不完全な完璧を求めて:クリス・ルースと伝統ある陶器メーカーが新たな陶器を生み出す

アイコニックにしてモダンなミラノのブティック、10 Corso Comoを裏で支えるアーティストが、スイスに3世代続く伝統陶器メーカーのオーナーと共に新たな作品を発表。

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29 april 2016, 11:25pm

「私は若い頃、ここミラノに暮らしてたの。モデルとして」と、スイスの陶器メーカーLinckの3代目オーナー、アネット・ベルガ(Annet Berger)は話す。「ミラノに強く惹かれたの。その文化にね。スイス生まれで、決まりごとに囲まれて育った若い女の子の目に、ミラノはとても気楽なところに映ったの。あの時代、ファッションはとてもカラフルで風通しも良かった。10 Corso Comoは、今でこそアイコンだけど、当時はただとても新しい空間だったわ。まだコンセプトストアと呼ばれるものもなくて。自由の新しい形がそこにはあったの。新しいクリエイティビティの形が」

世界的にも有名なギャラリスト、カルラ・ソッツァーニがギャラリー、本屋、カフェ、ブティックを集結させた10 Corso Como。アネットは、まだモデルだった20年余り前に10 Corso Comoと出会い、強く惹かれた。そして数年前、彼女がパートナーから結婚を申し込まれ、首を縦に振ったのもここの屋上テラスだったことから、この場所との感情的つながりはより強くなった。彼女にはいま、コラボレーターがいる。アメリカ人アーティストのクリス・ルース(Kris Ruhs)がそのひとだ。彼は、ソッツァーニのパートナーであり、クリエイティブ面での右腕でもある。アネットは、ベルンに拠点を置く自らの陶器会社を、大胆にもクリエイティブな方向性へと進め、ミラノのデザイン博Salone del Mobileでクリスとのコラボレーション作品を発表し、新たに世界へとその顧客層を拡大している。

コラボレーションによってアネットとクリスが生みだしたアート作品は、Linckのトレードマークである艶と曲線美、そして角度を生かした花瓶やボウルなどを、再解釈したもの。大きな花瓶のような佇まいを見せる、高さ45センチのオブジェには、真ん中に黒くグロス加工がほどこされた柱が作られ、ムラを残したツヤ加工を施された外面には大きな穴があけられている。穴からはツヤを残した内側の柱が見える仕掛けとなっている。穴が1つ、2つ、そして4つの3種類を展開していて、それぞれ15個のみの限定生産だという。

Linckの伝統的な陶器はハンドメイドで作られているため、全てが世界にひとつだけの作品なのだとアネットは言うが、それもクリスが、彼女の考える「完璧」の概念を覆したことに関係しているようだ。ミラノにあるクリスのスタジオでアートと猫に囲まれ、アネットは、コラボレーションで生まれたたくましい陶器のひとつを手に取る。ムラのある艶を指でなぞりながら、「これがあるから完璧でないというひともいる」と話し始めた。「でも、これがあるから完璧なのよ!」と彼女は言いながら、クリスに微笑んだ。「これまでとは違う方向性で作ったんだけど、これはひと味違った作品になったよね」とクリスは控えめにつぶやいたが、これに対しアネットはきっぱりと、しかし諭すようにこう言った。「ひと味違うんじゃないわ。これは革命なの!」

Linck's main collection

クリスは、完璧を目指すLinckのスタイルをどう思ったのだろうか? 「Linckは素晴らしいと思う。僕もいつも完璧を目指して作品作りに挑むからね」と彼は言い、しかし「完璧の定義は少し違うかもしれないけれどね」と付け加えた。「アネットは、僕が10 Corso Comoで作っているものを気に入ってくれた。だから、Linckのスタイルとコントラストができて、いいアプローチになると思ったんだ。僕にとってもLinckにとっても、ひとつ上のレベルを目指せるだろうって。僕はLinckが作り出してきた"完璧"から学んだことがあるし、Linckも僕から何か、従来とは違ったアプローチを得られたかもしれない。本当の完璧なんてこの世に存在しないわけだけど、同じオブジェをいくつも正確に作ろうとする彼らの真摯な姿勢には感服したよ。僕が作るものは、絶対にふたつは作れないものばかりだからね。『ああいうものが欲しい!』なんて言われると、いつも困るんだ」

「陶器には長い歴史がある。古い技術もたくさん使われているの。陶器を作るには忍耐が必要ね。乾燥させるのに長い時間を要するし、艶の出し方も難しい。偶然できるものではないのよ」とアネットは説明する。「Linckの職人みたいにやれば時間がかかるよね」とクリスは冗談を飛ばす。彼が陶器を制作する際には、5分と要さないらしい。「火の中に入れて、熱いうちに出して、そこに衝撃を与える」ことでひび割れの効果を生むのだと説明し、クリスはいたずらっぽく微笑んだ。「僕は学校でも手がつけられないタイプだったよ。じっと座って教わるということができないんだ」。「でもそこから生まれるものも多いわ。実験的なアプローチよね」とアネットが割って入る。Linckの創始者マルグリット・リンクも様々なアートに興味を示し、ピカソやジャコメッティ、ブラックなどシュルレアリスムの巨匠から、アフリカ彫刻にまで傾倒した。アネットはそれを受け継いでいるのだ。

Linckの職人たちは、4~5年の訓練を経てようやく同社のトレードマークともいえるフォルムを作れるようになるのだという。9人いる職人のうち、数人はLinck社に勤めて10年以上になるという。彼らは、今回のアーティスティックで型破りなデザインをどう思ったのだろうか? 「最初は戸惑っていたわ。私たちはこれまでずっと同じフォルムの陶器を白か黒で作ってきたから」とアネットは説明する。「でも、職人のひとりがこの新しいフォルムにとても興味を持ったの。そして情熱を持ってこれを作りたいと思ってくれたのね。それをきっかけに、他のみんながついてきてくれた。今では、私同様、みんな夢中よ」

Linck/Kris Ruhsコレクションは、10 Corso Comoで発売中。

Credits


Text Charlotte Gush
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.