日本のサイケシーンを牽引する幾何学模様

最新アルバム『House In The Tall Grass』をリリースした幾何学模様。卓越した技術を持ちながらも気さくな彼らに、ドラッグカルチャー不在の日本、東京ミュージックシーン、そして髪を切るサイクルについて聞いた。

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28 July 2016, 12:45pm

1960-70年代の日本で、サイケデリックは絶大な人気を博していた。サウンドからスタイルに至るまで、すべてを西洋のバンドから拝借し、アイデアこそはサイケデリックを完全に再現していたものの、日本には、実際にサイケデリックの世界を体験するための肝心な"クスリ"が欠如していた。数十年を経た今、70年代ロックからフォーク、クラウトロック、クラシック・インディアンなど幅広い音楽要素を詰め込んだバンド、幾何学模様(Kikagaku Moyo)が日本に誕生した。卓越した技術を持つミュージシャン5人からなるこのバンドは、心も体も解放する超常的音楽を作り出している。ツアーの一環でロンドンを訪れていた彼らのうち、フロントマンのトモユキ・カツラダとドラムのゴウ・クロサワに、リンゴを食べながら話を聞いた。

はじめまして、幾何学模様! 現在はツアーの真っ只中ですが、あなた方の音楽に最も良い反応を見せた国はどこでしたか?
ゴウ・クロサワ(以下G:アメリカはクレージーでした。観客が酔って興奮しすぎてて、誰も音楽なんて聴いていない感じで。
トモユキ・カツラダ(以下T:日本ではその正反対だもんね。
G:日本では、演奏中には喋っちゃいけないっていう暗黙の了解があるんです。音楽を聴いてくれているのは嬉しいわけですけど、でもその分緊張もしてしまうんですよね。
T:そう、審査されてるみたいでね。"良い"とか"つまらない"とか、「ツイートされてるんじゃないか」って気になっちゃうよね。
G:でもヨーロッパはまた違った感じで……イギリスでプレイするのは楽しいです。ロックンロール文化があるからかもしれないですね。

今日、東京のサイケデリックシーンはどうなっているのでしょう?
G:すごく小さいですね。
T:そうだね。サイケデリックバンドが少ないっていうのが現状だよね……僕たちと、アシッド・マザーズ・テンプル(Acid Mothers Temple)みたいな上の世代のバンドだけという感じ。若い世代だと、南ドイツ(Minami Deutsche)がいるね。

南ドイツは、あなたたちのレーベル、Guruguru Brainに所属しているバンドですよね? ということは、あなたたちは気に入ったバンドと契約して音楽を作らせることで、シーンをキュレーションしているようなものなのでしょうか?
T:まさにそう! 日本だけでなく、他のアジア諸国のバンドにも目を向けていますよ。世界にはまだ、チャンスを与えられてないだけで、素晴らしいバンドや作品がたくさんあるんだなと思う。

レーベルについてもう少し、お聞かせください。
G:アジアの音楽シーンに特化しています。僕たちも他のアジアのバンドも、アメリカやヨーロッパのレーベルと契約を結べるということが"成功"と考える風潮はありました。でも、それはそういったレーベルが持つ市場がメインストリームだからなわけで、「そろそろ自分たちでやるべき時なんじゃないか」と思ったんですよね。
T:僕たちがバンドとしてアメリカやヨーロッパをツアーで回って、たくさんの人たちと出会って、自分たちの音楽を世界中で届ける。そうすることで、他のバンドたちが後に続くことができる道を作っていきたいんだよね。

サイケデリアのスタイルは、出身地によって違ってくるものでしょうか?
G:もちろん。東京と大阪でも違いますよ。大阪のバンドはよりクレージーでイっちゃっていて、トガっている印象があります。東京はもっとおとなしいよね。

どうしてなのでしょう?
G:大阪には、こう、独特の精神とプライドみたいなものがあるんです。大阪は二番目の大都市で、だから「ふざけんな東京!」みたいなところがあるんです。
T:だから、個性を打ち出すために違うスタイルを確立していったんだと思います。
G:大阪の人たちには、東京の人間が流行を気にしていて、カッコつけているって見えるみたいでね。そう、大阪の音楽シーンはすごくいいんですよ。

サイケデリックの音楽シーンとは切っても切り離せない関係にあるドラッグですが、日本にはドラッグカルチャーがないにもかかわらず大きなサイケデリックシーンがあったというのは面白いですね。
G:うん、ヨーロッパやアメリカほどの規模じゃなかったということですね。日本人は子供の頃からアメリカやイギリスの音楽を聴いて育っていて、60年代のサイケデリックカルチャーやヒッピー・ムーブメントについてもよく知っているんです。日本にも同じようにそうしたカルチャーやムーブメントが巻き起こったんですが、イデオロギー云々ではなく、スタイルを取り入れていただけなんだと思うんです。アメリカはベトナム戦争を体験してきた。一方の日本は戦争もなく平和な国だった。なのに今、僕たちはあたかも自分たちもそんな状況の中でバンドの音楽に心酔した実体験があるかのような感覚があって、ドラッグも使っているような錯覚に陥ったりする。でもそんな実体験はないわけで、じゃあどうするかと考える。僕たち日本人は、何というか、"限界"というものを知らないから、音楽でやりたいことをとことんまでやり切るんですよね。ドラッグがキマッた状態でプレイする感覚を知らないから。
T:そう、想像でやってるんだよね。
G:60年代のサイケデリックバンドが色んな楽器を使ったり、色んなジャンルをミックスして、時には朗読を織り交ぜたりする——ヘビーでフォークなスタイルを融合させる、自由な発想の音作りが好きなんです。

数年前、Tokyo Psych Fest(東京サイケフェス)を立ち上げましたね?
G:そう、アメリカから帰ってバンドを始めた時、僕たちが参加できるようなものがなくて。それで、自分たちのイベントを作り上げて、同じ感覚を持ったバンドと交流したいと思ったんです。でも、見に来てくれた観客はほとんどが外国人か上の世代の人たちばかり。若い世代はそれほど興味を示してくれなかった。だからこそ、僕たちがLiverpool Psych Fest(リバプール・サイケ・フェス)でステージに上がれるわけですけどね。

人々の関心は高まってきていると感じますか?
T:うん、感じるよね、少しずつだけど。
G:日本は音楽のトレンドが少し遅れてるから、例えばヨーロッパでサイケデリック人気が衰えると日本で人気が出たりするんです。だからその時は日本に来てライブをやってくださいね!

日本の音楽業界はあなたたちをどう捉えているのでしょうか?
G:日本ではそれほどライブをやってこなかったので、中には僕たちが外国人バンドだと思ってるひともいるほどです。海外へ出てツアーをするというのは自然な流れでした。東京ではライブをするにも自分たちでお金を払わなきゃならないしね。

ライブするために、出演バンドがお金を払わなきゃならないんですか!?
T:そうなんです。東京って外国とシステムがまったく違う。無名のバンドをブッキングするプロモーターがいない。
G:まあでも、金を自分たちが支払うということは、自分たちがプレイしたいものを好きなところでプレイできるから利点でもありますね。
T:だからこそ僕たちが実験的な良質の音楽を作れているのかもしれないよね。プロモーターにとって、極端なバンドのイベントを作り上げるっていうのは大変だろうから。

生で東京のサイケデリックミュージックを聴きたいというひとは、どこに行けば良いでしょうか?
G:都心からは少し離れた高円寺にDOMというリハーサルスタジオがあって、1,000円前後でショーが観れるから、安いし、オススメです。
T:東京では、無名バンドのローカルなライブであっても、2,500円とか取るもんね。本当に高い。だから友達以外、誰も行かないんだ!
G:ライブ自体まったく行かないっていう人も多いよね。

イギリスとは全く違うカルチャーなんですね。現時点で最も大きな影響を挙げるとすると?
T:映画だね。映画大好き。うちのベーシストとよく映画を観るんだ。

どんな映画ですか?
T:B級映画とか、C級のSF映画とか。最近まで60年代の実験的なアート映画を観ていたんだけど、飽きたんだよね。なんか退屈だなって。それで今は、80年代のファンタジー映画を観始めたんだけど、ぶっ飛んでるよね。色んな展開があるけど、なんでそんなことが起こるのかなんの説明もない。衣装は全部ハンドメイドで、変な生き物もたくさん出てきたりしてね。『ネバーエンディング・ストーリー』とか、ああいう有名な映画ね。出来の悪いファンタジー映画、最高だと思う。

あなたたちの音楽が映画のサウンドトラックになるとしたら、どの映画にピッタリだと思いますか?
T:セルゲイ・パラジャーノフの作品がいい。60-70年代にかけて作った映画で、コスチュームがとにかく綺麗。カザフスタンやロシアの人々の人生を描いたストーリーなんだけど、綺麗な森林で撮影されていて、色んな儀式も出てくる。

次に退屈してしまった時は、パラジャーノフの映画に音楽をのせてみるべきですよ。次に、幾何学模様のボーカルについて聞かせてください。あれは何語なのでしょうか?
G:日本語ではないです。音を歌っているだけです。
T:そう、あんまり曲に意味をもたせたくないんだよね。
G:リスナーが聴きたいように聞いてくれればいい。意味をもたせた言葉を歌うときもあるけど、歌っているときに何が起こるかによって言葉は変わります。

ということは、意味が変わるんですか?
G:その通りです。ライブでもレコードでも、プレイする時々で、僕が思い浮かべるビジュアルは違うので。

アルバム『House in The Tall Grass』は、これまでよりも音が穏やかに聞こえます。
T:そういうサウンドにしたかったんだ。前のレコード『Forest of Lost Children』ではより艶のあるサウンドだったから、今回はリスナーが遠くから聞こえてくる音に耳を傾けているような感覚になる、そんな音にしたかった。雪で孤絶された1軒の家があって、それをあらゆる角度から見てみるような——自分と音の間に雪があって、あらゆる音を吸い込んでしまう、そんなイメージで作りました。

観客に何を感じ、考えてもらうのが理想ですか?
T:ただ楽しんでもらえれば。眠ってくれちゃってもいいね。

スペシャルな夢が見れるでしょうね。
T:そうだね、寝てしまうか、それか白昼夢。「何かをクリエイトしたい」とリスナーを駆り立てることができたら、それこそ大きな喜びです。写真とか絵を送ってくれる人もいて、そういうフィードバックは嬉しいな。エネルギーの交換みたいで。

最近見た夢について教えてください。
G:シタールを担当しているうちのメンバーが、数日前に見た夢の話をしてたんだけど、その夢の中で彼は自転車に乗っていて、するとそれが突然、宙に浮くっていう……。
T:『E.T.』みたいに。
G:そう、それで彼は月に向かってどんどん高く上がって行く。月までたどり着いてしまうんだけど、それまで月だと思っていたのは卵の黄身だったと気づく——そこで、目が覚めたらしいです。

素敵な夢ですね。最後の質問です。どれくらいの頻度で髪を切るのでしょう?
T:年に1回。僕は髪が多いから、夏は暑くて。だから風通しが良くなるように少しだけ切るんだ。でも冬の間はマフラー代わりになるから暖かいよね。そんな風にサヴァイブしてます!

Credits


Text Francesca Dunn
Photography Lily Rose Thomas
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.