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過去を未来で解釈したMaison Margiela、Dries Van Noten、そしてLanvin

時空を旅するコレクションが相次ぐなか、ブシュラ・ジャラールによる新たなLanvinコレクションが発表された。

by Anders Christian Madsen
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07 October 2016, 12:38pm

Maison Margiela spring/summer 17

クリストファー・ベイリーは今年初旬、作家ヴァージニア・ウルフが書いた『オーランドー』をモチーフとして、自身がクリエイティブディレクターを担当するBurberryで初の「See-it-buy-now」形式のコレクションを開催しようと思い立った。今シーズンのファッションウィークで、多くの観客はまさに『オーランドー』の主人公のごとく、時空を超えて旅をしているように感じた。デザイナーたちは数世紀もの時代を超えて歴史的なモチーフを扱った。派手な装飾ディテールをほどこしたスリーブこそは、今シーズンに見られた唯一のトレンド"ヒント"だった。ここで"ヒント"と敢えて言うのは、今シーズンのコレクションというタイムトラベルにおいて鍵を握るのが「歴史的モチーフに溢れた世界観」という"アンチトレンド"だったからだ。Burberryしかり、J.W.アンダーソンのLoeweに見たルネサンス調スリーブしかり、Erdemの16世紀的解釈の13世紀という世界観しかり、FENDIのロココ調ドレスしかり、またSaint Laurentのトラッシーな80年代調プロムクイーン的美しさもしかりだ。そこへ水曜、ジョン・ガリアーノがMaison Martin Margielaのコレクションで、やはりタイムトラベルへと私たちをいざなってくれた。

Maison Margiela spring/summer 17

それは文字通り、時空を超えた旅だった。モデルはヘッドセットやアンテナを身につけ、何かと交信をするエイリアンさながらだった。まるで未来へ信号を送り、過去からメッセージを受信するように。時間も年齢も性別も関係なく、ガリアーノは歴史からの要素を切り取り、まるで時代のパッチワークともいうべき服を作り出した。ジャンヌダルク調の鎧の胸当てに、丸く膨らんだスリーブ、中世のボールガウンのようなフリル付き胴着、ヴィクトリア朝を思わせるショルダーラインが特徴的な、エメラルドグリーンのシフォンブラウスなどが、エリック・プライズによる「Opus」の鼓舞を煽るようなテクノにのせてランウェイを闊歩した。混じり気のないデジタルな未来感が、ガリアーノの『オーランドー』を、未来の、いや、時空などという概念すらない世界の、未知なる生物へと変身させていた。そんな世界で、ヘッドセットはまるで別世界と現世を繋ぐ魔法の道具のように、どこかシュールな美しさを放っていた。

Maison Margiela spring/summer 17

Maison Margielaのショーを後にした者は、誰もが興奮していた。仕事の領域や役職、ファッションの好みを超えて、皆がひとつのコレクションに元気づけられて会場を後にするなど、稀にしか起こらないことだ。この業界で働くものにとって、ファッション界が進める「See-it-buy-now」形式の未来や、エディターとブロガーが競うファッションウィークの報じ方などの心配事や些末な話題を忘れさせてくれるほどのコレクションというのは、例外中の例外的出来事なのだ。ガリアーノのショーは、その底抜けに楽しく明るい創作によって、時代だけでなく人々をもひとつにした。それこそが、我々ファッション界の人間誰もがいつもショーに求めているものなのだ。Dries Van Notenもまた、独自の世界観で歴史からのモチーフを融合したショーを披露した。コレクションはヴィクトリア朝の陰鬱な世界観を現代の自然志向で解釈したものだった。「より荒々しいものに作り上げようとした。まるで花を摘んで服にあしらうように、切り刻んだヴィクトリア朝の服をデザインにあしらった」とデザイナーのノッテンは語った。

Dries Van Noten spring/summer 17

ホワイトとブラック、麻袋の生地とジャガードなど、対極をなす要素が多く散りばめられたコレクションが、薄暗い照明のランウェイに溢れた。花氷がランウェイを取り囲んでいたが、この氷の彫刻はDries Van Notenが2014年に開催したエキシビション「Inspirations」でも花のセットを手掛けたアーティスト東信による作品で、「生」と「死」という究極の対極のあいだに生まれる力を表現していた。会場にはマドンナの「Frozen」が流れ、その歌詞はヴィクトリア朝的「生の解釈」を歌っているようで、感動的だった。「心が感じるままの世界観だった」とノッテン本人も語っていた。このコレクションで最大の魅力となったのも、やはりヴィクトリア朝のモチーフだった。ブラックのビーズチョーカーや、王子様のようなパフスリーブ、そして死を連想させるレースなどがそれだ。ノッテンは、極悪な視点から作り出すものほど美しい。ノッテンが自身の世界観と歴史上のある時代を融合していたとするならば、ブシュラ・ジャラールは自身の世界観とほかのクリエイティブな世界観を融合して新たなコレクションを作り上げていた。

Dries Van Noten spring/summer 17

アルベール・エルバスが去ったLanvinにクリエイティブ・ディレクターとして就任したジャラール。彼女のデビューコレクションとなるLanvin 2017年春夏コレクションは、先任が築き上げた新Lanvinの世界を改めて解釈し直すという挑戦の結果だった。エルバスの絶大なる個性と、惜しまれながらメゾンを去ったということへの感傷が、すべてのルック、すべての服、すべてのアクセサリーに見てとることができるコレクションとなった。パリのファッション界ではおなじみのジャラールだが、クリエイティブ・ディレクター就任後「エルバスが築き上げたものを打ち崩すようなことも、それを保持することへの周囲の期待に応えることも、する気はない」という姿勢を早々にメゾンLanvinへ示したそうだ。できあがったコレクションは、むしろ「より多くのひとびとにアピールする、単純でエレガントなLanvinを」としてエルバスの世界観を必ずしも最善とは考えていない中国人オーナー、ワン・シャオランの要求を満たしたものだった。ジャラールによるLanvinは、軽く、シルキーで、シフォン使いの美しい、極めて女性的な世界観に仕上がった。そこにはエルバスが頻繁に取り入れたロックンロール・グラマーの要素は見られず、セーヌ川南部のレディに似合いそうな輝くカーディガンやイブニングコートなど、パリ左岸をロマンチックに描いた世界観に終始した。

Lanvin spring/summer 17

ジャラールは、ショーのバックステージで「自分をLanvinに押し付けるのではなく、Lanvinを自分に当てはめて考えてみた」と通訳を通して語った。さりげなく、エモーショナルで、そして知的——これが彼女の作り出そうとした新たなLanvinで、今後のLanvin女性像となっていく。彼女が思い描くLanvinの未来は、危険な香りに覗くグラマーではなく、あくまでも礼儀正しいなかに滲むグラマーであり、それをサーシャPやグィネヴィア・ヴァン・シーナス、ジョーダン・ダン、カーリー・クロスら現在のファッション界で最も有名なモデルたちがランウェイ上で体現した。キャスティングには相当の予算を割いたことだろう。パリ・ファッションウィーク2日目となるこの日、ジャラールが他の多くのデザイナーのように歴史への旅へと出ていたとすれば、それはこのショーの会場ともなったパリ市庁舎オテル・ド・ヴィルで19世紀にも20世紀にも見られたボールルームの世界だっただろう。

Lanvin spring/summer 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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