英ラップ界の急先鋒:デイヴ interview

i-D夏号の表紙で出会ったのは、イギリスのラップシーンに新しい風を送り込み、母親の自慢の息子となったストリータム出身の青年だった。

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jun 21 2018, 8:14am

This article originally appeared in i-D's The New Fashion Rebels Issue, no. 352, Summer 2018.

「自宅でのインタビューに遅刻した初めてのラッパーかな?」リビングに入ってきたデイヴは、そう聞いた。着ているのはStone Islandのライラック色のトラックスーツ。壁の色とすごくマッチしている。満面の笑みとハグのプレゼント。デイヴはいい子だ。本当にいい子だ。狂った悪い街の、いい子。
「あの子は素晴らしい子です。知性があり、雄弁で、謙虚。あの子が息子であることを嬉しく思っています」とデイヴの母親は言う。デイヴの兄クリスが描いた自身の肖像画のそばに立ちながら。「デイヴが問題を起こしたことはありません。それどころか、微笑む理由など何もなかったのに、あの子は私を微笑ませてくれた。あきらめたときにも、あの子は希望をくれたんです。一心不乱にのめり込めば、なんだってできるんだって」。デイヴのほうに視線を向けながら、彼女はそう話す。デイヴは窓に寄りかかり、膝の上には母親お手製のチキンとジョロフライスの皿が不安定に乗せられている。「あの子は喜びであり、誇りであり、私のすべてです」

デイヴは3兄弟の末っ子だ。英ブリクストンのスタイルズ・ガーデンズで生まれ、ストリータムの閑静な通りにある、快適でチリひとつないほど清潔に保たれ、寝室が3つあるこの家で育った。2枚のEPーー2016年の「Six Paths」と、2017年に発表された「Game Over」ーーが高評価を受け、MOBO賞を勝ち取り、ブリット・アワードにノミネートされ、ドレイクやギグス、J・ハスらとコラボしたこの19歳の青年の成功は、何ということのない南ロンドンの通りに端を発している。

Dave wears coat Burberry. Trousers Prada. Boxers Calvin Klein.

だが、物事はまったく違う方向に進んでいたかもしれなかった。それは兄たちのためだったのだ。「俺は壊れた家庭の出じゃない/システムが俺の家庭を壊す/今じゃ兄さんたちは染色体みたいにセル(刑務所)に入ってる」。気鋭のラッパーを紹介するYouTubeチャンネル〈Bl@ck Box〉で流れた2015年のフリースタイルで、彼はそうラップしている。デイヴの母親は社会事業や掃除婦、看護師など、いくつも仕事をかけ持ちし、しばしば曲中に登場するデイヴの父親は、デイヴが明かしたくないと話す理由で不在にしている。「母さんにとって、とてもデリケートな話題だから」と彼は言う。「そのことについてはすごく敏感だから。感情的にならずに話せたことなんて一度もない」

不在の父親と、3人の息子が南ロンドンのストリートで育つために必要なものを与えてくれる「思いやりがあり、無私無欲で働き者」の母親のもと、ふたりの兄、クリスとベンの人生の歯車は少しずつ狂いはじめ、刑務所でしばし過ごすようになった。ベンが釈放されたのは、わずか2日前のことだ。クリスは犯罪で生計を立てているが、デイヴはそれについてあまり話さない。「兄貴たちは大好きだけど、ふたりがやっていることは俺や母さん、そのほか俺がやってきたことすべてを語るようなものじゃない」と彼は説明する。そのことはまた、彼がただ“デイヴ”として知られている理由でもあった。兄と結びつけられるので、苗字を公にしたくないと考えているのだ。「たとえ公の目にさらされていなくても、兄貴たちは自分がしたことで磔になるかもしれないしね」

デイヴは兄たちを心から慕っている。ベンが収監されているとき、デイヴはリッチモンド大学(哲学、法律、音楽、倫理学を学んでいた)から往復2時間かけて面会に通ったという。南ロンドン出身のPak-Manが歌う「Diamonds」を聴きながら、ベンが監獄を出る日を、彼が「地に足のついた生活をする」日を夢見て。

デイヴは「こんなこと」が起ころうとは想像だにしていなかった。インスタの40万人フォロワー、YouTubeでの5千万以上の再生回数、有名フェスからの数多のオファー、ドレイクの「More Life」への出演、Nikeの広告、複数の契約の申し出(しかし、インディでいることを好むデイヴは、そのすべてを断っている)。「人生ってやつはナンセンスだよ。ベンにしてみれば、2014年に刑務所送りになって、出てきたら俺たちはいったい何してるんだって話さ。洋服を買いに行くために数千ポンドあげることができるなんて。俺の2枚のEPの周りで起こったことは、考え得るなかでいちばんクレイジーな出来事のひとつだね。もうまったく予測できない。現実世界とのかかわりを失くしちゃったよ」と彼は笑う。そして少しだけ訂正した。「俺は超金持ちで億万長者のプレイボーイってわけじゃない。それに、いつもどれだけの金を稼げるのかはわからない。常に変わるものだからね。そこが音楽の恐ろしくて危険なところさ。明日使えるのは1000ポンドでも、その次の週には1万ポンド稼げるとわかってる。基準がわからないんだ。やるだけやって、それが最高のものになればいいと思ってる。本当に」。家計を助けることで、母親が退職できればと彼はもくろんでいる。だがその望みはかなえられそうもない。「定年までは働き続けたいんです」とデイヴの母親は話す。「定年まで給料をもらうために、途中でやめたくないんです。今54歳ですが、60で定年できればと思います」

ふたりの兄が収監されていることもあり、家族はデイヴもまたストリートに引き込まれることだけはないようにと躍起になった。彼らはデイヴが学校からまっすぐ家に帰ることを確かめ、「俺を規制」し、「家に閉じ込めていた」と彼は思い返す。兄は刑務所から電話をかけ、弟が無事に家に帰ったか確かめていたという。「自由になるのは大変で、友だちと過ごした経験や記憶も少ないんだ。家から出られなかったからね」。ストレスがたまる生活ではあったが、良いこともあった。現在、その元をじゅうぶん取れるだけの良い点だ。11歳のころ、家に閉じ込められていたデイヴはラップを始めた。13歳になると、独学でピアノを弾き始めた。日本のアニメやPCゲーム、映画のサントラにハマった彼は、スティーヴ・ジャブロンスキーやハンス・ジマーに強く影響を受けたという。i-Dを介して、デイヴは2017年ジマーに会っている。それは「超現実的」なことだったそうだ。ジマーもまた、同様に感銘を受けていた。「私はデイヴのファンなんです。私にはできないことをしているから。ですが、私たちには何か共通するものがある。私が得意なことは彼も得意なんです。つまり、哀しげなコードを奏でること。そのシンプルな事実が、私たちを結びつけているのです」

Dave wears shirt Burberry.

彼は今やグレード7のピアニストであり、かなり多作なラッパーとなった。Bl@ck Boxでのデビュー以降、30を超える楽曲、そしてフリースタイルをリリースまたはフィーチャーしている。それは人生を多くの手法で切り取ったもので、女の子や家族、友人、そしてもっとも印象深い政治や社会問題、メンタルについての深い洞察も含まれる。2017年のシングル「Question Time」では、EUについて怒りをあらわにし、NHSへの失望を訴え、トランプの対外政策を批判し、給与格差やグレンフェル・タワーについての回答を求めている。「俺たちが求めているのは、説明責任や透明性だ」と、彼はその日話した。「公的な調査が必要だよ」

アイデアをまとめ上げ、力強い音楽を使った論客として質問を投げかける能力が彼にはある。しかしそれも簡単にはいかないようだ。「難しいよ、責任を感じるからね。俺はごく普通の男だから」と彼は言う。「みんなが注目するような人間じゃないんだ。ストームジーも同じさ。誰もこんなことを求められてる、期待されてると感じるべきじゃないと思う。世界を守るのは俺じゃない。みんなをハッピーにする音楽をつくるのが俺の役目だ。俺はただおもしろいことをやって、音楽をつくろうとしているだけ。そういうことをしようとしている人はみんな、そこに隠された動機があるように見える。でもそんなものないんだ。音楽をつくり、それを楽しむのがすべてさ」。彼は名声が「嫌い」だと話す。「何が現実で何がそうでないかを区別するのは難しい。すごく複雑な世界なんだ。南ロンドン出身で、若いということ。それが……違いなんだ」。どういうふうに? 「なぜなら、なんにでも、誰にでも近いからーーどこにいても、ファンから5分の距離なんだ」

「How I Met My Ex」の話になると、彼は内向的になった。おそらく、彼自身の男性性を分析する羽目にならないようにし、それがどのように元カノに影響するかを考えてのことだろう。「今それを思い返すとすごく恥ずかしい/ひそかに不安に感じていることで、どれほど多くの男が女性の未来を制限してしまっているのだろう」。彼は柔軟な作詞家だ。どんな題材にも、密度のあるアプローチをする。女の子についてのラップをしている“だけ”なのに。2016年の楽曲「Two Birds, No Stones」を例に挙げてみよう。「女の子たちは俺の成功につられてやってくる/もう彼女たちの賞賛もほめ言葉も信じない/不安な気持ちは心の内に隠そう……だけど俺自身を愛してくれているんじゃないってことがどれほど苦しいかわかるかい?」

>彼はニヤリと笑ってこう言った。「その日はちょっと感情的だったんだろうな」と、歌詞を一蹴する。「でも女の子に限ったことじゃない。すべてがもっと大きなことの一部分なんだ。世間の目にさらされていると、すべての人の真意を疑うようになる。その人が本当に友達になりたいと思っているのか、それとも、3日以内に何かを頼みたいと思っているからなのか」。だが彼はそれほど気にしていないようだ。「自分が世界一人付き合いのいい人間だとは思ってない。だから、自分に大きな影響を及ぼしそうな人とはほとんど付き合わないんだ」。肝心なのは、軽い題材においてさえも、彼の歌詞は厳密であるということだ。その強さは、ときにかなりの重圧となる。「同じ世代の男たちがトラウマを抱えていることは、秘密ではないようだ/見たままの世界、今いる状況下で生きているのだと想像すれば/今まで書いた曲の中で俺が自分の人生を語りたくないわけがわかるだろう」。EP『Game Over』に収められた9分にわたる名曲「My 19th Birthday」の中で、彼はそうラップしている。「俺のラップの仕方は、すごく会話調なんだ。ゆったりして、フローがないみたいに聴こえるって言われるくらい。でもそれは言葉を際立たせるためなんだ」

Dave wears jacket Burberry. T-Shirt Sunspel. Trousers Prada. Trainers Nike.

「魅力的なキャラだと思う」。2016年からずっと自身の番組でデイヴをサポートしてきたBeats1のDJジュリー・アディヌーガはそう話す。「彼には笑っちゃうような、それでいて重厚なカリスマ性があるの。本番になると、裏表のない歌詞と素晴らしいジョークを、すごく巧みにピアノと融合させるんだから。彼は本当に予測不可能で、私はそこが気に入ってる」。じかに接すると、彼はまじめで、思慮深く、おもしろい。鋭い知性があるのだ。自分の夕飯を母親がマネージャーにあげるとパニックを起こすような普通のティーンにも、非常に成熟した青年にもなれる彼。「俺たちのあいだには、今や友情がある」と、母親との友情について彼は話す。最近リリースされたアルバム『Wamp 2 Dem』でデイヴと組んだギグスは、デイヴのことを「最高に冷たくて、キッズたちとバカやったりはしないやつ。だけどいいやつで、素晴らしい人間でもある。そんなやつめったにいない」と話す。少し前にRoundhouseで行われ、チケットが完売したギグスのライブでは、ふたりでその曲「Peligro」を披露した。デイヴがステージに現れると、オーディエンスは大盛り上がりで、ビールを放り投げ、ラムコークでベタベタになったプラカップをお互いに投げ合ったのだという。

次に控えているのは、今年中にリリースされる予定のデイヴのデビューアルバムだ。今何に取り組んでいるのかを聞きに、私たちは彼の部屋に上がった。プロデュースの仕方、あるいは「100Ms」や「Attitude」で少しかじったものよりよいプロデュース法を勉強しているのだという。彼の部屋はコンパクトで、Harvey NicksやNikeのバッグやボックス、ラップシーンではマストのGucciのバックパック、アップライト式のキーボード、巨大なテレビ、デスクトップPCなどが押し込められていた。彼は4つの曲をかけてくれたが、そのうちひとつは「ラップにおいては自由だが、名声にがんじがらめになっていること」を歌ったものだという。グライムふうのフルート音を入れたことでアジアをしっかりと見据え、別のある曲には仲間のイギリス人ラッパーをフィーチャーしている。ストリータムに関する最後のトラックでは、ラムズやヴァージル・アブローの名前を叫んでおり、「Hangman」を手がけたナナ・ローグスがプロデュースをしている。

Dave wears coat Burberry

最近リリースされた「Hangman」こそ、自分の音楽が目指すものだと彼は考えている。「歌詞も音も、俺が目指しているものができたよ」。通常は「Question Time」や「19th Birthday」などの長めの曲でラップしてきたことを、このトラックでは2~3分に凝縮することができたのだという。「ミュージシャンとして成長するというのは、これまで8分かけて言いたかったことも、2分30秒でシャープかつ深みのあるものにまとめ上げられると知ることなんだ。6つの文章をひとつに縮めることができなければならないけどね」。「Hangman」はまた、1月に刺殺されたモデルのハリー・アゾカについて、同じ月の半ばに彼が書いたいくつかのツイートについても触れている。「職務質問を再開すべきだ」と彼はツイートし、少し考えたのち、すぐにその投稿を削除した。その投稿に多くの批判が寄せられたのだ。「そういうツイートについて自分が何を考えていたのかわからなかった」と、彼は当時を振り返る。「俺が本当に言いたいことと、文字で打ったことのあいだには、確実に食い違いがあった。自分で書いたなかでも、いちばんバカげたことだったよ。俺の発言がこんなにも多くの人に影響し、あんなに広がるなんて……。俺がそれをツイートしたとき、何もかもがすごく生々しかった」。彼はとても後悔していたが、同時にSNSの影響力に憤りも感じてるようだ。「何かをTwitterに上げると、すぐさまそれが自分の意見とされ、一生つきまとうんだ。感情的になって言ったことも、生涯ついて回ることになる。それまで自分のことを説明する必要なんてなかった人たちにまで、自分のことを説明しなければならないんだ」。ハリーのことを彼は心から気の毒に思っている。「彼は今や世界が失ってしまった大いなる希望だった。とても影響力のある人だったから」

Dave wears T-shirt Sunspel.

私たちは午後の半分をともに過ごしたが、デイヴはベンと過ごすためにもう行かなければならくなった。「最近はスタジオにこもっていたから、2~3時間ほどしか会えてなかったからね」。音楽は彼の情熱だ。最善を尽くし、最善になろうと決心している。「暇つぶしに音楽を始めたけど、今では自分の一部になってる。自分を歴史にとどめるためのものなんだ」。階段を下りながら、そう彼は言う。「誰が最高かっていうみんなの会話の中に登場したい。そしてその会話をリードしたいんだ」

Credits


Photography Alasdair McLellan
Styling Max Clark

Hair Matt Mulhall at Streeters. Make-up Ninni Nummela at Streeters using Chanel. Nail technician Lorraine Griffin. Photography assistance Lek Kembery, Simon Mackinlay and Peter Smith. Styling assistance Louis Prier Tisdall. Hair assistance Vimal Chavda. Make-up assistance Shauna Taggart. Production Laura Holmes Production.

Translation Aya Takatsu.

This article originally appeared on i-D UK.