中国人フォトグラファー、レン・ハンを追悼

自国中国で激しい検閲に遭う一方で、世界では大いに讃えられた写真家レン・ハンが、29歳の若さでこの世を去った。独学で写真を学び、人間の裸体と35mmフルサイズ・カメラのみを使って情熱が織りなす真の魔法を捉えた写真家——彼の偉業をここに讃える。

by Hannah Ongley
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27 February 2017, 8:30am

世界で最も急進的な現代写真家が亡くなった。その知らせに、i-Dは深い悲しみに暮れている。レン・ハン(Ren Hang)——29歳という若さだった——は、「中国が生んだ最も刺激的な写真家」と讃えられた。性を抑圧する中国の在り方こそが、遊び心に溢れ、しかし毅然とした性描写で友人たちの素の姿を捉え続けたレン・ハンという写真家を生んだであろうことは、想像に難くない。そして、だからこそ中国が繰り返し彼を検閲し、時には逮捕まで厭わなかったのであろうこともまた想像に難くない。それこそは、世界でもっともリベラルな人々が彼の作品に共鳴した大きな一つの理由であったに違いない。中国で検閲を前に苦悩し続けたレン・ハンは、ニューヨークのセントラル・パークや、太陽の光が降り注ぐアテネの海など、自国以外に舞台を求めた。レン・ハンは多くのコラボレーションも手掛けた。フランク・オーシャンのジン『Boys Don't Cry』では見る者の感情に深く訴えかける写真の数々を提供し、Gucciではアレッサンドロ・ミケーレの世界観を表現した。『Libertin DUNE』の表紙を飾り、Opening Ceremonyや雑誌『Numero』とのコラボレーションも手掛け、中国の現代美術を牽引するアーティスト艾未未(ガイ・ミミ:Ai Weiwei)にまで支持され、亡くなったときにはフランスの雑誌『Purple』とのプロジェクトを進めていた。「レン・ハンは、若い世代の写真家をことごとくインスパイアした」と『Purple』のエディター、オリヴィエ・ザーム(Olivier Zahm)はInstagramの投稿で書いた。「私にとって、レン・ハンは新たな世代の荒木経惟だった」と。

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レン・ハンは写真を独学で学び、「持ち運びが楽だから」として愛用したMinoltaの35mmフルサイズ・カメラを、「よく壊すから」という理由で複数、幾バージョンも所有していた。そんな無頓着さは彼のポートレイト作品にも見て取ることができる。人間の手足が絡まる様や植物を撮ったレン・ハン独自のスタイルは、ルームメイトの裸体を心の赴くままに撮ったことから始まった。人間のヌードや、人体のよじれた突起部分、殺風景な背景、殺伐とした照明など、彼の作品を構成する主な要素は至ってシンプルだ。しかし、レン・ハンの手に掛かれば、そこには純粋なマジックが生まれた。

カメラを手にしていないレン・ハンもまた、彼の作品の被写体に負けず劣らず赤裸々だった。特に自身を周期的に襲った重度のうつ病に関しては、その辛い体験を実にあっけらかんと自身のウェブサイトに投稿するなどした。「My Depression(私の抑鬱状態)」と題したオンライン・ジャーナルのシリーズで最後の投稿となったポストで、レン・ハンは、そんな痛みを抱えながらもそれを表向きには表現しない矛盾について批判されることに触れ、そんな批判に耳を傾けるほうが自らの思考の思考に目を向けるよりも楽なのだと説明している。レン・ハンはまた、古くは2007年から自作の詩をオンラインで発表してきた。2016年に書いた詩の中で、彼は――プールや植物など屋外での撮影を大層好んだにも関わらず――「僕には解らない/なぜこれほどまでに多くの人々がハイキングなどに出掛けたがるのだろう」と書いている。

様々な解釈の余地を残し、たびたび過剰ともいえる分析の対象となったレン・ハンの作品だが、それをまったく分析しない人がいた。レン・ハン自身だ。「ヌードが他の被写体よりも捉えるものとして重要だなんて、感じたことはない。ヌードはただ、僕にとって他の何よりも自然で、魅力的なんだ」と、レン・ハンは2年前に東京でエキシビションを開催した際に明かした。「それに、僕と友達の間には、他では築けない信頼関係があるからね」 セントラル・パークで撮影したシリーズを終えた時に話したのが、私たちと彼との間で交わされた最後の言葉となった。その時彼は、セクシュアリティ観において中国とアメリカにはそれほどの差異がないと語っていた。「僕が感じる限りでは、アメリカでも中国でも、検閲を取り巻く環境に変わりはない」と、彼は語っていた。「だって、セントラル・パークで撮影をしていた時も、僕はいつ警察が現れて撮影を中断させられるかと常に怯えていたんだから」 だからなのか、彼の作品には場所の特定性というものがない。後退する時代のイデオロギーに真正面から挑みながらも、イデオロギー自体を昇華させてしまうような力を放って、写真の中にどこかこの世ではないような雰囲気を漂わせている。

Credits


Text Hannah Ongley
Photography Ren Hang
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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