『13の理由』を観るべき13の理由

10代の青春を描くNetflix番組『13の理由』は、“ありがち”な描き方を避けながら、いじめ、性差別、自殺の現実を繊細に描いている。

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maj 9 2017, 10:30am

自殺や性的暴行という現実を真正面から描くと同時に、メイル・ゲイズ(男性の視点)の実態を浮き彫りにする、Netflixの青春ドラマ『13の理由(13 Reasons Why)』。もしまだ観ていない読者がいるなら、こう言っておこう——「いま観ておくべきドラマは、これしかない」。観始めたばかりという読者には、ネタバレがあるかもしれないから「閲覧注意」と言っておこう。

1.21世紀アメリカの高校で起こっているいじめの実態
デジタル時代の到来で、いじめの形態が変わったのは誰もが知るところだろう。ソーシャル・メディアの普及により、いじめは家の中にまで入り込んでくる。残忍なコメントや、不安を駆り立てるメッセージが昼夜を問わずスマホに通知される環境から逃れることは容易ではない。画面に軽く触れるだけで、嘘が瞬時にして学校全体に広がる。性的ニュアンスを含む画像が添付されていれば、状況はさらに深刻だ。『13の理由』は、容赦ない画像の拡散が恐ろしい結末を招くという現象の、冷たい構造を明らかにしている。この10年のあいだに学校通いをした人、あるいはドキュメンタリー映画『オードリーとデイジー』の現実を実際に見たことがある人なら、『13の理由』が描く暗い現実を肌に感じて理解し、このドラマに深く共鳴できるだろう。

2.自殺と鬱を繊細に描いている
『13の理由』は自殺、性的暴行、自傷、鬱、不安などのテーマを扱っている。しかし、このドラマはそれらを一緒くたにして考えることも、ひとつひとつの問題の複雑さを高みから眺めることもなく、あくまでも当事者の目線から繊細に描いている。登場人物が、各々抱える問題にそれぞれのやり方で取り組んでいるのだ。ジェシカは『The O.C.』のミーシャ・バートン(Mischa Barton)のごとくウォッカで身を持ち崩し、カフェで働くタトゥの女の子スカイは自らの自傷行為を「自殺してしまわないためにやるもの」と正当化する。番組終盤に明らかとなる現実の暗部は誠実に、毅然と、そしてすべてが繊細に描かれている。

3.ハンナ・ベイカー役にはキャサリン・ラングフォードを起用
この物語の最大の要は、ハンナ・ベイカー役だ。有名女優を起用すれば興行での失敗は避けられるが、ハンナ役に有名女優を起用していれば、この企画は大惨事に終わっていただろう。制作サイドは、このハンナ役に、無名どころかこれまで際立った出演作数がゼロのオーストラリア出身女優、キャサリン・ラングフォード(Katherine Langford)を起用した。アメリカ英語の発音もバッチリの彼女の、生意気そうに見えて、繊細さも垣間見えるその佇まいは、97年当時のクリスティーナ・リッチを彷彿とさせる。「わたしの肌はソフトでスムーズだけど、傷つきやすい」とハンナは書いている。ハンナが陥っていく"世界対わたし"という対立構図は、メロドラマ調になってしまいがちだが、ラングフォードはそれを誰にでも感情移入できるものに押し上げている。

4.サウンドトラックが素晴らしい
音楽が間違っていると、シーンの演出はうまく機能しない。たとえば、ある登場人物が、もうひとりの登場人物に、「お前もハンナの死に加担したんだ」と訴えるシーン——舞台は夜のブランコだが、バックでエド・シーランが「君の瞳を見つめると」などと歌っていては、伝わるものも伝わらない。このシーンに流されているのは、90年代半ばにオルタナティブ音楽のなかでも物憂げなサウンドでひとつのジャンルと化した"サッドコア"の代表的バンド、コデインによる「Atmosphere」。絶妙な選択だ。ほかの音楽も素晴らしく、ジーザス&メリーチェイン、ウー・ライフのエラリー・ロバーツがエボニー・オーンと結成したLUH、ジョイ・ディヴィジョンなどが名を連ねる。エリオット・スミスがカバーしたビッグ・スターの「Thirteen」も素晴らしい。

5.変わり者、オタク、体育会系といった生徒のカテゴリー分けが曖昧に
90年代後半の映画に顕著だった、たとえば、プロムクイーンに選ばれる女子生徒や、豪快な体育会系の男子生徒といったわかりやすいカテゴリー分けが、『13の理由』ではことごとく打ち崩されている。アレックスを見ればそれがよくわかる。線が細く、鼻にはピアスをあけ、髪は脱色を重ねたブロンド——一見すると、"おとなしいけれどおしゃれな高校生"といったところだが、番組序盤ではカフェで大マグカップのホットチョコレートを頼む内気な男の子然としたアレックスも、中盤ではマリファナを吸い、体育会系の男子生徒たちの仲間となって車でスピード違反をするまでに素行が悪くなる。また、これまでは"生意気"の代名詞ともなっていたチアリーダーのイメージを一新するシェリ、ただの写真オタクかと思いきや実は深い闇を抱えるテイラーなど、登場人物たちの内面がやはり繊細に、深く描かれている。『13の理由』は、これまで定着していたティーンエイジャーのイメージを爽快なまでに打ち砕いている。

6.メイル・ゲイズ(男性の視点)を見事に回避
これを指摘するのは、わたしが最初ではない。しかし、これはここで改めて特筆すべきことだ。ハンナが「最高の尻」に選ばれるシーンがあるが、ここでハンナの臀部が映されることはない。滑り台から降りてきたハンナをジャスティンが捉え、スカートの中が見えてしまっている画像も、くどくどと話題の中心として扱われることもない(その画像ですら、視聴者にははっきりと見えない)。登場する男性キャラクターたちの視点が排除されている一方で、それに取って代わるかたちで頻繁に出てくるのが被害者であるハンナの視点だ。たとえばタイラーを追ったエピソードでは、カメラを手に不気味な動きを見せるタイラーを、ハンナの視点から浮き彫りにしている。タイラーの視点から見たハンナが描かれるのではないのだ。それは、慈悲の心がベースとなる"ジェンダレスの視点"ともいうべきもの。『13の理由』の制作陣たちは、ジェンダーの概念にも繊細なアプローチで迫っている。そしてそれが見事に功を奏している。

7.ハンナがおったトラウマに対する男性の言動の秀逸な描写表現
男子生徒たちが作った"最高"リストの中で「最高の尻」に選ばれたハンナは、大きく動揺する。しかし、クレイはなぜハンナがそこまで動揺するのかを理解できない。そんな彼に対し、ハンナは「あなた、またしても全然わかってないのね」と言い、後には「女になってみないとわからないのよ」とまで言う。ハンナの父親でさえも、その"最高"リストがいじめの一種であることを理解できず、軽はずみなひとことを口にして、妻から同じように釘を刺される。このように『13の理由』では、女性の肉体に向けられる不敬の表現は見逃されることなく、きちんと描かれる。

8.グレッグ・アラキが監督を担当
アメリカ郊外特有の倦怠感を描かせたら右に出るものはないインディ映画監督グレッグ・アラキ。『13の理由』を観ていてクレジットに彼の名前を見つけたファンも少なくないだろう。『ドゥーム・ジェネレーション』や『ミステリアス・スキン』を監督したアラキが、パラマウント制作でNetflix供給の高予算番組を監督するなど、ファンとしては驚きかもしれないが、『13の理由』は、孤独な10代、自傷行為、裏切りなど、これまで監督が約30年間も焦点を当てて描いてきたテーマと共通する世界観を持っている。出演した若手俳優たちの才能あっての成功であることは間違いないが、グレッグ・アラキをはじめとする監督の面々も、『13の理由』成功の要となっている。グレッグ・アラキに喝采をおくりたい。

9.クレイは、視聴者が期待するような善人ではない
ドラマの要となる人物だとこれまで書いてきたハンナだが、彼女と同程度に焦点が当てられるもうひとりの人物がクレイ・ジェンセンだ。同級生たちが一気に聴いたであろうハンナのテープだが、これを一気には聴き進められない、内気なジェンセン役を、『グースバンプス モンスターと秘密の書』のディラン・ミネット(Dylan Minnette)が好演している。ドラマ序盤では無害な男子生徒として描かれ、道徳的視点を視聴者に示す役割を担っているジェンセンだが、ハンナを死に追いやる出来事を目の当たりしていくにつれ、その純粋なイメージはやがて汚れていくこととなる。そして、同級生たちが作ったリストでハンナが「最高の尻」に選ばれていることを知ったときには、ハンナの気持ちに対しあまりに鈍感な反応を見せる。暗いインディ・バンドの音楽を聴いていながら、寝室にはアーケイド・ファイアやザ・シンズのポスターを貼っているような好青年は、絶対に信用してはならないのだ。

10.真実は複雑——誰も信用できない
『13の理由』は、観る者の推理を巧みに裏切り続ける。ハンナを中心として描かれる物語ではあるものの、当のハンナが真実を語っているとも限らない。ハンナも嘘をついている。彼女をナレーターとして物語は進むわけだが、彼女の言葉もまた信用できないのだ。あるいは、ハンナの記憶が曖昧で流動的なのかもしれない。心を込めて書いた手紙をザックが捨ててしまったとハンナは訴えるが、ザックはその手紙をハンナの死後も保持しており、クレイに証拠として見せまでする。クレイがハンナの嘘に気づくのは、クレイに関するテープをようやく聴いたとき——そこに浮かび上がる真実は、出来事には関連した人の数だけ、異なる真実があるということ。『13の理由』で登場人物それぞれの真実を紐解いていくのは、クリスマス・ツリーからライトを取り外していく工程に似ている——ただ、それよりも100倍楽しいという違いはあるが……。

11.ハンナは被害者だが、物語は彼女の悲劇を主題として進んでいかない
鬱を主題としてテレビドラマを制作する際、よく見られる間違いは、それをあまりにも浅く描いてしまうという点だ。鏡を前に涙と鼻水でティッシュをビショビショにしたり、ベッドに横になって天井を見つめながらREMの「Everybody Hurts」を聴いたりするシーンが出てくるような、とにかく浅い描写と理解が横行している。回想シーンに見るハンナに、負のスパイラルへと転落していく姿を期待してしまうものも少なくないだろうが、彼女を取り巻く人物たちにとって、ハンナはあくまでも普通の女の子でしかない。微笑みも見せれば、大笑いもする。そこに浮かび上がるのは、「問題は、起こっていても表面にはあらわれないことが多い」という真実だ。『13の理由』は、ありきたりな描写を避けながら、そういった微妙な真実を探っている。

12.「近くにKFCでもあるのかな? チキン(臆病者)の匂いがする」
脚本がとにかく素晴らしい。名言ともいうべきセリフも連発される。そのうちのひとつが、「Is there a KFC around? Coz I smell chicken.(近くにKFCでもあるのかな? チキンの匂いがする)」。もはや破れかぶれになったジェシカが言うセリフだが、聞いた途端に誰もがその素晴らしさに気づく。打ち捨てられたショッピングモールの壁を前に、友達のひとりが怖気づいて「わたしは帰る」などと言い出せば、きっとあなたはこのセリフを口にしてしまうに違いない。素晴らしいセリフというものは、そういう感化の力を持つものだ。

13.不気味きわまりないトニーの存在
自慢の赤いムスタングをいじるか、そうでなければ、心配げな表情でクレイについて回るかしているトニーは、とにかく不思議な存在感を放っている。「役に立たないヨーダ」とクレイが呼ぶトニーだが、彼にもまた隠された部分がある。妹に手を出した男には、「それが俺の住む地域での正義」として暴行をもって思い知らせる。学校ではさらにミステリアスで、まるで留年を繰り返した生徒のように、周囲から浮いている。そしてあの髪——真っ黒の髪が撫で付けられているそのさまは、レゴで組み立てたように浮世離れしている。なんとも言い難いキャラクターだが、愛さずにいられない存在感を放っている。

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Credits


Text Oliver Lunn
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.