Portrait by Ruth Hogben

「ファッション雑誌は信じてない」:ニック・ナイト ロングインタビュー

ファッション写真界のレジェンド、ニック・ナイトが2000年に立ち上げたファッションサイト<SHOWstudio...

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jul 27 2017, 12:20pm

Portrait by Ruth Hogben

幼少期について教えてください。どんな子供でしたか?
僕は1958年にロンドンで生まれたから、今は58歳ってわけだね。僕の両親はとても仲良しで教養のある人たちだったよ。母親はセラピストで、父は心理学者。母はアートに興味を持つようになったからセラピストをやめて、彫刻を作ったり絵を描いたりしていた。両親は本当に仲がよくて、生涯ずっと一緒にいた。それは僕たちが子供として求めるものだよね。安定は子供にとって重要なことだから。そんな風にすごく"普通"に育ったかな、安定してない人も多いから普通じゃないのかもしれないけど。

写真を始めた頃はポートレイトやドキュメントのような写真を撮っていたようですが、そのころと比べて何が変わりましたか?
僕の始まりであるスキンズのドキュメンタリー写真もそうなんだけど、いつもファッションに対する純粋な愛情をもって仕事をしてきたとは思う。音楽業界で言えば、ガガやカニエとの仕事もファッションとのつながりがあるし、ファッションっていうのは誰でも最も簡単にできるアートの形だと思う。ファッションは商業目的だと思われがちだけど、そんなことはない。自分自身を表現する手段なんだ。だから山本耀司や川久保玲、アレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノ、ガレス・ピューといった人たちをみると、彼らが非常に芸術的な表現をしていることがわかるし、彼らは衣服を通して自分を表現したいということがわかる。マックイーンとは長い時間一緒に過ごしたけど、画家でも彫刻家でもなんでもできたと思うね。山本耀司を見つけたときは本当にびっくりした。彼は、女性が自分自身の身体的な特徴に囚われずとも、知的で、詩的で、強く、活力に満ちているように見えることを証明してみせた。彼や川久保玲はこの文脈でのデザインを牽引していったんだ。ヨーロッパのファッションに触れてきた僕にとっては衝撃的で、とてもびっくりした。だから80年代中頃に、耀司と仕事をすることになったときは震えたよ。彼は僕がファッション業界で初めて交友関係をもった人だった。

最近では新しい出会いはありましたか?
もちろん。面白い人たちはどんどんでてくるよ。今はガレス・ピューと仕事をしているんだけど、彼も素晴らしい友人の一人だ。フィルムを一緒に作っている。写真家が一度に複数のプロジェクトに取り組むのは普通らしいけど、僕の場合、同時に何人ものデザイナーとは仕事できないんだ。だからここ数年はそんなに多くのデザイナーとは仕事をしてないよ。他にはカニエ・ウェストと仕事したけど、彼は素晴らしい人で、自分の役割をよく自覚しているんだ。交友関係の輪はファッションから音楽に変わってきているかもしれないね。ここ3、4年はそんな感じかな。とてもおもしろいよ。あと、僕は友好関係において焦りとか強制は必要ないと思っている。それは自然に生まれるべきものだから。長く続かないものであっても、あまり良くなかったかもしれないと思うものでも、それが人生だし、時々恋に落ちるような素晴らしい人と出会えるものだから(笑)。関係が続こうがつづかなかろうが自分の世界を共有したいと思える人との仕事は積極的にしていくつもりだよ。

i-Dとも仕事をしていらっしゃいますが、そのキッカケなどを教えてください。
僕が写真を始めたときは発表する手段が少なくて、雑誌も取り合ってくれなかった。1980年の初頭にテリー・ジョーンズがi-Dを始めた頃、僕も街で自分の写真を見せられる場所を探していたんだ。そしたらホチキス止めされた冊子(i-D)を見つけて——いつもは雑誌なんて見ないけど——すごくおもしろいと感じた。ロンドンの若者が載っていて、自分の知ってる人も何人かいたんだ。

82年にスキンヘッドの写真集が出ていますが、同じ頃ですよね?
うん。写真を載せてもらうのにぴったりだと思ったから、テリーに会いに行って仲良くなった。どうやら僕たちは2人とも、ロンドンのストリートで起こっていたことに関心があったらしい。それがファッションに関わり始めたきっかけだね。ストリートで写真をとって、80年代にi-Dで働き始めた。1980年代はロンドンのi-Dとパリの山本耀司の2つが僕のクライアントだった。それだけですごく満足していたし、これ以上はないと思っていたね。1990年代初頭には、テリーと話してi-Dの写真エディターとして働くことになった。クレイグ・マックディーン、グレン・ルッチフォード、デヴィッド・シムズ、コリン・デイ、ナイジェル・シャフラン、ユルゲン・テラーとか……、僕が面白いと思った写真家をあつめてね。9ヶ月くらいそうやって働いたのかな。マックイーンやガリアーノにもi-Dでやらないかって声をかけてね(笑)

おもしろい時期でしたね。
うん。そうだね。まあ、いつだっておもしろいんだけど、それを自分から見つけないといけないんだ。ファッション雑誌は長年ファッションを見せるものだったわけだけど、90年代の終わり頃から僕はファション雑誌を信じなくなった。尊敬を込めて言うけど、いまでも信じていない(笑)。それもあってSHOWstudioをはじめたんだ。

SHOWstudioを始めたことに関して詳しく伺えますか?
1990年代にインターネットが登場して、僕たちの生活やコミュニケーションの仕方もガラッと変わった。僕には3人の子供がいて、90年代から2000年真っ只中に育った。家には山ほどファッション雑誌があったのに、3人のうち1人もめくろうとすらしなかった。これが決定打だね。雑誌の居場所は今の社会のどこにもないんだ。もうだれも読まない。だれも読んでくれないんだったら、雑誌の意味はどこにある? たぶん多くの雑誌は広告広告で利益を上げるっていうコマーシャルなサークルにはまっているんだよね。それは雑誌がなくならないことへの正当化を図っているだけだと思う。だけど、ただあるってことが生き残ることではないよね。

だから2000年にSHOWstudioをコミュニケーションツールとしてはじめたんだ。そのなかでファッションフィルムのストリーミング配信もはじめた。なぜなら、ファッションフィルムがより観客に寄り添っていると思ったから。それにワクワクしたんだ。洋服はひとつの角度から眺めるものじゃなくて、動きを見せるためにデザインされている。だから、ファッションフィルムこそがその新しい手段だと感じたんだ。写真はもちろん素晴らしいけど、動くために作られているデザインを見せるのにベストな方法ではない。だからファッションフィルムに強い信頼を置くようになって、ここ18年間ほど動画に力を注いでいる。僕が始めたときはファッションフィルムを認知している人はいなかった。僕たちはファッションフィルムを発明したんだよ。いまではファッションフィルムのフェスティバルが開かれるし、ファッションデザイナーたちも動画を作っているけどね。いまは新しいメディアが求められていると思う。僕らが写真を撮っていた90年代は写真が新しいメディアで、なかなか普及はしないときもあった。ファッションフィルムにもそれと同じことが起こっている。

多くの人がファッションフィルムを作っているけど、いいものは少ない。でも、昔だっていい写真はそんなに多くなかったでしょう(笑)。このメディアはいま発展途上にあるんだと思う。ファッションにとってこれがいい存在なのかどうかをみんな見極めている最中なんだろうね。それが新しいメディアであり、新しい表現方法というもの。最近ではファッション・イラストレーションにも熱を注いでいるよ。

なるほど。そうした関心がケイト・モスの展示につながるんですね。
うん。いま東京のThe Massギャラリーで開催されているね。僕がファッション・イラストレーションをはじめたのが6年前。歴史を振り返ると、雑誌の編集者がショーに行くと必ずそこにはファッション・イラストレーターがいたということがわかる。ファッションとイラストには深い関わりがあるんだ。ルネ・グリュオーやアントニオ・ロペスみたいな素晴らしいイラストレーターはファッションの歴史を語る上で不可欠だった。70年末にはファッション・イラストレーションは雑誌で使われなくなり、その歴史は終わってしまったかのように見えたけど、僕が数年前にTumblrを見ていると、若い子たちがファッション・イラストを描いて投稿しているのに気づいた。素晴らしいことだと思ったよ。ファッション・イラストも生まれ変わっていたんだ。それもあって、ファッション・イラストに力を注ぎ始めた。InstagramやTumblrを見れば、素晴らしい作品が溢れている。それでSHOWstudioでギャラリー展示を行い、公開することにしたんだ。写真とファッション・イラストレーションは現実的に洋服を見せる手段だったけど、いまではショーの生放送もあるし、その意味は変わってしまった。現在ではファッション写真の表現はより自由になり、芸術的な形を取れるようになったよね。ファッション・イラストレーションも同じように、より感情を表現することができるようになったし、イラストレーターたちもそうしたいと思っている。新しいメディアの登場はすごくワクワクするね。

2003年にSHOWstudio内で「In Camera」をローンチしましたが、それはライブ配信で質問を募りインタビューを行うというものでした。なぜそれをはじめようと思ったのでしょうか? とても画期的だと思いました。
人々が行っていることを記録するのは、僕にとってとても重要なことなんだ。カニエとかJ・W・アンダーソンとか、面白いことをやっている人たちがいるからこそ、そういう人たちに話を聞いていくことが大事なんだ。公開インタビューの形をとるのはその人の友達や同僚、尊敬する人から質問を受けることができるから。ビョークをインタビューしたときには、マイケル・ジャクソンから面白い質問がきたよ。これは面白い形式だと思った。インタビューを通して人を理解する機会を与えられるし、人々から寄せられる質問の多様性もすごく面白いんだ。

新しいものを作るときに、その原動力となるのは何ですか? あなたのインスピレーション源や仕事の際になくてはならないものがあれば教えてください。
シンプルだよ。ライフ(人生)だね。人生は本質的にとてもインプレッシブで、面白くて、挑戦的だ。仕事をする上で印象に残るのは、いつもひとの人生なんだ。人生は周囲や自分の体、心が反映されていて、それを見るのはとても興味深い。回答としては面白くないかもしれいけど、自分にとってのインスピレーション源は人生だね。

i-Dはユースに向けてマガジンを作っているのですが、彼らにアドバイスはありますか?
沢山あるけど、まずは自分を信じることかな。自分の才能に疑問を抱かないでほしい。そして、自分の体を大切に。フィジカルに労ってほしい。ちゃんと自分の体について知って、心も大切に。でも基本的には、自分を信じて、と言いたいね。

Credits


Text Kazumi Asamura Hayashi
Photography Mariko Kurose at IN FOCUS
Translation Aya Ikeda