とある少年のワードローブ:DAIRIKUデザイナー岡本大陸 interview

〈経験〉と〈心境〉をキーワードに、DAIRIKUを手がける若きデザイナー岡本大陸。彼が無類の服好きだった少年時代から現在のデザインプロセスまでを語る。

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aug 2 2018, 8:42am

ある日、フォトグラファーの小見山峻がInstagramに投稿した一枚の写真に、直感的に惹き込まれた。DAIRIKUというデビューして間もないブランドのイメージヴィジュアルだという。髪型がそっくりな年齢の異なる2人の少年が色違いのトレーナーを着て、楽しげに肩車をしている。ヴィジュアルづくりの巧さはもとより、若手デザイナーが描く世界観にはストーリー性が満ちていた。

見れば見るほど他の写真にも一貫した“稚気”が溢れるユースの肖像があって、単にストリートウェアだとは形容しがたい、絶妙なツイストの効いた洋服への興味が湧き上がってくる。東京を拠点とし若手と称されるブランドのなかでも際立ったフレッシュなユーモアの表現と、服のディテールや素材に対する慎重なスタンスが共存している、この若き作り手のバックグラウンドがどうしても知りたくなった。

今年で24歳になるデザイナーは、時に高揚感をのぞかせながら、自身の過去をよどみない口調で話す。ティーンネイジャーの思い出はまるで昨日のことのように、自身のコレクションについては取りこぼしなく言葉をつむいでいく。2017年度のAsia Fashion Collectionのグランプリを受賞し、ニューヨークで開かれたショーから継続してコレクションを発表しているDAIRIKUのデザイナー岡本大陸との対話は、ある少年が、熱烈な服好きが昂じて服作りを志すところからはじまった。

2018SS

奈良県で少年時代を過ごした彼は、取り憑かれるようにファッションが好きになり、高校生ともなれば、放課後は大阪・心斎橋のアメ村まで通い詰める日々を送っていたという。「ファッションが好きな人たちが集う場所だったし、みんなが違う服装をしている衝撃もありました」。友人たちと競うようにファッションを謳歌した彼の“服装にまつわる個人史”は古着の着こなしからはじまったのだが「その頃流行っていたスナップサイトのなかでも、やっぱり東京の人が目立っていて。そこで急速に惹かれたのがドメスティックのデザイナーズブランドでした」。東京の店まで足を運び、keisuke kandaやHatraを身にまとい、writtenafterwardsやANREALAGEらの展覧会を機に、彼のなかの“デザイナー志望”が徐々にかたちを成していった。

2018SS

新しい物好き——そして当時は少々飽きやすかった——と公言する彼は、ファッションデザイナーが作り出す多彩な“世界”に引き込まれていく。そして服飾専門学校への進路を決定的にしたのは、RAF SIMONSとの出会いだ。「コンテナストアの前身である〈一年坊主〉という古着屋が、それまでのアメ村になかったようなセレクトをしていました。HELMUT LANGやCOMME des GARÇONSのヴィンテージ……。そのならびに2006年に発表されたRAF SIMONSの服があったのです。若いなりに色々な服を経験してきたつもりでしたが、比較にならないほどの“衝撃的な”出会いでした」

Vantan大阪校にある、デヴィッド・シムズによる写真集『RAF SIMONS ISOLATED HEROES』がボロボロなのは彼のせいだ。「服作りのスタートは、着るのも見るのもRAF SIMONSが好きという想いから来ているといって過言ではありません」。名実ともに現代のメンズウェアを牽引してきたこのデザイナーは、DAIRIKUが歩む道標的存在でもある。

ラフ・シモンズがつくる服が好きなのに、違うものも同時に好きになれる感覚——「ジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダー、スターリング・ルビーなどをラフのショーで僕が知ったように、服の表現だけで終わらず、アートや音楽といった他ジャンルのものへの好奇心を駆り立ててくれる人って純粋にすごいなと思うんです」。そうした“きっかけ”が巧みに散りばめられた服をつくれるデザイナーでありたいと、洋服の歴史好きのデザイナーはまっすぐな目で語る。そしてこの足跡が「ルーツやストーリーを感じさせる服」というDAIRIKUのブランドコンセプトと地続きに結びついていく。

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「僕個人のことと服そのものが持っているルーツという意味合いがあります」。その歴史、形(パターン)、製法といったあらゆる部分に対するリサーチと生産面の徹底は欠かせないという。コレクションはアメカジへのリスペクトを彷彿とさせるスタンダードな服がベースに見えるが、凝視するべきディテールとパターンメイキングの妙がある。「守るべき部分は守りながら、現在の解釈で変化を加えていく。とくに、今っぽくてちょうどいい“ゆるさ”は全体的に意識していることですね」。今っぽさは「僕自身が“着たい”と思えることと、周りにいる服が大好きな友人たちが今好きなシルエット感が影響している」のだという。

2018-19AW

さらに、ストーリーの着想源は一貫して自身の“記憶”や“経験”にあると話す。「ニューヨークで発表したコレクションは現在のアプローチの基盤になっています」。そこには上京した際に抱いた“心境”がベースにあった。「直近にあった“自分のこと”がコレクションの軸になるんです」。当然さまざまなインスピレーションソースによって肉付けされていくのだが、いわゆるコレクションの出発点はいつも迷うことがないという。「自分のなかから湧き上がってきたものだからこそ、芯の通ったリアリティが服に出ると思うんです」

例えば2018-19年秋冬コレクション「HOME KIDS」は「たまたま観た映画の影響でずっと兄弟がほしかったことや、小学生の頃に友達の家に4〜5人で集まってゲームをしているときの思い出が着想源です」。人物像が膨らむ。「アメリカ生まれで“良いところの家”に生まれたギークで残念な感じのイケてない子」。既存のモチーフに捻りのある再解釈を加えるのもDAIRIKUの持ち味のひとつだ——そしてここにも緻密なストーリーがある。「パソコンばかりやっていて、良いとこの子だからRalph LaurenやTommy Hilfigerとか着ているイメージ。アメリカンの国旗と昔のWindowsのロゴを混ぜることでこうした男性像を想起してもらえると同時に、90年代の雰囲気や、何かしらの映画や音楽を連想させる空気をはらんでいると思うんです」。岡本大陸のユーモアの方向性が、ひしひしと伝わってくる。

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「映画のなかで汚いコンバースを履いている人がいたら、雑な性格なのかなとか、その人の生活観が頭をよぎる。そういうイメージの結び付きを感じられる空気感のある服をつくりたいと思うんです」。DAIRIKUの服やルックから滲み出る“人物像”は、シーズン・ストーリーで描かれた主人公の“人格(キャラクター)”であり、コレクションはその彼のクローゼットの中身のようだと捉えるとしっくりくる。そして、その物語の本筋がデザイナー本人の経験からきているからか、不可逆的な過去への憧憬の念が宿っている。「その要素は絶対的にあると思います。古い写真を見ているようなノスタルジックなイメージがあると人から言われますし、自分でも思いますね」

「いずれは一本の映画をつくりたい」と語る彼は、次にどんなストーリーを編むのだろうか?