Rick V.

90sキッズのベッドルームへようこそ

デジタル時代に再評価を受けているエイドリアン・サリンジャーの作品集『In My Room』。今、再評価される理由から現代の若者を考える。

by Emily Manning
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09 May 2016, 12:40pm

Rick V.

クリストファー・シャノン(Christopher Shannon)がこれまで発表したなかで最も優れたコレクションは、2015年春夏だったと言えるだろう。オーバーサイズのTシャツにウィンドブレーカー、切り貼りしたポケットに、グラフィックのラフなコラージュ−−あのコレクションを制作するにあたりシャノンが参考としたのは、写真家エイドリアン・サリンジャー(Adrienne Salinger)による1995年の写真集『In My Room: Teenagers in Their Bedrooms』だったという。ティーンエイジャーたちと彼らにとって最もパーソナルな空間を捉えた写真が並び、そこには雑誌『Thrasher』からの切り抜きとパンクのポスターに壁を覆われた部屋もあれば、大胆なブルーの壁紙に人形が高く積まれた部屋もある。どの部屋も、青春時代を象徴する物に守られているかのようだ。「エイドリアンの写真集で惹かれたのは、ベッドそのものよりも、ティーンエイジャーたちがベッドルームをどうデコレーションしているかだった。壁にどんなコラージュを作り上げて、どんな風にベッドルームを自分の空間にしているか、そこにどう自分のアイデンティティを見出そうとしているかにね」と、シャノンは語った。「デジタル社会である現代にはもはや存在しない。そんな個人の空間に惹かれたんだ」

サリンジャーの作品がデジタルの世界で再評価されている現在を考えると、それは皮肉なことのようにも思えてくる。サリンジャーが撮ったティーンたちの画像はTumblrのいたるところに見られ、Pinterestではサリンジャー作品のコーナーまで作られている。これらは、個々がもつアイデンティティの形をヴァーチャルに映し出すプラットフォームだが、物質感に溢れた『In My Room』とはどこか違う。

Ellen L.

サリンジャーがこのシリーズを撮影し始めたのは80年代だった。シアトルからロサンゼルスに至る西海岸で写真を撮りためていったが、まとめあげるには何かが足りないと感じた彼女は、このプロジェクトを中断させていた。『In My Room』の重要な要素となる被写体へのインタビューを、その時は思いついていなかったのだ。「それまで、充分に被写体の声を聞いていないと他の写真家たちを批判していたのに、自分も同じことをしていると感じたの」と現在、彼女が写真クラスで教鞭をとっている大学があるニューメキシコ州から電話で話す。90年代に入り、サリンジャーは西海岸からニューヨークのアップステートへと移住し、助成金を得て改めてこのプロジェクトに着手した。そして、被写体へのインタビューを始めた。インタビューは、被写体1人あたり2時間行い、凝縮された形で写真集に収められることになった。「部屋にあるものはすべて彼らのもので、彼らの過去と現在を表している。そして、アイデンティティの変遷をそこに見ることができる。でも、壁に貼られているものと彼ら自身は、同じ空間にあってなぜか相反していたりする。彼らが言っていることと部屋も、ちぐはぐだったりするの」と彼女は言う。「自分という存在を知る過程で起こるそういった矛盾に興味がある」

Fred H.

ティーンを撮り始めたきっかけは?
はじめはメディアでのティーンの描かれ方に興味がありました。画一化や典型化されて描かれるけど、実際の彼らは大きな過渡期にいる。親の家に暮らす最後の時期で、世の中に対して強い意見を持つ頃でもあります。まだ妥協する必要もない時期です。また、それぞれの空間の中でティーンたちが自分たちをどう捉えているかにも興味がありました。社会経済的な地位に関係なく、彼らの部屋はだいたい12平方フィートで、天井の真ん中には60wの電球が取り付けられる。元はどれも同じような部屋なのです。

写真集に収められているティーンたちの個性と部屋、そして彼らの物語の多様さに驚きました。肌の色も体型も違えば、真面目だったり、信仰深い子もいる。シングルマザーの子も1人いますね。そういったことは、このシリーズにとってどれほどの重要だったのでしょうか?
これはドキュメンタリーのプロジェクトではありません。そう見えるかもしれませんが。私自身はドキュメンタリーをあまり信じていないんです。ドキュメンタリーが映すのはある側面における真実、1つの視点から描かれている真実でしかありません。だから、すべてのグループやすべての人を網羅しようとも、できるとも思っていませんでした。

ではどうやってここまで説得力ある多様な人選ができたのでしょうか?
彼らとの出会い方がバラバラでした。モールに行けば、ティーンの女の子たちがトイレでたむろしていたり、それぞれ女の子らしいことをしているでしょう? そういう場所へ出かけて行って、そこで出会った子からまた他の子を紹介してもらったり。いつも被写体を探しながらうろうろしていました。

Donna D.

彼ら・彼女らの部屋での撮影について聞かせてください。楽器やペットを抱いている子もいますね。
まず、「ベッドルームを掃除したり、模様替えしてはいけない」というルールを設けました。1人につき、2時間のインタビューを含む6時間かけて撮影しています。いかなる意味でも彼らを騙さないようにと意識していました。写真作品を作るとき、写真家としての力を振りかざして被写体に特定のイメージを作り上げてしまうフォトグラファーがたくさんいるでしょう? 被写体の内部(日常)に入っていって、彼らの非日常的な姿を写すような仕方でです。それは結果的に、多くの人たちをないがしろにすることにもなります。私はそれに断固として反対しています。だから、照明にはストロボじゃなく定常光を使いました。ストロボを使うと、被写体の非日常な部分を引き出してしまう。実際の彼らと、非日常の中間が撮れてしまう。作品を作る立場として、写真家はインサイダーに、被写体はアウトサイダーになる。そこで写真家は、写真を見る者の観点をそこに作り出すわけです。被写体にコントロールを失ってほしくなかったから、ストロボを使いませんでした。ストロボを使うと、被写体は無力になるので。
被写体の魅力を引き出しつつも、シャープな絵を撮るためにビューカメラを使いました。大きなネガで、露出時間が4分の1秒必要なんですが、人が動かずに立っているには長すぎる。だから、そのまま動かないで、身振りも止めてと頼みました。露出の時間が長いから、彼らの視線にも力強さが出てきました。そうやって、被写体との間に生まれる力の交換のようなものに責任を持とうと努めました。彼らの主張を可能なかぎり表現させてあげたかったんです。

Jason C.

インタビューについて聞かせてください。
当初、本を作るというアイデアはありませんでした。本にまとめるという案は、このシリーズを展示した後に持ちかけてもらったものです。本を作る段になって、インタビューを撮影したビデオから彼らの言葉をすべて文字に起こしました。それを彼ら全員に送り、電話で経緯を説明して、本に収録するインタビューでカットしてほしい部分はあるかと訊ねました。彼らはもうティーンではなくなっていたんだけど、全員がセックスに関する部分は使わないでほしいと言ったわ。そうやって後になって彼らが自身を編集・校閲するというのはとても興味深いことだと今でも思う。彼らは素晴らしい話をたくさんしてくれました。悲しいことや驚くようなこと、信じられないようなことを。彼らは、一言では言い表わせる存在ではないのです。年をとれば誰もが変わっていくものだけれど、10代には、とてもダイレクトで偽りがないものがある。すでに形成された何かががね。

Gavin Y.

そうですね、インタビューにも彼らの不安定さが感じられますが、宗教観、依存症や家族への思いに確固たる主張のようなものも感じられます。それが、ポートレートが伝えんとしていることをより鮮明に伝えてくれています。彼らはそれぞれが自立した個人なのですね。
その通りです。彼らは確固たる人間なのよ。私たちは、彼らを過小評価しすぎていると思います。

ストーリーが、彼らの壁に貼られている物の内容とは直接的に関係していないというのも、面白いですね。言葉が、被写体の違った面やまったく予期しなかった面を見せてくれています。
そうです!それこそが私のやりたかったことです。写真を見ると、人はすぐにステレオタイプで判断して理解しようとする。「彼はスケーターだ」とか、「彼女はパンクなのね」というふうに。見て想像した被写体の正体と、彼ら自身が言葉で明かす実像がかけ離れているということもよくあります。作品と言葉を通して、見る人に、イメージの信憑性を判断してほしいと思っているんです。彼らのことを真剣に捉えてほしい。私は彼らにとてつもない敬意を持っています。

Lynne M. 

これらの写真が残したインパクトについて話しましょう。
このシリーズを撮っていた頃、ティーンの神話とステレオタイプは完全にテレビと広告によって作られていました。これらの写真を撮ることでそれを打ち破りたかったんです。本が出版されて5年ほど経って、私が撮ったようなベッドルームが映画やテレビで見られるようになっていきました。「みんな同じことを考えてたのね。私がやらなくてもよかったかも」って思ったのを覚えています。でもそこで、テレビドラマ『Breaking Bad』のディレクターと会う機会があって、その時彼が、「セットデザイナーたちは今でもあなたの本を参考にセットを作っていますよ」って言ってくれました。作品を通して見せようと頑張ったものが、元々は私が反発した媒体の扱い方によって人々の目に触れることになった−−急速に吸収されてコピーされていって。興味深くも、恐ろしくもあったけど、やっぱり嬉しかったですね。

Jeff D. 

あなたの作品は、今、デジタルの世界で本格的に再評価されています。90年代のアイデンティティ形成の物理的な要素が写真には見られますが、現代のティーンたちは同じことをオンラインでやっているのかもしれませんね。
でも、デジタルのプラットフォームで自分のアイデンティティを主張するのと、自分の部屋に誰かが実際に来て質問されるのとでは、大きな違いがあると思います。オンラインで複数のアイデンティティを構築していくプレッシャーは、全く違うものです。自分がどう見られているかを知っているわけだから。サイトによって違う自分を作り出していくということを1日に何度もやるでしょ。そこには自意識が必要になってくる。オンライン上で作られた自分像は自由に操れるので、統一感のある自分を作り出そうとしているんだと思います。私の興味は、その人が他人にどう見られたいかではなく、リアルな対話にあるんです。まどろっこしく、脱線したりする会話にです。私たちは、「自分という確固たる感覚をもつ」のが大人になることだと、いつの間にか刷り込まれています。そんなの面白くもなんともありません。誰も確立した個性や存在をもっていないということこそが、人間の魅力なんだと思うのです。私たちは様々な要素が、ぶつかり合ってできているのです。

See more rooms and discover their stories at adriennesalinger.com.

Carlos C.

Credits


Text Emily Manning
Photography Adrienne Salinger
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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Culture
Interviews
Adrienne Salinger
In My Room: Teenagers in Their Bedrooms