女王よ、そしてGucciよ

Gucciがウェストミンスター寺院で2017年クルーズコレクションを発表した。アレッサンドロ・ミケーレによる、このイギリスの歴史と文化へのトリビュートは、イギリスの人々の心を虜にした。

by Anders Christian Madsen
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14 June 2016, 3:01am

ロンドンのウェストミンスター寺院にある修道院で披露されたGucciの最新クルーズコレクションには、なんとも完璧なアイロニーが見られた。イタリアの中のイタリアともいうべきメゾンが、イギリス帝国文化の特徴を捉えたファッションコレクションを、イリギスで最も神聖な歴史的建築物で発表したのだ。ローマカトリック教会からイギリスを分離させたことで知られるヘンリー八世は、今ごろお墓の中で嘆いているだろうか? 幸いにも陛下の墓は遠く離れたウィンザーにあるため、今回の騒動など知る由もなく、今も安らかに眠っておられるだろう。陛下から劣等感を受け継いだ娘は、ウェストミンスター寺院の隣にある聖堂に眠って今もおられるが……。「僕はエリザベス1世の大ファンなんだ。エリザベス1世は、世界史上初のファッション・ロックスターだと思う。マドンナやシェールよりずっと前に、女性の自己表現を確立したひと。ルネッサンス後期で最も有名な、最も突飛でグラマラスな女性だったんだ」と、頭上にステンドグラスが配された小さな聖堂で、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)はショーの後に話した。たくさんのアクセサリーで飾られたミケーレの手——ハンドルネーム"@lallo25"で、実に巧妙にキュレーションされた彼のInstagramを見ることができるが、きっとこの手で、この美しい寺院の仄暗い空間を撮影して回ったのだろうと私は想像する。しかしながら、Mr.ミケーレ、ウェストミンスター寺院もイギリスのディーヴァたち同様、勝手な撮影は禁じていますので、そこはあしからず。

イギリス文化を我が物にしようと、王子のような、聖職者のような格好をしたイタリア人たちがやってくることをイギリス人が鼻で嗤っていたような時代は、とうの昔に終わっている。今季Gucciのショーには、シャーロック・ホームズの鳥打ち帽からスパイス・ガールズ風プラットフォームブーツまで、イギリスを象徴するアイテムが美しく解釈されていた。発表の場としてウェストミンスター寺院を選んだ意味も、そこに最大限まで生かされていた。素晴らしいものもなかなか素晴らしいと認めないことで悪名高いイギリス人だが、もし、パヴァロッティ(Luciano Pavarotti)がビートルズのヒット曲をバッキンガム宮殿で歌えば、それがイタリア人であろうとも、我々はやはり感動してしまう。今回、タータンチェックのキルトやスタッズがついたジャケットなど、パンクの要素にミケーレ流ルネッサンス・ストリートスタイルが施された世界観には、通り一遍の解釈や、背伸びを感じさせる心地悪さもなかった。私たちイギリス人の誇りを傷つけるようなものでなかったと言えば良いだろうか。このようなコレクションを作り出すミケーレ——彼はどんな手を使ったのだろう? 恐れ多くもミケーレは、イギリス的美の感覚は、もはや本家イギリスの特許でもないのだと公言している。「僕にもとても個人的に訴えかけてくるものがあるんだ。だからロンドンでショーを開催しようと思った。ロンドンはいつでも僕を、そして他の多くのデザイナーをインスパイアしてやまない場所。ファッションのためにあるようなファッショナブルな街じゃなく、そこにいる普通の人々に何が起こっているかを見て感じることができる空間、それがロンドンなんだよ。そしてそれこそが、"真のファッショナブル"ということなんだと僕は思う」。

ミケーレが初めてロンドンへとやってきたのは1980年代、彼が17歳の時だった。「パンクやネオパンク、ビート世代の老人まで、いろいろなタイプの人たちが街に混在していてね。ここが僕の生きるべき街だって思ったのを覚えてる」。Gucciのクリエイティブディレクターに就任してからまだ2年にも満たない。この短い期間で、Gucciという老舗ブランドに再び国際的な栄光をもたらしたミケーレだが、彼がイタリアファッションに作り出す世界観は、無視できないほどにイギリス的だ。多くの意味で、ミケーレは今回のクルーズコレクションで彼が通常用いる手法を覆している——ロンドンの"実験的精神"を通してイタリア的美的感覚を解釈するのではなく、今回はその反対をやってのけているのだ。「異質の魂から生まれたアイテムをミックスしてマッチさせる——そこには、思いもしなかったようなものが生まれる。色んなファッションを含むことになるんだよね。ファッションはコミカルな実験のようなもの。イギリスはそれが本当に上手なんだ。だからイギリスが好きなんだ」。数年前には、"ファッション界をリードする実験的ファッション"としてイギリス人が誇りに思っていたロンドンのファッションシーン。しかし、何が起こってしまったのか、今や商業的総中流階級化されてしまっている——そこへ、今回ミケーレがGucci流解釈のイギリスを表現し、私たちは熱狂している。それはいわば、何年も前に、我が国の誇り・ミーダム・カーチョフ(Meadham Kirchhoff)が作り出したものに熱狂した時と同じような現象だといえる。そう考えると、ミケーレは地球上どこへ行っても見られない、極めてイギリス的にマジカルなものを見せてくれたのだ。

「それは、過去であり、現代であり」とミケーレは説明する。「イギリスが生んだものなんだよ。どんなパンクにも得意なものがある——僕はいつもそう言うんだよ。それは永遠に守らなきゃならないものだと僕は思う」。ミケーレにとって、"守る"ということは習性であるらしい。常に新しいものを求めているファッション狂たちが全体を見失ってしまうほど偏ってしまった美的感覚の枠内で、ミケーレはファッションを生み出している。1970年代ベルリンにインスピレーションを得たという2016年SSウィメンズコレクションで、文化に柔軟なところを十分に見せつけたミケーレだが、今回のクルーズコレクションでは、彼がコレクションごとにいかに前作と違うファッションを生み出すことができるかを知らなかった者たちをも、大いに唸らせた。昨年、彼が収めた成功は誰もが驚くほどの速度で実現した。しかしそれはメディアでの流行や、まぐれなどではなかった。あれは、経験豊富なデザイナーが満を持して発表した作品への、正当な評価だったのだ。アレッサンドロ・ミケーレが作り出す作品はタイムレスだ。そこには、壮大な歴史が網羅されている。その意味で、ミケーレが作り出すファッションは、いま最も文化的に順応性に優れたものなのだ——ウェストミンスター寺院で見せた作品がそれを証明してくれている。「Sweet dreams are made of this(これがまさに甘い夢を作り出すもの)」と、その夕方に開かれたGucciパーティーで、アニー・レノックスはピアノに合わせて、ミケーレに歌っていた。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Images courtesy of Gucci
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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