ダンス・ミュージックの過去、現在、そして未来

インターネットの普及によってここ数年で驚くほど身近なものとなったダンス・ミュージック。その未来を、音楽業界のキーマンたちが様々な視点から探る。

by Naoko Okada
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26 December 2016, 1:40am

@ contact tokyo

ダンス・ミュージックに焦点をあてた音楽カンファレンス&イベント『TOKYO DANCE MUSIC EVENT』が12月1日から3日間に渡り開催された。日本初開催となった今回、国内外から様々なゲストが参加。ダンス・ミュージック制作に関するワークショップやカンファレンスが行われ、連日各所で熱いセッションが繰り広げられた。

『グローバルの視点から見るダンス・ミュージック・シーン』をテーマに行われたトークセッションでは、Electronic Music,Sony UKのマーケティング担当のトビー・アンドリュー(Toby Andrews)氏が、ここ15年のダンス・ミュージックの変化について「かつてはテレビやラジオでエレクトロミュージックを聴くことができなかった。ロンドンのクラブに忍び込んだり、あらゆる手段を使って音楽を探したよ。インターネットのおかげでビジネスは広がりを見せたね」と話す。

音楽が身近になったことで、ビジネスとしてのダンス・ミュージックは大型フェスの開催など大きな経済効果をもたらした反面、いつからか消費者思考のものとして扱われるようになった。世界中に同じような音楽が溢れ、シーンは完全に飽和状態を迎えたと言える。

それに対し、世界最大のダンス・ミュージック・フェスであるUltra Music代表のパトリック・モクシー(Patrick Moxey)氏はこう話す。「大きなフェスに行くとどのステージに行ってもDJが同じ音楽を流していた。しかし2013年に変革が起こり、DJがドラムパッド、キーボードを使ってプレイするようになった。それはもうDJではなくアーティストだ。音楽にオリジナリティが求められるようになった」

つまりグローバルシーンでは、主流のダンス・ミュージックがEDMから次の段階へ進んでいるということだ。世界中のアーティストたちは今、ジャンルを超えたコラボレーションを行うことで、新しい音楽の可能性を模索している。「カニエ・ウェスト(Kanye West)がテクノアーティストとコラボしている。ジャンルが壊れ面白い時代だ」と話すパトリック・モクシー氏は、今後のダンス・ミュージックの躍進に大きく期待を寄せているようだった。

THYLACINE live @ WOMB

アジアにおけるダンス・ミュージックシーンはどうだろうか。『世界のストリーミング・プラットフォーム』をテーマに行われたトークセッションでは、ストリーミング・サービスから見た中国の市場開拓余地の可能性について語られた。

厳しい閲覧制限やSNSの規制により、独自のインターネット・プラットフォームが形成されている中国。Pyro Musicの創業者であるスペンサー・タリング(Spencer Tarring)氏は「中国でのDJマーケットはとても小さかった。フェスもなければ音楽で生計を立てることもない。クラブカルチャーは一部がすべて占領し、DJをビジネスにすることは難しかった」と中国におけるダンス・ミュージックのリアルな立ち位置を語った。

しかしここ数年、人口も多く若者も多い中国ではエレクトロ・ミュージックを好む人が爆発的に増えているという。デジタル・ネイティブ世代に安価で音楽を提供することで、エレクトロ・ミュージックを手にする機会が増えた。となると消費者が求める音楽のクオリティも当然高くなる。連鎖反応を起こすようにソーシャルインダストリーが音楽の未来を作っていく。その過程を肌で感じてきたスペンサー・タリング氏は、「中国でのダンス・ミュージック市場はここから必ず大きなものとなる」と断言する。

日本のストリーミングサイトを語るうえで、その名なくして語ることはできないDOMMUNE創設者の宇川直宏氏も、「日本はここから若手をどのように取り込むかが問題。EDMとアンダーグラウンドの二項対立を作りたいわけではないが、日本では若者がEDMに流れすぎていて、アンダーグラウンドのキャパが小さくなり、年齢層も高い。そう思うと中国はとても面白い。開拓の余地がある」と語った。

NINA KRAVIZ

ここで宇川氏の発言について少し話したい。先日ageHaでは、TOKYO DANCE MUSIC EVENTにゲストスピーカーとしても登壇した、世界No.1フィメールDJの名高いニーナ・クラヴィッツ(NINA KRAVIZ)が主宰するレーベル・トリップ(трип)のパーティが開催された。会場に入り、フロアを見渡して私は目を疑った。来場者のほとんどが30代以上の大人で、20代の若者は全体の30%ほどだったように思う。昨年Mixmagで「年間最優秀レコード・レーベル」も獲得したトリップ(трип)のワールドツアーは、日本の前にアメリカ、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランドでも開催されており、各国の来場者は20代が中心だったようだ。ここ日本では、EDM以外のダンス・ミュージックが若者にとって、いかに馴染みの浅いものとなっているかがわかる。

たとえば韓国や中国では、欧米と同じように、国内外のアーティストとのコラボレーションが盛んに行われている。ポップ・ミュージックにエレクトロサウンドが取り入れられ、国内のポップ・ミュージックのクオリティを上げるとともに国境を跨いで活躍するアーティストが増えた。それによりアンダーグラウンドなサウンドはどの世代にも広く認知され、韓国のクラブシーンでは毎週末、ハイセンスな若者で溢れかえっている。

少し話が逸れるが、宇多田ヒカルの最新アルバムで、KOHHや小袋成彬がフィーチャリングされ大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。普段J-POPを主に聞いている人であれば、その名前を聞いて「誰?」となったであろう。しかし宇多田ヒカルが今回、自身のアルバムにコラボレーション楽曲を組み込んだことの意味を、私たちは深く考えるべきだと思わざるを得ない。

@ contact tokyo

話を戻すと、このままでは日本におけるダンス・ミュージックは消費されるだけの音楽となり、アンダーグラウンド・ミュージックはただ気難しいだけの音楽として敬遠され、存在意義が希薄になっていくだろう。そういった危惧が宇川直宏氏の発言から感じられた。

ダンス・ミュージックの発祥には諸説あるが、簡単にいうとニューヨークのゲイシーンからディスコが発展し、黒人コミュニティからテクノ・ミュージックやハウス・ミュージックが生まれた。ダンス・ミュージックは時代と融合しながら形成されてきたのだ。それは時を経てポップ・ミュージックと交差し、オーバーグラウンドへと少しずつ浸透してきた。それがアンダーグラウンド・ミュージックの健康的な姿であって、ただ地下の、それも限られたコミュニティの中だけで鳴り続けていては意味がないのだ。

日本のアンダーグラウンドシーンで活躍するアーティストが、国内で活動することに限界を感じ活躍の場を海外に移すのではなく、自らが生まれ育った地で、時代背景やそれぞれのストーリーを背負いアイデンティティを発信できる。そして日本から世界へ活躍の場を広げる。その光景があたりまえのように語られる日がくることを願わずにはいられない。

その後のトークセッションでは、The FADER Magazine編集長のルース・サクセルビー(Ruth Saxelby)氏やDJ Magazine編集長のシャーロット・シファーズ(Charlotte Cijffers)氏も登壇し、海外の音楽メディア事情に関するトークが行われた。

そこでもEDMの存在と影響について言及するシーンが見られ、ルース・サクセルビー氏は「EDMは消費され続けているわ。けど消費者のなかでダンス・ミュージックの歴史を知る人は少ない。音楽は文化とともに旅をする必要があるの。FADERでは音楽にまつわるストーリーをもっと伝えたい」と話し、メディアが果たすべき責任について語っていた。

EDMがメインに流れる海外フェスでは、ダンス・ミュージック界の重鎮カール・コックス(CARL COX)がテクノ・ミュージックを流すなど、EDMのマーケットをアンダーグラウンドに引き込もうとする動きが見られる。

「クラブカルチャーへの扉を開ける」という意味においては、EDMの存在も大切な要素のひとつなのだ。そういった試みが、ここ日本でも多く行われるようになれば、日本におけるダンス・ミュージックの未来も決して暗くはないだろう。

DJ HELLO KITTY@ Shibuya Hikarie

TOKYO DANCE MUSIC EVENTでは、開催当日の夜にWOMB・SOUND MUSEUM VISION・contact tokyoでライブイベントが行われた。渋谷ヒカリエでは『Boiler Room Tokyo』が行われ、日本のダンス・ミュージックシーンで活躍するアーティストたちの熱いプレイが全世界に向けて発信された。

今もっとも注目されるエレクトロニックアーティストSeihoのライブでは、彼を知る者ならわかるであろう生け花のパフォーマンスを交えながら、どこまでも冷たく色気を帯びた電子音を自由自在に操り会場を沸かせていた。

Seiho live @ Shibuya Hikarie

そしてテクノ界の新星SEKITOVAは、洞窟のなかで重く脈打つ鼓動のような、はたまたどこまでも続く宇宙の暗闇に吸い込まれるような重厚なテクノサウンドを響かせた。

世界と比べてもなんら劣らない彼らの技術とセンスに、日本のダンス・ミュージックのレベルの高さを再認識するとともに、音に心酔する人々の姿を目の前に、ダンス・ミュージックの未来を重ね見た。

Licaxxx @ WOMB

WOMBではフランスの新世代エレクトロニック・アーティスト、ティラシン(THYLACINE)がライヴを行った。シネマティックな電子音とVJ、そこに絡みつくようなサックスの生音が織りなすサウンドスケープは会場を圧倒。また、Shinichi OsawaやKEN ISHIIといった日本を代表する電子音楽家とともに若手No,1 DJ Licaxxxも登場。その場に集まった国内外の若者を踊らせた。

Kenji Takimi @ contact tokyo

SOUND MUSEUM VISIONではロサンゼルスからETC! ETC!が。そしてA$AP Rocky率いるラップクルーA$AP MobのA$AP J. SCOTTが来日し、EDMとヒップホップが混ざり合う熱い夜となった。

Photo by MASANORI NARUSE

アフターパーティが行われたContact Tokyoでは御年76歳となるディスコの父、ジョルジオ・モロダー(Giorgio Moroder)が来日し、会場は超満員となった。深夜2時を過ぎた夜更け、真っ赤なヘッドフォンを装着した彼がフロアに現れた瞬間、会場は大きな熱気に包まれた。

巨匠はどのようにしてフロアを沸かせるのだろうかと期待していたところに、光り輝くようなEDMが放たれた。一瞬目を見開いたが、ごく自然に目の前の光景に順応する自分がいた。正直なところEDMに対して偏見を持ちがちだった私だが、ダンス・ミュージック界の超重鎮が真っ当にEDMを流し、自身がプロデュースしたディスコミュージックとミックスしながら全力で会場を盛り上げている嘘のない姿に感銘を受けた。

Giorgio Moroder @ contact tokyo

その夜フロアに鳴り響いたEDMは決して消費されるだけの音楽ではなく、価値あるものとしてその場にいるすべての人を楽しませていた。かの有名な映画『ネバーエンディングストーリー』のメインテーマがEDMバージョンで流されたときには、おそらくその日いちばんの盛り上がりを見せたのではないだろうか。

ダンス・ミュージックシーンを牽引してきた第一人者が、歴史と時代を背負いフロアを沸かせる。それはTOKYO DANCE MUSIC EVENTをより意味あるものにしたに違いない。ダンス・ミュージックの未来を若者に託すように、目の前の観客とコミュニケーションを取りながら行われた彼のプレイは華々しく終演を飾り、イベントは幕を下ろした。

Credits


Text Naoko Okada
Photography Takao Iwasawa, Kisshomaru Shimamura

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