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【独占公開】ヴィヴィアン・ウエストウッドの日記抜粋

ヴィヴィアン・ウエストウッドが自身の日記をまとめた『Get a Life! The Diaries of Vivienne Westwood 2010 - 2016』を発売。この本でヴィヴィアンは、2011年に発表したVivienne Westwood『World Wide Woman』コレクションを作り上げる工程を明かしている。

by Steve Salter
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27 October 2016, 4:27am

先日、Vivienne Westwood Gold Labelのショーを発表して、まだ興奮冷めやらない。だから、あのコレクションが出来上がるまでの背景をここで少し詳細に書いてみようと思う。

あのコレクションは、明確なアイデアも見出せないまま、切羽詰まったところで自ずと動き始めた。コレクション制作は、はっきりとしたヴィジョンから始まることもあれば、これといったアイデアもなく始まることもある。あのコレクション制作の始まりには、ただ「昔のカタログに見たテキスタイル」というイメージだけがあった。そのテキスタイルのコピーを織り上げたい——そのテキスタイルを切り取ってTシャツに縫いつけたいと考えた。「スローガンではなく昔の生地を身に纏いたい」と思ったのがきっかけだった。オリジナルの生地は、シンボリックに象られた鷹がシルク地に描かれていたり、力強いチェーンのモチーフがゴールドで描かれていたりして、その時代が感じられた。

Vivienne Westwoodでは、試作品の制作工程をすべてバターシーにあるスタジオで行う。だけど、実際の服を製造するのはすべてイタリアだから、現地でテキスタイルやプリントの工場を探す必要があった。イタリアのスタッフが工場を探してくれているあいだ、私は事前に生地の展示会でスタッフが選んでくれていたもののなかから、コレクションに使う生地を選ばなくてはならなかった。使う生地の種類は、少なければ少ないほど良い。アイデアが固まるにつれ、生地の種類が多いとデザインとしてまとめるが難しくなる。私はデザインにおいて、ベーシックな材料を"料理する"手法が好き。あのコレクションでは、とにかくベーシックな生地を選んだ。織りの段階で自然に醸し出されるナチュラルな色あいをそのまま残した生地も使った。他の生地では、ブラックやグレー、インディゴブラウン、ヌードカラー、クリーム、ホワイトといったカラーを選んだ。それらのベーシックな生地に、ゴールドやラメのようなメタル、金色のスパンコールを配して使おうと考えた。

キャラコでトワル(試作品)を作るのは好きな過程のひとつでもある。トワルこそがアイデアの原型。トワルは最終的に使う生地を決める前に作る。2年前に作ったジャケットと、私のお気に入り"エイリアン・スカート(『ワールズエンド』コレクションを気に入ってくれた人たちなら覚えているはず)"を合わせてスーツにすることを思いつき、グレーのチョークストライプの伝統的な男性用テーラリング生地で作った(保守的で伝統的な生地を新たなアイデアで解釈するのも好み)。出来上がったジャケットは、ショルダーから胸周りにかけて作ったボリュームが大きくて一般向けではないと判断し、当時は一般販売しなかった(あまりに男性的なシルエットだからという理由ではない。ジェンダーの境界線を曖昧にするクロスドレッシングは人類の歴史に古くからあるものだから)。でも、私はそのルックがとても気に入った。女性という存在の尊厳がとてもよく表現されていたし、存在を主張する姿ほど女性をセクシーに見せるものはないと私は今でも思っている。私もあれを着るべきかもしれない。この秋にはあのコレクションもアーカイブ行きの予定だけれど、あの服は私が家に持ち帰るべきなのだ。なんにせよ、あのコレクションで私がやりたかったこと——世に訴えかけたかったことは「女性という存在の尊厳」だった。

Vivienne Westwood Gold Label autumn/winter 11

プレーンな生地は、服のカットを浮き立たせる。歴史的、民族的にさまざまな時代の異なる土地に生まれた服や20世紀クチュールをミックスするのが好き。BALENCIAGAのコートやChanelのドレスをコピーしたこともある。自分が作ったものをコピーすることもある。昔の作品を掘り起こしてきて、それを再解釈するのだ。新しいものも良いが、シーズンをまたいでアイデアを発展させていくのも好きだ。でもなにより私が好きなのはDIY。織工が、あたかも自分の作品を織り上げているように感じてくれるような、そんな制作工程が好き。あのコレクションでは、プリントでのカラーをファブリックに用いた。最近まで、染色はスクリーンかローラーでしかできなかったわけだけれど、今はデジタルプリントの技術がある。大掛かりな作業を必要としないから、簡単な操作でフルカラーのプリントが安価でできるようになった。だから、ボストン美術館から取り寄せた生地サンプルにあったプリントを全部試してみた。

ニットに関しては、MANで使った毛糸をウィメンズでも使うことにした。メンズのコレクションは制作過程に入っていたからその毛糸のことはよく理解していたし、大量発注すればそれだけコストは割安にできた。Vivienne Westwoodでは、コレクションのコンセプトが固まる前に生地や毛糸を選ぶ。そして、この選ぶ工程がそこから先に待ち受ける選択のベースになる。アンドレアス(Andreas Kronthaler)は「クラシックなデザインに首元の部分をほつれさせ、ボディ部分にはフィット感を施したカーディガン」にと、このウールの毛糸、とりわけバター色をいたく気に入ってMANのラインで用いていた。MANではクラシックな解釈で用いられたこの毛糸だったが、カットにドレープのダイナミックな力を感じさせるデザインが期待されるVivienne Westwoodではクラシックな解釈を避けた。

デザインの過程でまず最初にすることのひとつは、ミニチュアのダミーを使って新しいカットを作り出すこと。かつてはVivienne Westwoodでパタンナーとして尽くしてくれた友人のアイリスが、今ではシーズン中2~3回スタジオに来てくれ、アンドレアスと私が個別で練ったカットやアイデアを形にしてくれる。ここ数年は、彼女自身もアイデアを出してくれて、例えばアンドレアスがクッションカバーから作ったドレスなどは、彼女のアイデアから出来上がった作品。トワルのフィッティングが始まると、そこからひとつのドレスを作り上げるのに数週間を要する場合もある。アイリスはときに、生地選びや縫製指示までに関わったりもする。デザインというものは失敗と実験を繰り返しながら何百もの選択をしていくプロセスで、作品はその結果でしかない。これまですべての作品で素晴らしいものを作り上げてきたアイリスでさえ、いつも新しい作品を作るときには「良いものが作れないかもしれない」と不安になるそう。でも私にとってのアイリスは、こともなげに素晴らしいものを作ってしまえる、比類ない才能と知識、実力を持ち合わせたパタンナー。完全に信頼できるひとがいるというのは、なんと素晴らしいことか。

Vivienne Westwood Gold Label autumn/winter 11

錦織の鷹が織り込まれたテキスタイルについて私が触れないのはなぜか?——その理由をそろそろ明らかにしよう。本物の金糸が使われていたオリジナルの手織りサンプルは10インチ。既存の織り機ではその幅を作り出すことができなかった。アンティークものというのは、現代での取引価格よりも、当時のほうが高価で売買されていたというのが興味深い。骨組みから漆塗り、装飾を施して、生涯を費やさねば作れないような食器棚や、1ヤードを織るのに数ヶ月を要するベネチアンベルベットが、当時は牛2頭分の価格で取引されていたという。

錦織の鷹を作るには、フルサイズの織り幅に何度かリピートをかけて、それをカットしてファブリックに仕立てるという方法が考えられたけれど、そこまでのリピートは避けたかった。だから、織りの工程でディオニューソス(ギリシャ神話に登場する豊穣の神)の肖像もそこに織り込むことで、生地の表面に金糸を浮かび上がらせることにした。その頃、アンドレアスは彼が女性としてもファッションアイコンとしても崇めてやまないマレーネ・ディートリッヒからインスピレーションを得てドレスを作っていた。クチュール部門の長であるブリジットがマレーネ・ディートリッヒを思わせるヌード調ドレスに刺繍をほどこし、アンドレアスはマレーネをテーマにしたチュールを作っていた。

ハットは、ショーに絶対的な雰囲気をもたらしてくれるとても大切なアイテム。『World Wide Woman』コレクションでは「ヒロイックなルックを完成させてくれる」と考え、ヘルメットを提案した。Vivienne Westwoodのハットをすべて担当してくれているプルーデンスは、あのコレクション全体の包括的イメージを表現するハットとして、アメリカ軍のヘルメットを選んだ。ヘルメットをどうデコレーションするかに悩んでいた私たちに、プルーデンスは「フェルトにプレスできる金箔を使って、全体が金色のヘルメットを作る」という提案をしてくれた。コストはいくらになるのか訊いてみると、5平方インチで5ポンドだというから驚いた。

Vivienne Westwood Gold Label autumn/winter 11

アンドレアスはグローブやジュエリーもデザインしていたけれど、出来上がってきたサンプルはそれほど良い出来ではなかった。そこで、ショーではランウェイを金色にし、グローブやジュエリーも金色のスパンコール生地やシークインで作り直させた。「光の反射で、誰もブローブやジュエリーなど見えないだろう」と考えてのアイデアだったが、作り直されてきたアイテムはどれも良い仕上がりだった。金色のランウェイというアイデアも、ショーの照明を担当していたトニーが考えていたものと偶然にも一致していた。

一緒に仕事をする仲間はとても大切。私にしかできないこと、アンドレアスにしかできないこともたくさんある。でも、それらを実現できているのはすべて、私たちのアシスタントであるルカがよく働いてくれるからこそ。

フィッティングのモデルはジェニーだった。完璧なプロポーションの持ち主で、彼女の体をもとに作れば、どんなモデルにもフィットする。パリに発つ前、最後にしたこと——アンドレアスはすでにパリ入りしてキャスティングや物流管理を始めていた——は、ディオニューソス生地のドレスの最終確認だった。ジェニーに着てもらったドレスに、その場で手直しを加えた。直感的に大胆なカットやパターンを加えて、でもそれに要した時間は2時間ぐらいのもの——マネキンに着せた状態では決して見えない実際のフィット感や服の動きがある。生きた人間の体に着せると、そこでの創作と判断のプロセスは速い。

私はこのコレクションを『World Wide Woman』と名付けた。さまざまなデザインで出来上がったこのコレクションは、思いもよらない領域にまで発展した。アンドレアスの提案でメイクのヴァルとヘアのジミーがモデルたちを馬に見立てたことで、コレクションはさらなる高みへと達した。

それは、まったくマジカルなショーとなった。

Get a Life! The Diaries of Vivienne Westwood 2010 - 2016 is out 13 October. Pre-order here

Credits


Photography UGO Camera
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.