アリス・グラスのロングインタビュー

クリスタル・キャッスルズから脱退し、ソロ活動を開始したアリス・グラス。『EIGHTY-NINE』誌に、14歳での独立や成長、パンクのルーツにも自分自身にも忠実であることの大切さまでを語ったインタビューの一部をここに紹介する。

by Lesley McKenzie
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24 August 2016, 2:15am

どんな子供時代だったかについて聞かせてください。
けっこう寂しい子供時代だったかな。トロントの郊外に育って、両親は都市部で働いていたから、そんなに顔を合わせることもなかった。カトリックの学校に通わされたんだけど、両親はふたりともカトリックじゃなくて、何がなんだかよくわからなかったわ。たぶんアイルランド系カトリック教徒だったおばあちゃんを喜ばせるためだったんだと思う。おばあちゃんはアイルランドで育ったひとで、会うたびに「あなたの魂のためにお祈りを」って言ってた。私には妹がいるんだけど、妹は私のことが好きじゃなかったの。だから私はほとんど、自分で作り出した空想の世界でひとりの時間を過ごしてたわ。12歳のとき、郊外からセントラルに引っ越したんだけど、そこで初めて公立学校に通うようになって、支え合える友達ができた感じ。家で家族といるときよりもずっと愛されてる実感があったわ。

子供のころから音楽をよく聴いていたのですか?
それほど音楽を聴いていたわけではなかったわ。例外は宗教音楽。教会の合唱隊に加入していたんだけど、宗教曲には好きな曲がたくさんあったの。今じゃよく覚えてないけどね。とにかくたくさん「ハレルヤ」って歌ったわ。カトリックの曲はムードがあって、犠牲や再生についての曲が多い。私が書く曲と同じようにね。

ご両親は音楽好きだったのでしょうか?
両親が好きだった音楽はひどいものばかりだったわ。日曜日の晩ご飯の席でトニー・ベネットをよく聴かされたしね。トニー・ベネットの良さがまったく解らなかった。映画『アメリカン・ビューティー』のなかにもそんなシーンがあって、「わかる!」と思ったわ。両親はCDを2枚しか持ってなかった。トニー・ベネットを聞きながらのディナーは苦痛だったわ。

音楽の才能があると気づいたのはいつでしたか?
才能があると気づいたんじゃなくて、孤独だった子供時代、私には音楽が必要だったの。町を歩きながら、考えついたメロディを歌ったりしたものよ。今でもそれは変わらずやってる。昔みたいにひたすら歩いたりはしないけど、頭のなかではいつも歌ってるわ。

プロのミュージシャンになる自分を想像したりしましたか?
将来の自分を想像したことがなかったの。いつも憂鬱で暗くて、自分と未来というものを一緒に考えることがなかったのよ。最悪だったわ。

14 歳で家を出たわけですが、それは元々考えていた計画だったのでしょうか?
家を出たいという思いはしばらく燻っていたし、家は出ざるをえなかったのよ。あのときに出なかったとしても、そう長くは実家にとどまっていられなかったと思う。ようやく自分の場所を持ったとき、夜にホール(Hole)のデビューアルバムを聴きながら踊って、喜びに涙したのを覚えてるわ。家を出てしばらく、15だか16だかのときに部屋を借りるまでは、友達の家を転々としてたの。きっとウザかったと思うわ。家を出ても学校には通い続けてたんだけど、大変だった。大変だったけど、学校に通ってよかったと実感してたのよ。お金は、最初のうちは政府の学生福祉からの支援を得てたの。それとマリファナを売ってお金を作ってたわ。

あなたはフェミニストとしての意見をはっきりと言うアーティストですが、フェミニズムがあなたにとって重要な意味を持つに至ったきっかけとは何だったのでしょうか?
私は、パンクに傾倒してる女友達とつるんでたの。トロントのバンドのことはすべて知ってたわ。でも、ライブに行くといつも心地悪くて。私たちの倍以上も歳がいった男たちにセクハラをされてね。ハラスメントを受けずにライブを見る権利が私たちにはある。そう強く思って、とても腹が立った。

フェミニズムの世界で尊敬している人物は?
私はアカデミックな人間ではないけど、これまで読んだなかではナオミ・ウルフの『美の陰謀女たちの見えない敵』と、ライアン・アイスラー(Riane Eisler)の『 The Chalice and the Blade: Our History, Our Future』には感銘を受けた。今の時代、素晴らしいのはTwitterなんかでも素晴らしいフェミニズムの声を聞くことができるということ。簡単に誰でも意見を発信することができて、世界中の女性たちとつながることができる。ライオット・ガールのバンド、ブラットモバイル(Bratmobile)のアリソン・ウルフ(Alison Wolfe)の言葉も、子供だった頃の私に大きく影響したわ。友達になった今でもね。彼女のレコードは今聴いても、10代の頃と変わらない重要性をもって迫ってくるものがあるわ。

あなたは性的暴行や DV に関して果敢に意見を口にしていますが、有名人としてそれを自らの使命だと感じていますか?
自分の経験を話すことで「私と同じような状況に立たされようとしている人たちのためになれるかもしれない」と思うの。恋人との関係を改めて見直してみて、深みにはまる前にもう一度考えてみるきっかけになれるかもしれないって。14歳のときに、尊敬する女性アーティストが自身のトラウマについて公言してくれていたら、もしかすると私は今でも心に残るこの傷を、負わずに済んだかもしれない。気づいたらあんな状況に立たされていた——私はそれについてメッセージを発信したいとずっと考えていたの。自分をさらけ出すことへの恐怖も克服したかったしね。そこを乗り越えたら、過去と向き合うのが少し楽になったわ。

最近になってソロ活動を始めたわけですが、きっかけは?
自分のためにそうする必要があると感じたのよ。妥協せずに自分を表現できる環境が必要だったの。最高のアートを作り出すには、本当の自分と向き合って、本当の自分をさらけ出せなければならない。誰かと一緒にやるにしても、それを自然とできるような人たちと出会うのは難しいから。

音楽とメッセージ、どちらがより重要ですか?
両方ね。メッセージは、私にとってとても大事。自分を表現できるようになりたかったし、音楽を通して私が誠実な姿勢で個人的な経験を明かしているんだと人々には感じてほしい。新しいアルバムでは、これまで以上に個人的な経験を明かしているの。音楽はメッセージをサポートできていなければならないし、そこに同じフィーリングが作り出されていないといけない——だから、そうね、やっぱり音楽もメッセージも、両方大事ね。

音楽のインスピレーション源として、誰を尊敬していますか?
自分の痛みをさらけ出して表現できるひと、そのひとにとって大きな意味を持つことに関して誠実に表現できるひとすべて。最近、トーリ・エイモスにハマってるの。素晴らしいアーティストよ。クライシス(Crisis)やディストピア(Dystopia)といったバンドも、明るみになっていない政治的課題や状況に人々の目を向けさせようとしているし、人々がなかったことにして語らないようなことを前向きに歌っていたりして、素晴らしいわ。

作詞のプロセスについて教えてください。
いいメロディを思いついたときに使えるかもしれないと思って断片的な詩を書き溜めたりすることもあるけど、今は曲を書くということが自然に感じられているから、ただ音楽が私を通して生まれてくるの。音楽の世界にトランスするみたいな感じになって、それに身をまかせるのは奇妙で最高の感覚よ。

コラボレーションをするとしたら、誰と?
クレオパトラ(Cleopatra)ね。カリスマ性と知性が共存するあの世界観——彼女が歌ったりメロディを書いたりしたら、きっと素晴らしいものができるわ。

あなたは、張り詰めたエネルギーのあるパフォーマンスで知られていますが、ステージ上では自分自身でいる感覚があるのでしょうか? それとも他の誰かが憑依してくるような感覚でしょうか?
両方ね。ステージは、私が実際に今の人生で抱えている問題を直視しながら、同時に問題が解決できる空間でもあるの。すべてが究極の形で迫ってくる瞬間でもあるけど、同時にそれを冷静に考えられる不思議な空間でもある。すべてがそこにあるけど、無でもある。

あなたには敬虔ともいうべきファンがついていますが、それはなぜなのでしょうか?
私がやることすべてが、混じり気のない私の心そのものだからだと思うわ。アーティストとして、できるのはそれだけだもの。自分自身に誠実じゃなかったら、すぐにバレるものよ。

音楽の道を志す若い女性たちにアドバイスをお願いします。
あなたの芸術的表現は、どんな男のそれにも引けを取らない意味と価値がある。

アーティストとしての目標は?
自分の感情や経験、そして自分自身を、可能なかぎりクリアに、そして可能なかぎりパワフルに表現できるようになること。

人生においてもっとも大切なことは?
過去にとらわれてしまうことで未来を台無しにしないこと。好きな人たちとの時間を大切にして、正しいと自分が信じる道をいくこと。

自分をアリス・グラスと名付けたのはなぜだったのでしょうか?
本名はマーガレットなんだけど、誰も私のことをマーガレットなんて呼ばなかったのよね。両親はマーゴって呼んでた。たぶん、その方が洗練されてフランス人っぽかったからだと思う。マギーって呼ばれたいと思った時期もあったけど、結局はその響きにも違和感があった。パンクのコミュニティに関わり始めると、ほとんどのひとが名前を変えるんだけど、私は他のパンクガールたちほどハードコアじゃなかったのよね。なかにはバニーとかパピーなんて名前をつけてるひともいたわ。ある日、友達とドラッグストアでよくある名前が刻まれてるバッジが売られていたのを見て、ひとつ万引きしたの。私が取ったのは「アリス」で、友達のは「ベティー」だった。そのあと、ダウンタウンでその友達とマリファナを吸ってたら警察が現れて、「何をしてるんだ」って訊いてきた。名前を訊かれたんだけど、身分を証明できるものも持ってなかったから、バッジにあった「アリス」を名乗ったの。私はライダースジャケットの胸ポケットに結構な量のマリファナとマジックマッシュルームを持ってたのね。汗を隠すのが大変だったのを覚えてるわ。でも警察は私の名前も私の話も信じて、その場を去っていった。そこで私は「アリスはラッキーネームだわ」って思って、それ以来アリスと名乗ってるというわけ。「グラス」は、大好きなマンガ『Love and Rockets』の登場人物、ホーピー・グラスから取ったのよ。

Alexander Wang の春のキャンペーンに起用されていましたが、その経緯について教えてください。また、今後はファッションの世界にももっと進出していくのでしょうか?
アレキサンダー本人からアプローチがあったのよ。私の音楽を気に入ってくれてたんだと思う。そして私もずっと彼が作る服が好きだった。ファッションの世界に関わる日が来るなんて想像もしなかったことよ。これまでずっとファッションは好きだったけど、それを認めたくない自分がいたの。パンクの精神と相反するような気がしてね。でもファッション好きなの。アレキサンダーは、モデルに個性を求めるひと。だから関われたことが嬉しかった。今後は、自分のステージ衣装をデザインしたりしてみたいわ。

あなたの美的感覚は独特ですが、何に触発されてそのような美的感覚が生まれるのでしょうか?
私は昔からホラー映画が大好きなの。子供のころからちょっと変わった女の子だったのよね。今はスタイルに関して試行錯誤してるわ。バンドではTシャツにスカートっていうスタイルが定着しちゃってたけど、それもうつまらないし。

いまミュージシャンとして直面している困難は?
今は、クリエイティブにものを作り出せるから、最高の状況にいるわ。朝起きて頭に曲が浮かんで、それを作品に仕上げるために一週間ずっとそれに熱中してていいの。そして1曲が完成したら、また次の曲のことをずっと考えていられる。私はビッグネームじゃないから、今はとにかく作り続けていなければならないの。何ヶ月も後になったら少しは状況が変わってるだろうと思うけど、今はとにかくこのクリエイティブな時期にいられることが嬉しくてたまらないのよ。

音楽の世界でもっとも好きな点は何ですか?
変わり者の味方になれること。

音楽の世界で嫌いなところは?
キモいひとが多いこと。音楽業界にいる男がみんなレイプ犯だとか、ひとの尊厳を傷つけることを厭わないひとばかりだとか、そんなわけではないんだけど、でも音楽業界って痛みや傷を持った若いひとがたくさん入ってきて、だからこそそういう若者の音楽への情熱を利用してやろうとする人もたくさんいるのよ。

あなたに関して、「もっとこんなところを理解してもらいたい」と思うことはありますか?
ステージで見る私がすべてではないっていうことかしらね。ステージ上の私は怒りを表現するひとつの手段でしかなくて、普段の生活でもああというわけではない。そんな浅い人間じゃないわ。だけど、一面的に私を認識してるひとは多いと思う。そのイメージを払拭したいわね。

Credits


Text Lesley McKenzie
Photography Rafael Pulido
Styling Sean Knight
Make-up Natasha Severino
Hair Johnnie Sapong
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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