image from i-D Japan No.5. NANA WEARS ALL CLOTHING MARINE CERRE.

写真への情熱:ハーリー・ウィアー interview

『i-D Japan no.5』の表紙で小松菜奈を撮り下ろした写真家ハーリー・ウィアー。いまファッション写真界で最も注目を集める彼女が、画家を目指した学生時代、紛争地帯を撮り続ける理由、写真に対する情熱を再熱させた“壁”について語る。

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apr 17 2018, 6:18am

image from i-D Japan No.5. NANA WEARS ALL CLOTHING MARINE CERRE.

イギリス出身の写真家、ハーリー・ウィアー。ドキュメンタリーとシュールさを融合させた独自の作風で数々のファッションブランドや雑誌の撮影を行ない、いまやファッション業界で彼女の存在を知らない人はいないだろう。若干17歳で『VICE magazine』からピックアップされたことをきっかけに、その後、飛ぶ鳥を落とす勢いで『POP』『Self Service』の表紙をはじめとするファッション雑誌はもちろんのこと、BALENCIAGAやCELINEなどのキャンペーンやルックブックを手がけてきた。ロンドンの若手ブランドGrace Wales Bonnerとは2017年「PRACTICE」というショートフィルムを制作。またクライアントワークだけに限らず、イギリス出版社〈Loose Joints〉から2016年に『Homes』、2017年には『Paintings』というパーソナルワークを集めた写真集を刊行している。これまで積み上げられたキャリアを物語るように、インタビューでは迷いのない芯の通った考えと言葉がすらすらと口から出てくる。ファッションフォトグラファーとして名を馳せる彼女だが、その独特のテクスチャーと審美眼の根底には画家になりたかった想いや好きなことにとことん取り組むパッションがあることを教えてくれた。

Practice: A film by Grace Wales Bonner and Harley Weir

——セントラル・セント・マーチンズではファインアートを専攻していたそうですが、当時からフォトグラファーを目指していたのでしょうか?
入学当時はアーティストや女優になることに興味があったので、フォトグラファーになることなんて考えてもみなかったです。でも入学後に、ペイントなどを用いたアーティストとしての自分のスキルにやる気をなくしてしまって。それで在学中に撮影していた写真をFlickerにポストしていたら、雑誌社から「ファッションシューティング興味あるかい?」と連絡をもらったんです。「もちろんぜひ!」と返事をしてから、その延長線のまま今に至るという感じです。

——最初のオファーを覚えていますか?
たしか『VICE magazine』からでした。ポジフィルムで友人たちをビーチで撮影した作品です。17歳くらいの頃だから、もう12年前のことですね。まだ残っているのかわかりませんが(笑)。

——あなたの写真を観ていると絵画やペインティングからテクスチャーや構図の影響を受けているように感じます。
おそらくペインターになりたかった昔の想いが影響しているんだと思います。でも在学中にペイントの授業を受けても全然うまくいかなくて。フォトリアリズムに挑戦したかったのですが、現実は残念なことにまったくしょうに合わなかったんです。目の前にある風景と完全に同じ風景を描きたくても、スキルとして難しくて。そこでたまたま絵の資料として写真を撮っていたところ、フォトリアリズムの思考から意外と写真の方が自分に向いているかもしれないと気付き始めました。そういうふうに元々アート自体はとても好きですし、ペインティングへの興味もあったことがいまの写真にも表れているのかもしれません。

——ペインティングから写真に興味を持った後は、どのように写真を勉強したのでしょうか?
在学中にフォトグラフィーコースを選択するようになり、とにかく頻繁に暗室を使ってました。特に誰かのアシスタントとして従事した経験はないまま、Flickerから広がって仕事をもらうようになったので、撮影を重ねながら自分で勉強していきました。

——ファッションフォトグラファーとして活躍していますが、パーソナルワークでは国境紛争地帯の写真を撮り続けているそうですね。その両方のバランスから、報道写真のようなドキュメンタリーさだけではなくシュールさも感じられるように思います。
そのとおり! 他の人と異なる視点でものごとを捉えるのが好きなので、いつも私の作品はシュールと関係しています。そして若い頃は戦場カメラマンにも興味があったので、シュールだけではなくドキュメンタリーの要素も必要不可欠なのです。一般的に紛争地帯を撮った典型的な写真といえば、非人間的な見方で悲しげな表情の人々だけを写していますよね。でも私の写真では、それらの瞬間以外のもっと人間のポジティブな部分を撮影するようにしています。カラフルな報道写真なんてあまりみたことないと思いますが、それこそ私の写真でできることだと思っています。なぜなら、人々はどんなに大変な状況においても強い生命力を持っていると感じるので。

——これまでどこの紛争地帯を撮影してきたのでしょうか?
2012年に「Boundaries」というプロジェクト名のもと、イスラエルとパキスタンの戦争地帯に初めて行きました。なんでこんなに人々が強い独占欲を持っているのか全く理解できないほどで、本当にショックでした。他にもアブハジア紛争の国境線も撮影し、2016年には「Calais」というプロジェクト名のもとフランスのカレーからイギリスに入国しようとする難民たちを記録しました。そうやって私が伝えるべきことを続けるのは大切なことだと思っています。

——Instagramにポストしているゴミの写真もなにか社会的な問題を伝えているのでしょうか?
実は2015年頃にInstagramを始めた当初は、私のアカウントにはゴミの写真しかポストされていませんでした。でもあるとき、誰かが私のアカウントをハックして、1500枚ものゴミの写真を消してしまったのです! いまはプライベートアカウントでひたすらゴミの写真を更新していて、公式アカウントでは昔に撮ったゴミの写真を再度アップしています。これらは、消費についての個人的な興味から撮り始めたプロジェクトです。1日でどれだけのパッケージやビニール袋が消費されているのか考えただけで悲しくなります。ビニール袋がリサイクルされないことを人々は簡単に忘れてエコバックを使わないし、ペットボトルも同じように魔法瓶を持ち歩けばいいのにと思ったりします。そういう私が日々感じていることをInstagramにポストすることも私の役目として大切だと思っています。

——お話を聞いている限り、ハーリーさんの本質的な興味は社会的な問題にあるように思います。
そうですね。周りの人からしたらInstagramにもっと上品な写真がポストされている方が好ましいかもしれませんが、いまのInstagramの方がしっくりきます。ファッション写真や作品集など様々な入り口から私をフォローしてくれた多くの人々に、少しでも私の考えていることを伝えるべきだと思っています。もちろんあまり過剰すぎない程度に、ですが。

——2018年Loose Jointsから出版した作品集『Paintings』は、どのようなきっかけから制作が始まったのでしょうか?
はじめは全然意図していなかったのですが、ちょうどクライアントワークで多忙な日々を送っていた2014年頃から制作を始めました。毎日ファッション撮影を行うばかりで、人と一緒に仕事をすることがとても辛くなり、最終的に写真をまったく愛せなくなるほどになっていました。私のパッションをすべての仕事に消費されているような感覚になり、もう写真への情熱が死にかけているような状態だったんです。そんなときにたまたま壁の写真を撮り始めたら、写真への情熱が息を吹き返しました。

——壁を撮ることでストレスが発散されていったのですか?
とてもおかしな話なのですが、当時は夢中になって何千枚もの壁を撮っていました。もう1冊、壁の写真集が出版できるくらいに。読者にとっては退屈な内容かもしれませんが、ペインティングされた壁を撮るのが楽しくて仕方なかったです。例えばなにかシューティングを行っているあいだに、それ自体はとてもストレスフルなのですが、どこかで良い壁を見つけると「やばい!」と興奮して写真を撮っていました。もちろん撮影の方が長く続きますが、仕事がどんなにストレスフルでも良い壁をコレクションできたことで、その1日がとてもハッピーに感じられたのです。作品集自体は一見とてもシンプルなのですが、その期間に壁を撮ることで活力が出て、素直に撮影を楽しめる感覚を取り戻していけた思い出が詰まっています。なので、すべての写真がどこの壁かちゃんと覚えています。この2枚は日本で撮った写真。とても日本ぽいでしょ?

——え? そうですかね……(笑)。
だって、国旗の日の丸部分の一部に見えるようなこの形とか。これは魚市場で撮ったもの、これはゴールデン街のクラブで撮った写真。すべて特に色は変えてなくて、すでにこういう色彩でした。それぞれの壁にその国らしさが現れているように思います。

——カットアウトを用いた写真もありましたね。
友人であるアーティストFreya&Tom Donとのコラボレーションです。抽象的に人を写したく、影のように見える人々のかたちを撮影しています。彼とセットデザインを組んで撮影しました。

——この作品集の文字やカバー部分にも使われていますが、あなたの写真にはよくワインレッドのような深みのある赤色が用いられていますよね?
なんとなく一番良い色だと思って使ってしまうんですよね。実際は緑も赤も好きです。赤はパワフルで強い色。血の色でもあるし、パッション、怒り、緊急なことなどに使われている色です。そういうふうに様々な強い意味を包含しています。他の色も意味をもちろん複数持っていますが、赤は特に血や身体に関係する色なので、とても大切な色のように感じます。緑は自然の色なので好きです。といっても、どの色に対しても特に好き嫌いはないです。

——最近興味があることを教えてください。
アートセラピーを行っている友人のクラスに行くこと。母がアートの先生をしていて、私も数年間先生を担当していました。そういう学校があることは大切だと思いますし、実際私も普段学校ではあまりうまくいかなかったけど、アートだけにすごく夢中になれました。自分自身を表現する良い方法だと思うし、障がいのある子どもたちも助けられますよね。喋れない代わりに、アートでなにか表現できると思います。だからこそ、アートセラピーの活動は重要だと思っていて、最近はその友人のクラスによく足を運んでいます。

——実際にその現場を記録したり、撮っている際に改めて思うことなどありますか?
アート作品を作る人々について、ドキュメンティングセッションをしています。クラスにはたくさんの子どもがいて、障がいのある子から年齢問わずなにか精神的な問題を抱えている人たちも通っています。実際にクラスの状況を見ていると、アートが唯一彼らの気持ちを自由にさせているように感じます。段々年をとってくると、とにかく働くことに夢中になって自分自身を解放させるのが難しくなりますよね。でも、そうやって自分の心を解放する、自由に表現することは本質的にとても大事だと思います。その想いも伝えるべく、取り組んでいるプロジェクトです。いずれ写真集として出版したいと思っています。

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