カール・ラガーフェルド、分裂した世界をCHANELで繋ぐ

Chanelの2017年春夏コレクション発表の場となったグラン・パレには、巨大サーバーを模したセットが組まれていた。カール・ラガーフェルドが今シーズンのコレクションで見せた世界とは——

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okt 13 2016, 6:17am

ローテク vs. ハイテク——この議論が巻き起こった今シーズン。かのカール・ラガーフェルドですら、そんな確執を予見できていなかったはずだ。しかし、今シーズンのChanelコレクション会場となったグラン・パレへと入った私たちは驚かされた。そこには、壁一面コードやチップが張り巡らされたセットがお目見え。ミラノでのショーを見終わった『Vogue』誌のエディターは、ミラノ・ファッションウィークの総括記事の中で、インフルエンサーたちが業界に対して持つ影響力の急激な拡大について触れていた。「ブロガーたちよ:PR会社からお金をもらって全身をブランドの服で固め、1時間後にはまた他のPR会社からお金をもらって他のブランドの服に着替え——一刻も早くそんな生業は捨て、どうか他の仕事を見つけなさい。あなたたちのしていることは、ファッションスタイルを死へと追いやっているも同様です」と、同誌クリエイティブ・デジタル・ディレクターのサリー・シンガー(Sally Singer)は警鐘を鳴らす。「プロのブロガーを気取る素人たちと、それを煽り群がる素人ストリートフォトグラファーたちの滑稽さたるや——なんとかしてストリートフォトグラファーたちに見初められようと、車に轢かれそうになりながらもショー会場の周りを行ったり来たりする女の子たちの哀れな姿たるや」と、同誌の批評家サラ・モーア(Sarah Mower)も同様に批評している。これら発言に対し、インフルエンサーたちはソーシャルメディアを通じ、いかに自分たちが業界において影響力を持っているかを示しながら、自らの立場を主張。『Daily Mail』や『Guardian』など大手メディアもこれを「抗争」として大々的に取り上げ、ことは必要以上に大きくなった。騒動は収束へと向かったものの、この議論は依然として問題を残したままだ——紙媒体やデジタルプラットフォームが持つ既成価値と、独自のルールでファッション業界の"いいとこ取り"をしているだけのように見えるブロガーやインフルエンサーなど新たな勢力は、今後どう共存していけば良いのだろうか?

Chanelがデジタルをモチーフにショーを行なったのは、その点でとても興味深い動きだった。カール・ラガーフェルドは、83歳にして今なおファッション業界でもっとも洞察力に優れたデザイナーであり続け、コレクションやショーを通してファッション業界の現状への視点と姿勢を示し続けている。今回のショーでラガーフェルドは、もっともアナログな服ともいえるランジェリーからの要素を、それとは対照的なハイテク素材に織り込むことで、Chanelの服をサーバー構造のように見せた。このコレクションが制作されたのは、『Vogue』とブロガーたちの論争が勃発する数ヶ月も前のことだったはずだが、現在も続くそのファッション業界内の確執を見事に表現していた。今シーズン、もうひとつの大きな話題となっているのが、『British Vogue』の制作現場を追って同じくエディターとインフルエンサーの確執を浮き彫りにしたドキュメンタリー『Absolutely Fashion』だが、ラガーフェルドもこれを観ていたのかもしれない。表紙にどのケイト・モスの写真を採用するかをエディトリアルのチームが議論するシーンが業界で話題となった——編集長がおとなしめの写真を選ぶ一方で、アレキサンドラ・シュルマン(Alexandra Shulman)率いるチームはより挑発的な写真を選ぶが、これをボスである編集長は却下。出版元コンデナスト社の幹部も軒並み編集長と同じくよりリスクの少ない写真を選び、編集長の目が正しいことを証明する形に落ち着くのだ。このシーンとまったく同じことが、ファッション界の新旧勢力の間で起こっているのかもしれない。商業的にもエディトリアル的にも相当の威厳を死守したい業界だが、時代の流れに逆らうわけにもいかない——それが今という時代なのだ。

ラガーフェルドは、これまで一貫して未来を信じてきた。未来なしにファッションは存在しえないからだ。しかし、知識も先見の明も兼ね備えたラガーフェルドは、ただ新しいものを闇雲に追ったりもしない。「エチケットがあるからこそ、社会がより暮らしやすい場所になる」とかつてラガーフェルドは言った。それこそが、ファッションという巨大サーバーにおいて新旧を繋ぐ要素なのかもしれない。ファッションの世界はどんな者にでも寛容であるべきだと、誰もが願っている。誰も阻害されない世界だからこそ、そこには新しいアイデアが生まれ、ファッションが生き続けることができるのだ。しかしながら、ファッションの長い歴史を作り出してきた古い価値観への敬意は忘れてはならないだろう。古い価値観が長い歳月をかけて育んできたファッション界こそが、インフルエンサーたちに自らを顕示できるプラットフォームを与え、また影響力を持ち続けてきた雑誌の表紙やコンテンツについて——いつでも意見が採用されるわけではないにしても——議論するチャンスを若手エディターたちに与えているのだ。ちなみに、モーアとシンガーをはじめ、ミラノ・ファッションウィークの総括記事を書いたアメリカ『Vogue』のエディターたちは、実際のところ誰よりも未来を強く信じている。若い才能を積極的に取り入れ、新たな世代を育むことに自らのキャリアを捧げてきた人たちだ。そんな人たちが、自らのエゴでファッション業界の旧体制を死守するためだけにあのような発言をするわけがない。彼女たちはラガーフェルド同様、「ファッションという巨大サーバー内でチップやワイアが適切に接続されていなければファッション界の新旧体制のつながりなど実現できっこない」とよく理解しているのだ。あまりに容量の大きいデータをいっぺんに送信しようとすれば、システムはダウンする——そういうことなのだ。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.