『侍女の物語』がハイファッションに:NYCの新ブランド〈Vaquera〉のコレクション

日本では2018年に公開される『次女の物語』のドラマ版。ニューヨークのファッション・ブランド〈Vaquera〉がこのディストピア小説の傑作に着想を得てコレクションを発表した。「女性だけにはしたくありませんでした。問題にしたかったのは、抑圧状態にあるすべての人に共通する、侍女のスピリットの部分です」

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nov 14 2017, 11:46am

2017年2月、マーガレット・アトウッドの小説『侍女の物語』が、出版から30年以上の時を経てアマゾンのベストセラー・リストのトップになった。カナダ出身の文学界の英雄アトウッドは、この人気の再燃を昨今のアメリカの政治情勢と関連づけて説明する。「それが始まらんとするのを見ているようです」と『ガーディアン』誌のインタビューに答えたアトウッドは、小説の中に描かれているようなピューリタン的価値観への回帰に言及しながら、とりわけトランプ大統領が中絶をめぐる権利を後戻りさせようとしていることへの懸念を暗に示した。

小説の舞台はディストピア版アメリカ。妊娠可能な体を持つ女性たちは全体主義的な家父長制国家による生殖プログラムに徴集される。いま現在ほど、この設定がありえそうに思える時代はかつてなかっただろう。ニューヨークを拠点とするファッション・ブランドのVaqueraと、Huluが新しく製作するこの小説のドラマ版がコラボレーションして作り出したコレクションを見て、その可能性がさらに跳ね上がるように感じられた。

このコレクションが発表されたロウアー・イースト・サイドのエンジェル・オレンサンズ・センターは、ニューヨークに現存するもっとも歴史の古いシナゴーグ(ユダヤ教会堂)の中にある、非営利のアート・スペース。この世のものとは思えない美しさだ(剥がれかけた漆喰、ゴシック調のバルコニー、きらびやかなシャンデリアを想像してほしい)。その宗教的な歴史性と色彩の妙(暗い青緑色をしたアーチ型の天井、建物正面の壁の血を思わせる赤)はこのコレクションに驚くほどマッチしている。

Vaqueraのデザイナーたち——パトリック・ディカプリオ、クレア・サリー、ブリン・タウベンシー、デヴィッド・モーゼズ——は、小説の舞台であるギレアデ共和国で侍女(前述した繁殖に従事させられる女性)たちがまとうことを義務付けられた赤いコートと白い「翼」にインスパイアされた21のルックを発表した。

Huluにコラボレーションを持ちかけられた際、Vaqueraはイエスと即答した。「かなり昔から、小説の大ファンでした」と、コレクションのバックステージでパトリックは話した。「ブランドを始めた当初から、(小説における衣装の)色の描写からヒントを得ていました。作中の、政府によって決められた服装のシステムからも。それはまるでいま現在起きていることの極端なバージョンを見るかのようです」

Vaqueraは侍女の制服のあらゆる細部まで再現した。巨大な白いボンネット(ブランドのメイン・コレクションのモチーフにもなっている)、さまざまなバリエーションのケープに加え、その他のさまざまなキャラクターの服装まで。例えば、赤い千鳥格子のジャンプスーツはギレアデ共和国の運転手たちの服装と重なるデザインだ。

Huluのドラマシリーズで衣装デザインを担当するアン・クラブツリーは、劇中の国家に強制された制服に、同時代的なエッセンスを加えることで、驚くべきリアルさを感じさせることに成功している。〈Vaquera〉もこの路線を継いだ。アンが侍女たちのケープをスウェット・パーカーに似せてデザインしたことを受けて、Vaqueraのショーでは、あるモデルが彼女のサイズの2倍はあろうかという赤いパーカーをまとい、会場を駆け抜けた。その袖を、ドラマチックに引きずりながら。

その他の印象的なルックには、えび茶色のソファのクッションでできたドレス(女性が物のように扱われることを究極的に表現したのか)、ドレープを寄せたガーゼの傘、一生分のブラジャーから作られたドレス。

「私たちは彼女の大ファンでもあります」パトリックはアンについてそう言う。「彼女には深い共感を覚えます。まるで自分と同一人物のようで」ブリンも続けた。そこでVaqueraは、自分たちのショーにアンをキャスティングした。「彼女は完璧でした」とパトリック。「最初は私たちも〈どうしよう、アンは衣装デザイナーだ。ショーで着るものを気に入ってくれるかな?〉と心配していました。けれど現れた彼女は、ショーで身につける青いジャンプスーツとそっくりの服を着ていました。それで私たちも〈きっとショーで着るものも気に入りますよ、基本的にはその服と同じですから〉と彼女に言ったんです」

「ショーのキャスティングは、モデル事務所〈ミッドランド・エージェンシー〉のウォルター・ピアースと共に行いました。重視したのは、個性と、型にはまらない美しさ。アンはぴったりに思えました」とデイヴィットは振り返る。

ショーでは侍女の役にさまざまなタイプのモデルがキャスティングされていた。「私たちにとっては本当に重要なことだったんです」とブリンは強調する。「女性だけにはしたくありませんでした。問題にしたかったのは、抑圧状態にあるすべての人に共通する、侍女のスピリットの部分です。だからあらゆるタイプの人たちに服を着てもらいました。最悪なことは女性だけに起こるのではない、と伝えたかったのです」

「現在の政治情勢を考えれば、『侍女の物語』はいまこそ重要な小説です」とパトリックは締めくくる。「80年代にも重要でしたし、1880年にも重要な小説だったでしょう。女性たちはあまりにも長い間、抑圧され続けてきました。この古典的名作から読み取れるものを再現し、我々を抑圧するシステムを明らかにするのは意味深いことだと思います」

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Credits


Text Alice Newell-Hanson
Photography Michael Hauptman courtesy Black Frame
Translate Atsuko Nishiyama