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今こそ、ゲイプライドを

オーランドで起こったゲイクラブ襲撃乱射事件は、ホモフォビアとの戰いが終わっていないことを世に知らしめ、同時に私たちが団結して戦いを続けなければいけないことを明らかにした。

by Jacob Hall
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15 June 2016, 11:05am

"若い頃に経験した最高の夜"を思い出してみると、そのほとんどがゲイクラブでのものだ。世界中のクィアキッズがそうであるように、私もまた社会に渦巻く偏見から逃げるための場所としてゲイクラブに出入りしていた。そこでは、世間の目から解放されて、自由に体を動かすことができたし、数え切れないほどの同志たちに出会うことができた。クラブは、文字どおり多くの人々の命を救うことができる"受容の聖域"なのだ。しかし先日、聖域は奪われてしまった。29歳のオマール・マティーンが、できるだけ多くの同性愛者を殺害することを固く誓い、フロリダ州オーランドのクラブPulseへと足を踏み入れた。計画は成功した。50人の命が奪われ、そして53人が負傷した。これはアメリカ史上最悪の乱射事件となり、また911以来、アメリカが見た最も残虐なテロ事件となった。ISISがAmaq News Agencyを通して事件関与の声明を発表しており、マティーンが事前に電話でISISへの忠誠を誓っていたとの情報もある。なんにせよ、ここで明確なのは、この大量殺人の背景にあるのが憎しみに他ならないということだ。

何よりも驚かされるのは、大手メディアがこの事件を「ヘイトクライムである」と報道することに消極的な現状だ。イギリスのコラムニスト、オーウェン・ジョーンズ(Owen Jones)は、イギリスのメルチメディアニュース専門局Sky Newsでの新聞批評セッションで、自分が報道のいけにえになっていることに気づいた。ジョーンズはその際、イギリス国内の新聞が揃って今回の事件の本質をすり替えていると指摘した。「LGBTに対する残虐行為として歴史上、類を見ない事件だ」と言ったジョーンズに対し、「これをパリでのテロよりも酷いなどとは言えないはずで、とするとこれは人類全体に対して向けられた残虐行為ということだ」という反論が出たのだ。ジョーンズはこの状況に苛立ち、「君たちはゲイじゃないから解らないんだ」とまで発言した——ジョーンズのこの思いは、現在インターネットで広く叫ばれているのと同じものだ。記者ローラ・オコロージー(Lola Okolosie)は、「"人類全体に対しての"という論調は、私が個人として直面させられ続けてきた問題をなかったことのように扱われていると感じるし、単に"黙れ"とLGBTを圧しているようなもの」と、この議論の問題を的確に言い表している。世界のLGBT活動家にとって、この議論は彼らの苦難を無視するような、大きな平手打ちなのだ。

"クィアネスを祝福することが依然として大いなる勇気の行動であり、その祝福こそが、世の中にいまだに残っている偏見に対する決定的な"Fuck you"であり、メッセージなのだ"

議論をするまでもなく、今回の事件は特定の少数派コミュニティをターゲットにした攻撃行為だ。その点を報道で無視すること(マスメディアが軒並みそうしたように)は、"検閲行為"とも言えるだろう。そして、それはゲイコミュニティを現状よりも深く傷つけることにもつながる。オーランドの事件発生から数時間後、次はロスサンゼルスで、銃や爆破物をもってLAプライドイベント襲撃を計画していた男が逮捕された。多くのLGBTにとって、これはクィアの人間が依然として殺害の標的となっていることを再確認させられた出来事だった。セクシュアリティだけを理由に自分たちは見ず知らずの人々から「殺したい」と思われてしまうのだ、と再認識させられたからだ。しかし同時に、今回の大量虐殺はプライドパレードという祝福の祭典の存在意義をさらに深めることとなった。先日、Matador Networkはストレートの同志たちに、「LGBTが最初に起こしたプライドイベントは、警察との衝突だった」とその歴史を紹介し、イベントの意義が「私たちLGBTが勝ち取ってきたものを祝い、失くした命を悼む」ことにあるのだと説明した。この言葉が世界に発信された3日後にオーランドの事件は起こった。そして、Matador Networkの言葉は今、より意味を持って心に響く。クィアネスを祝福することが依然として大いなる勇気の行動であり、その祝福こそが、世の中にいまだに残っている偏見に対する決定的な"Fuck you"であり、メッセージなのだ。今年、これまで開催されてきたゲイプライドのイベントは、そのほとんどが"クィアという存在が一般化したか"に焦点を当てていた。真の平等への闘いがようやく終わりに近づいているとわたしたちは信じて疑わなかったのだ。

#PrayForParisや#PrayForBeirutなど、私たちはこれまでに幾度となくテロの犠牲者へ追悼の意を捧げてきた。そして今また、#PrayForOrlandoという団結の動きが世界に広まっている。インターネットで世界に哀悼の輪が広がるのを見れば、もちろん心温まらないわけがない。しかし、ここで忘れてはならないのは、そのような支援の声をどう形にしていけば良いのか、祈るだけで本当に十分なのかということだ。ライターでもあり活動家でもあるトランスジェンダーのパリス・リーズ(Paris Lees)は、問題のひとつとして、銃にまつわる法律を指摘した。彼女はTwitterで「他の国でもこのような事件は起こる。でも、国内で起きたこうした事件を受けてイギリスの首相がスピーチをした回数は1回、対するオバマはすでに17回」とツイートした。冷淡すぎる物言いかもしれないが、彼女が示したポイントは重要だろう。今回のような事件はアメリカで頻発しており、あまりに乏しい銃規制の体制がその問題の核をなしているのは明らかだ。アメリカの人口は世界人口全体の4.4%を占める。しかし現在、世界で一般市民が持つ銃の約半分はアメリカ国内のものなのだ。イギリスで起こった銃による大量虐殺の事件は、1849年から数えて7回。アメリカではこの一週間で、7件以上の銃乱射事件が起こっている。何かが変わらねばならない。

"大手メディアが、今回の事件で特定のターゲットとなった同性愛者の声を無視しようと積極的に動いた"

いま忘れてはならないのは、この暴力との戦いに必要なのが私たちの団結だということだ。間違っても、憎しみであってはならない。今回の事件が、アメリカ大統領選でドナルド・トランプの反イスラム姿勢を後押ししてしまうと危惧する声は大きい。『ゲイの活動家だが、オーランドの事件を受けてトランプに投票しようと思った』と題された記事がアップされて急速な拡散が見られたが、ここできちんと留意しておくべき問題は、トランプは自ら公言する差別主義者であり、トランプ支持にまわるということは、巡りめぐって恐怖と反同性愛、反イスラムを支持することになるということだ。先日、ある記事がネット上に投稿された。怒涛のごとく浴びせかけられるであろう暴力的行為を覚悟して書かれたこの記事には、同性愛イスラム教徒たちが今感じている恐怖が見事に捉えられている。サムラ・ハビブ(Samra Habib)は『クィアのイスラム教徒は存在する……そして私たちも悲しんでいる』と題された記事で、イスラム教徒でありながらも同時にLGBTの活動家でもある彼らが、今いかにテロリストの行為について繰り返し謝罪を行っている。また「イスラム教が目指すのは平和であり、だからこそ、日常をひたむきに生きている罪のないイスラム教徒がこの事件の余波に苦しめられることのないよう、世界に訴えかける」という二重のタスクを課せられている彼女たちの難しい立場も伺える。いうまでもないが、彼らが謝罪をする責任などない。今回の事件はイスラム教という宗教が引き起こしたものではないからだ。あるイスラム教徒の行動が、"宗教自体とその教徒全員が疑いの目で見られてしまう状況を作った"という関係性を見逃してはならないだろう。この事件の前にトランプを支持していなかった人は、今回の事件を支持変更の理由にしてはならない。それは恐怖に駆り立てられた行動でしかないのだから。

今回の事件は、いくつかの現実を浮き彫りにした。そしてそのどれもが目を背けたくなるようなものばかりだ。大手メディアが、今回の事件で特定のターゲットとなった同性愛者の声を無視しようと積極的に動いたというのはそのひとつ。犠牲者の扱いにも、矛盾が見られた——重傷を負っている犠牲者たちが輸血を必要としているにもかかわらず、過去12ヶ月間をまったく性的接触なく過ごした場合を除き、ゲイやバイセクシュアルの献血は法律で禁じられているのだ。もちろん、献血以外にも支援の方法はある。GoFundMeではすでに犠牲者やその家族のために100万ドルの義援金が集まっており、また世界中で追悼式が行われるなど、人びとの団結が見られる。ロンドンのソーホーでも、追悼式が計画されている。性的マイノリティが今できる最も重要なことは、恐怖に屈することなく、自分を生き続けるということ。銃規制の法律はもちろん見直されなければならないし、性的マイノリティの声は何としても世界に聞いてもらわねばならない。「これは人類全体の」という論調で語りたがるストレートのジャーナリストたちがいようが、わたしたちはそれを論破してでも、その声を世界に轟かせなければならないのだ。そして大統領選でドナルド・トランプに、たった1人のホモフォビックな男が引き起こしたこの事件を利用させてはならない。性的マイノリティたちが起こした最初のプライド行動は、警察を相手にした暴動だった。それから40年を経た今、プライドパレードなどのイベントは、衝突や事件などほぼ起こらない、安全で国際的なイベントになっている。今ある同性愛受容の社会は、ストーンウォール時代の活動家たちの勇気と献身なくしてありえない。私たちは、彼らのおかげで、彼らよりもずっと恵まれた時代を生きているのだ。しかし、危険を冒して戦ってきた彼らのためにも、同性愛に対する憎悪がいまだにこの世に存在し、私たちの戦いはまだ終わっていないのだということを改めて認識しなければならない。私はそう思うのだ。

Credits


Text Jacob Hall
Photography Benjamin Alexander Huseby 
Styling Thom Murphy
Hair Justin Fieldgate using Bumble and Bumble
Styling assistance Leeds
Models Adam and Richard
The Youth Issue, No. 271, November 2006
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.