「ビッチこそ本当のことを知ってる」:カーディ・B interview

あれが噂のカーディ・B。こりかたまった常識を本気でぶち壊すやつ。ハティ・コリンズが、彼女の生き方のルールを探り出す。

by Hattie Collins; translated by YU OKUBO
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04 April 2018, 4:24am

This article originally appeared in The Radical Issue, no. 351, Spring 2018.

あれが噂のカーディ・B。こりかたまった常識を本気でぶち壊すやつ。ハティ・コリンズが、彼女の生き方のルールを探り出す。

ちいさなソファでボルトのようにまっすぐ座るカーディ・B。目の前のテーブルに散らかるハリボーグミ、未開封のモエ、飲みかけのファンタオレンジ、それから本物のオレンジとリンゴ。今いるのはロンドン北部の奥深くにあるアレクサンドラ・パレスの楽屋で、暗く寒い夜のことだ。

157cmの身体に見事なタトゥーを持つカーディが、ナンドスよりもチックフィレイのチキンのほうがいいとひっきりなしにベタ褒めしているのだが(このチキン店対決でナンドスはボロ負け)、それを聞くメンツもさまざまで、マネージャーから広報、スタイリストと警備員にダンサー、何人かの〈ロンドンのお友だち〉などなど。彼女自身の服装は、ニーハイのブーツにセーラーキャップ、ダイヤのちりばめられた青と白のボディスという出で立ちで、股がぎりぎり隠れるくらいの丈だ。「自分のヴァギナを楽しむの」とその部分を指さす。言葉は一文ごとに間があって(まじめなのかそうでないのか)、車の音を真似たお決まりの奇声を挟みつつ、表情豊かに何度も顔を大きく動かす。カーディはまさに——まさに期待通りの人物だ。

彼女は自主規制とは無縁で、おかまいなしだ。クンニやストリップ、ギャングの暴力やヴァギナについても、気にせずのべつまくなしにしゃべる。リアルでもソーシャルメディアでも、ちょっと下品な友だちキャラを貫く彼女のことは、これまでにもたくさん書かれてきたが、その話す内容は単にお下劣なことだけにとどまらない。

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カーディはぐいぐいと面白いだけでなく、賢くて頭も本当にキレる。インタビュー内容も、彼女が大学で専攻した3つの科目(フランス語・西洋文明・アメリカ政治)にも及んだ。
「昔は歴史の先生になるって思ってたけど、考えが変わったのはもらえる額を教えてもらったとき。そんなのイヤだと思って」とカーディは眉をつり上げながらはっきり言う。「やっぱり大事なのはそれでしょ。先生には英語の成績もあんまりよくない、『しっかり話しなさい』なんて言われるし」。確かにカーディの話し方はしっかりしていない。自分のInstagramをちらちら見るところはインスタ中毒の芸能人だし、ガムをくちゃくちゃしながらずっとブロンクスなまりでしゃべるところは、そこらへんにいる不良少女でもある。「あいつら、アタシが有名になったときにも同じこと言ってるの。でもこっちは、ちゃんと英語をしゃべってるつもり」と口をすぼめる。「今起こってることだってわかる。CNNの時事問題もわかる。わかってないやつもたくさんいるけど、アタシはわかってる」

カーディがヒップホップ界に登場したのは、世間が不安で揺れ動いていた時期だった。女性器をわしづかみにするのが好きだと知られても大統領が大統領でいられたあの頃。極右の白人国粋主義者連中と仲良くしながら大統領がそれをうまくごまかしていたあの時。大統領がTwitterで140字打っただけで核戦争をけしかける寸前まで行きかけたまさにあの時期のことだ。

とはいえトランプや大災害のほか、黒人青年が警官に撃たれたりもした世情でありながら、同時に#MeTooや#TimesUp、#BlackLivesMatterなどのタグが盛り上がったり、アメフト選手のキャパニックが抗議として国歌斉唱を拒んだり、片膝をついて正しいことを主張したりもしていた時期だ。デモや手記など、行動に移す人々は勢いづいて抵抗していた。

カーディ・Bは、特に抗議運動をしそうな人物には見えないが、彼女の存在こそまさに、白人男性の支配への“FUCK YOU”なのだ。トリニダード=ドミニカ系アメリカ人の若者で、元ストリッパーでリアリティ番組の人気者がこうして成功したことは、それ自体ウソみたいな話だ。レコード会社の後ろ盾や流出動画もなく、ヒップホップ界では必須とも言える男性とのコラボもせずに、ひとりの女性ラッパーとしてカーディが成功を勝ち得たのは、それだけで社会におけるムーヴメントなのである。男性の客演なくソロで全米チャートの第1位になったのは、女性としてはローリン・ヒル(1998年)以来で、3週もトップの座を守ったのはヒル以上の長さだ。その際、なんとテイラー・スウィフトまで押しのけてしまっている。

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その「Bodak Yellow」は2017年の楽曲で、並み居るスターを押し倒し、巨額の売り上げをたたき出した。しかもその主は、労働者階級出身の元ストリッパーというラテン系の若者で、チャート1位を取ったばかりか、ソーシャルメディアに動画・写真やツイートを投稿すれば2,500万人のフォロワーが注目する人物なのだ。「チャート1位になったときは全然知らなかった。1998年から女性で誰もなってないこととか、それがコミュニティやマイノリティにとってどれだけ大事かってことも」。彼女やその仲間たちの成功は(婚約者オフセットも関わる音楽グループのミーゴスも含めて)、有色人種の若者たちを勇気づけたばかりか、そうでない人々には脅威ともなった。彼女(たち)のために世の中は騒然としたわけで、その動揺は本当に強烈なものだった。

「アタシみたいなやつの成功が、みんな怖いのよ。だからアタシらをけなしたりくさしたりしてくる。まあ、アラバマかどこかのトレーラー育ちの、やせっぽちの男なんかがいたとしたら、彼にはさぞかし怖いだろうね。だから銃なんか持ってんの! マイノリティの賢さがおそろしいのね。そんなもんにビビってる。アタシらは何度もこうしてルール破りをしてきた。全米チャートはいつも見てるけど、いつだってヒップホップはある。ってことは、アタシらは音楽産業を動かす側。ファッション業界を動かす側なわけ。流行がランウェイから生まれるにしても、コーカソイドの女がそこを歩くにしてもさ、こっちは気にならないけど、有色人種の人間がなんか着た途端に、みんな着たがるようになっちゃうわけでしょ。いつも流行らせるのはこっち。オリンピック見ててもさ、いっつも勝つの誰よ? 有色人種でしょ。何でもこっちの勝ち。幅を利かせるのはいつもこっちだから、人はこいつら邪魔だ、って思うのよ。ドナルド・トランプみたいなやつはいつも、こっちに劣等感を抱かせようとしてくるんだけどさ。でもいいんじゃない? だってアタシみたいなビッチこそ本当のことを知ってるんだから。政府や共和党がアタシたちは劣っているって思わせようとしても意味ない。アタシは本当のことを知ってるから」—— 本当のことって何?——「アタシらの天下だってこと」

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カーディ・Bの流儀—— 特にそのフェミニズムは、いわゆるミドルクラスの白人のリベラリズムを無難かつ親しみやすくしっかりと表現したもの、ではない。彼女は〈有色〉〈ニガー〉〈ビッチ〉なんて言葉も口にする。カーディのやり方は挑発的で挑戦的。ポリティカル・コレクトネスなんて何のその。人を不快にもさせる。なぜなら、怒り・不公平・貧困などリアルで本物の生活経験のあるところから、カーディの流儀が始まっているからだ。必ずしも小ぎれいではないが、それこそが彼女のやり方、彼女のフェミニズム、彼女のアクションなのである。「フェミニストだってことが、なんか偉いことで、アタシみたいなやつはそこまで偉くなれないって思うやつもいる。でもさ、それって賢いかもしれないけど、普通の感覚が欠けてるよね」と口をとがらせて眉をつり上げるカーディ。「そいつらの頭では、フェミニズムってのは偉くって、ちゃんと話せて学位があって人の上に立つ会社員の女しか……ミシェル・オバマしかフェミニストになれないって考えてる。だけど、フェミニストであるって実は超簡単。それは、女が男と同じことができるってことだから。アタシはニガーと同じ。男のできることは何でも、アタシもできる。うまくやってのけられるし、出し抜ける。アタシらには同じ自由があるわけ。アタシはチャートのトップに載った。女のアタシがそれをやった。男と対等になれた気分ね」

カーディ・Bは、マンハッタン北端のワシントン・ハイツで生まれ、そのあとブロンクスのハイブリッジ地区へと移り住んだ。「アタシほど不良らしい不良はない」と誇らしげに言うカーディ。「6年生でブロンクスに引っ越したとき、強がらなくちゃいけなくて。だってそうしないと、いじめられるから」。そこで、新しい学校には奇抜なファッションで通い始めた。新しく出会う同級生からは浮いてしまうようなものだった。「あのときはピンクのスカートに、袖にファーのついたジャケットを着てたっけ……いつも『That's So Raven』(※米TVドラマ)みたいな格好で。うちの学校ではみんな、アタシを頭おかしいやつみたいに見てた。だってみんな普通に不良っぽい服装っていうか、PePeのジーンズやTimberlandのブーツ、ジョーダンのスニーカーばっか。本当にアタシ悲しくなって」とカーディはまた口をとがらせる。「自分の着こなしが理由でいじめられたの。6年生でホントひどくやられたから、そのあと変わった。それで本当に本当に変わった。中高では、自分がどれだけ強くても意味ないし、クソみたいないじめに耐えられても意味がない。仲間に入れなかったら、何者でもなくなる。人に幅を利かされて、あれも一緒に、これも一緒にって言われる。それはそれで、いい経験になったわ。(そこで育たなかったら)今のラップができなかったかもしれない」。昔の彼女が本当に人とつるみたがっていたかは定かではないが、昼のトーク番組でも言ったことをあらためて、自分の実体験として語ってくれた。大人びた子どもだったカーディは、ルネサンス音楽学校へと進み、そのあとマンハッタンの大学に通ったが、退学してアーミッシュ風の惣菜屋のレジ係として働いて何とか生計を立てた。このデリのオーナーが当時18歳だった彼女に、ストリップならもっと稼げて、幼い妹のヘネシーやタクシー運転手の父、それから離婚した母の面倒も見れると吹き込んだのだ。

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「初めてのストリップは、本当に恥ずかしかった。心の奥で親の声を聞いた気がして。初回のラップダンスで、他の女の子はみんなこっちを見て、妙なことしでかさないか確かめようとしてた。ラップダンスのやり方そのものもわかってないわけだから。うんざりした気分だった。アタシの秘部にはお触りなしで、どこにもまったく触れないってことになってるはずなのに、ときどき男が腕をなでてくるし、耳元にはハアハアいう息が聞こえてくるし。キモイって」。当時の彼氏にもうやりたくないと言ったが、誰もお金を稼ぐ別の手段がわからなくて、続けることになった。「しばらくすると気にならなくなった。頭には、実入りがいいことだけ。でも、それからうまくなったあとは、一晩で2,000ドルとか3,000ドルとか稼げることがあって、21のときには20,000ドルの貯金。22になるともう35,000は貯まってた—— 独り身で」と彼女は笑う。

ところがワードローブに引きこもる独身者の魅力にも陰りが出てきて、その代わり彼女の人気が出るきっかけとなった放送局VH1の「Love & Hip Hop: New York」というリアリティ番組のスターになってゆく。ストリップでうまくいくのもここまでだと、このときカーディは実感したらしく、ラップの道に光が見え出すとたちまち足を洗っている。そして今度はソーシャルメディアで、増えていくフォロワーをうまく利用しながら、パロディとペーソスを組み合わせてファンを面白がらせ、いろんな美容整形もいいんじゃないと軽くアドバイスしていると、物事は雪だるま式にふくらんでいった。彼女のInstagramは、今もどんどん更新されていて―― 彼氏との破局騒動もあれば、歯を治したり、それからミーゴスのラッパーであるオフセットとデートしてみたり。そのふたりが誓い合う場面も、何千人ものファンの前でライブ中に公開プロポーズ、そのあとそのままインスタに上げて、同じことが何千万人の前で繰り返されるといった具合だ。とはいえプライべートではお互いに深いリスペクトと愛があるようだ。「アタシらはお互いに結構違うから。あいつはそこが好きみたいだけど。アタシらはどっちも不良だけど、あいつはアトランタの、南のほうの不良、それからこっちはニューヨークの不良」。まだ結婚式がどうなるかはわからないと言うが、「きっとギャングみたいになるはず。退屈な結婚披露宴にはしたくないし。だってアタシよ? 大股開きでもするつもり。クソ面白くしたいからね」

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カーディ・Bで注目されるのは、「Bodak Yellow」や「Lick」「Bartier Cardi」などの艶めかしい楽曲ばかりだが、2017年発表のリミックス『Gangsta Bitch Volumes 1 & 2』はもっと複雑なものになっていて、処方薬中毒・孤独・貧困・欲望などについてラップしている。だからこそ今年の適切な時期にリリースされるという彼女のデビューアルバムにも期待が否応なしに高まる。人を元気づけるそのテンション高いInstagramも相まって、カーディは自分自身の信者を生み出していて―― 今や何百万人規模になっている。貧困とストリップから抜け出した彼女は、人を出し抜いてただ生き延びるだけの暗い不良の日々にもケリをつけた。ヒップホップが彼女を救ったみたいになっているが、本人はその考え方をたちまち否定する。カーディ・Bを救ったのは、カーディ・Bそのものなのだ。彼女の言い分によれば、「この性格がアタシを救ってくれた。この性格のおかげで人はアタシに注目する。ラッパーになるつもりなんてなかったの。だってマネージャーもいないし金もなかったし、自分の時間を無駄にしたくなかったから。夢なんて考えてすらいなかった。責任があるってときに、夢なんてなかなか考えられない。人としての責任が先に来るでしょ。だからずっと現実的な目標しかなかった。全人生をラップにしてるような友だちが大勢いて、それでもみんなどこにも出れてないんだから、自分にできるなんて思ってもみなかった」――でも彼女はやってのけた。「そう、やってやった。ざまあみろっての」。

そして今や彼女はカーディ・Bだ。グラミー賞にノミネートされ、それなりの賞も獲ったソーシャルメディアの女王。ブルーノ・マーズとコラボした新作「Finesse」は、ヒップホップという悪名の殿堂から、“揺るぎないポップ”という大きく明るい風景(シーン)へと彼女を連れ出す手助けをしている。もう止められない無視できない無敵の彼女。覚悟もじゅうぶん。やっぱり何か持ってるカーディ・B。「アタシだけね、行く先々に名前を残してるのは」と、すきま風の入る楽屋からウエストエンドの洒落たホテルへ向かう支度をしながら、彼女はニヤリと笑う。「それが魅力かオナラかわかんないけど、とにかくアタシがいた痕跡を残しちゃうんだよね」

Cardi wears T-shirt OFF-WHITE C/O VIRGIL ABLOH.
T-shirt OFF-WHITE C/O VIRGIL ABLOH. Jeans J. Brand. Boots Yeezy
Dress Marc Jacobs.

Credits


Text Hattie Collins
TRANSLATION YU OKUBO

Photography Oliver Hadlee Pearch
Styling Carlos Nazario

Hair Jawara at Bryant Artists using John Masters Organics
Make-up Erika La’Pearl
Set design Philipp Haemmerle Inc
Set design lead Ryan Stegner
On-site artist Juan Heredia
Photography assistance Mitchell Stafford, Eduardo Silva and Matt Baffa
Styling assistance Diana Douglas and Kenny P. Paul
Hair assistance Kashima Parris and Karla Serrano
Production Caroline Ramsauer and Jennifer Pio
Production assistance Andrew Chapman and Michael White

Cast Alexis Trainer. Celeste Saurez. Laurielle Smith. Jada Taylor. Taylor Power. Stephenie Jimenez. Shaniya Coleman. Shanell Coleman. Addyson Hassanali. Jala Norman. Taliyah Jones. Eslee Ryan. Linaishja Johnson. Aniyah Wilson. Casting Sydney Bowen Studio.

This article originally appeared on i-D UK.

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