À gauche :  © collection Chrtistian de Leusse/Mémoire des sexualités. À Droite : Le Palace Magazine, n°12, 1982 ©  bibliothèque municipale de Lyon, fonds Chomarat

「歴史は戦場です」:仏LGBT+150年分の資料をまとめた歴史家が語る“歴史の暴力性”

LGBT+150年の闘いを記録した『Archives LGBT+』がフランスで刊行された。著者アントワーヌ・イディエが、本書の意図や彼に影響を与えた一冊の本、アーカイブの暴力性を語る。

by Cy Lecerf Maulpoix; translated by Ai Nakayama
|
28 November 2018, 8:11am

À gauche :  © collection Chrtistian de Leusse/Mémoire des sexualités. À Droite : Le Palace Magazine, n°12, 1982 ©  bibliothèque municipale de Lyon, fonds Chomarat

2017年のカンヌ映画祭で、ロバン・カンピヨの監督作品『BPM ビート・パー・ミニット』が批評家たちに絶賛され、メディアでも頻繁に取り上げられた。パリのアクティビスト団体〈Act Up〉の共同設立者であるディディエ・レストラードは、これを自分たちが声を上げる良い機会ととらえ、LGBTの苦難やエイズとの闘いについての記録を残そうとしてこなかった政治家たちを糾弾した。「同性愛の歴史は公文書として残すに値しない」とでもいうのだろうか? いや、散逸している歴史のかけらを、今こそまとめ直し、より広く知ってもらう必要がある。『BPM』が生まれたのも、そういう気運が高まった結果だろう。

フランスにおけるLGBTの苦難の歴史は、今の時代について、そして新たな世代が〈マイノリティ〉と呼ばれる人びとの尊重を得るためにどう闘えば良いかについて、多くの示唆に満ちている。その手引きとなるのが、2018年10月に出版された、社会学者/歴史家のアントワーヌ・イディエによる『Archives LGBT+』だ。著者のイディエは、LGBTの150年にも及ぶ闘いの歴史をビジュアル資料で追った。フランス初となる同性愛者雑誌『Akademos』の有名なスローガン〈全国の労働者たちよ、自らを慰めよ〉、初のゲイ/レズビアン/トランスジェンダーのデモ、そして〈Pride de Nuit〉(※夜に行なわれるパリのデモで、ゲイプライドよりも過激)などをはじめとして、本書では写真、書籍の表紙、リーフレット、貴重な資料が掲載されている。著者のイディエに話を聞いた。

Marche Nationale des Homosexuels et Lesbiennes Jean-Claude Aubry
Marche nationale des homosexuels et lesbiennes, le 19 juin 1982, à Paris © Jean-Claude Aubry

──このようなアーカイブ資料を今、このタイミングで出版する意義とは?

この本はここ数ヶ月における、LGBT+関連の議論のいち部を成すといえるでしょう。まさに時代の空気に反応して、出版社〈Textuel〉が私にこのプロジェクトを提案してくれたんです。最初Textuelから投げかけられたのは、〈そもそもアーカイブとは何か?〉というシンプルな疑問でした。この数年間、私はLGBT+関連の資料の調査に多く時間を割いてきました。それ自体興味深い研究だったんですが、そのアプローチには、実は重要なプロジェクトが内包されていたんです。それはつまり〈マイノリティから見た歴史〉です。歴史というのは戦場です。何かが記述、再記述されるために、私たちは闘わなくてはならない。私たちが〈歴史〉と呼ぶモノは、実は〈物語〉なんです。支配者側が記した物語。その物語は歴史として、わかりきったモノ、自明のモノとして存在し、論議の対象から外れます。でも本当は、そのなかに声を出せなかったり、存在を消された大勢のひとがいるわけです。アーカイブをつくるということは、すごく暴力的な行為でもあるんです。保存するに値するモノ/値しないモノを恣意的に選び、値するとされたモノだけを保存して、後世に受け継ぐんですから。

──本書では雑誌の表紙、小説からの抜粋、フライヤー、ポルノ写真、研究者/活動家/ジャーナリストからの手紙や資料などが収録されています。収録物はどう選んだのでしょうか。

私が重要だと思った研究をしている著者や友人の仕事は収録しました。彼らの協力のおかげで、資料の意義をひとつに絞ること、性的消費物としてのアーカイブにすることを避けられました。そもそもアーカイブには意義なんてないんです。その意義が表出するのは、私たちの問いや視点を通して対象を見たときです。私が関心を抱いているのは、〈アーカイブを構成するモノとは?〉という疑問そのものです。アーカイブの構成、流通、モノとしての姿に興味があります。このLGBT+アーカイブには、ミシェル・フーコーがいうところの〈権力の関係〉がいっさい見当たりません(ミシェル・フーコー自身、両性具有者のエルキュリーヌ・バルバンによる日記に関心を抱いていました)。このアーカイブはいつだって新しい視点で解釈することができる。このアーカイブはニュートラルなものでも、それ自体で成り立つものでもありません。

──あなたはジャーナリスト/同性愛者活動家のギィー・オッカンガムの研究者でもあります。彼はあなたのように、LGBTコミュニティに声を与えようと懸命に活動した人物です。彼にはどのようにインスパイアされましたか?

彼の『Race d’Ep !』は私にいちばん大きな影響を及ぼした著作です。なので〈The Storm〉から再版されるのはうれしいですね。オッカンガムこそが歴史に埋もれた人びとについて、的確な疑問を呈した人物ですから。彼は『Race d’Ep !』で、周縁に追いやられた同性愛者について「二度死ぬ」と記しています。彼らはついぞ語られることがないからです。さらにアイデンティティ、社会運動、つまり〈私たち〉とされる人びとの創出についても説明しています。つまり歴史がひとつの政治組織を創出している、ということです。「ホモセクシュアルの歴史はこれまで存在しなかった。そして語り部たる同性愛者がいなくなったとき、それは消える」と彼は記しています。また『Race d’Ep !』は、オッカンガムが歩んだ軌跡における、ひとつの断絶を象徴しています。私にいわせれば大きな断絶です。同性愛者運動に対する彼の批判、同性愛者による権利要求への彼の不信、カミングアウトへの彼の嫌悪も有名です。彼は歴史における声なき者たちに気づいてから、自分自身がかつて拒絶した〈私たち〉みんなの歴史に、自らが属していることを主張するようになったんです。その事実は忘れられがちですが。

──本書を読んで、これが長いあいだ「LGBT+」という言葉でくくられてきたイメージの集積か、と改めて感じました。〈ウラニアン〉〈性的倒錯者〉〈ホモフィリアック〉〈ホモセクシュアル〉〈ダイク〉〈LGBTI〉〈クィア〉などの言葉から、LGBT+のアイデンティティの進化についてどんなことが読み取れますか?

そもそも〈LGBT+〉という言葉にはかなり難があります。まさに弱り目に祟り目、的な言葉だと思います。まず本来別々に語られてきたアイデンティティをすべてひとまとめにしてしまっている。そういう意味で、歴史をぶち壊しています。そして人工的な〈統一〉を図ることで、この社会運動に内在する緊張を排除してしまっている。歴史は継続的に続いているとしても、〈同性愛者であること〉が意味するところは、時代によって違います。一般的な同性愛の定義についても、あるいは個人の同性愛の自認のしかたについても、相反する主張が併存する可能性もある。例えば1971年、〈FHAR:革命的同性愛者活動戦線〉が結成され、そのメンバーのうち少数人が政治的同性愛を主張しました。つまり同性愛を、社会的な関係性、特に周縁や抵抗の場におけるひとつの特別な立場としていたのです。この思想は、FHARの20年前に始まった〈Arcadie〉という親同性愛社会運動の思想とはまったく異なっています。また本書では、例えばホモセクシュアルとレズビアン、またはレズビアンとフェミニストのあいだで生じた亀裂や不和も扱っています。『Tout!』という雑誌のこの号では、ホモセクシュアルの性の解放、という前号のテーマに噛みついて、フェミニストが「あなたの性の解放は私たちのものではない」と主張しています。同様にフェミニスト運動やホモセクシュアル運動に対抗し、レズビアンの自立した立場を要求する〈Archives Recherches Cultures Lesbiennes〉も設立されています。

Trans Sexualité Ah! Nana numéro 8
Revue Ah! Nana n°8

──本書に掲載された最古の公式資料は、1890年のオスカー・ワイルドの写真と、1909年に創刊されたフランス初の同性愛雑誌『Akademos』です。これらを選んだ経緯は?

19世紀末というのは、フーコーが記しているように、「ひとつのアイデンティティ、ひとつの物語、ひとつのキャラクター」とともに、現代の同性愛が誕生した時期でした。しかしそれを体現するひと/モノがなかった。私にとっては『Akademos』創刊を本書のスタートラインに設定することが、理にかなっていました。私の研究対象は、同性愛者自身によって書かれた論説だったからです。ただ同時に、私の独断と偏見で選んだものでもあります。同性愛の歴史はオスカー・ワイルドから始まったわけじゃない。ですが彼はやはり伝説的な存在で、後進たちに多大なる影響を与えました。アンドレ・ジッドに捧げられたこの彼の写真は、とにかくすばらしいですし。

──本書では第二次世界大戦期とヴィシー政権期について、ほとんど触れられていません。それはやはり、LGBT+がかなり秘密裏な活動を強いられた時期だからでしょうか? それとも単純に、当時を記録した資料があまりないからでしょうか。

あえてそうしたわけではなく、しかたがなく、ですね。あの時代の資料は、今ほとんど手に入りません。もちろんビジュアルもそうですが、それだけじゃない。第二次世界大戦期の同性愛者のライフスタイルについては、ほとんど情報がないんです。ただ彼らが被っていた抑圧政策については資料がありますから、その時期の彼らの沈黙については、必ず研究していかなくてはならないと思っています。

──いくつかの写真における、アラブ系や黒人の身体の表象は、植民地主義やエキゾチシズム的な問題をはらんでいると感じます。そういった写真から、私たちは何を学べますか?

ゲイの活動家であり反植民地主義過激派であるダニエル・ゲランのアーカイブから、このマグレブの少年たちの写真を見つけたんです。裏には彼らのファーストネームが書かれており、ゲランのメモや記事、マグレブ諸国独立のために闘った人たちとの書簡がいっしょに残されています。この写真に新たな光を当てることのできる要素がなく、ただただショッキングな写真です。

──その写真は、アーカイブにおける人種差別的なLGBTQIの視点というものについて、より広いかたちで疑問を呈しています。そういう視点は、アーカイブ全体にどのような影響を及ぼしていますか?

それもまた研究を深めるべき〈沈黙〉ですね。私自身、本書で人種問題をとらえることを意識していました。トッド・シェパードは『Male Colonisation』で、植民地主義、圧政、同性愛の関係性を指摘しました。彼の貢献も大きいですね。またアブデラ・タイアによるジャン・ジュネ論や、アリ・ゴーディアンによる黒人LGBTという〈二重マイノリティ〉考察などの貢献も指摘できます。フランスでは人種と同性愛を関連付けた研究はほとんどありません。性の構造や表現、多数派による同性愛者についての言葉の歴史をすべていま一度読み解き直すこと、そして非白人のLGBT+による文化や運動について記録していくことが求められていると思います。

──ここ数十年、LGBTグループ(近年では〈LGBTQI Archives collective〉として活動)がフランスにアーカイブセンターの設立を目指して活動を続けてきました。『Archives LGBT+』と題されたあなたの新刊書籍は、アーカイブセンターの穴を埋める資料だと思います。

その通りです。同グループは、パリにセンターを設立するか否かという議論だけではなく、非常に重要な疑問を提示しています。この数十年、活動家たちによって実施されてきた草の根レベルの運動も同じく意義深かったです。例えばリヨンの〈Fonds Chomarat à la Bibliothèque de Lyon〉、パリの〈Archives Recherches Cultures Lesbiennes〉、マルセイユの〈Mémoire des sexualités〉の設立など、さまざまなかたちで結実しています。

──新しい世代は、これらのアーカイブを道しるべとしてどのように活用できるでしょうか? 著者として、若い世代が本書から、どのような希望を抱くことを望んでいますか?

1970年代の闘いの歴史や、元祖ラディカリズムとして知られる運動に関しては、集団的利益、あるいは熱狂があると思います。私が不安なのは〈過去にこれが起こったんだから、私たちも今、これをしなければならない〉という偏った思想です。特に婚姻や不妊治療についての議論では、いまだにそういう言説がまかり通っています。現在や未来の行動を、過去によって決定づけてはいけません。伝統は重荷や障害にもなります。私が思うに、このような書籍は、さまざまなイメージや像を伝えるという意味で、現代の闘いやその急進的な姿勢に影響を与えることは間違いないでしょう。でも過去を受け継ぐことも、自由を実現するためのひとつの行為です。そのなかの何を受け継ぐか、何を省くかは自分が選べる。前もって決まっているものなんて何もありません。

l'Antinorm FHAR
L’Antinorm numéro 2, février-mars 2013. © Collection privée Antoine Idier.
Tout ! Ce que nous voulons, tout
Tout ! Ce que nous voulons, Tout. 23 Avril 1971
Le Gaified
Le Gaified, premier numéro, avril 1979
Lesbia Magazine
Lesbia Magazine, n°81 mars 1990


Cet article a été publié sur i-D FR.