SF、ディストピア、そして歪み:フィリッパ・プライスの世界

Stella McCartneyの「#StellaBy」プロジェクトで魅惑的な世界を描き、リアーナの授賞式パフォーマンスでSF的ディストピアの世界を作り出したヴィジュアル・アーティスト、フィリッパ・プライスに話を訊いた。

by Lynette Nylander
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25 January 2017, 8:45am

リアーナがBRITアワード授賞式で披露した圧巻のパフォーマンス——私たちがフィリッパ・プライス(Philippa Price)に注目しはじめたのは、彼女がその授賞式パフォーマンスを作り上げた影の立役者だったと知ったときからだった。リアーナはBRIT授賞式で、「2016年最優秀曲」としても誰も異論など唱えないであろう「Work」のパフォーマンスを披露。MVではディレクター・エックス(Director X)によってカリビアン・パーティに仕立てられたこの曲だが、フィリッパはそれと対極をなすSF的なディストピアとして描き出した。ショッキングピンクや白の線でその姿を歪められたリアーナ、ダンサー、そしてSZAが、シンプルなステージに踊り歌った。これがフィリッパの作り出したヴィジュアル・アート作品だったのだ。

フィリッパは、今もっとも売れっ子のヴィジュアル・アーティストだ。彼女のクリエイティビティを言葉で表現するならば、こういうことになるだろうか——「世界が左へと歩調を揃えれば、彼女は右へとハンドルをきり、アクセルを踏む」。ロサンゼルスを拠点に創作を行う現在27歳のフィリッパは、科学、神話、テクノロジーへ向ける愛情をヴィジュアル・アートで表現する。今年初旬にリリースしたバンクスの「Fuck With Myself」では、バンクスそっくりに作った人形の頭部をバンクスがなでまわすという演出で、不気味な世界観のうちにそのサウンドを見事に体現してみせた。

そんなフィリッパに注目したのがステラ・マッカートニーのチームだった。彼らは、現在Stella McCartneyが展開している「#StellaBy」プロジェクトの映像作品をフィリッパに依頼したのだ。ネヴァダ州で1940年代に核実験場として使われていたエリアに建つ不気味なクラウン・モーテルを通り、サイケデリックな旅を経て砂漠に辿りつくというストーリーの映像で、Stella McCartneyの最新コレクションを解釈しなおしている。i-Dはフィリッパのユニークな世界に迫った。

どこで育って、どんな子どもだったかについて教えてください。
イギリスに育ち、10歳からはロサンゼルスで過ごしました。変わった子どもで……とにかくわんぱくで馬に乗るのが好きでしたし、複雑な創作遊びや発明じみたことをしていましたね。

どんな勉強をしていたのでしょうか?
高校ではとにかく数学と科学が好きでした。13歳のとき、カリフォルニア州科学実験コンテストで優勝したほどです!高校最後の年になって、アート・スクールへ進もうと決めて、卒業後はニューヨークのパーソンズで総合デザインを学びました。パーソンズでは、とりたい授業をすべてとれるんですよ。素晴らしい学校だと思います。

兄妹は? どのような家庭環境に育ったのですか?
妹がふたりいます。妹たちとは親友みたいな関係です。両親はとてもサポーティブで、姉妹全員をいつも後押してくれました。私の作品には暗い要素も多いですが、「あんなに幸せな家庭環境に育ったのに、どうしてこんな暗い世界観が生まれるんだろう?」と不思議に思うことがあります。

あなたには独特の世界観がありますが、インスピレーションはどこから?
歴史や科学、心理学、神話、テクノロジー……、インスピレーションはどこにでも、いたるところにあります。夢も大きなインスピレーション源です。私が見る夢はクレージーなんです。いまは「アメリカ」に夢中です。InstagramやTumblrをインスピレーション源にするのは極力避けようと思っています。ああいったソーシャル・メディアが、同じような画像の羅列で画一的な美意識を人々に植えつけていて、創造する力を削いでしまっているように感じるんです。そういったソーシャル・メディアを除けば、他はすべてがインスピレーションになります。

SFやディストピア、歪みなどのテーマを多く扱っていますが、そういった世界観への興味はどこから?
なぜああいった世界観に魅力を感じるのか、自分でもよくわからないんです。科学にはこれまでもずっと興味を持ってきたんですが、それ以外のダークな要素に関しては、「きっとなにか前世でひどい体験をしたんだろうな」と思っています。怪我の多い子どもで、後遺症が残るような事故にもいくつか遭っているので、小さい頃は多くの時間を病院で過ごしました。SFや歪みのモチーフが多いのは、そういった子ども時代の経験に端を発しているんだと思います。すべてのインスピレーションを混ぜあわせた先に私の作品世界は生まれていて、それがディストピアの世界観になっているんだと思います。

作品づくりのプロセスについて聞かせてください。
作るものによってそれは違うので、答えるのが難しいですね。私はなんでも自分でやってみます。どんな手法やメディアであっても、独自にやり方を会得してきました。アニメーションや映像編集の授業、照明やプロジェクターでの実験的な模索を通して、新たな創作メソッドを編み出してきたように思います。その場で自分の手を使ってやってみるというのが、私のプロセスでは重要です。

マルチメディア・アートや舞台デザインをやるようになったきっかけは?
ひとつの表現形式にこだわるようなことは、これまで一度もありませんでした。パーソンズではファッション、映像、グラフィック・デザイン、イラストレーションを学び、建築会社でアルバイトをして、[GG$] Guns Germs $tealというファッション・ブランドも立ち上げています。ブランドを立ち上げたことで、洋服のデザインからルックブック映像の監督、ブランディングの展開など、自分の多岐にわたる興味の世界をひとつの世界に落とし込むことができたように感じました。そこからミュージック・ビデオ制作の世界に足を踏み入れ、それがステージのデザインやヴィジュアルにつながり、そういった領域で受けた影響を、並行して作り続けていたアート・インスタレーションの作品に反映させていったんです。やり方がわからないものをこねくり回す——それが好きでたまらないんだと思います。作品に仕上げていく過程で、やり方を体得していくのが楽しくて仕方ありません。ひとつ何かをマスターしてしまうと、もう次の新しいものがやりたくなってしまうんです。

リアーナやバンクス、ライオン・ベイブ、ブルック・キャンディなど、アーティストたちとのコラボレーションはどうやって生まれたのでしょうか?
私のブランドを通して出会ったケースが多いです。彼女たちはまず服で私の存在を知ってくれていたんですよ。ちょうどブランドをたたんでMaavvenと契約をした時期にミュージック・ビデオを作りはじめて、作品を見て気に入ってくれた他のアーティストたちが私に声をかけてくれたという流れでした。

これからはどんな手法に挑戦していきたいですか? そして今後コラボレーションをしてみたいアーティストは?
ここ2年ほどで作ったもののほとんどはコラボレーションで生まれたもので、現在取り組んでいるプロジェクトは完全にひとりで作っています。ずっとコラボし続けているニナ・マクニーリー(Nina McNeely)は、とんでもなく才能のあるひとで、いまは彼女とクレージーな長編映画を撮っているところです。映画は、ファッション・ブランド同様、私の興味をすべて落とし込める表現手法ですね。

「生まれ変わったらコラボレーションしてみたい」という人物は?
亡くなっていますが、発明家のニコラ・テスラ。それと、人ではないけれど、NASAです!

@original_xerox

Credits


Text Lynette Nylander
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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