Photography Mitchell Sams

「ネオ・テーラリング」の誕生:バレンシアガ19SS

デムナ・ヴァザリアが提示する、若い世代のための新しいグラマー。

by Steve Salter; translated by Ai Nakayama
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05 October 2018, 10:32am

Photography Mitchell Sams

デムナ・ヴァザリアは、BALENCIAGA2019年春夏コレクションのショーのため、アーティストのジョン・ラフマンとコラボし、〈The Ride Never Ends〉という没入型のビデオ・インスタレーションを制作した。「誰かの電脳のなかに入ったかのような、そんな体験をつくりだしたかったんです」とデムナはショーの前に語った。床から天井まで、内部全体にLEDを敷き詰めたトンネルが、会場を夢のようなヴァーチャル空間に変えていた。

ふたりがつくりあげた万華鏡のようなヴィジュアルにクラブ的なサウンドトラックが響き、トリッピーで変化し続ける空間は、観る者の五感を揺さぶる。乗り物酔いのような状態になってしまう人さえいた。「みんなに旅してもらいたかったんです。ファッションショーっていうのは観客を旅に連れ出す時間であるべき。そうじゃないなら意味がありません。映画づくりと似ています。観客をもうひとつのリアリティへと連れ出す。そうすることで記憶として残るんです」

混乱を誘う、よくあるエラースクリーンで幕を開けた〈旅〉は、不気味な生態系、異世界の景色に続いて、テクノロジーに依存しすぎて末期状態にある文明の崩壊前夜を映し出す。10分強のランウェイは、瞬きもできないほどにめまぐるしく移り変わる、普通とはかけ離れた体験だった。最後のモデルの姿が消えたあと、会場にいた観客が現実に戻ってくるまでに、数秒の時間を要したほどだ。

「私は作品で、新たなテクノロジーを検証し、この社会や、私たち人間の意識、相互の関係性がどう変化しているかを考察しています」とかつてジョン・ラフマンは語った。デムナも、Vetements、BALENCIAGAで同様の疑問に挑んでいる。2015年、アレキサンダー・ワンのあとを継いでBALENCIAGAを率いることになって以来、デムナはBALENCIAGAというブランドを徹底的に改革してきた。ブランディングから広告まで、最初の瞬間から〈デムナ・ヴァザリアによるBALENCIAGA〉だった。しかし、ブランド全体に独自のヴィジョンを浸透させながら、彼はブランドの歴史にもオマージュを捧げている。それが如実に表れたのは、2017年のブランド設立100周年のとき。彼はアーカイブから失われていた9体のクチュールドレスを一からつくりなおし、発表した。

デムナは現在、前シーズン初めて取り入れた3Dテーラリングを使用している。「これは〈ネオ・テーラリング〉。テーラリングを知らずに育ってきた若い世代に向けた、新しいグラマーのかたちです」とデムナは説明する。クリストバル・バレンシアガが設立したブランドを活性化させるのは、革新的なカット、服の新たな組み立てかたの開発だ。新技術の3D成型でつくったメンズ、ウィメンズのジャケットやコートから始まったデムナの実験は、現代の文脈における服の着方に即した、新しいテーラリングやクチュールの開発を促している。BALENCIAGAはパリの伝統において、ハイファッションのエレガンスを大切にしつつ、着やすい服を実現しようとしているのだ。

「大切なのは存在していること。〈今〉こそが答え。エゴはあなた自身ではない」。このメッセージが、サウンドトラックに乗り何度も繰り返される。スクリーン上でも現実でも業火に焼かれる世界。それを目の当たりにする旅を経験して、世界の終わりに恐怖を抱いた観客もいた。しかしデムナは、ショーの観客が希望をもって会場を後にすることを望んでいた。世界のどこかでは、今このときも崩壊が進んでいるかもしれない。しかし私たちはみんな、テクノロジーで救われる。「すごくポジティブですよ」とデムナ。「テクノロジーは常に進化し続けています。ワクワクしますね」

テクノロジーへのデムナの期待は、ヴィジュアルだけではなく、ショルダー部分のシャープなシルエット、しっかりした肩ひもから落ちるシングルシームのドレス、同じ生地のシャツややわらかいパンツにかたちを変えるテーラリングにも表れている。「ジャケットは必要ありません。シャツがジャケットです」とデムナ。「着心地を念頭に置いています。私たちがつくっているのはラグジュアリーアイテムです。コストもかなりかかっているので、できる限りの知恵を注ぎ込むべきだと思っています。私が考えていることは、着やすく、身近に感じてもらえるスーツをつくるにはどうすればいいか、ということです。今研究しているのは、暑すぎない生地です」

没入的なショーのセットではあったが、デムナの手によるBALENCIAGAのコレクションとしてはかつてないほどにシンプルだった。Comic Sansのロゴ、エッフェル塔で飾られたツーリスト・キッチュ的なイヴニングウェアはありながらも、それ以上にミームレスで、Z世代のためのグラマーを再定義するような、意義深いコレクションだった。これまでのコレクションのような、ストリートウェアの要素もない。ストリート感がみられたのは、トラックパンツを模したイブニングパンツくらいだ。「私たちのボキャブラリーにある要素を用いつつ、新しい次元のエレガンスを表現したかったんです」とデムナは語った。こうしてグラマーは再定義された。「大切なのは存在していること。〈今〉こそが答え…」。メッセージが響く。

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Photography Mitchell Sams

This article originally appeared on i-D UK.