未来の家族を夢想する:森栄喜 写真展「Family Regained」

9月8日(金)から30日(土)まで、写真家・森栄喜による個展「Family Regained」が、新宿にあるギャラリーKEN NAKAHASHIで開催される。同性婚の実現に向けた活動家でもある彼に「家族」ついての思いを訊いた。

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aug 23 2017, 8:02am

国内外のメディアで男性ポートレイトを中心に撮影を続ける写真家であり、同性婚をテーマにしたアーティスト活動でも知られる森栄喜の写真展「Family Regained」が、新宿三丁目のギャラリーKEN NAKAHASHIで開催される。会期は9月8日(金)から30日(土)まで。本展では、2013年当時のパートナーとの日常を1年間にわたり撮影し、第39回木村伊兵衛賞を受賞した写真集『intimacy』以来の、写真集『Family Regained』から厳選された15点が展示される。

本作は、森が親しくしている友人や恋人同士、夫婦など40組の家族に森自身も家族として加わり、彼らが実際に暮らしている住居や庭先を背景にセルフタイマーで撮影したポートレイト・シリーズだ。約2年の制作期間をかけて、その形態やセクシャリティも多様な、それぞれの家族の姿を劇場的に記録したもので、その作品群には現代社会に深く内面化している家族のかたちを再考する社会的・政治的メッセージも内包されているのだという。今秋を予定している写真集の発売と時を同じくして、本展に関連したパフォーマンスも控えている彼が、撮影中に思い描いていた「家族像」について、メール・インタビューで語ってくれた。

©︎ 2017 Eiki Mori from the series Family Regained, C Print, Courtesy KEN NAKAHASHI
©︎ 2017 Eiki Mori from the series Family Regained, C Print, Courtesy KEN NAKAHASHI

現代の家族のあり方を問うような今作ですが、このシリーズに着手したきっかけはあったのですか?
前作の『intimacy』で撮影したパートナーとの関係性の先には、果たしてどんな光景がひろがるのだろうか、という思いを抱いたことがこのシリーズのはじまりでした。ちょうど同じ時期に同性婚をテーマに制作していた「Wedding Politics」というパフォーマンス・シリーズを通して、社会制度の観点から結婚や子育て、そして家族について徐々に考えるようになりましたね。撮影が進みたくさんの家族と出会うにつれて、僕自身とても意外だったのは「家族はこうであるべき」という固定観念が自分の中にも強くあったこと。それを壊しながら、自分なりにまた組み立てていくといった作業だったのかもしれません。

実家で撮影されたというセルフポートレイト以外は、被写体の方々と一緒にご自身も登場されていますね。違和感なく溶け込んでいるようにみえました。
独りの写真は自分の部屋着ですが、実はほとんどの写真で僕が着ているのは、被写体の普段着なんです。服を交換して、他人の服に袖を通す行為は家族間ですら滅多にない体験だし、服が持つ相手の温度や湿度、さらにはパーソナリティの一部まで受け取ってしまうナイーブな緊張感がある。だけど自分を受け渡し、他者を引き受けることの一抹の不安が、嫌悪感ではなくて、互いを許容して生まれる心地よさなのだと気づいたときがあったんです。

そして彼らの洋服を身にまとって、家族の中に飛び込んだ。
彼らの生活空間を舞台に、みんなで「家族」を演じ合って奇妙な一体感が生まれたとき、それまでの家族の在り方にねじれが生まれると同時に、プライベートな領域が揺らいでもなお、僕が入り込めない家族だけの「守られている領域」を垣間見たのです。連帯感や信頼感、あるいはそれ以上の何か。そこから現代の家族の核のようなものを捉えたいのです。

©︎ 2017 Eiki Mori from the series Family Regained, C Print, Courtesy KEN NAKAHASHI
©︎ 2017 Eiki Mori from the series Family Regained, C Print, Courtesy KEN NAKAHASHI

「血の色」を思わせる赤いフィルターが、その場面を劇的に切り取っていてとても印象的です。そして、タイトルは『失楽園』の続編、イギリスの詩人ジョン・ミルトンの叙事詩『Paradise Regained(復楽園)』に着想源があるとのこと。アダムとイブによって失われた楽園の蘇りを予感させる物語ですが、Family Regainedという言葉の裏にはどういった思いが込められているのでしょうか?
かつて、ただ愛し合うことだけでも同性同士だという理由で犯罪となった時代に、命がけで生きた恋人たちがいた。エイズに伏して添い遂げ合うことができなかった恋人たち、先の将来で結婚が認められ子どもを育てることができることを想像すらできなかった恋人たちが、たしかにいたんです。彼、彼女たちが出会うことができなかった、その先にあったはずの「未来の家族」の姿に、彼らに成り代わって会いにいっているような感覚が僕の中に芽生えてきたんだと思います。

今秋開催されるF/T(フェスティバル・トーキョー)では、本展に関連するパフォーマンスと記録映像作品を発表されるそうですが、どういったことをされるのですか?
タイトルは『Family Regained: The Picnic』。 男性と10歳ぐらいの男の子、そして僕の3人が、マレーシア出身のモト・ゴーとキンダー・エングのブランドMOTO GUOが制作した真っ赤な服を着て街を歩き、そこで偶然出会った人にカメラを渡して僕たちのことを撮影してもらうんです。異質な組み合わせの3人が、真っ赤に現像された写真の中でだけは、まるで休日を過ごす家族のように街の風景に溶け込んでいる……。たとえ写真の「赤い世界」の中だけだとしても、他者を通して家族として肯定されていく過程を映像として記録していくことで、僕たちの意識や社会の環境をこれからどう変革するべきなのか、家族の未来像を思い描きながら考えるきっかけになればと思っています。

本作に収められた、"家族"への思いを。
自分が入り込んだ家族が、同じ時間を、パラレルに並んで、この先ずっと幸せであってほしい。 僕には、これからも彼らと長い月日をともに生きていきたいという代え難い願望があるのです。

森栄喜「Family Regained」
2017年9月8日(金)〜30日(土)13:00 - 21:00
KEN NAKAHASHI (東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階)
休廊:日曜日・月曜日
オープニング:9月8日(金)18:00〜