Rick Owensが語る「ノームコアとフリーク」:2018年春夏パリ

「わたしにとって、変人とは稀少でセンセーショナルな存在」と、リック・オウエンスは、パリで開かれた2018年春夏コレクションの荘厳なるショーで語った。Louis Vuittonは地球に残された稀少なる場所、Dries Van Notenは類い稀なシンプルさを、今季コレクションで追求した。

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jun 30 2017, 12:54pm

近年、ファッション界では「高める」という言葉がよく聞かれる。「高められたベーシック」、「高められたノーマル」、果ては「単なる白Tシャツをあそこまで高めた」まで、とにかく「高める」という言葉が使われている。ストリートウェアに限定版が生産される時代だ。「平凡を高める」ということは極めて前衛的な概念のようにも感じられるが、しかし、それは果たして本当に素晴らしいことなのだろうか?ファッションはファンタジーであり、それにどれだけフェテッシュを持っていようと、誰も白Tで夢精したりなどしないだろう。そんな状況が続く今季、リック・オウエンスが預言者のようなオーラを放って降臨した。過去数シーズンにわたり、ファッションを問い続けてきたオウエンスは木曜の昼、パリで、ファッションを文字どおりに"高められるところまで高め"、夢のような世界観で見るものを圧倒した。彼はパレ・ド・トーキョーの荘厳なる中庭に巨大な足場を組み、モデルたちを建物の屋上から地上階へと歩かせた。それは、まるで天使が天から降りてくるかのようだった。足場は噴水のうえをわたり、やがてランウェイへとたどり着いた。

Rick Owens spring/summer 18

「フリークが必要」と、セクシュアル・ハラスメント「I Need A Freak」の歌詞を引用して、オウエンスは言った。「『憎悪と痛みばかりのこの時代、俺たちには癒しが必要だ。俺たちに必要なのは変人だ』と歌っているんだけれど、私にとって変人はどこか稀少で、センセーショナルで、"普通"ではない何かに突き動かされているようなひとなんだ」と、彼はショーの後に語った。ショーは圧巻だった。硬く荘厳な生地使いのうちに、フォーマルなメンズウェアの規律が高貴なまでに高められていた。パリを包む熱波の中、Rick Owensの最新コレクションは、ぬめりのある輝きを放っていた。「いまは"ノーマル"であるということが神格化され、もてはやされている。だけど個人的には遠慮したい傾向だね。私は奇抜な存在が見たい。驚きがほしいし、試みが見たい。世界には平凡なものじゃなくて、レアなものが必要なんだよ」と、オウエンスはまるで司教のように言う。「ありきたりで標準的なものを讃えるのもいい。だけど、それは私が精進とするところではない。私はもっと、小意地が悪く生意気なのが好きなんだ」

Rick Owens spring/summer 18

彼の言わんとしていることは、他ブランドの今季コレクションを見なくとも理解できる。近年、ファッションを席巻してきたノームコアの流れにあって、我々は、ともすればカジュアルな「ハイストリート・ファッション並」と言わざるを得ないレベルの服を見て、歓喜したりしている。その現状は、わたしに『裸の王様』を思い起こさせる。おしゃれ好きでプライドの高い王様が、「馬鹿には見ることができない生地がございます。それで服を作ってはいかがでしょう?」と近寄ってきた詐欺師たちに騙され、最後には裸でパレードをする、アンデルセン童話だ。ストリートウェアは誰の購買欲もくすぐる力を持っている。それは否定しようのないものだが、ファッションとはやはり違う。ファッションとはデザインであり、ジーンズはどこまで行ってもジーンズでしかない。白Tシャツも、Members Onlyのジャケットも、やはりファッションではないのだ。「服はひとに熱望を引き起こすもの。マネキンに生が宿り、そこに物語を生む。わたしの作る服にそういう力があると言いたいわけではない——でも、ひとつのコミュニティとして、こうして皆が集まり、熱望を引き起こす瞬間を共に作り上げているというのはとても感動的なこと。それがランウェイであるべきだと思うし、そういったポジティブなことを私はやりたいと常々思っているんだ」と、オウエンスは言った。

Rick Owens spring/summer 18

近年、オウエンスは"ノーマル"の対極をいく、彫刻的アート作品、あるいはクチュール的作品とも呼ぶべき奥深い服をランウェイに送り続け、ひとびとはその造形美と世界観に息を呑んだ。しかし、今回のコレクションは違っていた。まず、誰にも着ることができるデザインだった。春夏というよりも、夏コレクションといった"気軽さ"があった。ウィンターコートが多く見られる今季春夏シーズンにあって、オウエンスの夏感は際立っていた。彫刻的な服からウェアラブルな服へと移行する中で、オウエンスはとても明確で、実体あるものを提示してみせた。それは単に「ベーシックを高める」という概念の数億年先をいく、至高の世界観だった。映画『マリー・アントワネット』で、オーストリア皇室からフランス王室に嫁いだばかりのマリーが、大仰な朝の儀式でフランス王室流の洗礼を受けるシーンがある。戸惑い、「これはあまりに大仰では」と言うマリーに、侍女のひとりはこう言う。「お妃様、これがベルサイユでございます」——そう、Rick Owensが今季作り出したのは、より洗練されたバージョンの現実世界だった。

Rick Owens spring/summer 18

「洗練について考えていた。気づくと、ブレザーについて考えていたんだ。もうボンバージャケットは着たくないと思った」とオウエンスはコレクション制作時を振り返りながら話す。「もっと堅苦しくてフォーマルなものを着ることで、いま私たちが生き抜いている世界の不和や混乱のなかにバランスを見出せればと考えた。私が作る服が、それに対する何かしらの答えになりうるのであれば、それは"フォーマルさ"ということになるだろう。ブレザーは礼節を重んじる姿勢を表現してくれる——いまはそれが無下に扱われすぎていると思う」。オウエンスのショーは、今シーズンでもっとも壮大な世界観であっただけではない。これまでのファッション史においても、もっとも壮観のショーのひとつだった。先月、CFDAで功労賞を受賞したばかりのリック・オウエンスだが、敬意と慈悲の心に溢れ、優しい視点を失わずにファッションを作り続けてきた彼は、今季コレクションで、その存在を、ファッション・アイコンから、文化の救世主にまで高めた。

Rick Owens spring/summer 18

パレ・ド・トーキョーの中で、美しいテーラリングの服を着た存在が天から降りてくるのを見ていると、"ノーマル"に溢れる世界から救われるような気がした——そう感じたのは、わたしだけではなかったはずだ。会場に流されたサウンドトラックに呼応するように、オウエンスはこう言った。「いやらしさも少し含まれているといい。相反し、相入れないふたつの要素のように思えるかもしれないけれど、"いらやしい儀正しさ"だって打ち出すことができる」。キム・ジョーンズもまた、Louis Vuittonで「稀少性」について考えていた。「『離島の地図帳:まだ訪れていない、そしてきっと今後も訪れることのない50の島』という本を誰かにもらった。本を開けて見てみると、自分がそのほとんどを訪れたことがあると気づいた」と、Louis Vuitton 2018年春夏コレクションのショーノートには書かれていた。スキューバで履くウェットスーツのようなレギンスや、トレッキングで着るダスターコートなど、究極のアイランド・スポーツからの要素を融合し、そこへ"おきまり"のエキゾチックな花柄など常夏のモチーフを配していた。そこに作り出した服世界で、ジョーンズは観客を遠い南国の島へといざなった。そこには、私たちが日常に知る文明とはまったく異なる文明と洗練があった。

Louis Vuitton spring/summer 18

それは、ファッションを渇望するものたちのためのファッションだった。稀少で、だからこそ欲しくなるもの——そんなファッションを求めているソーシャル・メディア世代のための服だ。今回のショーでは、ランウェイに出てきた主張の強いアイテムの数々をリアルタイムで購入できるシステムが導入された。そう、今季Louis Vuittonは、インスタント・ファッションの路線に舵をきった。お湯を入れて、3分待てば出来上がり——お湯といえば、「水」はこのところパリで大きな話題となっている。なにせ最高気温が37度に達するなど記録的猛暑となっており、デザイナーたちもショーを訪れた観客たちへの水やりに懸命だった。リック・オウエンスは観客たちに黒いサンハットとうちわを配り、Dries Van Notenは小さな電動扇風機を配って、冷たい飲み物も大量にふるまった。

Louis Vuitton spring/summer 18

ありふれたオフィスの風景をテーマとしたDries Van Notenのショーには、会場となった元『Liberation』紙本部のオフィス空間を徹底すべく、職員のためにスナックやコーヒーを準備しておくカートまで設置されていた。近年のメンズウェアにおいて「ビジネスマン」が繰り返し扱われるテーマだとすれば、ドリス・ヴァン・ノッテンが解釈したそれは、「仕事」「企業」という側面とは別の「ビジネスマン」観だった。ノッテンは、「楽観のムードを生みたかった」と語っていたが、それは明るい配色に見てとることができた。その配色がなければ、ただ控えめで、余計な要素を排除した世界となっていただろう(贅沢な服作りをすることで定評のあるDries Van Notenにしては、という意味だが)。もちろん、Dries Van Notenらしい花柄プリントやパターンの数々も随所に見られたもの、昨シーズンにこのブランドが打ちだした、より静かで落ち着いた世界観の路線は、今季、その静けさゆえに大きな主張を感じさせた。

Dries Van Noten spring/summer 18

「男性服にどれだけ色彩を打ち出せるか試してみたかった。でも、そこで鮮明な色を使おうとは思わなかった。テラコッタの色やカレーの色、薄い黄色を盛り込んで、魅力的に——ネイビー好きの僕のような男にも魅力的に感じられるような色を追求したかった」と、ノッテンは説明した。今季コレクションは、シェイプの追求にも重きが置かれていた。色彩の組み合わせが、「とてもシンプル」とノッテンが語る新たなシェイプを生み出していた。「服が作りたかった」と、ノッテンは言う。「コートやジャケット、シャツ、パンツといった、必須のアイテムを "服"として作りたかったんだ」。このシンプルさこそが、Dries Van Notenの新たなノーマルの定義となるのだろうか?「ノーマルを追求したわけじゃない。ただ、色を立たせようとすると、ノーマルな服を追求せざるを得なくなるんだ。そうでなければ、やりすぎになるからね」

Dries Van Noten spring/summer 18

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.