アイスランドが熱いらしい

文字通りにではなく、比喩的な意味で。

by Hanna Hanra; translated by Aya Takatsu
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23 May 2018, 10:49am

Photography Matt Martin

アイスランドは真っ赤になるほど寒い。そして1年の半分が暗く、ビョークやシガー・ロスなどがいる。しかし今、それらをはるかに凌駕するようなことが、アイスランドで起こっている。

人口30万人のアイスランドは、ここ10年で経済危機を脱して好景気へと移行したが、その道のりは楽なものではなかった。政権は転覆し、革命が起こり、火山は噴火し、他国の飛行機が離陸不可となったのだ。しかしだんだんとセレブたちが訪れるようになると、この小さな島国はゆっくりとインスタ映えスポットに変わっていった。この国を訪れる年間の観光客数は20万人から200万人になり、今も増加を続けている。「10年前、レイキャヴィクにはタクシーの運転手が2人しかいなかったんですよ」。1日約7万5000円で観光客を乗せてツアーをしているヨンはそう話す。「もしひとりの運転手が誰かを空港に迎えに行ったら、自分は仕事にありつけなかった。今じゃ観光客がたくさんいて、30分ごとに街行きのシャトルバスが走ってる。それだって予約が取れないことがあるんだ」

巨大な氷河、黒い砂のビーチ、数え切れないほどの滝、間欠泉に温泉。この島は目を見張るほど美しい。だからこそカニエ・ウェストは「Highlights」のMVをここで撮ったのだ。ビヨンセも訪れている。ジャスティン・ビーバーでさえも、MVを撮っている。こうしたセレブたちが足を運べば、そのあとを追う人たちがやってくるのだ。

もちろん異論もあるだろうが、こうした観光客の流入はアイスランド人にいくつかの恩恵をもたらした。音楽はこの国の主たる輸出品のひとつである。かつては奇妙で気取ったファンキーなフォークのような音楽だったが、現在主流となっているのはR&Bとラップである。チル系ラップデュオ、ストゥルラ・アトラス(Sturla Atlas)のひとりロギ・ペドロ(Logi Pedro)もこれに同意する。「長いあいだ、アイスランドに関心を持つのは、かなりコアなインディ音楽媒体がほとんどだった。でもそれが変わったんだ。外国のメディアはアイスランドのヒップホップシーンをちゃんと理解するのに、頭を悩ますだろうな」。ほかの北欧諸国の多くと同じく、アイスランドにもまた、地元ミュージシャンの他国進出を援助するために政府が資金提供する音楽プロジェクトがある。IMX(Icelandic Music Export)がそれだ。ペドロはこう続ける。「IMXがキュレーションする音楽の多くは、10年前に『ピッチフォーク』でダメ曲と呼ばれていたものなんだ。でも今じゃ『ピッチフォーク』の言うことなんて誰も気にしない。何にでも皮肉のこもった、もしくはエセ学者ふうのコメントをするひとつの意見でしかないってことに、みんな気づいたからね。アイスランドがミュージシャンの夢の世界となり続けられるかどうか、興味津々だよ」

1999年に、IMXは地元の航空会社アイスランド航空と音楽フェスを共同開催した。アメリカ海軍の航空基地だった格納庫(2006年に解体)を会場としたこのアイスランド・エアウェイヴスは、当初、国内外のミュージシャンを集めた一夜限りのフェスとして開催された。その後、大型の音楽フェスは世界中で大きなビジネスとなっていった。

ラフに訳すと「レイキャヴィクの娘たち」という意味になるレイキャヴィークルダエトゥール(Reykjavíkurdætur)。ときに16人、ときに14人で構成されるフィメール・ラップ集団だ。ステージ上で、彼女らは熱狂のかたまりとなる。メンバーが14人ともなると、海外公演に参加するのも容易ではない。「ソーナル(Sónar)やアイスランド・エアウェイヴスといったアイスランドの音楽フェスに参加する観光客が増えているから、英語を話す人たちに向けたセットリストをすることも多くなった。ステージ上での私たちのエネルギーはよく伝わるし、英語の歌詞で少しヒントをあげられば、私たちが何をしているのかがわかるみたい」と、このグループの広報担当であるサルカ・ヴァルスドッティル(Reykjavíkurdætur)は

「アイスランドのクリエイティブ・シーンは熱狂的で生産的。炎と不安が渦巻いてて。この国のクリエイターの拠点はおもにレイキャヴィクにあるんだけど、夏のあいだはずっと広くなる。国中でフェスが開かれるから(ルンガ、エイストナフルグ、アンドレイ・フォル・イェグ・スーズルなど)。すごく大規模で多様性があって、めちゃくちゃ楽しいし、驚きにあふれてる」。彼女たちはラップに興味がある女性たちのオープンマイクイベントで出会った。イベント主催者である2人の女性が常連パフォーマーたちを集結させて、レイキャヴィークルダエトゥールが結成されたのだ。

いくつかの分派も存在する。パンチのきいたエレクトロ・ラップデュオ、サイバー(Cyber)もそのひとつだ。「クリエイティブに関しては、すごく個々の自由がある。そのおかげで大きなグループとして仕事がしやすいのね。お互いの考えや音楽の趣味、線引きなんかを全員が尊重しているから、離れていても一緒に活動できる」と、ヴァルスドッティル(Valsdóttir)は話す。ライブの多くがコラボレーションというかたちをとっており、アイスランド・エアウェイヴスにおいては、様々なバンドの中にこのメンバーが入っているのをよく見かける。その理由のひとつは、この島国が小さくて孤立していることにある。アイスランド人はまた「何でも屋」的な高い能力を持っているのだ。1200年前に最初にこの地に入植し、冷たく不毛な土地を居住可能な場所に変えた者から派生したのだと私は主張したい。おそらくそれで間違いないだろう。それが食料であれ安全な場所であれキーボードやドラマーであれ、何か足りなければ、その穴を埋める方法を探さねばならないから。

実験的なグリッチ・エレクトロニカバンド、ムーム(Múm)のかつてのメンバーであり、ミスター・シッラ(Mr.Silla)の名でシンガーソングライターとして活躍するシーグルラウグ・ギスラドッティル(Sigurlaug Gísladóttir)にとって、アイスランド・エアウェイヴスはファンを拡大するうえで大切な場所になっている。「アイスランド・エアウェイヴスは欧米ですごく重要視されているフェスだから、これまでたくさんの新進アーティストが参加してきました。アイスランドのバンドにとっては、より多様な人の前でパフォーマンスできるまたとない機会になっているんです。ソロプロジェクトのMr.Sillaは、このフェスで成長するチャンスを得ました。私も一緒にやっているジェ・タイラー(Jae Tyler)のような、新しいプロジェクトにとっても、絶好の機会になっています」

現在ベルリン在住のフォトグラファー、アンドレア・ビョーク(Andrea Bjork)は、アイスランドのクリエイターは恵まれていると断言する。「アイスランド人なら誰もが何かクリエイティブな経験をしたことがあると思う。もしかしたら、私たちはちょっとナルシストなのかも。ああいう小さな共同体では、すぐに井の中の蛙になってしまうから。でも誰もが可能性を感じられるところには、そういう空気感がある。両親も、将来子どもが路上で生活するようになるんじゃないかって心配をそれほどしない気がするし……決断を尊重してくれる」。小さなコミュニティであることに不都合な点はないのだろうか? 「みんながお互いのことを知ってるから、意見を述べる余地はあまりないかも。誰かの作品に辛辣なレビューを書こうものなら、実はその人が知り合いの新しい彼女で、その年のクリスマスパーティで超気まずい空気になっちゃったり。みんなとってもフレンドリーなの(だけどたぶん秘密のグループで噂話してるけど)」

ブームを巻き起こしているのは、音楽だけではない。66°NORTHなど、アイスランドのブランドもまた高い評価を受けている。1926年に創業したこのブランドは、空海救助隊からブルーラグーン(アイスランドの温泉施設)の監視員、そして一般の人たちまでに向けた、ありとあらゆるパフォーマンスウェアをつくってきた。そしてまた、その機能的なアウターをアイスランドでもっともイカした製品に変え、ビヨンセや地元で活躍するユング・カレン(Yung Karen)の体を温めてきた。同社のCEOヘルギ・オスカールソン(Helgi Óskarsson)は、アイスランドが突然世界の注目の的となった理由を知っていると話す。「子どものころ外国に行ったのを覚えているのですが、アイスランドがどこにあるか知っている人はほとんどいませんでした。そんな国が存在していることすら知らない人さえいて。すべてから遠く隔たっているように見えました。その後、状況は変わっていき、まず私たちは(1980年に)世界初となる女性大統領を輩出したのです。とても注目を浴びました。次いで、レーガンとゴルバチョフの会談がレイキャヴィクで行われ、さらにシュガーキューブスとビョークが登場しました。世界の音楽シーンに多大な影響を与えたのです。そして、もっとも重要な出来事がありました。サッカーのアイスランド代表チームがFIFAランキング131位から18位になり、今やロシアでのW杯決勝トーナメントが私たちを待ち構えています。私たちは世界中に広がっています。W杯にさえも!」

アイスランド・エアウェイヴス2018は11月7日〜11日の日程で開催。チケット発売中。

This article originally appeared on i-D UK.

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