AKIKOAOKI 2019SS

AKIKOAOKIデザイナー青木明子インタビュー:世界と自分を見据えて

2018年LVMHプライズのセミファイナリストに選出され、さらなる飛躍が期待されるデザイナー・青木明子。2019年春夏コレクション発表後の彼女に、AKIKOAOKIの世界観、そして東京ファッションのリアリティについて語ってもらった。

|
dec 3 2018, 6:00am

AKIKOAOKI 2019SS

渋谷の喧騒から5分ほど歩いたところにあるホテルの一室。社交的に着飾ったモデルたちが影の落ちる部屋で何やら会合を催している。奥のクローゼットにはシューズボックスが積み上がり、まるで誰かがそこにいるような気配。官能的なバラの香りに包まれたバスルームに足を踏み入れると、ガラス一枚を隔てたシャワールームからは熱を帯びた水蒸気が立ちこめている。高湿度な密閉空間で、名も知らない誰かの個人空間に無断で侵入しているという緊張感は、無造作にかけられたバスローブやランジェリーが脱ぎ捨てられたベッドから感じ取ることができる。

差し迫る思いを胸に秘めたるこの“見知らぬ女性”の、張り詰めた糸のようなメンタリティを嗅覚・視覚・聴覚、体感温度で感じさせる素晴らしいプレゼンテーションだ。2018年LVMHプライズのセミファイナリストに選ばれ、その活躍が注目を浴びているAKIKOAOKIのデザイナー青木明子。2019年春夏コレクションの発表を終えたばかりの彼女に話を聞いた。

1542881417145-c02f619b41b7603358823eb1b4b8cdb29_38421625_181122_0027
AKIKOAOKI 2019SS
1542881570376-c02f619b41b7603358823eb1b4b8cdb29_38421625_181122_0019
AKIKOAOKI 2019SS

──ミステリアスで官能的なプレゼンテーション、こだわった部分は?

ホテルはいろんな人が行き合う場所ですが、自分の場所になります。家とも公共の場所とも違う。ホテルという特別な空間が作り出す“パーソナル感”。それと同時に日常から切り離された異様さというか、ファンタジー(非日常)性を感じさせる環境でクリエーションを見せたいと考えたんです。手前の部屋では影だけが動く演出でイメージを先行させ、奥の部屋は人はいないけれど気配が感じられる空間になるよう、2部屋で役割を分けました。

──危うさにはどのような隠喩があるのでしょう?

目に見えないし主張があるわけではないんですけれど、秘めた感覚のある人って魅力的だなと思っていて。すべてをさらけ出すわけではないけれど何かあるような、何か言いたげな人間像というのは、今までAKIKOAOKIでやってきた女性観にプラスされた要素かもしれません。

──今回新たに挑戦した部分は?

これだけ洋服が売れないといわれているなかで、自分が着てみたい、欲しいと思うのはなぜだろう?と考えたときに、それはモノだけではなく、そこで過ごした時間や環境込みで気持ちがアガっていくことに気づいたんです。だからそれを無視しては作れないなと。どう着るかはその人の自由ですが、ブランドとしてこういうあり方もいいんじゃないか、という提案はやっていくべきかなと。展示会で服を見てもらうときには、体感込みでバイヤーさんにみてもらいたい。洋服が服というオブジェクトとしてみられると消費する一方になってしまうので。

──AKIKOAOKIは破壊的なムードのあるブランドですが、今回は以前よりもクラシックに対する真摯な姿勢を感じました。

今回はリアルに着る、その人のリアリティに寄り添っていくことを意識してデザインしました。そういう意味で破壊から寄り添うように変わってきたのかもしれないですね。

1521693007324-_MG_2898
AKIKOAOKI 2018AW
1521654653318-_MG_3158
AKIKOAOKI 2018AW

──提案するものと実際に買ってもらえる服とのギャップを感じて悩みませんか?

そこの追求は難しいけれども、諦めたくないです。そこを開拓していくことが私たち若手にとって大切だと思っています。提案と買われる服が交わる点をどうにか考えていきたいですね。

──目指す世界に近づいている実感はありますか?

反省は毎回ありますが、自分の理想や希望に対して嘘はありません。もちろん目標もありますが、固定しちゃうとつまらない。臨機応変に変わっていく勇気があるか、自分がやりたいと思っていた質感からどれだけ伸ばせたか。派手ではなくてもちゃんと心に残っていたり、着たいと思ってもらえたか、は常に向き合っています。

──クリエイションにおいて改善されたと感じている部分はありますか?

クオリティ面でもまだまだですが、今まで追求できていなかった部分に変化は感じています。例えばコートやジャケットはなかの仕込みで表情が変わるんだとか、着たときの存在感や重みで着た人の気持ちが変わるなとか。見えない部分への心の入れ方でこんなに変わるんだなというのを、服作りの過程で見出してきているのかなと思います。

──着て見たいと思ってもらえる服ってどんな服だと思いますか?

洋服を着るときに、人からは見えないであろうパイピングの色が違ったりすると、ちょっと違う気がします。そういう部分に対しての気遣いがある服を着ると自分も嬉しい。そういうものを目指していけたらいいなと思いますね。

今は以前よりリアリティを追求したい気分です。ファンタジーはやっぱりフィクションなので、現実より強いものはない。現実に対するアプローチやそこからの派生としてファンタジーを作っていきたいです。

1542881478673-c02f619b41b7603358823eb1b4b8cdb29_38421625_181122_0002
AKIKOAOKI 2019SS
1542881616296-c02f619b41b7603358823eb1b4b8cdb29_38421625_181122_0022
AKIKOAOKI 2019SS

──女性像として気になる人や出来事はありましたか?

夏前ぐらいにデビッド・リンチの映画『ロスト・ハイウェイ』を観たんです。現実か妄想かわからなくて、何が起きたのかいまいち理解できない。影に人間像を持たせるような感覚はすごく面白いと思いました。それから、夏に外がめちゃくちゃ暑いけれど自分の部屋は冷房でキンキンに冷えていて、見ている景色と体感のずれが面白いなと。そこでふと「密閉」ということに興味が湧きました。空間の妙で、区切られると五感が敏感になるんですよね。その体験が今回のコレクションの発想のひとつとしてありました。

──女性らしさが前面に出たコレクションでしたが、明子さんの憧れる女性像とは?

何かに反抗したいとか戦っていきたいというのが女性の出発点ではないと思っています。そういう主張が必要な状況や歴史もあったと思うんですけれど、女性って実はいろんなことを受け入れられる存在だと思っているんです。男性的な考え方も、そうじゃないものも含めて、それもありだよねって許容できるのが女性かなと。だからすべてを許せる人であるのが女性としてのいちばんの魅力かなと思っています。それもありこれもありっていうのは気分や時代によっても違う。でもすべてに可能性を見出せて、いろんなことから作り出せるのが、自分にとって理想の女性のあり方です。

──2018年のLVMHプライズではセミファイナリストに選ばれましたが、そこで学んだものとは?

やり方もテイストもみんな全然違うんですけれど、自分がやっていることに対して嘘がない。自分の提案が時代の流れと違っていても、ブランドとして提案したいと思ったら正々堂々としていて、それをリスペクトしあっている。出展者同士も仲良くて、とてもハッピーな雰囲気だったんです。平和的で気持ちが良い時間でした。

驚いたのは、ラックにかかっている服に袖を通すと、着る前の想像をはるかに超えてくるものが多かったこと!「これがこれになる!?」って(笑)。ファッション性がすごく高いなって思いましたね。クオリティが高いブランドもあるし、クオリティ関係なくかっこいいブランドもある。ただかっこいい、でいいじゃないか、と。お互いの良さを認め合えるのがポジティブで、みんな純粋にファッション大好きなんだなという感じがして、素敵な空間でしたね。

──今後の課題や目標を見いだすことはできましたか?

世界中が新しい価値観や未来像、希望を求めているから、向こうから見るといい意味で異様なんだろうなと思います。自分もそうですけれど「わかるわかる」じゃないものに出会ったときの喜びや楽しさは世界共通。どうアプローチしていったら世界で通用するかはこれから客観的に考えていかなきゃいけない。主観と客観をどのようなバランスで構築していくかが、グローバルに活躍していくうえでは大切なのかなと思います。身を引き締めて頑張ります。