ニコラ・フォルミケッティの意外な一面:ピアノに傾ける情熱

世界で活躍するクリエイターの意外な一面を探る。今回はニコラ・フォルミケッティに、自身が傾けるピアノへの情熱と偉大な作曲家たちへの愛について語ってもらった。

by James Anderson
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05 September 2016, 3:35am

1990年代の後半、ニコラ・フォルミケッティは建築を専攻する学生だったが、次第にロンドンのウエストエンドでナイトシーンに心酔するようになった。学校での講義よりも、厚底スニーカーを履いて夜な夜なクラブへ繰り出す熱心なクラブキッドに華麗な変身を遂げるのには、そう時間はかからなかった。そして、ソーホーにあるThe Pineal Eyeのショップアシスタントとなり、ほどなくしてヘッドバイヤーに就任。2000年代半ばには人気スタイリスト/アートディレクターとなって、著名な雑誌でエディトリアルを担当し、ファッションページを監修するかたわら、Gareth Pugh、Alexander McQueen、Dolce & Gabbana、Stussy、UNIQLO、Nikeなどのブランドやデザイナーとも仕事をしている。

その後はレディ・ガガのキャリア絶頂期を築いたコラボレーションやスタイリングで名を馳せ、2011年から2013年まではMuglerのクリエイティブディレクターとして活躍するかたわら、自身のNicopandaを立ち上げた。現在は、新生Dieselを構築するクリエイティブディレクターとして、さらなる快進撃を続けている。

多彩であるがゆえに多忙を極めるフォルミケッティ。しかし、たまには自分の時間を作ってファッションから離れ、自宅で長年親しんでいるピアノ演奏に興じるそうだ。Instagramに貼られたリンクをチェックすれば、彼が相当の腕を持ったピアニストであることがわかるはずだ。フォルミケッティが、鍵盤への愛、そして偉大な音楽を作り出してきた作曲家たちへの愛について語ってくれた。

子供の頃から自宅にピアノがあったのですか?
両親が音楽好きで、家ではいつもオペラが流れていたんだ。母はマリア・カラス、父はルチアーノ・パヴァロッティがお気に入りでね。だからいつでも家には音楽があったんだけど、ピアノはなかった。5-6歳の頃、叔母が僕のいとこにピアノを教えるのをよく聴いていたよ。ピアノが奏でる音楽に恍惚となり、どこかほかの場所へ連れて行かれるような気持ちになったのを覚えてる。ただピアノの横に座って、いとこが弾くピアノの音を1日中聴いていたよ。でもある日、自分で弾いてみようと思ったんだ。その時以来、ピアノこそ僕の情熱になった。母にグランドピアノを買ってくれと頼んだんだけど、それは叶わず、小さな電子ピアノを買ってもらってね。少年合唱団にも入っていたから、あの頃はずっと音楽に囲まれていたよ。教会でジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージの「スタバート・マーテル」を歌ったのをよく覚えてる。聖母マリアの苦悩を歌った曲なんだけど……当時、僕はまだ7歳だった。小さい頃からドラマチックだったね(笑)

ピアノを本格的に習い始めたのはいつだったのでしょう?
ピアノの個人レッスンを受けるようになって、10代はずっとピアノを続けていて、放課後は合唱団や劇場でピアノを担当したりして音楽に励んだね。そこから今日にいたるまで、ピアノはずっと続けているよ。僕にとってピアノはとてもパーソナルなもので、プロになりたいと思ったことはない。いつも自分のために弾いてきたんだ。弾いてるところをひとに聞かれるのも嫌で。シャイなんだ!

最初に弾けるようになった曲は?
最初に練習したのは、ベートーベンの「月光」。「月光」が、自分が大好きで最後まで弾けるようになった最初の曲だったと思う。今でも「月光」は好きな曲のひとつに入るね。難しい曲ではないから、習い始めてほどなくして最後まで弾けるようにはなったけど、今でも「もっとエモーショナルに」と改善の余地が見える曲。弾くごとに深みが増していくんだ。

もっとも理解できると感じる曲は?
ショパンを弾くのは好き。ショパンのノクターンやワルツは全部好きなんだ。「幻想即興曲」もすごくいい。以前は17世紀から19世紀の音楽しか弾かなかったけど、最近になって、フィリップ・グラスのような現代音楽の曲も弾くようになったんだ。グラスの「メタモルフォーシス」シリーズは素晴らしいよ。

マスターしたい曲は?
ラフマニノフの曲はすべて弾けるようになりたいね。技術的にはラフマニノフの曲がもっとも難しいと言われているけど、いつか必ずやってみせるよ

好きなピアニストは誰ですか?
モーツァルトやバッハ、ショパン、そしてもちろんベートーベンといった、クラシックな人たちだね。彼らの曲は古くならない。毎日でも聴いていられる、エキサイティングさを失わない音楽だよ。現代の作曲家では、坂本龍一やフィリップ・グラス、マイケル・ナイマンといった人たちが好きだけど、やはりなんといってもセルゲイ・ラフマニノフだね。弾いても聴いても、彼の音楽には毎回感動してしまう。ソフトでありながら激情的でね。音楽のオルガズムだね

これまでレディ・ガガと多くの仕事をしてきましたが、彼女からピアノのアドバイスなどはなかったのでしょうか?
ガガも僕もきちんとしたピアノ教育を受けているから、ふたりともクラシック音楽を深く理解し、同じように愛しているんだ。彼女はクラシック音楽から受けた影響をもって自分自身の音楽を作り出しているわけだから、すごいことだと思う。素晴らしい作曲家だよ。2010年のブリット・アワードでは、アレキサンダー・マックイーンへのトリビュートということでガガとコラボレーションをしたんだけど、そこで彼女は、クラシック音楽とポップス、ジャズの要素を融合したピアノバージョンの「Telephone」を披露して、本当に素晴らしかった。ステージ袖で見ながら涙が止まらなかったよ!

自分でピアノを買ったのはいつでしたか?
最初は、親がYAMAHAの電子ピアノをヘッドホン付きで買ってくれた。夜でもヘッドホンを着けて弾いていたね。今は、YAMAHAのアップライトピアノを持っているよ。僕のベイビーだね!

自分で作曲などは?
するよ。母はこれまでずっと、「無職になったら、あなたには音楽がある」と言い続けてくれてる。そうなんだよ、本当に!

あなたは忙しい日々を送っているわけですが、どうやってピアノを弾く時間を捻出しているのですか?
ピアノがあるのはニューヨークの家だけだから、ニューヨークでしか弾かないね。旅が続くときは、楽譜を持って旅をする。ニューヨークの自宅へ戻ったときに弾けるように。最新のiPad Proは、アプリでピアノを弾くには最適のサイズなので、楽譜を買ったりする必要なくただダウンロードして弾くことができてすごくいいんだ。楽譜のページをめくるのも、スワイプで済むしね。

Facebookではピアノを演奏している映像をアップしていますが、反応はどうですか?
これまで、演奏はとてもパーソナルなもので、ひとりでするものと決めていたこともあり、自分の演奏をひとに聞かせたことがなかったんだけど、ある時、自分の演奏を聴いてみたくなったんだ。そこで、自分が演奏するところを録画してみたんだけど、僕の腕前もなかなかのものだったんだ!そうなると、それを友達に見せてみたくなって。聴かせてみると反応が良くてね。今後はもしかするとコンサートなんかやってしまうかもしれないね(笑)。

どんな気持ちでピアノを弾いているのでしょうか?
瞑想のようなものだね。ピアノを弾けば、すべてを忘れることができる。音楽の一部になる、あの感覚が好きなんだ。

nicolaformichetti.com

Credits


Text James Anderson
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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