいる。

20歳を過ぎてもなおマンバンヘアのラッパー、ポスト・マローンは右眉の上に流れるような書体で〈Stay Away(近寄るな)〉、むくんだ目元の紫のクマの下にはそれぞれ〈Always(いつも)〉〈Tired(疲れてる)〉というタトゥーを入れている。かつて2パックの音楽を「つまらない」と一蹴した、ストリートウェア好きで感傷的なラッパー、リル・ザン(Lil Xan)のタトゥーは、眉毛を囲むように入れられた自らの楽曲タイトル〈Xanarchy〉と右頬の〈ZZZ〉。後者のタトゥーから判断するに、おそらく彼も〈いつも疲れてる〉のだろう。2018年急逝したリル・ピープは額に〈get cake, die young(ケーキを食べて早死にする)〉と入れていた。虹色のチャッキー人形のようなラッパーTekashi 6x9の額を覆うのは、Gucciのモノグラムのような〈69〉という数字。母親想いのジャスティン・ビーバーですら目の下に小さなクロスを入れている。

スターを信奉するファンのあいだでもフェイスタトゥーは広がりを見せている。Instagramにはあどけない顔のティーンエイジャーが、ボールペンやタトゥーガンでTekashi 6x9やリル・ザンと同じタトゥーを入れる写真/動画が溢れている。#Facetattooというハッシュタグをクリックすれば、憧れのラッパーを真似て柳の木や太字のローマ数字を顔に入れた13歳がポーズを取る写真が、数え切れないほど出てくるはずだ。

しかしフェイスタトゥーの歴史は、音楽のストリーミングサービスが始まるずっと前まで遡る。タトゥーの語源となったラテン語はstigma(烙印)。つまり〈奴隷や犯罪者の皮膚に焼きつけられる印〉だ。古代ギリシャと中国では、タトゥーは彼らが凶悪犯罪者や所有物であることを示す印だった。ビザンティン皇帝テオフィロスは、自分を批判した修道士の額に、戒めとして11節の弱強五歩格の卑猥な詩を入れたという。そんな修道士が現代にいたら、最高のミックステープをリリースしてくれそうだ。

フェイスタトゥーを入れるのは、数年前まではほぼギャングのメンバーだけに限られていた。例えばカーティス・オールガー(Curtis Allgier)を始め、米国のギャングAryan Brotherhoodの幹部たちが額に入れていたかぎ十字、ヒスパニック系の刑務所ギャングLatin Kingsが首に入れる、突起が5つの王冠、カリフォルニア北部のギャングNuestra Familiaを象徴するタトゥー〈Norteño〉などだ。

その他の文化では、フェイスタトゥーは宗教的な意味合いを持つ。例えばニュージーランドのマオリ族の女性が顎に入れる、シンメトリーな渦巻き模様のタトゥー〈モコ・カウアエ〉。この印は彼女たちの真のアイデンティティが身体に現れたものとされている。マオリ族のすべての女性が心臓のなかに持っている〈モコ〉を、タトゥーアーティストが身体の表面へと引き出すのだ。インド、オリッサ州のクティア・コンド族の女性は、霊界でもお互いを認識できるように、顔に幾何学模様を入れる。

しかし人気が高まるにつれ、トライバルタトゥーは精神的な意味合いを失っていった。「残念ながらタトゥーは文化盗用の犠牲になっています」と説明するのは、ロンドンのタトゥーサロン〈Love Hate Social Club〉のガイ・ニュートロンだ。「本来の意味はほぼ失われてしまいました」。ちなみにマイク・タイソンはマオリ族のフェイスタトゥーについての質問に対し、最初はハートを入れるつもりだったが、やはり「トライバルな何か」を入れることにしたと答えている

このようにフェイスタトゥーの流行がその重要性を損なっている現状に、熱心なタトゥー信奉者たちは憤りを覚えている。「目の下に〈N01〉と入れたのは、常に自分を最優先するため」と元タトゥーアーティストのニキータは、自身のタトゥーの大切さを説明した。細かなタトゥーを顔じゅうに入れる若者たちにニキータは怒りを露わにする。「彼らはただ目立ちたいだけのバカ。そのせいでシーン全体が台無しになってる。私の首や顔のタトゥーは夢を表してる。それを忘れないで」

ティアドロップや渦巻き模様のタトゥーは、もはや犯罪者や敬虔な信者の印ではなく、オーバーサイズのグランジTシャツを着たティーンエイジャーや、シルバーのシマーアイシャドウの使いかたをInstagramに投稿するメイクアップアーティストによく見られるようになった。ではこのようなタトゥーがSoundcloudのラッパーたちに人気を博しているのはなぜだろう。

レインボーカラーを身にまとい、常にトリップ状態のSoundcloudラッパーたちに共通するのは、ニヒリズムとパンキッシュな無頓着さだ。「なんとなく母さんを怒らせたかっただけ」とポスト・マローンは自身のタトゥーについて語る。顔のクロスが何を表すのか訊かれた21 Savageは、「ナイフだ」と素っ気なく答えた。フェイスタトゥーを取り巻く文化は実に気軽だ。眠りに落ち、頬骨の上に割れたハートを入れてほしい、と頼んだことをすっかり忘れてしまう。VICEのドキュメンタリー『Fake Xanex』で英国のラッパー、クレイトン(Clayton)は顔に〈LOST〉というタトゥーを入れる最中、ドラッグで意識が朦朧としている。永遠に残る印がこれほど気軽に彫り込まれる様子から彼自身がタトゥーを深刻にとらえていないことが伝わってくる。

もうひとつフェイスタトゥーの人気に関わっているのが、自己の動機付けだ。フェイスタトゥーは、自分は九時五時の仕事なんかに縛られずに成功してみせる、という決意を示している。2017年のi-Dのインタビューでリル・ピープは、「17歳のとき、いつかヤバいことをやらなくちゃと思って、顔に割れたハートのタトゥーを入れた」と語った。リル・ザンのコレクティブ〈Xanarchy〉に所属するラッパーArnoldisdeadは、頬にアンネ・フランク(彼は安易にも〈ザン・フランク〉と呼んでいる)の肖像画を入れた理由について、似たようなことを答えている。「歴史上には、思い通りにいかなくて生きてるあいだに夢を果たせなかった人たちがいる。ずっと家から出られず、そのまま死んでいった……。俺だって音楽をつくらなきゃ生きていけない」

さらにフェイスタトゥーは、世間の注目を浴びる手段にもなっている。つまりタトゥーはブランドのような役割を果たしているのだ。今はもう消してしまったが、以前グッチ・メインが頬に入れていたコーンのアイスクリームは、宝石を散りばめたチェーンネックレスとともに彼のトレードマークとなっていた。リル・パンプの額のエイリアンもそうだ。彼らのタトゥーは話題を呼び、それ自体が彼らを表すロゴになっている。

いっぽうフェイスタトゥーは、有名人ではない人びとが注目を集めるきっかけにもなりうる。私はミュージシャン/警備員のベカ(Beka)に話を聞いた。小さな星から月桂樹の枝まで、彼女の顔に入れられた合計9つのタトゥーは、Instagram上で賛否両論を呼んでいる。アニメのアバターで顔を隠したアイコンの男性は「なんで俺はまだこんなビッチをフォローしてるんだろ」とコメント。別のファンは「ちっちゃいハクのタトゥー超かわいい!!!」と叫んでいる。「みんなタトゥーがきっかけで私に興味をもってくれるみたい」とベカ。「2、3ヶ月でフォロワーが4000人から1万1000人に増えたのもタトゥーのおかげ。セルフィーはいつもフェイスタトゥーが見えるように撮ってる。そのほうがたくさん〈いいね〉をもらえるから」

フェイスタトゥーはフーディに取って代わり、バスで年金受給者を寄せ付けないための新たな手段となった。ピアスホールの拡張やライムグリーンに染めた髪など、大人たちを怯えさせる他のトレンドが反抗的な意味合いを失いつつある今、フェイスタトゥーの人気はこれからも高まっていくだろう。リアム・ペインのようなメインストリームのポップスターが、完璧に保湿された目元に〈クソくらえ〉と入れるのも時間の問題だ。タトゥーは今や烙印ではなく、セールスポイントとなったのだ。

This article originally appeared on i-D UK.