音楽と歩んだMCMの新しい波

MCMの軌跡を辿ってみると、その隣にはいつも“音楽”があった。そして、ピッティ・ウォモでの2019年春夏コレクションで示されたMCMの次なるステージとは?

by Tatsuya Yamaguchi
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02 July 2018, 6:03am

1976年、ドイツ・ミュンヘン——かの有名なロゴで知られるMCMが誕生したのは、グラマラスなディスコを彩った“ミュンヘン・サウンド”の生みの親、ジョルジオ・モロダーをはじめとするアーティストやロックスターたちによって多彩なカウンターカルチャーが開花した時代だ。ハンドクラフト・コレクションから始まったMCMは、創業から40年以上経つ現在もなお、バイエルン王国時代から受け継がれているクラフトマンシップが作り出す揺るぎない“品質”を誇示し続けている。そして、MCMの軌跡を辿ってみると、その隣にはいつも“音楽”の存在があった。

それは1980年代以降、NYで隆盛していたヒップホップカルチャーにMCMが深く根付いたことにはじまった。端を発したのは、ニューヨークのハーレムに店を構えていた伝説的仕立て屋、ダッパー・ダンによるMCMのアイコニックな”ヴィセトス モノグラム”のリメイクだった。映画『フレッシュに着こなせ』でダッパー・ダンが、「ブランドがやらない装飾。黒人らしく、自分たちに似合うようにしたんだ」と語ったように、同店の上顧客であったエリック・B・ラキム、ビッグ・ダディ・ケイン、ソルト・ン・ペパ、ジェイ・Zらヒップホップアーティスト、マイク・タイソンやアリーヤ、そして何よりも“高級ブランド志向”が高まっていた地元の人びとの欲求を満たす“フレッシュ”な服を生み出した。人びとのMCMへの憧れは日に日に高まり、NYを中心にカルト的人気を誇る時代が始まったのだ。

しかし、ヒップホップの影響力がアメリカ全土(あるいは世界全土)に行き渡らんとしていた当時、超人気テーラーの前に立ちはだかったのは“著作権侵害”という巨大な壁だった。世界的ブランドからの訴訟を受けたダッパー・ダンは1992年に閉業に至ってしまったのだが、25年以上が経った2018年1月、GUCCIとの協業によりダッパー・ダンのアトリエ兼ショップがハーレムの地に再びオープンした。かつての彼の“仕事”が2018年現在のファッションシーンといかに親和性があるかを象徴する出来事といえるだろう。

21世紀に突入し創業30年を迎えようとする2005年、ブランドの歴史に新たな息吹が吹き込まれた。西から東へ——MCMのビジネス的拠点がソンジュ・グループの買収により、韓国に移ったのだ。K-POPがワールドマーケットに進出しようという機運を背景に、BIGBANGのG-DRAGONやCL、Rainら韓国のポップスターが、ステージ衣装からプライベートユースに到るまでMCMを愛用し、こと北米のシーンに浸透したK-POPの“音楽”と“スタイル”とともに欧米のアーティストたちをも感化した。

これは現在も進行形だ。先週公開されたばかりの『APES**T』のMVでビヨンセが着用しているのも、ミサ・ヒルトン・ブリムがカスタムデザインしたMCMなのだから!

そして2018年6月、ピッティ・ウォモで発表された2019年春夏コレクションとなる“LUFT”は、ブランドヒストリーの延長線上にありながら、まるで“フレッシュ”なものだったのだ。

開場直前まで大雨に見舞われていたフィレンツェの空が、ショー開始の20分前には申し合わせたかのように見事な快晴に変わった。そんな自然の演出も想定していたかのように、ショー会場のテーマは“空気”。空を舞台に繰り広げられるスポーツをデザイン・インスピレーションに、オーバーサイズジャケットやパンツなどのアイテムは極めて軽量な素材で仕立てられている。伝統的なバッグのバリエーションも多く、ファンを魅了することは間違いない——だが、ウェア、シューズ、アクセサリーにいたるまで幅広いラインナップをみせ、アパレルラインに注力する姿勢を強く感じさせるコレクションだ。MCMは、新しい時代への突入を指し示したのだ。

www.MCMWorldwide.com